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天才と脳筋は紙一重  作者: たんすちゃん
《第三章》-王立学園編-
53/100

53.最初の授業!

「最初の授業は早速実技だ。お前ら、まずはペア作れ」

 アルバートが生徒たちを見渡しながら矢継ぎ早に淡々と告げる。

 ルナ達精霊寮の生徒達はアルバートに連れられ、学内の訓練場へとやってきていた。

 昨日の授業は各々の自己紹介で終わったため、授業とは言いにくい。そのため、これがちゃんとした最初の授業という認識らしい。


 そしてペアを作れと言われて、それぞれが近くにいた生徒や、昨日の間に打ち解けた生徒同士でペアを作る。当のルナはというと……。


「もう皆ペア組んでる……出遅れちゃったなー。ニーシャはイズと組むみたいだし、どうしよ?」

 他の生徒は次々とペアが出来ていく中、ルナは一人あぶれていた。クラスで一番浮いていたであろうニーシャも、興味を持ったイズが誘ってペアを組んだようだ。

 ルナは外の世界に出たばかりの世間知らずだが、友達作りは得意と言える明るく懐っこい性格。本来ならあぶれることはないはずなのだが、これは困ったことになった。

 そしてどうしようかとルナが右往左往していると、偶然にも一人になってしまったらしい水色の髪の少女が声を掛けてくる。


「確かアイギスさん……でしたか。その、良ければ私とペアを組みませんか?」

 テティスだ。彼女はクラスでは周りから逆境への強気な姿勢を買われ、称賛されていたはずなのだが……なぜここまでペアを作れずルナのように一人になっているのだろうか?

 理由は分からないが、ルナにとっては都合がいい。テティスに少し興味もあったので断る理由もなかった。


「おっけぃ! ありがと! ちょうど相手を探してたんだ!」

「そうですか、私もそんな感じです」

 そうして互いに了承し、ルナのペアはテティスに決まった。全員のペアが決まったところで、一体何を始めるのか、アルバートが説明を始める……。


「今日の授業の内容はアレイラの訓練だ」

「「「「アレイラ?」」」」

 アルバートの言葉に首を傾げる一同。


 アレイラとは、人が誰しも生まれた時から身体に纏っている魔力の障壁。アロンダイト帝国でガウェインが使っていた力のことだ。

 人は皆この世に生まれた瞬間から魔力を持っている。魔力は身体が成長するにつれて、共に成長していく。魔力が高いほどアレイラは硬く頑丈になり、魔法への耐性や物理的干渉への耐性が高くなる。


 たまにいる生まれつき身体が頑丈な人というのは、このアレイラが普通より硬いということなのである。ルナも昔から身体は頑丈だ。それは鍛えた筋肉のおかげでもあるが、魔力が高いからでもあるだろう。


 デュランダルでは、アレイラについてはあまり重要視されていないらしいが、最近になって学園ではその辺りの授業も行うことになったそうだ。

 説明を聞いていた生徒達が、アレイラなど初めて聞いたといった様子だったのはそれが理由だろう。


「アレイラは自然に育っていくが、鍛えることもできる。他国には生身の刃すら受け止められるほど硬いアレイラを持つヤツもいると聞く。

 ……まぁ、そんなん何十年と鍛えて得られるもんだからな。お前らには初級魔法を身体で受けても気にならないぐらいを目指してもらうぞ」

 要は軽い魔法を身体に何度も当て合い、それに慣れろということである。


 説明が終わると生徒達はそれぞれ向かい合って準備に入る。

 この学園に初級魔法が使えない生徒は()()いない。そんな者はそもそも受験を通過出来ないからだ。魔法が使えない者は稀にいるが、魔力がない者はいない。魔力さえあるのなら、何かきっかけがあれば魔法を使うことはできる。

 ……推薦入学で、魔力の数値が110で初級魔法を扱うことすら困難なシトラスを除いて……だが。しかし彼女は聖獣寮。同じ授業をするとは限らないし、もし同じような壁が立ちはだかっても彼女は彼女でなんとかするであろう。……たぶん。


「じゃあこっちも始めよっか? どっちから撃つ~?」

「あっ……いや……アイギスさんからお願いできますか」

 周りの生徒達が実技授業を開始し、辺りからは様々な魔法の炸裂する音が響き始める。ルナはテティスにどちらから魔法を撃つか問うが、訊かれた彼女は少し苦い顔で順番を譲る。


 その違和感には気づかぬまま、ルナは初級魔法を放つ。当然、適当な威力で放てばルナの魔力では初級魔法でも軽傷では済まなくなってしまうため、しっかりと、かなり威力を抑えて。


「【ウォータースピア】!」

「……!」

 派手な威力はいらないため、しっかりとした詠唱はせず、短詠唱での水魔法。槍魔法は全魔法の中でも攻撃特化型の系統だが、水魔法なうえ、短詠唱にして魔力をかなり抑えたウォータースピアであれば、ホースの口を潰して水圧をあげた子供の水遊び程度の威力になる。

 迫る魔法に威力はないが、これは訓練。それに初級魔法とはいえ攻撃魔法が飛んできているのだ。テティスは身構えて防御を固める。


ぴしゃっ……!


「……ほっ」

 テティスの身体に命中したウォータースピアは、身体に触れると同時にわずかに服を濡らして飛散する。

 威力が弱い初級魔法と分かってはいたことだが、ルナがさらにそれを弱く手加減してくれていたことを理解したテティスは感謝の念と共に安堵する。

 普通は攻撃魔法には攻撃魔法、もしくは防御魔法で相殺するのがセオリーだ。生身で受け止めるのにはそれなりの度胸がいる。特に、そういった訓練をしてこなかったこの学園の生徒の多くはそうだ。


「よーし、その調子だ。そのまま交代で互いに軽く魔法を当て続けろ~? んじゃ、俺は帰るから。また後で来るわ」

 アルバートは相変わらず自由気ままで、生徒たちの最初の挙動を大方確認し終えると、問題ないと判断し、そのまま校舎へと戻っていってしまった。

 昨日の最初に言っていた、"俺の授業は基本自習"、"たまに様子を見に来てやる"というのはこういうことだったのだろう。

 もはやアルバートの態度には慣れつつあった精霊寮の生徒達は口出しせず、その背中を見送ってから再度授業を再開する。


「次はテティスちゃんの番だね! 私、昔っから頑丈だから遠慮なく来ていいよ!」

 ルナの次はテティスが魔法を放つ番だ。ルナは元より魔力が高く、身体も鍛えられているため、ちょっとやそっとの魔法程度は気にもならないほど頑丈だ。

 アロンダイトでの戦いの際も、身体強化を使っていたとはいえあの悪魔ベリトの膨大な魔力弾を受け止めたほどだ。

 どんとこい! と無い胸を張るルナだったが、テティスはどこか不安そうに構える。


「じゃ……じゃあいきます……――ファイアボー……」


ごおおおっ!!!


 テティスが火魔法の詠唱を始めた瞬間、初級魔法とは到底思えないほど巨大な火球が生成され、さらには凄まじい速度でルナの眼前に飛来する。


「うぇえっ!?」

「しまった……!?」


 その日、王都の中では最も大きな爆発音が学園内で巻き起こった。


_


「私また失敗して……アイギスさんが大変なことに……! ど、どうすれば……」

 先程の巨大な爆発を引き起こした張本人であるテティスは、煙に包まれ姿の見えないルナをオロオロとした様子で探していた。

 他の生徒達も突如として起こった大爆発に困惑し、ルナ達のほうに注目が集まっていた。


なんだ……!?


何が爆発したんだ!?


 ざわざわと騒ぎ始める者も出る中、テティスはただルナがいたところを心配そうに注視していた。このように魔法が暴発することは初めてではないのだ。


「げほっげほっ! ……びっくりしたぁ! 鍛えてなかったら怪我するとこだったかも?」

 煙の中から煤だらけになって現れたルナは、やはりその頑丈さから目立った外傷はないようだった。

 それを確認したテティスはホッと安堵した顔を浮かべ、ルナに駆け寄る。

 特に問題は無さそうということで、ざわついていた他の生徒も元の場所へ戻って互いの訓練を再開する。


「す、すみません! まさか()()暴発するなんて……。不幸中ではありますが、怪我がなくて幸いです……」

「まー私は頑丈だし、あれくらいのほうがアレイラの訓練になるのかもね。それにしてもさっきのファイアボール凄かったよ! ほんとに初級魔法?」

 先程テティスが放ったのは紛れもない初級魔法、ファイアボールだ。……しかし彼女自身も言う通り、彼女の魔法は不安定で、昔からたまに暴発してしまうのだ。

 魔法の暴発が起こる原因は基本的に3つある。1つは魔法の詠唱が不安定。魔法の詠唱は、放つ魔法の属性に合った詠唱をしなければ安定して放つことは出来ない。

 火魔法を撃つために『水よ来たれ!』等の矛盾した詠唱をすれば、集まるエネルギーが反作用して爆発する。脳の構造が複雑なことに対応している者であれば、その"矛盾詠唱"を使える者も一定数いるが。三年前にルナが初めて使った氷魔法が似たようなものである。


 2つ目は魔法の等級に対し、込めた魔力が過剰すぎる場合。小さなコップ一杯に、バケツいっぱいの水を注ごうとすれば、当然コップの面積が足りずに水は溢れる。

 初級魔法に対し、最上級魔法の如き魔力を注げば、上手く行けば初級魔法と油断させた相手に高威力の魔法をぶつけられるが、大抵は失敗し爆発する。もちろん、コップの大きさは人それぞれのため、全員が同じことをすれば同じ威力になるわけではない。

 先程のテティスの場合、前者の成功例にも似ているが、本人が意図していないため少し違うだろう。


 そして3つ目は魔力回路の欠損だ。これは先天性のことがほとんどだが、事故などによる怪我の影響で後天性で陥る場合もある。

 魔法を扱うには魔力が必要で、その魔力を扱うには魔力回路を介する必要があるのだ。魔力回路とは、人間の身体でいえば血管と近しいもので、等しく誰にでも流れている魔力を循環させる管のようなものだ。

 人間は血管がなければ生きられないが、同じように魔力回路がなければ魔力を操ることも出来ない。そんな魔力回路が欠損していては、魔法は使えてもまともに制御は出来ないというもの。故に、暴発に繋がる。


 主に魔法が暴発する理由はこの3点だが、しかし彼女は……。


「申し訳ありません……実は私、たまに魔法が暴発する時があって……幼い頃からなんです。何人かのお医者様には診てもらったのですが、魔力回路に問題はないらしく原因は不明とのことで……」

 テティスの魔法暴発癖は幼い頃かららしい。彼女は聡明で平民ながらこの学園に入学出来るほどの人材だ。そんな彼女が魔法の暴発する三大理由を知らないはずもなく、その上で原因が不明なのだ。


「入学試験の時はたまたま魔法が失敗しなかったおかげで成果を出せてなんとか受かったのですが」

「そっか、普通は受験で魔術試験もあるんだっけ。いつ暴発するかはテティスちゃんにも分からないんだ?」

 ルナ達推薦組は受けることはなかったが、普通は入学後の試験とは別で受験の際にも武術試験と魔術試験があるのだ。

 魔法適性試験も魔術試験もテティスは運良く魔法が暴発することはなかったらしく、そのおかげで今ここにいられるのだ。とはいっても、自分の魔法なのにいつ暴発が起きるか分からないというのはやはりとてもストレスだろう。


「普通に魔法が使えればいいんですが……この授業、やっぱり私は何もしないほうが良いですよね。アイギスさんの身体が持ちそうにありませんし……」

「うーん、多分大丈夫……っていうか、むしろ頑丈な私だからこそテティスちゃんの相手には適任なんじゃないかな!

 そうだ、私もね! 唯一暴発しちゃって使えない魔法があるんだよ! 見てて!」

 ルナはそう言って距離を取ると、右手を誰もいない方向に適当に構えて集中する。結果は分かっているが念のため、万が一魔法が出てしまった場合に二次被害を抑えるためだ。

 テティスは突然そんなことを言い出したルナを不思議そうな顔で見ていた。自分以外に魔法が暴発する人など今まで見たことがない。本当のことなのだろうか?と。


 そしてルナは魔力を右手に収束させ、ポカポカとした魔力を感じながら言い放つ。……大の苦手な火魔法を。


「【ファイアボール】!!」


カッ――!


「!?」


 その日、王都の中ではまたしても巨大な爆発音が響き渡った。


「なんだ!? またか!?」


「さっきから魔法失敗してるやつ誰だよ!」


「初級魔法を失敗するやつなんかいるか!」


 がやがやと二度続いた大爆発にいい加減文句を垂れる生徒達。初級魔法を使う授業でこうも連続して大爆発が起きるなどありえない。それも意図せず。……ルナの場合爆発は分かっていたことだが、ルナが使ったのはれっきとした初級魔法だ。ただ、使った属性が悪かっただけで。


「ぶはあっ! どうだった? 私昔っから火属性の魔法を撃とうとすると自分が爆発しちゃうんだよね! なんでかわかんないけど!」

 舞い上がった土埃を払いながら姿を現したルナがテティスに問い掛ける。今も昔も変わらない。何故かルナは火属性の魔法を使うと爆発する。それを戦略として意図的に使ってみせたこともあるが。


「……驚きました、まさか私以外にも同じような理由で魔法が暴発する人がいるなんて」

 魔法の暴発はそう珍しいことではない。三大理由があるように、対処法も治療法も存在する。……が、二人のように原因不明で対処しようのない暴発をする者は例外だ。

 原因不明の暴発が起きる者は滅多にいない。そんなルナとテティスの二人が巡り合わせたのは何かの運命の悪戯なのかもしれない。


「そうだ、そのことなんだけど……」

 ルナは唐突に思い出したように口を開く。テティスの事情を聞いて何か出来ることはないか考えた結果、一つ浮かんだことがあったからだ。


「テティスちゃん! 放課後! 時間ある?」

「え、はい……。いつもすることは勉強か鍛錬のみなので、一応予定はありませんが」

 藪から棒に訊かれたテティスは少し戸惑った様子で答える。優秀なだけあってやはり普段は勉強や鍛錬を積んでいるらしい。


「じゃあ放課後、いっしょに訓練場いこ!」

「? ……わかりました」

 そのルナの言葉を皮切りに、二人はそのまま授業を再開する。その日、学園内では何度かの爆発音が鳴り響いていた。


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