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天才と脳筋は紙一重  作者: たんすちゃん
《第三章》-王立学園編-
59/100

59.カトレアの過去、ですわ! 2

「それで……お母様はどこに向かわれたのですか?」

「村の中央だ。風の流れを辿れば居場所がわかるらしい。魔法って便利なんだな……俺は魔法が使えないから、お前たちが羨ましいよ」

 カトレアが尋ねると、どうやら母、アセロラは村の中央へ向かったという。母曰く、風の魔力の流れを辿れば誰がどこへ向かったかすらもわかるらしく、ランは村の中央に向かったらしい。

 カトレアにはまだその技術はないが、いずれできるようになることだろう。そんな魔法が使える家族を羨ましそうに語るシュッツであった。


 父は気持ちを和らげるために話してくれていたのか、会話をしているうちにカトレアの心は少し落ち着いてきていた。しかし、村の中央が近くなってきた時、状況は大きく変わる。


ドォォォン!!!


 突如鳴り響く爆音。間違いない。魔法がぶつかり合う音だ。誰かが戦っている。聞こえてきたのは二人が今まさに向かっている村の中央側からだった。


「……! 急ぐぞ!」

「はい……っ!」

 嫌な予感を感じたシュッツはカトレアに声をかけると、二人は中央へと向かって駆け出す。そして二人が村の中心部についた時……すでに決着はついていた。



「あ……あ……」

「っ……!」

 蒼い炎に囲まれた村の中央。そこには冷たい瞳をした栗色の髪の少年と、その足元には血まみれで倒れてピクリともしないランの姿。そして軽々と首を掴まれ、ぽたぽたと血を滴らせているアセロラの姿があった。

 その少年はカトレアよりも少し上……12か13歳といったところか。そんな年端もいかぬ少年が血と炎の海の中心で立っている。得も言われぬ殺意を感じさせる冷たい瞳をぎらつかせながら。

 すでにアセロラとランの二人は息をしていないように見え、遠目に見ても傷の深さ、出血の量から手遅れだということがすぐに分かった。……分かりたくなくとも。突然突きつけられた信じ難い現実に、シュッツとカトレアの二人は呆然、唖然としていた。

 あまりに呆気ない結末。そんな現状を飲み込むのに時間を要していると、その少年のほうからこちらへアプローチをかけてくる。


「やっぱり数が多いなぁ、人間っていうのは。それに野蛮で……後先を考えない。君たちもそうは思わないかい?」

「な、何を……」

 こちらに気づいた少年は、ふと謎の質問を投げかけてくる。まるで、自分は人間ではないと言っているかのような……。そんな質問を受けて、カトレアは困惑し、つい声を漏らす。


「ああ、困惑するのも無理はないか。まぁ、見せれば早いよね――」

 困惑した様子のカトレア達を見て、納得したようにそう言うと、少年は首を掴んでいたアセロラを床に投げ捨てるように手を放し、直後、濃度の高い魔力が一瞬空気を揺らしたかと思えば、その少年の背中からは人間には絶対にないはずの黒い羽根が姿を現した。


「羽根……!?」

「あの翼……人じゃないな。……まさか、悪魔か!」

 この世界に黒く禍々しい角や羽根、尻尾が生えているのは悪魔ぐらいなもので、他に該当する種族はいない。といっても、この少年には黒い羽根くらいしかなく、悪魔の大きな特徴ともいえる角も尻尾もないが、放つ殺気や雰囲気から世間で語られる悪魔ということがシュッツにはすぐ分かった。

 本来の姿なのか、背中から羽根を生やした少年は禍々しい魔力と気配を放っており、下手に動けば他の村人やラン、アセロラ達のように殺されてしまいそうに感じた。


「よくもランを……お母様を……っ!」

 カトレアは家族を目の前で殺された怒りと、少年が放つ殺気に対する恐怖が入り交じり、その体は震えていた。今まで生きてきた中で感じたことのない魔力の質。そしてどこか異質な雰囲気。悪魔とはこれほどまでに本能的な恐怖を感じさせるのかと、カトレアは畏怖していた。


「落ち着けカトレア……奴は普通じゃない。奴のやったことは腹立たしいが、気を抜けば一瞬でやられるぞ……!」

 そんな複雑な感情で震えるカトレアを庇うように前に立ったシュッツは、カトレアを宥めるように声をかけつつ剣に手をかける。少年の放つ殺気はいつ襲ってきてもおかしくないと感じさせる。戦い慣れたシュッツも悪魔と対峙するのは初めてで、どう動けばいいか考えあぐねていた。


「まぁ落ち着きなよ。僕は人間を殺すのに躊躇いはないけど、自分から進んで殺すことはあまりしないんだ。君たちが何もしないのなら、僕も君たちを見逃してあげてもいい」

 警戒を高め、様子をうかがっていたシュッツに対し、妥協案のようなものを提示する悪魔の少年。殺気は満ち溢れているが、現にこうして対話を試みている辺り、本当に見逃してくれるつもりなのかもしれない。

 シュッツは警戒を緩めること無く、気を抜かないように考える。自分一人ならまだしも、この場にはまだ幼い娘もいる。妻や息子がやられた今、これ以上何かを失うわけにはいかない。……しかし、この村の領主としてここまで滅茶苦茶にされて黙っているというのも如何ともしがたい。

 どうすべきか……領主として、親として、どう判断すべきかを慎重に考えていた。そこで背後のカトレアは耐えきれなくなったのか、涙目で震えながらも不満を溢す。


「嘘だ! 見逃すつもりもないくせに! 自分から進んで殺しはしない……? 理由もなくお母様とランを殺したのはあなたでしょ! それに村の人たちも……っ!」

 震えた声で内なる気持ちが溢れ出してきてしまったカトレア。だがカトレアの言っていることも一理ある。しかし……。


「理由? 理由ならあるさ! 村の人間もそこで死んでる奴も、先に襲いかかってきたのはあっち側だ。僕の殺気と魔力に気圧されて、まともな思考が出来なくなったんだろうね?

 所詮、人間なんてそんなものだよ。後先を考えず、恐怖を感じる対象は排除しようとする。僕は降りかかった火の粉を払っただけ。勝手に襲ってきて、勝手に死んだんだよ。彼らは!」

 少年はあくまで自分に非はなく、ただ正当防衛をしただけに過ぎないと主張する。少年に感じた本能的な恐怖から、敵と判断した村人達やそれを救うために戦ったランやアセロラ達を、ただの自滅、自業自得だと言った。

 理不尽だが、言っている事自体は間違ってはいない。ただ、悪魔ゆえか少々倫理観が欠如した発言であったが……。


「あなた……よくも……っ!!」

「待てカトレア!! 辛いが気を静めろ……! 人間の手に負える相手じゃない……!」

 人を、家族を殺して、なんとも思っていないどころか、まるでゴミか何かのように扱う悪魔の少年に感情を揺さぶられ、今にも飛び出していってしまいそうになったカトレアを咄嗟に御するシュッツ。

 シュッツは熟考した結果、領主として村や村人達、家族の仇を取ることよりも、今ローズマリー家に唯一残る確かな"宝"を守り抜くことに決めたようだった。そのためならば自分が犠牲になることも厭わぬと、そう覚悟をした、漢の目をしていた。


「なんだ、娘? 僕に文句があるのか? 僕は無能なお前達にわざわざ言ってあげているんだ『死にたくなければ動くな』と。

 僕ら悪魔はお前達脆弱な人間からすれば災害のようなもの。そもそも逆らうなんてことは不可能なんだよ。君たち人間は、地震や竜巻……雷や豪雨に逆らおうとするか? 逆らえるか? 無理だろう?」

 不満げに自分を睨みつける少女に対し、残酷な現実を突きつける悪魔の少年。悪魔からすれば、人間など生かすも殺すも自由。それがただの気まぐれで、見逃してやると言っている。

 煽るように少年は語るが、カトレア達には成す(すべ)もない。シュッツに御されたカトレアは悔しながらにも指を咥えて見ていることしかできなかった。


「くっ……!」

「………」

 少年はカトレアとシュッツに睨まれながらもその場を去ろうとするが、去り際に足を止めて二人に声を投げかける。


「……そうだ。最後にひとつ。今回君たちを見逃してやるのはただの気まぐれだけど、嫌がらせでもある。僕は貴族っていうのが心の底から嫌いでね。昔貴族のせいでそれはそれは嫌な思いをしたんだ。その仕返しに、僕は各地で目についた貴族を殺して回ってる。

 だから、これは貴族である君たちに対する嫌がらせさ。大事な大事な領土の村人や家族を殺されて、無様に生き残った君たちはどんな気持ちで生き続けるのか! 想像しただけでニヤけが止まらないよ!」

 アハハハッ! と心底愉快そうに笑う少年は、吐き捨てるように言葉を残し、歩き出す。またしてもこちらの感情を揺さぶるように煽る少年に、カトレアは今にも飛びかかりそうだったが、シュッツは絶対に行かすまいと必死にカトレアの腕を掴んで静止していた。

 そして……。


「それじゃ、またね? 哀れな人間くん♪」


あはははははは…………!!


 悪魔の少年は最後にそれだけ言い残すと、村を囲む蒼い炎の中へと高らかに笑いながら消えていった――。

 災厄が去ったあとの村に残されたのは血の海に転がる死体と炎が燃え広がり続けている村。そして複雑な感情の渦に包まれ、半ば放心状態のシュッツとカトレアだった。


「……くそっ」

「……何も、できなかった……」

 落ち込む二人はせめてもの弔いとして逝ってしまったランとアセロラの遺体を抱え、村を脱出した。その後、近くの他の村から来た魔術士に頼み、鎮火を手伝ってもらったシュッツ・フォン・ローズマリーは、領土の復興のために勤しむことになる。

 母と弟の遺体は村の外れにある墓標に埋めた。燃え広がる村の中、なんとか回収できた理不尽にも殺されてしまった村人達も、そこに埋まっている。


 数日後……多くの墓が並ぶ中でカトレアは一人、弟のランの墓の前で俯いたまま立ち尽くしていた。


(ランには、まだ……沢山の未来があった! 選択肢があった! 希望があった! 夢があった! 少し前には、わたくしに夢を語ってくれた……。皆を守れるようになりたいと!)


『俺、姉ちゃん達を守れるようになりたいんだ!』


(なのに、どうして……っ!)

 カトレアの脳裏には、ニカッと嬉しそうな顔で将来の希望を語る弟の姿がフラッシュバックしていた。ほんの数日前の出来事が、とても遠く……酷く懐かしく思えた。

 村が被害を受けていると知り、止める間もなく飛び出していったランは、無謀ではあったがしかし勇敢であった。もっと早く追いかけていれば……見失ってさえいなければ……。きっと結果は違ったかもしれない。

 そんな後悔が沸々と湧いてくるのを抑えることが出来ず、悔しさで涙を零しながら膝をつく。そして涙を流し、拳を握りしめながらカトレアは決心する。


「許さない……! あの悪魔は……いや……悪魔なんて全ていなくなればいい……。わたくしが、全部消してやる……!!」

 圧倒的な力の差の前に、何もできなかった自分への無力感と不甲斐なさ。それを恥じ……悔しく思い……カトレアはあの悪魔へ……いや、全ての悪魔に復讐することを強く胸に誓うのだった。


___

__

_


「そう心に決めてからもう五年……色々ありましたわね。シルファとの出会いや、皆との出会い……シトラスのおかげで復讐に囚われることも無くなって、考え方も変わった。

 ……でも、あの悪魔をわたくしが探していることに変わりはありませんわ。あの悪魔を見つけ出し、決着を……!」

 魔界や悪魔について調べながら、自分の過去を思い出していたカトレアは、数々の仲間との出会いから変化していった想いを、改めて胸に誓う。そんな隣で……。


「ふーん。貴女にはそんな壮絶な過去があったのね。なんか意外だわ」

「えっ……!? ななっ……マナさん!? どうしてここに!? というか、声に出てました!?」

「ええ。それはもう、全部聞いてたわよ」

 本を置いたカトレアの隣には、いつのまにかマナが机に肘をついて座っていた。それどころか、カトレアは過去を思い出していた時、全て声に漏れていたらしい。……まぁ、隠してもしょうがない過去ではあるのだが。

 そしてなぜマナがここにいるのかというと……。


「ここは普通の図書館にはないような本が揃ってるからね。私の知らない神話の本でも無いかと思って! ……まぁそんなもの、あるわけないけど♪」

「大した自信ですわね……流石、神話オタク……」

 ……と、いうことだった。重度の神話オタクであるマナにとっては、読んだことのない神話の本はあれど、知らない神話などない。……と、自負していた。

 事実、マナは神話方面に関しては相当な読書家で、今までかなりの量の本を読んできた。王城にしかない本や、王都にしかない本……旅先の村で稀に見つかる本など……こと神話に対する知識欲においては右に出るものはいないだろう。


「……まぁでも、貴女と同じで悪魔について少し調べたかったこともあるのよ。あの時の借りもあるし、私たちは奴らについてあまりにも無知すぎる」

 マナがここに来たことは、勿論見たことのない神話の本を求めていたこともあったが、カトレアと同じで悪魔について調べに来たようだった。

 アロンダイト帝国で戦った悪魔……ベリト。グリモワールの悪魔、序列12位……魔界はこことは別の世界であり、我々の常識が通用しないような世界が広がっている。

 それらは全て、簡単に手に入るような情報ではなく、マナとカトレア……『エクリプス』代表の大人二人組は次の襲来に備えて、彼らについて調べることにしたのだ。


「そうですわね。あのベリトとかいう悪魔の去り際の態度……性格からして、必ず近いうちにまた現れます。それも、ベリトを倒したルナを狙って来る可能性が高いですわ。年上のわたくし達がしっかりしないといけませんわね!」

「ええ。次は負けない……! 守られてばかりじゃいられないんだから!」

 ベリトはアロンダイト帝国での戦いの終わり際、『また来る』と言っていた。これまで幾度となくルナに助けられているマナだが、このまま守られっぱなしでは王女の名が廃るというもの。それに前回やられた借りもある。マナは次こそは負けないと躍起になっていた。

 そしてカトレアも、来たるべき悪魔との戦いに備え、まずは情報を得ようと考えていた。ベリトに再会した時、カトレアの探す悪魔のことを訊くために。

 ――そうして、『エクリプス』の最年長である二人はそれぞれ同じ敵を標的に、各々が思う目的のために動き始めるのだった。


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