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天才と脳筋は紙一重  作者: たんすちゃん
《第三章》-王立学園編-
58/100

58.カトレアの過去、ですわ! 1

 ある日の午後。学園の入学式から色々と忙しかった期間も終わり、ようやく落ち着いてきた頃。一人の伯爵令嬢は、とある情報を求めて学内にある図書館へとやってきていた。


「悪魔、魔界、他種族について……なんでもいい、何か情報はありませんの……?」

 カトレアだ。彼女は悪魔について少しでも情報を得るため、学園の図書館で情報を探していたのだ。

 学園の図書館は王都の大図書館と比べると小さいが、王都設立の学園とだけあって絶版本やなかなかお目にかかれない珍しい本などが揃っている。

 大図書館には童話や神話、武具についてや魔法についてだけでなくただの娯楽本など様々なジャンルの本が置いてあるが、ここの図書館は魔法や武器の扱い方、冒険者についてやそれらに関連する伝承など小難しいことが書いてある物が多い。

 探せば他種族……主に悪魔や、悪魔の棲む魔界などについて書かれた本も見つかるかもしれないと思い、カトレアは時間が空いた時には多くの本棚から目についたそれらしい本を片っ端から取り出し、読み漁っていた。


 そんなカトレアが次に手に取った本。それは『魔界の成り立ち』という本だった。

 魔界は自分達が暮らすこの世界とは別次元の向こう側にあるとされており、そこには悪魔や魔獣が棲んでいるといわれている。そんな魔界について書かれた本ならばカトレアの求める情報がある可能性も高い。

 そう思ったカトレアは真っ先にその本を読み進め始める。


_


「……シトラスの言っていた通り、悪魔の凶悪さは魔界の環境のせいでもあるみたいですわね。復讐……いえ、仇討ちに囚われるあまり、視野が狭くなっていたかもしれませんわ」

 本を読んでいくにつれ、魔界の知識をつけたカトレアはシトラスの言っていた『悪魔にも環境によって違いがきっとある』という言葉に納得していた。と同時に今までの自分の視野が狭くなっていたことを自覚し、反省する。


 悪魔の棲む魔界は実力主義とされていて、強い者が上に立ち、強い者が支配する。そんな世界だ。

 当然、力での支配に統率などあるはずもなく、悪魔同士は行動を共にすることはせず単独行動を好む。しかし、実力主義の世界とだけあって単独行動でも個々の実力は相当なものだ。それはアロンダイトで遭遇したベリトを見ればわかる。

 強い者が支配する魔界では弱者に居場所があらず、生まれた瞬間から他者を蹴落としてでも強者の位置に這い上がろうとする。その習性から、ベリトのように気性が荒い性格が多い種族なのだ。


 悪魔は生まれた時から高い魔力と驚異的な身体能力を持ち、他者を傷つけることをなんとも思わない。人間達からすれば恐ろしい種族なのである。故に悪魔を恐れる者は多く、忌み嫌う者も多い。カトレアのように、大切な人を奪われた者も決して少なくはない。


_

__

___


 これはまだカトレアが10歳の頃だ。

 カトレアの家……ローズマリー伯爵家は、王国から管理を任せられている周辺の村々に、分け隔てなく接する良き家であった。

 伯爵家といっても、成り上がりで子爵から陞爵した貴族なため、そこまで広大な土地を持つわけではなく、他の同じ伯爵貴族達と比べるとやや小さい土地な影響か、元々の人柄なのか、村人達とは距離が近く、よく交流を行っているような珍しい貴族だった。


 家族構成は当主である父、シュッツ・フォン・ローズマリー伯爵と母のアセロラ夫人、そして長女のカトレアと弟のランの四人家庭である。

 家族仲はとても良く、管理している村の村人とも伯爵自ら交流しに行ったりしていたほど優しい父。そしてそれを嫌な顔一つせずに陰ながら支える母。そんな両親はカトレアとランの二人をとても愛してくれていた。

 温かい環境で育ったカトレアは両親含め、弟のランもとても大事にしていた。ランに勉強を教えたり、一緒になって剣の訓練をしたり。カトレアは弟より剣の腕が少し上だったため、たまに稽古をつけてあげたりもしていた。姉弟仲も決して悪くなかっただろう。



「カトレア姉ちゃん! 今日も稽古つけてよ!」

「ふふっ。全く、ランは毎日毎日熱心なことですわね! そんなに剣の腕を磨いて、騎士にでもなるつもり?」

 カトレアが庭で淑女らしくティータイムを優雅に嗜んでいると、屋敷からここまで駆けてきたランがいつものように剣の稽古を申し出る。

 それは今回が初めてではなく、もう何ヶ月ものあいだ、ほぼ毎日こうしてカトレアの元へ来て稽古を頼みにやってくるのだ。その理由は定期的に一緒に訓練をしていた時に、カトレアが思いつきで稽古をつけてみたことがきっかけだった。

 一度稽古をつけてからというもの、ランは何度もカトレアに稽古をお願いするようになった。理由は分からないが、可愛い弟の頼みだ。断る理由もない。それに、稽古をつけている側だろうと時折自分に学びがあることもある。故に、これは毎日のルーティーンなのだ。


「それもいいけど、俺、姉ちゃん達を守れるようになりたいんだ!」

「わたし……あ、いや……わたくし達を?」

 ランは濁りのない瞳をキラキラと輝かせながら、純真無垢な表情でカトレアに自分の思いを告げる。ランは姉であるカトレアや母アセロラ、そして父シュッツすらもその手で守りたいと願っているようだ。

 思ってもない言葉に意表を突かれたカトレアはつい口調が少し崩れてしまう。日頃から貴族令嬢たる言葉遣いをするよう意識はしているが、稀にお嬢様らしい口調が崩れてしまうことがある。驚いたり、気持ちが昂ぶった時など……。まだ完璧ではないのである。


「けれど、わたくしを守るためにわたくしから剣のお稽古をつけてもらっていては意味がないのではなくって?」

「あっ……」

 カトレアからの正論にランは思わず言葉が詰まる。そう、守るべき人に教わっていては結局自分の身は自分で守ればいいとなってしまう。

 ……が、ランは一瞬言葉に詰まったが首を振って気を取り直す。


「でも! いずれ姉ちゃんを超えて強くなって、みんなを守れるくらいになるよ!」

「あははっ! そこまで言うなら、今日はわたくしから一本取ってみせなさいな! さあ始めますわよ、ラン!」

「姉ちゃんから一本……!? いや、でも、やってやる! ……よーし!」

 純粋な表情で告げたランについ笑みが溢れてしまったが、それなら弟の夢のため協力してあげることにしたカトレアは今日の目標はいつもよりハードルを上げてカトレアから一本取ることとした。


 そうして二人は時間が許す限り稽古をし続けた。カトレアは伯爵家の娘として嫁ぐための勉強もしなければいけないため、ずっと弟に構いっきりというわけにもいかない。剣の鍛錬も必要最低限のものだ。淑女に剣術など必要ない。時間がくればカトレアは勉強をしに屋敷へ戻らねばならない。

 だが、この限られた時間での弟との触れ合いはカトレアにとって数少ない癒やしでもあった。両親は優しくしてくれるが、やはり伯爵家ともなると他の貴族の目もあり、貴族らしくしなければいけない。

 そのためカトレアは幼い頃から貴族としての立ち振る舞いや言葉遣いなどの作法、そして知識をつけるため勉強をさせられてきた。その中で唯一心が休まる瞬間が、ティータイムを嗜んでいる時と弟のランとこうして話している時だった。


 そして時間は過ぎ……。


「一本も取れなかった……!」

「ランもまだまだですわね。精進あるのみですわよ」

 あれから何度も手合わせをしたが、結局ランはカトレアから一本も取ることは叶わなかった。……が、そんなことはいつも通りで落ち込んだ様子はなく、ただただ悔しがっている様子だった。

 とはいっても、ランとカトレアの実力差はそこまで大きいものではなく、年齢の違いによる訓練量の差や性格的な違いからカトレアのほうがやや剣の腕が上というだけである。

 実際はランにもカトレアと同じかそれ以上の剣の才能はある。カトレアと違って魔法の才はなかったが、その分父親から剣の才能を色濃く引き継いでいる。カトレアは父と母から剣と風魔法の才を半々で引き継いだと言えるだろう。

 いずれ才能が開花すればカトレアから一本取るどころか、圧倒することも可能だろう。カトレア自身、それはなんとなく分かっていた。


 だが悔しくもなければ羨ましくもない。カトレアは弟の日々の成長を稽古をしながら感じており、同時に将来を楽しみにしていた。いずれ騎士のように立派な男になるはずと。

 とても平和で平凡な日々。幸せな毎日だった。……しかし、そんな平和な日常はある日突然終わりを告げた――。


_


 事が起きたのは唐突だった。カトレアは村から聞こえる喧騒、爆発音、悲鳴、そして硝煙の匂いで目が覚めた。まさに最悪の目覚め。何事かと窓から外を見ると、ローズマリー家がよく交流していた管理下の村のところどころから煙が上がっていた。


「一体何が……!?」

 窓から外の様子を確認したカトレアは思わず外へ駆けていこうとする。カトレアの部屋は二階。部屋を出て階段を駆け下りると、目に止まったのはカトレアよりも先に家を飛び出て村へと駆けていく弟、ランの姿だった。


「ラン……っ!」

 カトレアの呼び止める声は届かず、ランは激しい爆音が鳴り響く村に向かっていってしまった。理由はおそらくカトレアと同じで、村の者達が心配だったのだろう。

 だが、何が起きているかわからない以上一人で向かわせるのは危険だ。そう思ったカトレアは急いでその後を追った。



 村にたどり着いたカトレアは信じられない光景に呆然と立ち尽くしていた――。

 いつもは田畑が広がり、自然に囲まれ、決して裕福でもなければ大きい村でもないが、村人達はニコニコと笑って話し合っているような平凡で幸せな村。……それが今カトレアの眼の前にあるのは木々は倒れ、家は半壊、全壊しているものもある。

 そしてなにかの魔法の影響か、蒼い炎が壊れた家々や周囲で燻っていた。それだけではない。地面にはすでにその生命の活動を停止してしまった村人達。悲惨にも、周囲は蒼い炎と紅い血の海となっていた。


「どうして……誰がこんなことを……!」


ぐあぁぁぁっ……!!


「っ!?」

 地獄のような惨状を目の前にして、なんとか冷静さを保とうとしていると、村のどこかから苦痛の叫び声がカトレアの耳に届く。

 声の聞こえたほうに向かうと、そこには血溜まりに倒れた村人がいた。何者かに襲撃されたことは間違いないが、まだ声を聞いてからそこまで時間は経っておらず、息があるようだった。


「カ……カトレアちゃん……か」

「村人さん……っ! いったい何が起きたの!? どうしてこんなことに!」

「化け物だ……! や、奴は突然現れたかと思えば……一瞬のうちに村を地獄に変えやがった……」

 顔見知りだった村人はカトレアが尋ねると、苦虫を噛み潰したような表情でぽつぽつと言葉を溢す。具体的には分からないが、()()が脅威的であり、敵であるということは子供であるカトレアにもすぐ理解できた。

 そしてカトレアはふと先に家を飛び出していった弟のことを思い出す。そのような化け物が村を徘徊しているのだ。万が一遭遇でもしたらランでは力が足りない。

 そう思い、村人の応急処置としてハンカチを傷口に当てつつも周囲を探るように見渡す。しかし周りは倒壊した建物と蒼い炎の海だけ。視界は悪く、炎の影響で息も苦しくなってきた。

 死にかけの村人を置いて探しに行くわけにもいかず、カトレアがどうすべきか考えていると、背後から声がかかる。


「カトレアッ!」


「……お父様!」

 声をかけたのは立派な長剣を腰に提げた壮年の男性。この村を管理しているカトレアの父、シュッツ・フォン・ローズマリー伯爵だ。

 彼はカトレアやランと違ってしっかりと武装をしており、少し遅れてきたのは戦いになるかもしれないこの状況で準備をしていたからだろう。


 カトレアは村人から聞いた話と自分が見た情報、ランのことについて説明する。シュッツはカトレアから事情を聞くと、村人の手当てをしつつカトレアを宥めるように口を開く。


「ランは今、アセロラが探しに行っている。とにかく、お前が無事で良かった」

「お母様が? でも……」

「なに、母さんはあれでも立派な風魔法の使い手だ。魔法が使えない俺とは別の道だが、実力は確かなものだぞ」

 父シュッツは魔法が使えないが、伯爵家らしく偉大な剣の才に恵まれている。それは過去に村に出没した魔獣を討ち倒したほどの実力だ。

 そしてカトレアの母、アセロラ・フォン・ローズマリーはそれとは対照的に、剣の才はないが素晴らしい魔法の才を持っている。特に得意なのは風魔法。カトレアと同じ魔力だ。その強さは父にも引けを取らず、持ち前の器用さで自在に風を操る姿はカトレアの憧れでもあった。


「……よし、これであんたも大事には至らないだろう。俺はアセロラの後を追う。カトレアはここで――」

 村人の手当てを終え、とりあえずは一安心といったところでシュッツはカトレアにこの後の行動を伝えようとするが、ここで待っていろ、という直前でカトレアは言葉を遮る。


「わたくしも行きます! ランが危険かもしれないというのに、こんなところで待っているわけには行きませんわ!」

 家族皆が村の為に動いているというのに、自分だけが待っているなどカトレアには到底無理だった。

 ここにいる怪我をした村人には申し訳ないが、カトレアは父についていくつもりであった。


「だが、この先は危険かもしれないんだぞ? それに怪我人を置いていくわけにもいかんだろう……」

「俺のことは気にしないでくだせえ、伯爵様。おかげさまでだいぶマシになりましたし、もう自分で逃げれます」

「彼もこう言ってます! ですから……!」

 カトレアの乞うような瞳で見つめられたシュッツは「うぅん……」と唸りながらも少し考えてからしぶしぶ頷いた。


「分かった。だが俺の傍を離れるなよ? 何しろお前……」

「? ……あっ」

 浮かない顔のシュッツの言葉を聞いて、ふと我に返ったカトレア。そう、カトレアは家を飛び出していくランをそのまま追いかけてきたため、寝間着姿のままで帯剣すらしていないのだ。無防備にもほどがある。

 そんなカトレアを心配するのも当然といえば当然だが、ついてくることを許可するシュッツにも多少問題はあるだろう。……カトレアの必死な態度に押し負けたシュッツであった……。


 そして必死になりすぎていた自分を恥じ、照れて顔が赤くなっているカトレアとシュッツの二人は、村人とは別れてその場を後にした――。


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