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天才と脳筋は紙一重  作者: たんすちゃん
《第三章》-王立学園編-
48/100

48.精霊寮!

(それで精霊寮に来たわけだけど……)

 散らかった廊下……割れた窓……開けっ放しの寮部屋のドア……穴の空いた床……落書きされた壁……そして、歩いてくる精霊寮に入ることとなった新入生たちを見つめる上級生の先輩達。

 先輩達の背格好は刈り上げやサングラス、マントや制服に装飾をつけたり勝手に破いたりして魔改造したものを着ている者など……まさに自由。いや、自由すぎた。これではただの不良である。


(直感に頼った結果間違えたかも……)

 あまりの荒れように、ルナは思わず選択を間違えた気さえしていた。如何せん他の寮との差が激しすぎる。とても貴族が通う学園には見えなかった。



 キャティアによって精霊寮(スピリット)に選ばれたルナ達新入生は、精霊寮の担当教師に連れられるがまま、寮内を案内されていた。今頃、マナ達も同じように自分が選ばれた寮を案内されている頃だろう。きっと自分が今見ている光景とは全く違う綺麗で整った寮を。


(寮の中荒れすぎだし! 先輩達も服装がフリーダムすぎるし……! なにあれ、バラ咥えてる人いるけど!?)

 まるでスラム街のような精霊寮を目の当たりにし、今からでもいい、寮を変えたい……という気持ちが早くもほんのり湧いてきてしまったルナ。しかしもはや言っても仕方ないことである。


「はぁ……寮と言っても特に言うことはないよなァ。ただお前たちが暮らしていくだけの場だ。なんか少し散らかってッけどよォ……」

 ため息混じりに気怠げな説明をするボサボサで煤けた赤茶色の髪の男性。彼こそが精霊寮の担当教師、アルバート・ソーンワットだ。といっても、説明という説明は大してしていないのだが……。

 そして彼自身、この荒れまくった寮を見ても『少し散らかっている』程度の認識らしい。手入れのしていなさそうなボサボサヘアーの彼が言うと、何故か納得してしまう。


(寮は荒れてるし先生もやる気なさそうだし先輩は色々と凄いし、大丈夫かな……この寮……)

 入学早々に荒れ果てた寮と教師、そして先輩たちを見て幸先不安になるルナ。いや、ルナだけでなく、アルバートの後ろをついていた他の新入生たちも同じことを考えていた。


((((大丈夫かな……この寮……))))


_


「はぁ……ここから先がお前たち1年の寮スペースだ。部屋は相部屋で定員二人まで。一階が男子寮、二階が女子寮になってッからくれぐれも間違いは起こすんじゃねェぞ~。ふぁぁ……俺は戻る……後は好きにやってくれ。じゃあな~……」

 上級生達の寮とは少し距離を置いて、一年の寮舎まで辿り着いたルナ達。マナの予想通り部屋は二人部屋の相部屋らしい。アルバートは寮についての説明だけ簡単に済ますと、あとは生徒に丸投げで、大きなあくびをしながら手を振って中央校舎まで戻っていこうとする。

 ……が、突然丸投げされた生徒達はそれを必死で止める。当然だ。右も左も分からない状況で勝手に職務を放棄されては困るというものだ。この先生、怠惰にも程がある。


「ちょっと先生!? 俺たちまだどの部屋に行けば良いかもわかんねぇっスよ!」

「せめて全生徒の部屋ぐらい案内してから行ってよ! そういうのもう決まってるんじゃないの!?」

「あァ!? うるせェな離れやがれ! 俺は面倒くせェのは嫌いなんだよ!」

 歩いていこうとしたところを新入生達に総出で羽交い締めにされたアルバートは、声を荒らげて必死に抵抗する。それほどまでに職務を放棄したいのか……。しかし人数の差は圧倒的で、生徒たちも育ち盛りで力が強い。1対40の戦力差には先生といえど敵わず、先生は中々振りほどけないでいた。


「おいアングス! てめェ見てねェでこっち来い!」

「えぇ? 僕ですか~? しょうがないですねぇ……」

 膠着状態となったアルバートは、それを後方から楽しそうに眺めていた三年生である青髪の青年に声をかける。アングスと呼ばれた青年はアルバートに呼ばれると、こちらに歩いてきて場を仕切り始める。


「はいはい! 新入生くん達! 先生をいじめるのはそこらへんにしてあげてね! 代わりに僕が案内してあげるからさ! ほら先生、部屋割表持ってるんでしょ? 渡して下さい?」

「……ほらよ」

 アングスが生徒たちを宥めると、ようやく解放されたアルバートから部屋割の表を受け取り、生徒達を案内し始める。アルバートは事が済んだので、あとは上級生に任せて一人中央校舎へと戻って行ってしまった。自由すぎる先生である……。



「いや君たち凄いねぇ! アルバート先生って()()()()だから、新入生はいつもおどおどしちゃって右往左往するんだけど、よく引き止めたね! あ、僕の名前はアングス・スタン! 精霊寮の三年生だよ、よろしくね?」

「「「「よろしくお願いします!!」」」」

 ピースを作ってチョキチョキと挟む仕草をして挨拶するアングス。アングスはアルバートに対して中々辛辣な態度……いや、無理もないか。恐らく他の上級生もあの先生に対してはこんなものだろう。

 自己紹介を終えたアングスは一階の男子寮の部屋割を指示し、男子達が寮の部屋に私物を置いたり部屋を確認している間に、そのままルナ達女子生徒を連れ、二階の女子寮を案内してくれた。


「こういった建前でもないと女子寮ってお目にかかれないから、僕ってば役得だよねぇ~?」

「セクハラですか? やめてください」

「先輩といえど発言には気をつけて下さいね?」

 アングスは女子寮の案内……という建前で、普段は男子禁制である女子寮に入れることをひけらかすように呟くが、何名かの女子生徒からのキツい言葉が飛んできて、すぐにそのニヤけた面を引っ込める。冗談でも不快に思う者もいるということである。


「じょ、冗談冗談……! さ、ここが君たちの寮だよ。えーっと部屋割は……」

 話を逸らすように切り上げたアングスは、女子寮の部屋がずらりと並ぶ廊下に着いたため、先程アルバートから渡された部屋割の資料を確認する。

 部屋の番号は手前から、男子寮が1-Aから1-J。女子寮は2-Aから2-Jまであり、アングスは2-Aの部屋の女子生徒から名前を呼んでいく。そうして次々と部屋が確定していき、呼ばれたルナの部屋は2-F。またしてもやや後ろのほうである。後半の順番に何か縁でもあるのだろうか。



「2-F……ここか! たのもーっ!!」

 言われた通り、2-Fと書かれた部屋の前まで来たルナはいつもの掛け声で元気よく挨拶してドアを開ける。


「あうっ!?」

 勢いよく扉を開け、そのまま入ろうとすると、ルナの背中に背負っていたレーヴァテインが大きな音を立ててつっかえる。寮部屋の入り口は狭いのだ。今までは平気だったが、これからは気を使って入らねばならない。

 そっとレーヴァテインを下ろし、大事に抱えたまま慎重に部屋に入るルナ。なにせルナにとって初めての寮部屋である。緊張するのは当然だった。

 部屋の中にはシングルベッドが少し距離を開けて右と左の壁際に一つずつ設置されており、部屋の両隅には一つずつクローゼットと小さめの箪笥、そして小さめの机が置いてあった。大体8か9畳といったところか。しっかりと均等に二人分の家具があり、スペースも二人分できっちり分けられていた。きっと部屋のレイアウトをした者はかなりの几帳面なのだろう。


「おーっ、思ったより広い! ここがこれから私が暫く住む部屋!」

 部屋は二人部屋とだけあって、ルナが想像していたよりもずっと広かった。体が小さいルナにとってはそう感じるだけかもしれないが。

 それと、当然だがここは一人用の部屋ではない。ルナ以外にももう一人、衣・食・住を共にする相方がいるのだ。部屋が狭くては困るというものだ。尤も、そのもう一人はまだ来ていないようだったが……。


「もう一人はいないのかな? まぁいいか! そのうち会えるよね! ……えーっと、右は日当たり良さそうだし、私は左側にしようかな?」

 ルナはルームメイトがまだ到着していないことを気にしつつ、右と左どちらの生活スペースを取るかを考える。何となくではあるが、まだ来ていない将来の友人であるルームメイトを想って、あえて日当たりの悪い方を選ぶ。優しい少女である。

 異次元ポーチのおかげでわざわざ荷物を手で持つ必要がないルナは、特に持ってきたものなどないが、自分のスペースにするということで、宿屋から持ってきていたトリアの街の大会を優勝した時に貰ったトロフィーを左側の机に飾っておいた。何も置かないのも殺風景でアレなので。


「これでよしっ……! じゃあ戻ろーっと!」

 記念品である金のトロフィーを飾ったルナは、アングスに寮を案内される際、『自分の部屋の確認、及び荷解きが終わったらここに戻っておいで!次は校舎の案内をするから!』と言われていたため、部屋を後にする。


_


「よーし、皆戻ってきたね! さぁ行こうか! 中央校舎へ!」

 ルナが先輩の元へ戻ると、すぐに他の生徒も帰ってきた。荷解きと言っても、今日は入学式と校舎の説明くらいなもので、大荷物を持ってきている生徒は少なかった。寮部屋には後日、改めて荷物を増やしていけばいいのだ。そのため生徒のほとんどが部屋の確認程度で済み、ルナと同じようにすぐ戻ってきたのである。


 一年生達はアングスに連れられ、中央校舎へとやってきた。中央校舎は3階建てで、1階の本棟には教師達の執務室、学園長室、医務室、生徒会室、事務室、そして最後にルナ達の寮を決めたあの大聖堂があり、別棟には研究会や同好会などが借りている教室がある。そして2階から3階までは寮毎の広い教室が設置されている。

 相変わらず先生はいないままだが、一同が歩いていると廊下の向かい側から生徒の集団が歩いてくる。全員知らない顔――恐らく上級生だろう。着ている制服には古竜寮のエンブレムが施されている。


「チッ……下賤な平民共がウロウロと――」

 すれ違う瞬間、誰が呟いたともつかない言葉を吐き捨てていく古竜寮の生徒。何人かの生徒がぎょっとした様子で振り返るが、古竜寮の生徒たちは気にした素振りもせずにそのまま歩いていってしまう。


(何今の……嫌な感じー……)


「何よあの態度! 地位の高い貴族だからっていい気になっちゃってさ!」

「全くだ! 親の七光りのくせして調子に乗りやがってよ! 腹が立つぜ!」

 ルナが今の古竜寮生達の態度に不快感を感じていると、他の精霊寮生も同じように思っていたのか、古竜寮生の姿が見えなくなると次々と文句を言い始める。精霊寮の生徒は多くが平民や男爵家の地位が低い者達で構成されている。しかし古竜寮は対照的に、公爵家から侯爵家、一番低くとも伯爵家の位の者で構成されているのだ。地位の差、育ちの差で見下してくる者もいるだろう。


「あー……ごめんね。精霊寮に選ばれた以上、ああいった態度には慣れてくれると助かるよ。なにせ、僕たち精霊寮の生徒は皆地位も成績も低いからね。ああやって他の寮には馬鹿にされてしまうんだ」

 アングスは古竜寮生が現れてからというもの、浮かない顔をしていたが、その理由はこういうことらしい。見下されるのをわかりきった上で看過しているのだ。


「……どうして言われたままで何もしないのですか? 貴方は三年生でしょう? ずっとそうして学園で過ごしてきたのですか?」

 アングスの言葉を聞いて、一人の水色髪の女子生徒が尋ねる。中々冷たく鋭い意見だが、言っていることは尤もだった。それに対し、アングスは痛いところを突かれたような苦い顔で答える。


「そう言われると耳が痛いけど、そうするしかないんだ。僕たち弱小寮は、古竜寮や魔狼寮――上位クラスには逆らえない。何をされるかわかったものじゃないからね。伯爵家以上の貴族が集っている寮に歯向かえば、その権力ですぐに僕たち平民や弱小貴族なんて捻り潰せる。

 聖獣寮の生徒たちは我関せずで傍観をしているから、そういった心配はないんだけどね。まぁ要するに……怖がっているのさ、精霊寮はね」

 自嘲気味に答える先輩。その顔はどこか諦観しているような表情で、精霊寮の肩身が狭い状況を受け入れてしまっている様子だった。

 この学園には上位クラスと下位クラスが存在し、名門貴族などが集まる古竜寮(リンドヴルム)、そして伯爵家以上の上級貴族が集まる魔狼寮(フェンリル)が上位クラス。中級貴族が集まる聖獣寮(ユニコーン)と、下級貴族や平民が集まる精霊寮(スピリット)はどちらも下位クラスである。

 貴族としての階級の差。それ即ち権威、力の差を表していた。逆らえばその力で立場的に不利なのはこちらなのだ。故に、逆らえない。


「それは逃げているだけです。平民が、男爵家が、上級貴族に勝てないなどと誰が決めたのですか? ――そんなことで私は諦めたりしない……!」

「………」

 水色髪の少女は、精霊寮の事情を聞いても尚諦める素振りは見せず、むしろ気を強く持ち直したようだった。そんな彼女に、アングスはぐうの音も出ない様子だった。――逃げている。ズバリ図星だったのだろう。


 この学園の内部事情に触れ、少し空気が重くなったが、教室に到着したアングスは気を取り直して案内の役目をきっちり果たす。

 1階は学園の事務的な執務室などや委員会や研究会などの教室が主で、そこから上が各寮の教室となっている。2階は古竜寮(リンドヴルム)と向かいの棟に魔狼寮(フェンリル)の教室。3階は聖獣寮(ユニコーン)と向かいの棟に精霊寮(スピリット)の教室がある。

 順に1階から巡って各寮の教室を案内されたルナ達は、精霊寮の教室へとやってきていた。今後自分たちが使うことになる教室だ。しっかりと場所は覚えておかねばならないだろう。


「おーっ……! でかい! 広い! 大きいー!」

「あはは、それ全部同じ意味じゃないかい?」

 ルナは教室の大きさに感動して言葉を漏らすが、同じ意味の言葉しか言っていないルナはアングスにツッコまれる。

 教室は3、4人が座れそうなサイズの長机が横に3つ並んだ列が、縦に6つ。ここにいる40人の生徒が全員席についてもスペースが余るほど広く、正直なところ無駄にも思えた。


「ここが君たち一年生の教室。この棟には他にも少し離れたところに二年生と三年生の教室もある。全く同じ形のね。明日からは毎朝ここに来るんだよ? 授業の時間割は教室にもあるけど、1階の広報掲示板にも各寮ごとに貼ってあるから後で確認しておくといいよ」

 アングスによれば、教室は寮生共有ではなく、ここ以外にも高学年の先輩達の教室も別であるという。まぁ、少し考えれば当然か。これだけの生徒の数、教室が一つでは時間が合わなくなってしまう。それは他の寮も同じで、各寮の棟ごとに全学年の教室があるそうだ。

 先輩は各校舎の案内を終え、棟の教室や時間割についてのことも説明し終わると、自分達が明日からするべきことだけ告げて、役目を終えて自分の寮部屋へと戻っていった。


「「「「ありがとうございました!」」」」

 声を揃えて感謝の言葉を伝える生徒一同。今日は入学式と同時に先輩たちの進級日でもあるのだ。先輩にだって色々とやることがあるはずなのに、わざわざ先生の怠惰のために説明を請け負ってくれたアングスには感謝しかなかった。


 そして精霊寮の生徒一同は教室や時間割の確認も終え、その場で現地解散となった。これから学園の敷地内である寮で暮らしていくのだ。門限はあれど、問題を起こさなければ自由に学内を歩いて回って問題ないのである。

 生徒達はそれぞれ校舎内を巡るなり寮へ戻るなりして、次第に別れていった。他の皆は解散してしまったので、ルナも同じように一旦寮に戻ることにし、中央校舎を後にする。


_

_

_


「今頃マナちゃん達はどんな感じかな~? 私より上の寮だから、()()()みたいなことはないと思うけど……」

 寮舎についたルナは廊下を歩きながら他の三人のことを気にかける。先程の見下すような発言、被害は精霊寮だけでマナ達にも起きていなければ良いのだが……。

 そして自分の寮部屋である2-Fに着いたルナは、そっと扉を開ける。今度はレーヴァテインがぶつからないよう最初から気をつけながら部屋に入る。


「あれ……?」

 するとルナは入り口付近ですぐに違和感に気づく。先程部屋を出る前に左側の机に置いたはずの金のトロフィー。それが右側の机に置かれていたのだ。


「勘違いじゃない……よね? 確かに左に置いた気がするんだけど……」

 一瞬自分が忘れているだけかとも思ったが、こんな短い間に忘れるはずもない。確かに日当たりの悪い左側の机に置いたはずだ。それが今は日が当たっている右側の机にあるではないか。

 そしてルナは入り口からさらに深く部屋に入ると、さらに違和感に気づく。入って左側のベッド。そこにさっきはなかったはずの灰色の毛布。そしてその毛布が大きく盛り上がっていた。それはもうガッツリと。


(おぉぉ……なんかいる……)

 十中八九、何かいる。自分以外の誰かがあのベッドの中に。そう思い、恐る恐るもっこりと膨らんだ毛布に近寄ると、その毛布はニュッ! と丸まったまま起き上がり、こちらを向く。


「……私と同室の生徒かい? 君が?」

 ルナの方に向いた毛布は、まるで赤子が生まれるかのように包まれていた部分から頭をひょっこりと出す。出てきたのは毛布と同じ灰色の髪で、目に隈が出来ているどこかやつれた感じの可愛らしい少女だった。


「………」

「………」

 数十秒もの間、見つめ合ったまま沈黙が流れる。ミノムシのような格好で隈ができた窶れ顔の少女と、身体と釣り合っていないバカでかい大剣を背負った間の抜けた顔の少女……。2-F部屋内は恐らく今、精霊寮の中で一番奇妙な絵面だと言えるだろう。


「……とりあえず、出てきてちゃんと挨拶しない?」


………


 毛布から出てきて、互いのベッドに座って向かい合った二人の少女は改めて自己紹介を行っていた。


「私はルナ・アイギス。平民でD級冒険者をやってるよ! ……それで、一応物置いてたんだけど、どうして移動させちゃったの? 私は別に良いんだけど……そっち日当たり悪いよ?」

「平民の死霊術士。D級冒険者。名前はニーシャ・アナスタシア。……私は嫌いなんだ、陽の光が。出来るだけ当たりたくない……日光には。だから移動させてもらったんだ、勝手にね……」

 お互い名乗りを終え、事情を話す。ニーシャの外見は灰色の髪をツインテールにした可愛らしい顔の少女。歳は同年代だろうか?目に隈がなければもっと可愛い顔だろう。隈とやつれた顔のせいか、日陰を好むのも何となく納得出来た。

 生活スペースを勝手に入れ替えたことは良しとし、とりあえず日当たりの悪い左側はニーシャ、日当たりの良い右側のスペースはルナが使うことになった。ルナなりに気を使ってのことだったのだが、あいにくパートナーがこんな様子だったのでは仕方がない。


「死霊術士……って?」

 そして話題は変わり、ニーシャの自己紹介で死霊術士という部分が気になったルナが訊ねる。


「知らないのか? まぁあまり出てこないからね、表の話題には。そうだね……簡単にいえば、召喚術士の対極の存在……かな」

 ニーシャは独特な喋り方で説明をする。死霊術士がどうして召喚術士の対極の存在なのか。それは属性の違いにあった。召喚術士の使う召喚魔法は、光属性の魔法によるものだ。それに対し死霊術士の使う死霊魔法は闇属性の魔法。光と闇……相反する属性の魔法同士の召喚術。故に対極なのだ。

 どちらも似たようで異なる魔法のため、死霊を召喚する魔法とはいっても召喚魔法とは一概には言えない。尤も、それは感覚的な話なのだが。本人達にしか分からないことである。


「明日からだろう? 授業は。……もう寝るよ、私は。嫌いだからね、昼間は。陽の光が強いから……」

 そう言ってベッドに潜ってしまったニーシャ。まだ昼過ぎだというのに彼女はもう寝てしまうらしい。主な活動時期は夜なのだろう。気にしていなかったが、ちゃんと校舎の案内は聞いたのだろうか? ……少し心配だが、ルナが付いていれば大丈夫だろう。ルームメイトは手を取り合って協力するものだ。マナも相部屋になった子とは仲良く、と言っていたし。


「これからよろしくね、ニーシャちゃん!」

「んー……。良い……ニーシャで」

 布団に潜った彼女に挨拶だけすると、ルナは部屋を出て学内を散策しに向かうのだった。


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