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天才と脳筋は紙一重  作者: たんすちゃん
《第三章》-王立学園編-
50/100

50.自由であれ!

「憂鬱だ……戻りたい。部屋に……」

「まあまあ! そうも言ってられないよ? 初めての授業なんだから!」

 隣同士で並んで座ったニーシャとルナは、先生が来るまでの間、話して時間を潰していた。時刻はすでに朝。ニーシャにとっては活動期間外の時間である。

 やつれた顔がさらに怠そうになっているニーシャを慰めるように鼓舞するルナ。生徒たちはすでに全員揃っていて、後は先生を待つだけだった。初めの授業ということもあってか、サボっている生徒はいないようだ。まぁ、すぐにでもサボりたそうな生徒は隣にいるのだが。


「あの先生、凄く面倒くさがりに見えたけど……流石に教師が授業をサボるなんてことないよね? ……ない、よね? しかも初日……」

「……どちらでも良いことだね、私には。寝てても良いってことだろう? 授業が始まらないのなら」

「だーめだってば!!」

 精霊寮の担当教師は昨日寮案内を途中で放棄したアルバートだ。昨日の態度を見る限り、先生が授業をサボる可能性もあり得た。ニーシャはそれはそれでいいと思っているようだが、ルナにとっては大事な学園生活の最初の授業。そんな始まり方は嫌というものだ。


「……え? ダメ? 君までそんなことを……ああ、そうかも。でも関係ないからね、私には……ふふ、ふふふ……」

 自分の世界に入ってしまったニーシャを置いて、ルナは不安に思っていた。この学園、本当に大丈夫なのだろうかと。寮の散らかりようは散々だったが、中央校舎はそうでもないようで小綺麗だった。他の生徒達も、先輩達のあのぶっ飛んだ格好に比べればずっとまともだった。

 ルナはこのクラスだけは先輩達のようにおかしくならないことを祈るのだった。



「ねえ……その子さっきから誰と話してるの? 怖いんだけど……」

 ルナがぼーっとこの先のことについて考えていると、ニーシャとは反対側の隣に座っていた、桜色の髪の少女が耳打ちで話しかけてくる。誰もいない方向に向かって楽しそうに笑っているニーシャが気になったようである。

 そう、普通の人間からすれば、ニーシャの行動は奇々怪々。不気味だったり、怖かったりするのだ。ルナにとっては()()変わった子という認識だったが、それはいつも一緒にいる『エクリプス』の面々に、精霊と会話する令嬢や刀と会話する少年がいるからである。要するに慣れ、である。


「えっと、私達には見えないけど、死者の友達と話してるんだって。あっでもでも怖い存在とかじゃなくて! 昔からずっと一緒にいる……精霊、とか守護霊? みたいなものらしいから、怖がらないであげて!」

 ルナはニーシャの事情をだいぶオブラートに包んで少女に話す。自分のせいで変に誤解されたりすればニーシャが傷つくと思ったからだ。ニーシャの過去を聞いた今、ここでも彼女を同じ境遇には合わせたくなかった。


「へぇ、守護霊と話を……興味深いね! 私、そういったスピリチュアルな話って結構好きだよ! なんかこう……技術や魔法じゃ解明できない謎多き存在ってワクワクするでしょ!? 聖獣とか幽霊とか、神様とかさ!」

「確かに……! 私も幽霊とか精霊ってどんな感じの見た目なのか気になるかも! 友達に精霊とか幽霊と話せる子がいるんだけど、私にはそういうの見えなくって……」

 ルナの説明を聞いた少女は思いの外食いついてきた。どうやら彼女は神秘的な話が好物らしい。要はオカルト好きなのだろう。興奮気味に話す少女に釣られて、ルナも確かにと同感してしまう。


「あ、私イズっていうの! 情報収集が趣味なんだ! 特にそういった不思議な情報が……! この学園では広報委員会に入ろうと思ってるの! よろしくね!」

 イズと名乗った少女は明るい顔でルナに手を差し伸ばす。彼女は主に不思議な情報を集めるのが好きらしいが、普通の情報収集も趣味だという。

 そんな彼女はこの学園で多くの情報が入ってくるであろう広報委員会に入ろうと考えているらしい。ルナはこの学園の委員会などについての情報などまだ一つも知らなかったため、彼女の情報収集能力の高さが窺えた。

 ルナはイズが思っていたよりもずっといい人に感じ、同じく明るい顔で手を差し出して握手を交わす。クラスの仲間とはできるだけ仲良くやっていきたい。拒む理由などなかった。


「私はルナ! 冒険者をやってるんだけど、色々あってギルドマスターの推薦で入学したんだ! よろしく!」

「推薦入学!? それって数人しか枠がない特別枠じゃん! ルナはすごいんだね!?」

 ルナが自己紹介すると、イズは非常に驚いた様子だった。推薦入学とはそこまで凄いことなのか。聞けば160人の入学枠のうち、数人程度しか枠が取られていない特別な入学枠だという。

 本来ならば厳しい試験を超えて合格を目指すのだが、その過程をすっ飛ばして入学できる特別な枠なのだとか。それも、名門貴族や著名な人物しか個人を推薦することが出来ないらしい。ギルドマスターだからこそその権利があったのだろう。ルナ達は運が良いと言えた。


 それにしても、やはり色々といった分野に詳しい様子のイズ。初日から彼女と友人になれたルナはツイているのかもしれない。

 もしかすれば、どこかで情報通の彼女を頼ることがあるかもしれない。人の縁は大事にしようと思ったルナであった。


_


 そうして話していると、授業開始時刻になってから5分ほど待たされたが、ようやく先生が気怠そうに教室に入ってくる。恐らく、サボろうとしていたところを誰かにしつこく促されたか何かあったのだろう。

 良くも悪くも、クラスの生徒達はその時間で隣同士での交流を深めることが出来たようで、ルナとイズのように他の生徒もすでに座っている周りの生徒とはある程度打ち解けている様子であった。


「はぁ……ったく、どいつもこいつもしつけェな。てめぇらはてめぇらの授業に集中しとけっての……。

 ――おうお前ら! 俺の授業は基本自習だ! 面倒は嫌いだからな。たまに様子だけは見に来てやる。今日のところは自己紹介でもしとけよ、まずは互いを知らなきゃ色々と困んだろ?」

 アルバートはぶつぶつと文句を言いながらも、最初の授業は自己紹介の時間を取ることに。あの言い草からするに、やはり他の教師か誰かに言われて仕方なく教室まで来たようだ。

 そうしてアルバートが指名した先頭の生徒から順に立ち、自己紹介が始まった。一年生の数は合計で160人、各寮に40人ずつ均等に分けられている。ここ精霊寮の生徒も40人だ。普通の街の学舎などと比べると中々多いが、さすが王都というだけはある。


 順番に自己紹介が進んでいくと、次に立ちあがったのは水色の髪の少女。ルナ達精霊寮の生徒が古竜寮の先輩達とすれ違った際に、見下されてもなお抵抗しないアングスに対し鋭く意見を出していた生徒だ。


「テティス・グランマーレです。私は先輩達のように権力に怯えて逃げたりするつもりはありません。平民と貴族に地位や才能の差はあっても同じ人間同士。必ずどこかで一泡吹かせるつもりです。よろしくお願いします」

「それなら私も同意ですわよ! さっきの古竜寮の態度には腹が立ちますもの!」

「そうだ言ったれ言ったれ!」

 逃げるような姿勢のアングスに苦言を呈していたテティスは、やはり先輩とはいえ貴族に怯えて媚び諂うような生き方はしたくないらしく、強気な性格が態度にも表れていた。

 そんなテティスの現状に対する強気な姿勢を見た他の生徒たちは、便乗してむしろ燃え上がっていた。その中には一応貴族である男爵家の人間も混ざっていたが、彼らも弱小貴族。上級貴族に見下されることには慣れてはいるが、うんざりしていたのだろう。


「なんだ……? 俺が見てねェ間になんかあったのか? 随分と蜂起してんじゃねぇか。……まぁいい、やる気があんだったら俺の面倒も減るだろ。……減るよな? ……。減ってくれ……」

 一連の流れを傍観していた教師であるアルバートは、アングスに学園を案内されていた時の古竜寮との一悶着の件を知らないため、理由は分かっていないようだったが、生徒がやる気を出してくれているのなら勝手に授業にも取り組んでくれるだろう。すなわち自分の面倒事も減るだろう……と、楽観視していた。しかし『アーレス学園最強の怠惰教師』であるアルバートが、この一年生たちに振り回されることになるのを、彼はまだ知らない……。


 そこからルナやイズ、ニーシャの順番も回ってきて生徒の皆が自己紹介を終えた。ニーシャの時は自分の自己紹介中にも関わらず、平然と亡霊達と会話を挟んだりしてしまっていたため、一部の生徒には不気味がられてしまったようであったが……。

 ルナが少し不安に思っていたことがこれである。ニーシャがまた独りぼっちにならないように、ルナは色々と苦労することになりそうだ。ニーシャ自体は死者と話すことを普通のことだと認識しているため、ルナのような友人が上手いこと説明するしかないのだ。先程のイズのように。

 そして全員の自己紹介が終わった後、アルバートは次の授業についての話題を切り出した。



「じゃ、互いのことを知ったところで、早速最初の授業を始めんぞ。お前らの記念すべき最初の授業は『この学園について』だ。喜べ、初回は俺が教えてやるよ」

 アルバートが告げた授業の内容。要はこの学園についての説明のようなものだろう。昨日の入学式の際にアレスやアングスからある程度の説明はされたが、まだ知らないことなども多い。特に、寮同士の関係や委員会、学園の仕組みなどだ。


「順に説明していくぞ。質問はいいが、二回は言わねェからな」

 それを聞いた生徒たちは聞き逃さないようメモやら何やらを取り出す。そうしてアルバートによる最初の授業が始まった。



 最初に説明されたのは、この学園の委員会について。この学園には委員会や研究会があり、学園側が設立したのが委員会、生徒たちが学園に頼んで設立したのが研究会だ。

 委員会には、『生徒会』『風紀委員会』『広報委員会』『医療委員会』『行事委員会』があるという。風紀委員会や医療委員会は言わずもがな。行事委員会は学園でのイベントを思案したり指揮を執るものだそうだ。

 広報委員会は学園中央校舎の1階にある掲示板に、学園での様々な情報を貼り出す役目があるという。イズが入りたがっていたのはやはり色々な情報が入ってくるからなのだろう。生徒会はそれら全体の最終決定や指揮、書類の処理などが主らしい。難しい話のようなので、ルナには縁遠そうなものに思えた。


 研究会はそういった学園に直接関与することをしているわけではなく、借りた教室で研究会が目的とした行事を行うものだそうだ。

 生徒達が個人で設立するものというだけあって、その数は委員会よりも多く、自由な構想のものが多いらしい。そのどれもは1階の別棟に教室があり、『後で時間をやるから見てこい』とアルバートは説明を放棄した。それだけ覚えるのも説明するのも面倒なのだろう。


「次は学部についてだが……多分学長から説明はされてんだろ。一応戦闘魔法学、補助魔法学、魔導具学、冒険学の4つがあるが……お前らどうせ魔導具学とか興味ねぇだろ? 興味あるやつは後で職員室にでも来な。時間を分けて別途で授業が受けれっから」

 学部は入学式の際アレスが説明してくれていた。アルバートもそれは察していたようで、されたのは簡単な説明だけだった。戦闘魔法学はその名の通り戦闘で役に立つ魔法……攻撃魔法などの授業が受けられるものだ。

 補助魔法学も似たようなもので、こちらは戦闘でも使えるがそちらが主体ではなく、日常生活などで便利な魔法や、戦闘での補助に使える魔法……要は治癒魔法や身体強化魔法などの授業が受けられるという。これら二種類は授業を取る者がほとんどだろう。


 次に魔導具学だが、これはアルバートによれば戦闘技術がない者や、魔法が苦手な者がよく取る授業だという。魔導具について研究し、自分で作り出す技術を学びたい。そんな者達が集う学部だ。確かにアルバートの言う通り、ここにはそんな変わり者はあまりいないように思えた。この世の中、魔法が全く使えない者は少なく、そういった者も魔法を使わなくて済む近接戦闘を磨く者が多い。シトラスなどがいい例だ。

 研究会に魔導具研究会なるものがあるらしく、魔導具を主体とした研究や実験をしている変わり者集団が存在するらしい。授業を取らずとも、そっちに入部すれば良いんじゃねぇか? とアルバートは言っていた。どうやらあまり学園側は魔導具の授業には重きを置いていないようだ。


 重きを置いているのは魔法学や冒険学の方だろう。冒険学は冒険者になるために必要な基礎知識から戦闘技術、野営や依頼でのやり取り、冒険者同士でのルールなどを教えてくれる。

 魔法が使えない者や苦手な者も、冒険学を取っていれば冒険者についての知識以外にも剣術や槍術、弓術から格闘術など、様々な技術を教わることが出来るのだ。ギルドマスターがこの学園に将来有望に思った若い者を推薦で入学させるのはこれが理由だろう。知識や技術を学べれば、無駄死にが少なくなる。冒険者時代である現在ならば、当然ともいえる考えだ。


 在学期間は一年から三年。何故幅があるのかというと、約半年に一度来るという試験で成績が良かった場合、知識や技術が十分とみなされ、卒業までの期間が縮まるのだそうだ。十分な実力を持っている者をここで留まらせておかないためのシステムだろう。実力があるのならば、あと必要なのは経験だけなのだから。



「先生、質問があるっス!」

 アルバートが説明に区切りをつけた辺りで、一人の男子生徒が手を上げる。アルバートは喋り終えた後に丁寧に挙手した生徒に感心した様子で、その生徒を当てる。


「なんだ、言ってみろ」

「うす! この学園には4つの寮がありますけど、さっき古竜寮の先輩達とすれ違った時、通りすがりざまに見下すような発言をされたっス。いくら貴族が多いって言っても、なんでそんな格差があるんスか? 俺納得いかねぇっスよ!」

 その生徒は、先程古竜寮の先輩に見下されたことを気にしているようだった。それを聞いた他の生徒達も何人かが同意していた。地位の差はわかるが、だからといって馬鹿にされたままで平気な顔をしていられるような性格ではないのだ。


「ンだよ……そんなことか。古竜寮と魔狼寮は上位クラスって言ってな。上級貴族が集まるクラスだからそう言われてる。別に学園側が特別贔屓してるわけじゃねェが、でかい顔してんのは事実だな。ま、実際権威がデケェのは本当のことなんだがな。

 ……で、俺たち精霊寮や聖獣寮は下位クラスって呼ばれてんだ。下級貴族や平民が多く集まるからな。実力や才能はそりゃあ血が高潔な上位クラスのほうが上だ。いつも結果を出せず負けてばかりの下位クラスの俺等を見下すのは当然だろ。んで、古竜と魔狼がライバルって言われてんのは、上位同士はそこまで実力や結果に差がねぇからだな」

 アルバートは卑屈にもそう説明する。本人はうんざりといった様子だったが、そういう仕組みが学園にはすでに出来てしまっていて、教師であるアルバートもどうにもならないことらしい。

 学園長に言えば……という意見も出たが、アレスは何やら考えがあるのか、それとも気づいていないのか、この状況に対して何も手出しをしないらしい。剣聖、英雄とまで謳われた元SS級の学園長が気づいていないはずもないため、アルバートは何か考えがあるのだろうとその意見は無駄という話で終わった。


「先生、良いですか。……先生はどう思うんですか? 私はこの現状に納得行きません。貴族が優遇され、平民である私達を足蹴にするような現状に。学園……いや、この世の中、理不尽すぎると思いませんか? 私は貴族に見下されたままではいたくない……!」

 アルバートが上位クラス、下位クラスについての事情を話すと、テティスが手を上げ、意見を述べる。彼女は貴族が平民を見下すことをとことん気にしている様子だ。もしかすれば、彼女は過去に貴族と何かあったのかもしれない。

 しかし、貴族が偉く、平民には力がないというのは世界の理。どうやっても捻じ曲げられない現実なのだ。才能の差というものは、ほとんどが血統で優劣が決まる。平民が貴族に文句を言っても何も解決しない、力の差があるため抵抗も出来ないのだ。


「お前が貴族に対して何を考えてるのかは知らんが、俺は面倒事が嫌いだ。俺が生徒なら、余計なことはせずに平穏な日々を望むさ。……てか、一応下級とはいえ貴族の俺に訊くもんか、それ?」

「いえ、私は……! はぁ……なんでもありません」

 アルバートは男爵家の生まれ。テティスが貴族を不快に思うのならば、どう考えても聞く相手を間違えているというものである。しかし、テティスが言いたいのはそういうことではないらしく、腑に落ちない表情のまま席に座る。


「――ただ、俺は面倒事は嫌いだが、ちと負けず嫌いでな。貴族だかなんだか知らねェが、ナメた態度を取るやつには必ず仕返しする。……テティス。俺は余計なことはせずにとは言ったが、それァ俺の話だ。別に、何もするなとは言ってねぇ」

「……!」

 少し暗い表情になってしまったテティスに対し、アルバートは悪そうな笑みを浮かべて告げる。即ち、やられたらやり返せ、負けたままではいるな。ということである。アルバートは別に止めるつもりもないようだ。それを聞いたテティスは顔を上げる。

 そしてアルバートは生徒全員に対し、大きな声で言い放つ。


「一つここらで寮毎に掲げてるスローガンを教えてやる!」

 そう言ってアルバートは各寮のスローガンの説明を始める。古竜寮は『気高くあれ。常に上を目指し、下を見ることなかれ』。伝説の生き物とされる古竜の気高さを表し、竜としての強さを体現するかのようにトップに君臨する。古竜寮の名に恥じないスローガンだ。

 次に魔狼寮。魔狼のスローガンは『強くあれ。何事にも負けることなかれ』。シンプルながら、フェンリルの強さを表し、縄張りを守る際の負けん気を体現するかのようなスローガン。魔狼寮というだけあって、シンプルながら強気なものだった。

 そして聖獣寮。聖獣寮は『心あれ。慈悲を持たらば、見捨てることなかれ』。どんな傷も癒やすと言われるユニコーンの慈悲深さを体現し、貴族としての振る舞いに重きを置く聖獣寮にはピッタリと言えるスローガン。


「最後に精霊寮だが……『自由であれ。精霊とは自由なもの也。振り回されることなかれ』。それがここ精霊寮のスローガンだ。お前らはこの学園にいる間、自由に生きろ。好きなことをしろ。貴族如きに振り回されるな。やりたいことをしろ。それが精霊寮の"在り方"だ」

「「「「はい!!!」」」」

 各寮のスローガンについて説明しながら、アルバートは精霊寮の在り方を教えてくれた。アルバートの言葉を聞いた生徒たちは理解し、強く返事をする。――自由に。それは寮で見た先輩達を見て思ったことだ。

 そして貴族に振り回されるなというアルバートの言葉。テティスの事情は知らないが、彼は彼でそんな彼女の背中を不器用ながらに押したのだろう。本人にその意図があるかは分からないが、テティスはその言葉で少し前向きな気持ちになったようだった。


(そっか、破茶滅茶に見えた先輩達はこの言葉を体現してたんだ。……それにしても自由すぎる気もするけど……常識に囚われない自由さがこの寮の取り柄ってことなのかな?)

 ルナは寮の案内の際に見た、寮の荒れ様や先輩達のフリーダムすぎる格好や態度を思い返すが、それもこの言葉が理由なのだと思い知る。如何せん自由すぎてアレスからも問題児扱いされているようではあるが……きっとそれが良いところでもあるのだろう。

 アルバートの自由奔放さも、この精霊寮のスローガンを聞けば何となく納得が出来る。ルナは自覚していないが、ルナ自体もかなり自由な性格故、精霊寮に来たのは運命だったのかもしれない。


 そうして授業と称した説明会は終わり、アルバートは『研究会を見て回ってこい』とだけ言い残し、今日のところはそこで解散とした。

 本格的な授業は恐らく明日から……だろう。気まぐれで授業を見てやると言っていたアルバートの気分次第ではあるが……。気が向いてくれることを祈るしかない。



「テティス……だったか? お前の昨日の先輩に対する態度は俺も感心したぜ!」

「さっきの言葉! 私も同意よ! 上位クラスなんかに負けてられないわ!」

「え、えぇ。ありがとうございます……?」

 先生が教室を去った後、テティスは古竜寮や魔狼寮に対し、終始強気な姿勢ということを称賛され、同じように思っていた生徒達に囲まれていた。急に詰め寄られたテティスは少し困惑していたが。

 早くもクラス内では気が合うグループや、仲間意識が芽生えているグループが出来始めたようだった。……特に、上位クラスに負けないという気持ちの面で。


_


 「テティスちゃんは向上心が凄いんだなぁ~! 皆あっという間に惹き込まれて、クラスの雰囲気がよしやるぞ! って感じになった気がするし!」

 ルナはニーシャ、イズ達とは別れ、一人で1階の廊下を歩きながら呟いていた。確かにテティスの影響で、釣られるように皆沸き上がり、やる気を出していた。彼女のカリスマ性によるものなのか、それは分からないが……。

 何はともあれ、クラスが一致団結して仲良くなれるのならばルナはそれでいいと考えていた。入学早々、クラスが下剋上目指して盛り上がるのはどうなのか……という感じもするが……。

 そんなことを考えながら歩いていると、ルナは目的の教室まで辿り着く。


「研究会……愛好会……同好会……ズラッと並んでるなぁ……」

 ルナはアルバートに言われた通り、数多ある研究会を見学するため、1階の別棟にまでやってきていた。他にも見学しようと教室を見回っている生徒もいるが、大体が気になったところに次々とはいっていくため、ルナのようにのんびり見回っている者はいないようだ。

 ニーシャやイズも誘ってみたのだが、『もう無理……寮に帰る……久々だよ、ここまで起きていたのは。褒めてくれ、私を』と寮に戻っていくニーシャ。『ごっめーん! 研究会とかも気になるけど、やっぱ私は広報委員会って決めてるからさー!!』と走って行ってしまったイズ。こんな感じでルナの研究会巡りは共に巡る相手がおらず、こうして一人で回っているというわけだ。


 ルナがまず足を踏み入れたのは、『遺跡研究会』と書かれた教室。そこから奥までは、ずらっと同じような教室が並んでいる。中に入るとそこには3人の先輩がホワイトボードに貼られた地図を見て難しい顔をしていた。


「だから、ここの遺跡はもう完全に探索し尽くしただろう! なんだってもう一度行きたいなんて……」

「いや! 間違いなくおかしいんすよ! まだ完全には探索出来てない場所があるんじゃねえかって思ってて……!」

「まさか、隠し通路か? それならあり得るかもな。前回特に収穫がなかったのも、それが理由なら筋が通る」

 ドアを小さく開けて、顔だけ覗かせたルナが聞いたのはそんな会話だった。遺跡研究会……ホワイトボードに貼られているあれは遺跡の場所が記された地図だろうか?

 何か色々と揉めているようだが、ルナが来た理由は研究会の見学のためだ。ルナは恐る恐る声をかける。


「あのー……見学に来たんですけど……ここって何するとこなんですか?」

「ん? あぁそうか、もうそんな時期だよな。すまない! ここは遺跡研究会。名前の通り、各地に眠る遺跡を見つけ、探索するのが目的だ!」

 ルナが声をかけると、真ん中に立っていたリーダーっぽい雰囲気の男生徒が説明してくれた。

 遺跡研究会は各地の遺跡を巡り、遺跡に眠る財宝や、古文書などの発掘を目的としているらしい。中にはとんでもないお宝もあるそうで、それが見つかれば一躍大物……というまぁなんとも欲深い研究会だそうだ。

 基本的にはメンバー総出で外に出る活動のため、今のところは予定がないらしく、また今度来てくれ! と申し訳無さそうに言われてしまった。そういうことなら仕方ない、またいつか来ようと思い、ルナは遺跡研究会を後にした。ちょっと面白そうだし。


 そこから何件もの教室を回り、『生物愛好会』……『筋肉愛好会』……『魔物研究会』と、色々と見学して回ったが、どれも少し面白そうとは思ったがあまりピンと来ず。

 普通は名前から興味がある場所に入っていくため、ルナのように片っ端から見学しにいく生徒はいない。そのためあまりピンと来ないものも多いのだろう。

 そんなルナが次の教室に向かうため廊下を歩いていると、とある教室の前で右往左往している見覚えのある少女の姿があった。ブロンドの長い金髪に、肩に小さな白い狼を乗せた気の強そうな少女……。


「……マナちゃん? そこでなにを……?」

 そう、そこにいたのはなんとマナであった。初日はそのまま寮で過ごしたため、会うのは入学式の朝以来だが、なんだか久々に見たような気がする。


「あ、ルナ!? ……いや、実はここに入るか悩んでて……」

 そう言って視線を向ける教室の入り口には『神話研究会』と書かれていた。神話研究会……巡ってきた中で色々なものがあったが、どうやらそんなものまであるらしい。


(ああ、なるほど……)

 教室の名前を見て、ルナはなぜマナが悩んでいるのか全てを理解する。マナは生粋の神話オタクだ。寝る前ににわざわざ夜咄(よばなし)をしてくれるほどに。だからこそここに辿り着き、悩んでいたのだろう。


「私は片っ端から見て回ってるんだけど、ここも見学するつもりだから一緒に入る?」

「ほんと? じゃあ、そうしようかしら……」

 ルナが提案すると、マナはホッとしたような様子でルナの言葉に甘えることにする。誰かに背中を押してもらいたかったのか、それともきっかけが欲しかったのか……。

 ルナにはマナが何をそんなに悩んでいるのか分からなかったが、まだ学園に入ったばかりで分からないことや不安なことも多いのだろう。それはルナも同じだったが、性格的にあまりそういったことを気にするタイプではないので例外である。

 そうしてマナは意を決して神話研究会の扉を開け、二人は教室へと入っていくのだった――。


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