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天才と脳筋は紙一重  作者: たんすちゃん
《第三章》-王立学園編-
56/100

56.テティス・グランマーレ 3

「あるよ?」

「「え?」」

 マナとテティスが良い解決案は無いものかと頭を悩ませていると、背後でルナが唐突に声をあげる。

 マナ達が思わず気が抜けた声で聞き返すとルナは続けた。


「根本的な解決にはならないかもだけど、肩の力が抜ければ良いんだよね? それなら出来るよ!」

 そう言うとルナはテティスの側に歩み寄り、背後に立ってテティスの背中にそっと両手を当てる。

 マナは何をするのか分からず不思議そうな顔を浮かべていたが、他に思い浮かぶ案もないし、ここまで自信たっぷりならばいっそ任せてみようと見守ることにした。


「『光よ――』」

 テティスが背中に手を当てられたまま困惑していると、ルナは何をするのかと思えば魔法を詠唱し始めた。

 それと同時にルナの両手は暖かな黄色い魔力を纏い始め、小さな手を伝ってテティスの背中へと魔力は流れていく。

 とても暖かく、心が落ち着くような優しい魔力。治癒魔法にも似ているが、少し違った不思議な魔法。それはまるで母親のぬくもりのようだった。


(不思議な魔法……気持ちが安らぐような……こんな魔法は初めて見る……)

 今までかなりの魔法の勉強をしてきたテティスでさえ、ルナが使うこの魔法は見たことがなかった。気づけば暖かな黄色い光はテティスの背中を伝い、体全身を包み込んでいた。

 そこで背後からそっと声をかけたのはルナだった。


「テティスちゃん。魔法、撃ってみて」

「……はい」

 また暴発するのではないかと少し抵抗があったが、ルナの優しい魔力の抱擁に背中を押されたテティスは素直に受け入れる。

 広いグラウンドの何もない場所に向けて手をかざしたテティスは詠唱する。


「『水よ集いて形を成せ――高速の弾丸に!』【ウォーターバレット】!」

 テティスが通常詠唱で水魔法を唱えると、魔法は暴発することなく正しい威力と精度で発動し、狙っていた場所ピッタリに飛んでいった。


「おー? 上手くいった!」

「普通に使えてるわね……」

「……!? そんな、まさか……」

 確かに今の魔法は完璧といっていいほどに上手くいったが、たった一度の成功では偶然かもしれない。今までも魔法が暴発するのは4回に1回など不安定なタイミングだった。

 そう思ったテティスはその後も何度か魔法を行使してみるが……。


 繰り返せば繰り返すほど、さらに精度は高くなり、威力も的確に、鋭くなっていく。テティスの思うがまま、自在に水を操れていた。


「暴発しない……」

 何回やっても暴発することがない自分の魔法を見て、信じられないといった様子で言葉を零すテティス。傍で見ていたマナも驚いた様子でテティスとルナの元へ歩いていく。


「凄いじゃない! ルナ、いったい何の魔法を使ったのよ?」

「ふっふっふ……これは昔私がお爺のために開発したオリジナル魔法だよっ! 肩こりや腰痛だけでなく、不安とか精神(メンタル)的なものにまで効いちゃう優れものなのだ!」

「す、凄い……」

 なんと先程の魔法はルナが腰痛に悩むスエズのために開発したオリジナルの魔法だった。テティスが見たことないはずである。

 性能はやはり光魔法らしく治癒に関係するものではあったが、治癒する部位が普通の治癒魔法と大きく異なる。物理的な傷を癒やすのではなく、感覚的な痛みや精神的苦痛を治癒する魔法だ。

 ルナはこれを使ってテティスのメンタルを癒やし、緊張をほぐしたのだ。緊張がほぐれたことによって、魔法を使っても肩に力が入ることはなく、暴発することがなかったのだ。マナとテティスからは大絶賛であった。


「でもそれって結局ルナがテティスに触れてないとダメよね?」

 途中までは絶賛していたマナだったが、ふと気づいた様子で核心を突く。腰痛に悩むスエズはともかく、メンタル面で悩んでいるテティスの場合は一時的な効果にしかならないのだ。ルナが手を放し、魔法の効果が切れればまたテティスには無意識的に肩に力が入ってしまうだろう。


「うん。だから根本的な解決にはならないかもって言ったんだ。でも、私の予想通りなら……テティスちゃん、さっきの感覚って思い出せる?」

「え……は、はい……やってみます」

 ルナの考えが上手く行けば、テティスは普通に魔法が使えるはずだ。もしこれで使えなくとも、何回でも試せる。ルナには魔力の底がほぼないといっていい。テティスの魔力と時間が許す限りは何度でも試行が出来るのだ。

 そして言われるがまま、テティスは再度魔法を詠唱する。先程と同じ魔法だが、唯一違うのはルナが背中に触れておらず、オリジナル魔法を使っていないという点だ。


「【ウォーターバレット】!」

 先程の感覚がまだ残っていたおかげなのか、偶然なのか、またしても暴発することなく魔法を成功させたテティス。今度は正真正銘、自分自身の力でだ。


「ですが、まだ……!」

 間髪入れず、テティスは何度も同じ魔法を行使する。偶然かどうかを確認するためだ。こんな一瞬で、何年間もずっと悩んでいた問題が解決するなど信じられなかったからだ。

 ルナとマナが見守る中、同じ魔法だけでなく、他の魔法なども何十回と試したテティスはようやく気づく。


「使える……! 使えます!」

 わなわなと震える手を見つめ、テティスはルナ達の方に振り返る。偶然などではない。テティスはもう魔法を使えるようになっていた。


「やったじゃない! お手柄ね、ルナ! テティスも凄い集中力と成長だったわ!」

「わはぁっ! おめでとうテティスちゃん!」

 長年の目標を達成したテティスに、心からの称賛を送るマナとルナの二人。この訓練を始めてからすでに二時間程が経っており、すでに日も傾き始めていた。

 ルナ達は思いの外すんなりと彼女の悩みを解決出来たことを喜びと共に安堵していた。だがテティスは甘えた性格はしていないようで、これで終わりとは思ってもいないらしい。


「本当に、本当にありがとうございます……しかし明日になってまた使えなくなっていては問題です。なので念のため、明日また訓練にお付き合い頂きたいのですが……」

 僅かながら一瞬、涙を浮かべたように見えたテティスだったが、すぐさまいつものクールで真面目な彼女に戻り、念には念をとルナに明日の付き添いを申し願う。

 無論、二つ返事だった。ここまで付き添った仲だ。友達の頼みを断れるはずもない。


「役に立てたかわからないけど、一応解決したみたいで良かったわ」

「マナちゃんがいなかったらあの魔法を使おうとも思ってなかったし、大手柄だよ!」

「お二人のどちらかでも欠けていたら達成し得なかったはずです。本当にありがとうございました」

 自嘲気味に話すマナに対し、ルナとテティスの二人は本心から称賛と礼を送る。マナが原因を特定し、ルナがそれを間接的に解決する。テティスの言う通り、二人のどちらかでも欠けていたらこの問題は解決しなかっただろう。


「そっ。じゃあ頃合いもいいしそろそろ解散にしましょ。寮って夜出歩くと先生とか寮長に怒られるらしいから気をつけるのよ!」

「はーい!」

「アイギスさん、マナさん、今日はお疲れ様でした」

 マナが切り出したのをきっかけに、今日のところはそこで解散となった。マナはもう自分は必要ないと思ったようで、明日の付き添いには来ないらしい。まあすでに原因は分かっているのだ。十分役目は果たしただろう。

 そして別れ際、ルナはふと思いついたのでテティスに声をかけてみた。


「なんでしょう……?」

「ねえテティスちゃん……もし明日も魔法が暴発しなくて、ちゃんと使えるようになってたら、一個だけすごい魔法教えてあげるね!」

 ルナからのほんのプレゼントのようなものだ。ただ思いついたから言ってみただけ。勿論、言ったことは守るつもりだが。


「本当ですか? ……ふふ。楽しみにしてますね? ……ではまた明日」

「うん、またねー!」


 そうしてルナはそこでテティスとも別れ、自分の寮部屋へと戻っていくのだった。


_

_

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 そして翌日の放課後。その日も魔法を上手く使い続けられることをテティスと一緒に確認したルナは、改めて『おめでとう』という言葉を送り、そして約束通り魔法の訓練を始めた。


「まずはテティスちゃんの大海魔法っていうの一旦見せて! 今使えるので一番のやつ!」

「わかりました。上級魔法でいきます」

 そしてテティスの上級大海魔法を披露してもらったルナはしっかりとそれを目に焼き付けた。


 その日は新たな魔法を習得するために、二人は門限ギリギリまで訓練することになった。しかしテティスの才能が素晴らしいこともあって、日が暮れる前にはなんとか無事テティスは魔法を会得した。



「これを明日クラスのみんなを集めて見せよう! そうすれば皆必ず見直してくれるよ!」

「はい……! がんばってみます」

 実は昨日の実技授業からというもの、盛大に魔法を失敗させ大爆発を起こしてしまったテティスはクラス中から注目されてしまっていた。勿論、悪い意味で。

 貴族に対し強気な態度を取るその勇敢さに皆士気が上がり、ついてきていたのだが、当の本人が魔法を使えないとあっては士気は下がるのも当然といえば当然だった。……まぁ、勝手に持ち上げたのはあちらなのだから、テティスに非はないとルナは思っているが。

 そんなテティスに一矢報いてほしいと思い、ルナは今日の訓練を考えついたのだ。そして見事に、テティスは教えた魔法をマスターした。心配はいらないはずだ。


_

_

_


 さらに翌日。実技授業はあいも変わらず自習だったため、空いた時間に他の生徒達をルナが呼び出してグラウンドにいるテティスの元へと集めた。興味本位からか、幸いにも断るものはいなかった。


「みんな! テティスちゃんはあれから猛特訓して魔法を使えるようになったの! それもちゃんとした魔法を! どうか見てあげて!」

 ルナが他の生徒たちに大きな声で語りかけると、生徒達はテティスに注目する。まさか? と信じていない者もいたが、場の空気を読んだらしい。

 そしてルナと目があったテティスは、小さく頷くと両手を構えて詠唱を開始する。


「『母なる海よ、満潮の如し高波を――全てを飲み込まんとするその大口を開け!』最上級大海魔法――クラス6(セクスタ)【タイダルウェイブ】!!」


 強大な魔力と共に、頭上に展開された魔法陣から召喚された大波は、グラウンド全体を一瞬で飲み込み、暫く漂い続け、次第に小さな渦潮となって空中に消えていった。

 そう、最上級魔法。これが昨日ルナがテティスに教えた大海魔法の最上級クラスだ。

 どうやって大海魔法を使ったことがないルナがテティスに大海魔法の最上級を教えたのか。それはルナの才能の一つが大きく関わっていた。


 以前ルナはマナと共にフェンリルと戦った際、マナの技である『光焔一閃』を見様見真似で完全コピーしたことがある。それは紛れもないルナのシックスセンスだった。他人の技を見ただけで盗み、自分のものにしてしまう、天才的な才能。

 今回はそれを利用し、ルナはテティスの上級大海魔法を参考に、新たにその場で最上級大海魔法を開発し、それをテティスに伝授したのだ。少しズルいようにも思える修行方法だが、教えられてそれを覚えられるかどうかは本人次第。つまりはテティスには最上級魔法を使えるだけのポテンシャルがあったということだ。

 その場で、しかも最上級魔法を開発するなど、普通はそう簡単に出来ることではないが、一度見た技を模倣してしまうルナのシックスセンスと、脅威的な魔法の才能がそれを可能にしたのである。

 ……勿論、どの属性でも可能というわけではない。ルナの得意属性は氷魔法だ。大海魔法と氷魔法はどちらも同じ水属性から派生した魔法。感覚的にも属性的にも近しいものがあったからこそ、そのような無茶ができたのだ。


「お……おい……」

 一人の生徒が声を漏らす。その声はどうしてか震えていた。すると他の生徒たちは一斉に声をあげ、テティスの元へ駆け寄っていく。


「すげえなテティス! たった数日で魔法が上手く使えないのを克服しちまうなんてさ!!」

「テティス! 今のほんとに最上級魔法なのか!? だとしたら大ニュースじゃんか! 精霊寮に最上級魔法が使えるヤツなんてお前くらいじゃねーの?」

「凄いわ! テティスちゃん! こないだは皆テティスちゃんが魔法を使えないことを知って不安そうにしてたけど……やっぱりあなたはこのクラスの中心たるべき存在だわ!」


わぁぁぁぁぁぁっ……!!


「ちょ……ちょっと……」

 テティスはクラスメイト達に囲まれて胴上げが始まってしまっていた。クラスの中心だった者の発覚した秘密。そしてそれを短時間で解決してのけた事実。さらには最上級魔法までも披露してみせた。それらは生徒たちの士気を回復させるのに十分だった。

 精霊寮は落ちこぼれのクラスだ。そんな落ちこぼれが最上級魔法を使えるなどといったら、当然盛り上がる。テティスの、そしてこのクラスの目標である『貴族に一泡吹かせる』に一歩踏み出したのは間違いない。



「よーし、テティスちゃんの名声と信頼も取り戻したし、これで一件落着だぁ!」

 少し離れたところで、他の生徒達に大量に囲まれている人気者の姿を見て、ガッツポーズを決めるルナ。

 そこで後方から声がかかる。テティスの声だ。


「あのっ! ……私に最上級魔法を教えてくれたのも、魔法が使えるように解決してくれたのも、そこにいるアイギスさんのおかげなんです!

 私よりずっと凄いですし、優しいアイギスさんにも称賛を送ってもらえませんか!」

「えっ、私!?」

 思わぬ展開にルナは腰を抜かす。……が、テティスに扇動された生徒達はルナの方へわらわらと向かってくる。これは……胴上げされる。間違いない。


わぁぁぁぁぁぁぁっ………!!?


 小さな少女の叫び声が木霊しつつも、()()の寮が、改めて仲間として()()になった瞬間だった。


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