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天才と脳筋は紙一重  作者: たんすちゃん
《第三章》-王立学園編-
54/100

54.テティス・グランマーレ 1

「……それで、なんで私が呼ばれるのよ?」

 放課後。学園内の訓練場ではルナとテティス、そしてなぜかルナに呼ばれたマナの三人がいた。

 マナは今しがた授業中の出来事をルナから聞き終えたところだ。……聞いてなお自分が呼ばれたことに疑問を隠せない様子だったが。


「えへへ……ごめんマナちゃん。でも他に頼める人もいなそうだったからさ。紹介するね! 同じクラスのテティス・グランマーレちゃん! と……」

古竜(リンドヴルム)寮のマナよ。よろしくね」

「古竜の……ということは貴女も貴族なのですか?」

 マナの自己紹介を聞いて、顔をやや顰めるテティス。古竜寮には未だいい思い出はない。貴族というだけで偉そうな生徒ばかりだからだ。

 しかしマナは王族ということを隠し、平民という触れ込みで入学している。それに、地位にふんぞり返るような性格ではない。


「古竜の生徒のことを気にしてるのね。安心しなさい。私は地位とか気にしないし……まぁ、平民ではないけれど、私もうんざりしてるのよ。古竜寮の態度にはね」

 マナも性格上、他人を見下すような態度を取り続ける古竜の先輩や一部のクラスメイトには不満があるようだ。

 他人を見下す貴族を嫌うテティスと似たようなものだ。そう考えれば二人は共存関係といえるだろう。


「そうですか、失礼しました。よろしくお願いします、マナさん」

「ええ。気にしないで。……で、結局なんで私が呼ばれたわけ?」

 二人がなんとか打ち解けたところで、マナは本題に入る。話を聞く限り、自分は魔法の暴発などなったこともないし、そんなことが起こるほど不器用なつもりもない。

 だが、ルナがマナに助けを求めた理由はその器用さと努力家なところを鑑みてのものだった。


「マナちゃんって器用だし、私がレーヴァテインのことで悩んでたときも助けてくれたから、何かいい解決方法とか考えてもらえないかなって思って!」

「はぁ……なるほどね、まあいいけど。じゃあとりあえずテティス、貴女の暴発する魔法とやらをやってみてくれる? 実際に見てみないと分からないこともあるだろうしね」

 マナは小さく息を吐くとテティスに魔法を使うよう促す。快く頷いたテティスは前に出て広い訓練場のグラウンドに向けて右手を構える。


「では……いきます――【ファイアボール】!」

 テティスの魔法は不安定なため、何度目で暴発が起きるかは分からない。よって初級魔法を何度か連発することによってわざと暴発を促す。

 そして4度目の魔法行使でようやくグラウンドで大爆発が巻き起こる。あの時と同じ魔力の暴発だ。

 彼女たちは一体一日に何度大きな爆発を巻き起こすのか……。


 そしてテティスの魔法を見たマナは顎に手を当てながら考える。


「見たところ詠唱は普通だし、問題はないように見えるけど……」

 頭の中の魔法のイメージも矛盾はしておらず、詠唱も問題はない。魔力回路に欠損もないという。暴発が起こりうる定番の理由は全て当てはまらないらしい。

 ならばとマナがまず最初に考えた可能性は……。


「ねえテティス。貴女の暴発は他の属性でもこうなるの? 得意な魔法はなに?」

「一番得意なのは大海魔法、水系統の属性ですが……やはり得意な魔法でも同じように暴発は起こりますね」

 ふむ……と考え込むマナ。ルナのように火属性だけが使えないなどであれば何か原因がわかりそうなものだが、どの属性でもそうなるのではどうしようもない。

 尤も、ルナが火魔法を使うと爆発してしまう理由もマナには到底理解できないのだが……。詳しく調べねば分からないことだが、特定の属性がどうしても使えない者はそれなりに多い。きっとルナもそのうちの一人なのだろう。


 そしてマナは少し考えた後、一つの提案をする。


「それじゃ、模擬戦をしてみましょうか? 実際に戦闘で魔法を使えば何か変わるかもしれないわ。ルナ、お願いできる?」

「おー? 私がやるの? 分かった!」

 マナは一旦、テティスとルナに模擬戦をさせてみることにした。その動きを見て何か気づくことがあるかもしれないと思ったからだ。ついでにテティスの実力がどれほどのものなのかを知る良い機会だ。

 ダメで元々、色々と試してみるのがマナのモットー。分からないことがあるのならあの手この手で探ってみる。そうして今まで独力でのし上がってきたのだ。それをここでも発揮する。


「誰かと戦うのは初めてなのですが……手合わせお願いします。アイギスさん」

「授業中も言ったけど、私って結構頑丈だから、全力で大丈夫だからね!」

 そして頼まれて快諾したルナとテティスが位置につくと、マナがスタートの合図を切る。


「始め!」

 マナが開始の合図を出すと向かい合ったルナとテティスの模擬戦は始まった。


 まず最初に動いたのはルナ。開始と同時に拳を構えて前方に飛び込んでいく。いつもの戦闘スタイルだ。

 テティスは武器を持たない魔術士。距離を詰められれば不利なのは間違いない。テティスのための模擬戦といえど、手を抜いていては彼女のためにならない。そう思ったルナはしっかりと彼女を逆境に立たせるように立ち回る。


 詰め寄るルナに対し、テティスも何もしないというわけではない。得意の大海魔法を数発放ち、牽制する。運がいいのか悪いのか、その数発の魔法は暴発することはなく、普通の魔法として成り立っていた。

 逆にそれは予想外の一撃にはなりえないということでもあり、ルナは簡単にそれらを避けて距離を詰める。


「っ……!」

 目前に迫ったルナを見て頬に汗を伝わせるテティス。座学や自己鍛錬は積んできた彼女だが、テティスは実際にこのような高速戦闘をするのは初めてだった。

 そして慣れない実戦を意識している間もなく、足元を払われ姿勢を崩したテティスは、次の瞬間ルナに腕を掴まれそのまま高く投げ飛ばされる。


「よいしょっ!」

 そしてテティスを投げた直後、ルナは空中に向けて即座に右手を構え、短詠唱で魔法を唱える。


「【アイスバレット】!!」

「――【ウォーターバレット】……ッ!」

 空中に放り出されたにも関わらず、ルナの追撃に対して不安定な姿勢のまま魔法で反撃するテティス。初めての実戦だというのに凄まじい適応力である。

 お互い、氷と水の似たような属性で同じ系統の魔法同士がぶつかり合う。だがこのタイミングでテティスの魔法が暴発を起こす。


「おわっ!?」

「くっ……!」

 暴発したテティスの水魔法はルナの氷魔法をあっさりと飲み込み、そのままルナに直撃する。……と同時に、宙に放り出されたまま不安定な姿勢で魔法を放ったテティスは、上手く受け身を取れずにドサッと地面に落ちる。

 互いに地面に倒れ込んだ状態。相打ちだ。


「そこまで!」

 合図を出したマナの声と共に、そこで模擬戦は終了する。一瞬のことだったが、そこでマナが声を掛けたということは何か意味があるのだろう。

 お互いに立ち上がったルナ達はマナの元に再度集まって今の模擬戦を振り返る。


「んんーっ……! まさか私の魔法ごと飲み込んじゃうなんて驚いたよ~!」

「アイギスさんこそ凄い身のこなしで驚きました……それに私の魔法を受けてもピンピンしてますし」

「頑丈だからねっ!」

 背中をうんと伸ばしながら先程の出来事を語るルナ。本気ではなかったとはいえ、あっさりと自分の魔法を上回る威力で攻撃を返されたことの驚きが大きかった。それにあの状態からの反撃。対人戦が初めてにしては凄まじい胆力だ。

 そしてやはり暴発した魔法を何度受けても相変わらず平気そうな顔でピンピンしているルナに、テティスは驚き半分、感心半分といった様子だった。

 アレイラを鍛えたことはないルナだが、素の才能値が高いのか、はたまた鍛え上げられた筋肉のおかげなのか。なんにせよ、ルナの魔法に対する耐性はかなり高いのかもしれない。

 二人が話していると、マナがルナ達に質問を投げかける。


「どう? 戦ってみて何か気づいたことはある?」

「……いえ。初めて対人戦というものをしましたが、いつも一人で魔法を使う時と違いはないように思えました」

 模擬戦を挟んだとはいえ、いきなりそんなことを訊かれてもやはりピンと来るものはないようで、テティスはパッとしない表情を浮かべている。


「ルナは? 何か感じた?」

「うーん……まだ少ししか戦ってないから確信は持てないけど、ちょっと力が入りすぎな気がしたかなぁ? そういえば授業中も少し力みすぎてたような……」

 訊ねられたルナは先の戦闘を振り返って、ひとつだけ気づいた違和感に触れる。思えばテティスは、どことなく魔法を放つ際に肩に力が入っているように思えた。本当に直感的な話だが。

 それを聞いたマナは深く頷く。テティスは気づいていなかったといった様子でなにやら考え込んでいた。


「そうね。テティスは魔法を使う時……いや、正確には暴発する魔法を使う直前。力が入り込みすぎて一瞬全身が硬直してるのよ。多分原因はそれじゃないかしら」

 マナはこの短い時間で、テティスが魔法を使うときの癖を見抜いたらしい。その観察眼は流石A級冒険者と言えた。


「自分ではそこまで肩に力が入っているようには感じないのですが……」

「ほんの一瞬、わずかなものだったからね。魔法の不安定さはそのせいもあると思うわ」

 テティスの魔法が成功する時も暴発する時もあるという、不安定なことの大きな理由。それは毎回力が入っているわけではないということが大きかった。

 毎度毎度、魔法を放つたびに全身が硬直していては流石に自分でも気づくだろう。だがテティスは昔から今までそれに気づけなかった。……彼女の周りの者達も。

 つまり魔法が成功する時はしっかりと身体の力を抜けていて、失敗する時は入ってしまっているのである。どちらも完全なる無意識で。


「ってなると、やることは決まったわね」

 そう、やることは決まった。シンプルな話だ。彼女……テティスに魔法をひたすら撃ってもらい、力を抜きながら魔法を扱う練習をすればいいわけだ。


「グラウンドがめちゃくちゃになってもあれだし、ルナと私が貴女の魔法を受け止めるわ。早速やってみましょ!」

 マナが声をかけると、ルナとテティスの二人は頷き、それぞれ距離を取って位置につく。


 一時間後……。


_


「ま、まるで変化が起こらないわ……!」

「なんならやればやるほど暴発が増えてる気がするよー……?」

 ぜぇぜぇと息を切らしながら床に座り込むルナとマナ。

 あれから何度もテティスが魔法を撃っては、それをルナとマナの二人で相殺して処理をしたり、たまに暴発した魔法に対応しきれずに被弾してしまったりといったことを繰り返していた。

 おかげでルナもマナもボロボロで疲弊していた。一時間もぶっ通しでこんな滅茶苦茶なことをしていたのだ。当然だろう。


「す、すみません……」

 申し訳無さそうに謝るテティス。一定の距離から定期的に軽い魔法を撃つだけだったテティスは特に疲弊した様子もなく、ルナ達のようにボロボロになることもなかった。

 何度も繰り返した訓練だが、テティスの魔法の暴発は一向に改善する気配はなく、むしろこのグラウンドに来た最初の時に比べると、さらに暴発の頻度が上がっているように感じた。


 不安定な魔法は相手の不意をつけるというメリットはあるが、魔力回路や脳に通常よりも大きく負担がかかる。運が悪ければ魔力回路や血管がパァン! ……なんてこともあり得るわけだ。

 そんなことになれば本末転倒。このままでは自分だけでなくルナも、そして暴発した魔法を連発しているテティスも危険と判断したマナは、休憩と称して訓練の手を一旦止め、考えるフェーズに入る。


(どうして暴発の頻度が上がったのかしら……最初と特に変化はなかったはず。強いて言うなら私が参加したくらいだけど、それは流石に関係ないわよね。

 てなると長時間における連続での魔法発動による疲労が原因? 彼女自身疲労している様子はないけれど、身体はそうとは限らない。魔法を連続で使えば魔力回路も過度な使用でオーバーヒートも近くなる。

 無意識でも長時間の訓練で集中力が欠けてしまっている可能性もあるわね……)

 色々な可能性を捻出し、その可能性達の矛盾点などをあげて排斥していく。そうやって一番高い可能性を絞り込んでいくのだ。

 たしかに集中力の欠落で魔法が暴発する例もあるが……テティスの場合、それは関係無さそうに思える。彼女自身、勉強熱心なのか向上心が強いのか、集中力は高そうだ。この程度で崩れたりはしないだろう。

 となると――……。



「ねえねえ、テティスちゃんって緊張とかするの?」

「緊張、ですか? 勿論しますよ。誰かと話す時や何かを試している時。朝の授業の時も、今の訓練の時だってかなり緊張していましたよ」

「そうなんだ? テティスちゃんってクールな雰囲気だから、そういうのとは無縁なのかと思ってたよ!」

「ふふ、こう見えてかなりの緊張しいなんですよ?」

 マナが考えるターンに入ってしまったため、手持ち無沙汰になったルナとテティスが何気ない会話をしていると、いきなり考え込んでいたマナが顔をあげてこちらを見る。


「それだわ!!!」


「「へ?」」


_

_

_


「つまり、私の魔法が暴発する理由は緊張で身体が強張る所為と……?」

「ええ。朝の授業の最初、貴女は暴発を恐れ、先にルナに順番を回して後から魔法を使った。結果、その魔法は暴発。それは暴発に対する恐れ、不安で緊張していたからよ。

 そしてさっきの訓練を始めた最初。何もいない方へ数発魔法を撃って貰ったけれど暴発したのは4度目の時。ここに来た頃は特に緊張はしていなかったんでしょうね。

 でもいざ暴発を見せてくれと言われて撃ってみても中々魔法は暴発しなかった。……けど、3発撃った辺りでその不安が緊張に変わって、結果4度目に放った魔法が暴発し、私に見せることに成功した」

 マナはこれまでの経緯を改めて説明し、状況を整理しつつ辻褄を合わせて答え合わせのように一つ一つテティスの癖や"緊張"という言葉と絡めていく。

 ルナとテティスはそれを真剣な表情で聞いていた。


「次にルナとの模擬戦だけど、テティスが撃った最初の数発は牽制程度のつもりだったんでしょ? だからそこまで緊張することも、肩に力が入りすぎることもなかった。

 で、最後の一騎打ち。思いもよらない速度で詰めてきたルナに驚いた貴女は、宙に放り出され、驚きと焦燥で落ち着かない中、さらに追撃をかけてくるルナに対応すべく無理に魔法を放った。

 その結果、肩に思いっきり力が入ったまま、さらに不安定な体勢の状態で撃たれた魔法は暴発した……ってとこじゃないかしら?」

 一通りの説明と辻褄合わせを終えると、マナはテティスにパスするように言葉を投げかける。

 終始、顎に手を当てて真剣な表情で話を聞いていたテティスは、話を振られて顔を上げる。


「確かに……思えば魔法が失敗する時はいつもどこか緊張していた気がします。

 家で魔法の鍛錬をしている時も、失敗しないことを祈りながら訓練していました。マナさんの言う通りならば、それが逆効果だったということなのかもしれませんね」

 マナの話を振り返り、自分の過去を思い返すテティス。色々聞いて考えた結果、やはりマナの言っていることは概ね当たっているように感じた。

 自分では自覚がなかったが、言われてみればその通りだ。緊張しいの自分はいつも何かをするときに緊張して肩に力が入っていた気がする。

 その理由は、きっと親の影響もあるだろう。


「私は普通の家庭に生まれたのですが……」


 話しながら過去を振り返っていたテティスは、これも伝えたほうが良いかもしれないと思い、徐ろに自分の過去を語り始めた。


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