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天才と脳筋は紙一重  作者: たんすちゃん
《第三章》-王立学園編-
47/100

47.組分け猫

 新入生一同は、肩にキャティアを乗せたアレスに連れられるがまま再度場所を移し、中央に位置し、最も大きい校舎である本校舎。その中にある大聖堂へとやってきていた。新入生たちの寮の組分けを決めるためである。

 王都デュランダルではアーレス学園の寮分けは神聖なものとされており、これからの未来を紡いでいく生徒たちを祝福するため、王国の聖教会が後押ししたのもあって寮分けは毎年校内に設置された大聖堂で行われるのだ。


「さ……。後は頼んだよ。我らが神聖なる組分け猫――キャティア」

 生徒たちが全員席につくと、最前列の教卓に立ったアレスは、もう一人の教師であるキャティアをそっと肩から下ろし、彼女を残して数歩後ろへ下がる。

 ここからの指揮はアレスではなく彼女が執る。生徒の寮決めは毎年こうして、『祝福されし生を受けた猫』キャティアが務めるのだ。これは聖教会からも王国からも認められていることで、たとえ学園長のアレスであっても口出し出来るようなことではない。


「ワタシはキャティア! これからお前らの寮をワタシが決めるにゃ。ありがたく思え! 試験と違って、ややこしいことはにゃいにゃ。ただ指名された生徒から一人ずつ前に出てワタシの前に立つだけにゃ~」

 白と黒を縦に割ったハーフカラーの猫キャティアは教卓の上に立つと、尊大な態度でこれから行う組分けの説明を始める。場所が大聖堂というのも相まって、儀式のようにも思える。ただ、儀式といっても難しいことはなく、ただ呼ばれたら彼女の前に立つだけ。たったそれだけのシンプルなものだった。


「あの猫ちゃんが教師なんですの? 信じられないですわ!」

「猫なんかが俺たちの学園生活を左右するだろう組分けをすんのか? 不安しかないぜ」

「喋る猫なんてペットにしたら他の貴族に自慢できそうね! 是非ウチに欲しいわ……!」

 しかし、一部の生徒は試験の時から思っていたのか、ただの猫にしか見えないキャティアが自分たちの寮を決めるなどという重要な役割を担うことに対してやや懐疑的な顔をしている者も少なくはなかった。


「聖教会に拾われたワタシは、猫の身にゃがら生まれた時から人語を理解し、魔法の才能に恵まれた稀有にゃ存在……。そんにゃワタシが持っていた特別にゃ力。――固有魔力。それは血筋が繋がっていようとも、一個人……一世代でしか発現しにゃいと言われる特別にゃ魔力。

 他国ではそれにゃりに持って生まれる子もいるみたいにゃけど……デュランダルではとても稀にゃ。その力は普通の魔力じゃ到底不可能にゃことを可能にする偉大にゃ魔力と言われているにゃ」

 キャティアは小さく不満を溢す生徒たちのことなど気にした様子もなく、身の上話をし始める。固有魔力を持った者はアロンダイト帝国……基、カリバーン王国では稀に現れるとアーサーが言っていたが、デュランダル王国では稀のさらに稀。滅多に現れることはない。

 だがキャティアは人ですらないというのにも関わらず、魔法の才があり、魔力を持ち、さらに人語まで理解し、果てには固有魔力を持つという、文字通り『神に祝福された猫』なのだ。


「……そしてワタシの固有魔力は『対象の秘めたる才能を見通す力』。戦闘能力は皆無だけど、他人の力の底を見れるような魔力、この国……いや、この世界中探しても全く同じ魔力は存在しにゃい。固有魔力は似たものこそあれど、同じ力はにゃいからにゃ……。

 そこでワタシは聖教会から王国へ身柄を渡され、王国から王都へ、そしてこの学園へと来たにゃ。学園の寮を決める大事な役割を担う組分け猫として……。この魔力は後世の育成にはうってつけの力だからにゃ……」

 キャティアの固有魔力はかなり特殊なものらしく、自分には効果がないが他人の才能を見ることが出来るという、普通の魔法では絶対に不可能な力だという。ルナ達がアロンダイト帝国で出会ったトリスタンも固有魔力を持っていたが、あれとは全く違う魔力だ。

 そんな稀な能力を持って生まれたこともあり、聖教会と呼ばれる団体に引き取られた彼女は色々と壮絶な人生を送ってきたのだろう。そしてそれを経て、彼女は今ここにいるのだ。


(へー……固有魔力ってデュランダル王国だとほんとに稀なんだ……。じゃあキャティア先生ってかなり凄い……人? なんだなぁ……。それにしても固有魔力ってどこかで聞いた気が……うーん、なにか大事なことを忘れてる気がするけど……)

 ルナはキャティアの身の上話を聞いて、彼女の力の希少さや、それ故に色々と苦労したであろう彼女の強さを実感していた。同時に、何か大事なことを忘れているような気がしてたまらない気持ちになったが、考えても思い出せないのでそこで諦めた。ルナは切り替えが早いほうなのである。


「……でもやっぱ、猫だしなぁ……」

「にゃーにゃーにゃーにゃー言いすぎて頭に入ってこねぇ……」

「喋れる上に固有魔力まで!? 是非うちのペットに!!」

 キャティアの話を聞いた生徒たち。不満を垂れていた生徒も聞いていたはずだが、あまり態度は変わらず……。だがそのナメた態度は次の瞬間改められることになる。


「――だからそんにゃワタシを認められにゃくてもいい、けど……『先 生 の 話 は し っ か り 聞 こ う に ゃ ?』」


ゾワッ……!


「「「「……っ!?」」」」

 キャティアが耳を伏せ、生徒たちに向けて圧を掛けると、凄まじいほどの重圧が身体にのしかかる。背筋が凍るような冷たい声色と存在感。この猫には逆らってはいけないと、不満を垂れていた生徒達以外も本能的に理解させられる。

 調子に乗っている者に対しての()()()()というのは、早い段階でしておくに越したことはないのだ。それ以外の者にもそうだ。先に先手を打ち、釘を打っておく。そうすることでナメた行動を取る馬鹿は減るというものである。貴族社会とは、そういうものだ。


_


 そしてキャティアの長く、生徒たちにとっては恐ろしい自己紹介は終わり、ようやく生徒の組分けの時間が始まった。


「リカ・フォン・バスチア――お前は伯爵家にゃがら魔法の才能がずば抜けて高い……よって魔狼寮(フェンリル)にゃ! ついでに弓の才能もそこそこあるみたいにゃ。是非伸ばすといいにゃ! 精進するにゃ~」

「は、はいっ! 頑張ります!」

 教卓の前に立った少女の身体に魔法を行使したキャティアはにこやかにそう告げる。その少女の才能を見たのである。そしてキャティアは続けて少女の身体に魔法をかける。するとリカと呼ばれた少女の身体は白く輝き始め、ぽんっ! という音と共に現れた、左胸に魔狼寮と同じエンブレムが施された制服が身体に羽織られる。

 魔狼寮に選ばれたこと、そして制服を貰ったことを素直に嬉しそうな顔をして元の席に戻っていく少女。自分の才能や地位に驕る貴族が多い中で、彼女は至ってまとも……純粋そうであった。彼女も立派な伯爵家らしく、魔法適性試験では『1878』という上位クラスの数値を叩き出していたのだが。


 ……といった雰囲気で寮の組分けは進んでいった。武術試験や魔法適性試験のように、ただ指定された対象に攻撃を加える……というものよりも、この儀式はさらに早く、あっさりと済む。一人につき1分や2分といった程度で気持ちも楽だった。

 そして何より気持ちを和らげたことが一つ。最初のインパクトある挨拶のおかげで、やや肩が竦んで緊張している生徒も多かったのだが、その状況を鑑みたキャティアは一つの案をだした。それは『儀式の最初にまずキャティアを撫でる』という工程を追加するというものだった。猫なのに人の言葉は喋るし、魔力も只者ではない彼女だが、結局、根幹は猫なのだ。

 キャティアの狙い通り、結果は成功。緊張していた生徒は彼女の頭を撫でると、ふんわりとした毛並みと猫らしく可愛らしい仕草を魅せるキャティアに癒やされたのである。おかげで緊張を忘れ、最後には満足そうに制服を受け取り、元の席に戻っていく。そんな工程が出来上がっていた。


「ふわふわだった……」

「ワタシの毛並みはお手入れしてるおかげですんごいからにゃ♪」

 ……と、撫でた生徒も撫でられた先生もお互い満足そうで、損のないWINWIN関係の組分けとなったのである。一体、誰が手入れをしているのだろうか……。


_


「次、そこのお前にゃ」

「私ね!」

 組分けの儀式はキャティアが生徒を指名する形で進んでいく。次に呼ばれたのはキャティアの目についた、ブロンドの長い金髪を靡かせた可憐な少女……即ち、マナである。

 寮の組分けをするにあたって、その主軸とも言えるキャティアには新入生全員の情報が前もってアレスから渡されている。――冒険者ギルドマスターからの推薦で入学したA級冒険者のマナ。15歳。平民。……キャティアにとって、マナは本当に平民なのかを疑うほどの見目をしていた。

 王族や貴族の血を持つ子は、金髪や銀髪で産まれてくる子供が非常に多い。その割合は八割を占めているだろう。故に、逆に平民での金髪の少女というのは少し珍しいのだ。元々遠い先祖に貴族がいて、先祖返りで髪色が変わって産まれてきた……ということも稀にあるため、キャティアはマナの出自についてはそういうことにしておいた。


「まずはワタシを撫でてから、頭をこっちに向けるにゃ」

「え、ええ……それじゃ失礼するわね」

 キャティアに呼ばれ、教卓の前に立ったマナは言われるがままに彼女の頭を優しく撫でる。先程高らかに自慢していただけあって、毛並みはまさしく最高だった。サラサラ、ふわふわとしていてまるで綿を触っているかのような触り心地……。


(あ~……これはさっきから他の生徒も癒やされるわけだわ~……)

「にゃ~……マナ、お前撫でるの上手いにゃ~……♪ ――さて……」

 マナとキャティア、双方が互いに癒やされているうちに、ふと真面目な顔に戻ったキャティアは次の段階へ入る。キャティアは右手をマナの頭の上にポフッと乗せ、自分の魔力を流しこむ。暫くその姿勢で目を閉じたままのキャティアを、マナはその温かい魔力に包まれながらもじっと見つめていた。

 きっと今この時間こそが、さっきキャティア先生の言っていた『秘めたる才能を見通す』のに必要な時間なのだろう……と直感的に察したマナ。今、キャティアはマナの才能を『見て』いるのだ。そうして少し待っていると、彼女はゆっくりと目を開け、手を引っ込める。


「……!」

 マナがドキドキと柄にもなく緊張しながら待っていると、キャティアは口を開く。周りには聞こえないよう小さな声で。


「マナ――これを言うと少し辛いかもだけど、お前は才能が平均以下にゃ。剣、槍、弓、拳、鈍器……そして魔法。一般的に世に知られる戦闘技術のほとんどの才能が平均以下。強いて言うなら剣術だけは平均以上の才能があるにゃ。特に長剣の扱いは二本同時でもいけそうにゃ。だから剣術を伸ばせば問題はないはずにゃ……」

「……そう」

 キャティアから告げられた絶望的とも言える話の内容。ここに来る生徒のほとんどは、何か才能が飛び抜けていたり、全てが平均以上にできたりする者も多い。そんな中でマナだけは平均以下。マナに気を使って他の生徒には聞こえないようにしてくれたキャティアの気遣いすらも切なく感じられた……。


 ……しかし、マナはそもそもそんなことは何年も前からわかり切っていた。たとえ今さら現実を突きつけられようと、落ち込むことなどなかった。一体何が理由で、何のために家を出て冒険者になったと思っているのか。

 マナは二人の兄や一人の妹との才能の差に圧倒され、一度絶望したのだ。そしてそれを乗り越えるため、世間に、兄に、見せつけるためここにいるのだ。この程度でへこたれはしない……!


「ふふふっ……! 気遣いありがとうキャティア先生。私に才能がないことなんて最初から分かってた事だもの。だけど努力だけは裏切らない……そう信じてる! だから私はこれからも強くなるため努力を続けるわ! じゃないと才能ある人達に勝てないもの!」

「にゃ? ……いい顔にゃ。その意気、その心の強さがあるのにゃら、ワタシも言うことはにゃい。――才能は平均以下だけど、両試験ではそれを感じさせにゃい素晴らしい成績だった……よってマナ、お前は古竜寮(リンドヴルム)とするにゃ!」

 落ち込むどころかやる気を出したマナの言葉を聞いて、キャティアは満足そうに頷く。そしてマナの寮は古竜寮……この学園でトップと言われている寮に決まった。才能なくとも結果は出せる。努力さえ怠らなければ、才能あるものにも並べるのだ。それを今、マナが証明したのである。


(マナ……ワタシが見た限りでは、彼女の才能は本当に平均以下だった。剣術の才能は少しあったみたいで、それは武術試験でも片鱗が見られた。……けど、魔法の才能は平均以下の中でもかにゃり下……にゃのに魔法適性試験では最上級魔法を……努力の才能は誰よりも高いのかもしれんにゃ……)

 キャティアは多くの才能を見通せる自分の能力では唯一見ることができない才能である『努力』というものの大きさを、努力の天才であるマナを見て改めて認識するのであった。

 キャティアはマナの身体に魔法をかけ、白く光ったマナの身体には先程の生徒と同じように、ぽんっ! と制服が現れ、マナの身体にそっと羽織られる。その左胸には古竜寮を現すエンブレムが施されていた。


「私が古竜寮……! よしっ……!」

 まずは目標のうちの一つ、学園内トップの寮――古竜寮に入る……達成である。マナは喜びを噛み締めつつ席に戻っていく。これで晴れてマナも古竜寮の仲間入りである。あとはこの学園の猛者たちから色々と学び、時に手合わせし、それを吸収して強くなる……それがマナの学園での目的だった。


 そうして組分けは次々と進んでいった。やはりセオリー通り、伯爵家以上の貴族生徒は魔狼寮や古竜寮に選ばれる者が多かった。才能が飛び抜けて高いからだ。

 武術試験で凄まじい結果を残した侯爵家であるアレンも古竜寮となり、魔法適性試験で圧倒的な結果を見せた公爵家のリュミエルも古竜寮のようだ。同じく魔法適性試験で結果を出した公爵家のバジルは魔狼寮となっていた。武術試験では手を抜いたと言っていた影響だろう。それでもやはり公爵家の才能の高さは脅威である。

 次々と生徒たちの寮が決まっていくが、古竜寮と魔狼寮がこの学園ではライバル関係……というのもやはり間違いないようだった。どちらも才能ある生徒たちが選ばれていった。恐らく寮同士の戦力は拮抗しているだろう。



 そして次にやってきたのはカトレアの番であった。カトレアは呼ばれると教卓の前に立ち、いつものようにキャティアの頭を優しく撫でる。どうやらカトレアは猫が好きなようで、凄く幸せそうな顔でキャティアを愛でていた。


「カトレア・フォン・ローズマリー――お前は伯爵家の生まれでレイピアによる細剣術と風魔法、そして精霊術の才能に長けているみたいにゃ。きっと言うまでもなく、もう精霊とは契約しているかにゃ?」

「はい! 5年前から風の精霊と契約しておりますわ! 普段は精霊に力を借りた風魔法による身体強化を駆使し、レイピアでの自己流剣術で戦っておりますわ!」

 キャティアからの質問にはっきりと答えるカトレア。5年前。カトレアが冒険者になったのは3年前……それよりも前からカトレアはシルファと契約しているのだ。それ故の信頼なのだろう。

 キャティアの言うカトレアの才能が本当にレイピアによる細剣術と風魔法、そして精霊術ならば、カトレアはすでにその才能を十分に活かし、発揮していると言えるだろう。


「ふむ……。にゃらば言うことはにゃいにゃ! お前は自分にある才能を理解し立派に成長し続けている……よって魔狼寮(フェンリル)だにゃ!」

「有り難う存じますわ!」

 伯爵家であるカトレアも、例に漏れず魔狼寮となる。当然といえば当然だ。カトレアも実力は存分にあるし、武術試験でも魔法適性試験でも、彼女は立派にいい結果を残していたのだから。

 ただ一つ言えるのが、マナが古竜寮、カトレアが魔狼寮に選ばれてしまったことで、『エクリプス』の四人は寮が同じでなくなったということ。つまり一緒に授業は受けられず、寮内でも会うことはないということだ。そこだけはルナにとって残念だった。……まぁ、校内でも会えるしいっか! と気持ちをすぐに切り替えたため、特に気にしている様子はなさそうだったが。


「クロエ・ミール――平民のD級冒険者。お前はどうやら剣術の才能と複数の属性魔法を使えるだけの才能があるみたいにゃ。特に得意なのは水魔法だにゃ。剣術のほうは……長剣? いや……その腰に差している変わった剣かにゃ?」

「異国では刀と呼ばれる剣だそうです! 友人……師匠に教わりました!」

 カトレアが終わった後、途中で何名かの生徒を挟み、順番がやってきたクロエはキャティアに才能を見てもらっていた。キャティアは初めて見る剣に戸惑っていたが、クロエには剣術……特に刀の才能があるらしかった。それだけでなく複数の属性の魔法を使える才能もあるという。

 クロエ自身、最上級魔法などの強力な魔法は使えないが、たしかに火、水、自然、光など複数の属性の魔法を使える。得意属性以外の魔法は中級程度までしか使えない者が多いが、クロエは水以外の上級魔法もいくつか使うことが出来る。昔から沢山の本を読んで勉強してきた甲斐あってのものだ。

 しかし複数の魔法が使えると言っても、一つの分野を伸ばしている者には遠く及ばないだろう。それに刀も今日初めてアルから教わりながら使えるようになった程度……良く言えば優秀、悪く言えば器用貧乏ともいえた。


「にゃるほどにゃ~。お前はすでに自分の才能には触れているみたいだにゃ。試験での成績も平民とは思えにゃいほど非常に優秀……良い師匠を持ったみたいにゃ?」

「は、はい! ありがとうございます! 僕もそう思います……!」

『俺が良い師匠とか照れちまうな。生前は自分のことばっかで、誰かに指導とか考えたこともなかったけどな?』

 キャティアはクロエの才能を見て、すでに師匠の手によって育成が始まっていることを悟り、師匠を褒め称える。友人であり師匠でもあるアルを褒められ、クロエも嬉しそうに同意するが、アルは褒められ慣れていないのか、少し照れくさそうだった。

 そしてキャティアはそっとクロエの頭に小さな手を乗せると、クロエの寮を告げる。


「平民でありながら優秀な成績にしてその謙虚にゃ姿勢……温厚で優しく真面目にゃお前はズバリ、聖獣寮(ユニコーン)にゃ!」

 そう言ってキャティアが魔法をかけると、白く柔らかい光に包まれたクロエの身体には聖獣寮のエンブレムが刻まれた制服が纏われる。聖獣寮は貴族としての立ち振舞いや、人との繋がりを重んじる優しき者が集う寮。クロエにはぴったりのようにも思えた。


「ありがとうございます!」

 丁寧に頭を下げ、制服のエンブレムを大事そうにそっと撫でたクロエは感謝の言葉を告げ、再度一礼してから元の席へ戻っていく。こういった礼儀正しく丁寧な作法を自然と行えるのも、聖獣寮に選ばれた理由の一つなのだろう。平民とは思えないほどである。


 そして『エクリプス』のうち、三人の寮が無事決まったところで、残すはルナだけとなった。そしてルナが呼ばれるよりも前に呼ばれたシトラスとラフィの二人だが……。

 シトラスは魔法適性試験が()()だったため、実質武術試験のみの成績というのに、拳闘士としての才能を評価されてクロエと同じ聖獣寮(ユニコーン)に。

 ラフィは逆に武術試験では散々な結果だったが、魔法適性試験では平民ながら最上級魔法を披露し、侯爵家にも負けず劣らずな結果を出した。そんな魔法の才能を評価されたラフィはカトレアと同じ魔狼寮(フェンリル)となった。


 そして仲間や友人達は皆組分けを終え、残すは数人程度となった頃にようやくルナは呼ばれる。名前順なのか、何か基準があってなのか、なぜか毎回ルナは最後の方である。別に不満があるわけではないが……。

 呼ばれたルナは、いつものように教卓の前に立ち、キャティアを目一杯もふもふなでなでして堪能した後、寮の組分けに入る。もふもふが大好きなルナはとても楽しく嬉しそうであった。対するキャティアも、ここまで勢いよくわしゃわしゃされることはなかったため、逆にマッサージされているようで気持ちよかったらしい。満足そうな表情をしていた。


「ふぅ……さっぱりにゃ。さて、本題に入ろうにゃ! ルナ・アイギス――お前は……っ?」

 気を取り直したキャティアは、教卓の前に立ったルナの頭に手を置き、いつものように才能を見ようとする。……が、その直後、彼女は不思議な声を上げる。


(何にゃ……これ……? 剣術、槍術、弓術、斧術、杖術、格闘術、魔術……どれをとっても一線級の才能……! こんにゃ全てに恵まれた生徒は見たことがにゃい……! 特に魔法の才能……これは……)

「??」

 ルナの頭に手を乗せたまま、驚いたような顔で硬直してしまったキャティアを見て、ルナは何か問題でもあったのかと不思議そうな顔を浮かべる。

 そんなキャティアは、ルナが背中に大剣を背負っているのを見て、彼女は得物に剣を使うのだと察し、こほんと咳払いをしてから質問を投げかける。


「ルナ、お前はその剣でいつも戦ってるにゃ?」

「んーん! 普段は拳しか使わないよ! ……です! この剣、切れ味というか色々と危険で……」

 ルナの持つ大剣……レーヴァテインは、抜けば消えぬ炎を纏い、凄まじい破壊力を誇る。それはフェンリル戦で良く分かっていた。とても人に対して使えない代物だ。故にルナはいつも拳一つで戦っている。その膂力から放たれる一撃は、武器が無くとも相手にとって大打撃となるからだ。

 尤も、少し前にマナと話した際、レーヴァテインは名前を呼べば炎を纏い、呼ばなければ炎は出ないという仕組みに気づいたため、決して対人で使えないというわけでもないのだが。現にランスローテとの戦いでは名を呼ばずに剣を抜いている。……が、ルナはできるだけ対人で剣を使うことは避けているようだった。


「格闘術のみで……なんて勿体にゃいことを……。お前には剣や槍、弓に斧、杖や拳での格闘センスが全て揃ってるにゃ! そしてその中でも魔法が一番どえりゃーことににゃってるにゃ! 絶対に全て伸ばすべきにゃ!」

「は、はぁ……?」

 あまりの興奮に口調が乱れ、前に前にとルナに顔を近づけて熱弁するキャティア。ルナの拳しか使わないという発言に対し、宝の持ち腐れにも程があると、自分のことでもないのにとてもむず痒くなってしまったのだ。


「ところでお前、師匠はいるのかにゃ?」

 熱弁の後、キャティアは興奮冷めやらぬ様子で、ルナに尋ねる。このようなありとあらゆる才能を持った若い少女……師匠がいないなど勿体ないにも限度を越しているからだ。


「師匠……っていう師匠はいないけど、強いて言うならおじいちゃんに魔法を教えてもらいました!」

 ルナはずっとスエズと暮らしてきたため、修行をつけてくれたのはスエズのみ。そのスエズも教えてくれたのは魔法の使い方や原理、基礎魔法とスエズの得意な光魔法の使い方ぐらいである。

 山籠りで修行をしていた時期もあったが、あれはスエズの指示ではなく、自主的に行動したものだったため、スエズが師匠とは一概には言えないのである。


 それを聞いたキャティアは深いため息をつきながら考えていた。


(この子はどこまで才能を無駄にすれば気が済むにゃ!? 思えば武術試験のダミーが壊れたのもこの子の番の時だった……まさかあれは偶然じゃにゃかった?

 魔法適性試験は魔力1251だったけど、そんにゃわけにゃいにゃ。絶対に手を抜いてたにゃ。何故にゃ? ……実力がバレにゃいように? 魔法もあまり鍛えていにゃい? 考えても埒があかんにゃ……)

 キャティアはルナの才能と試験の結果のあまりの落差に違和感を感じざるを得ない様子で、あの手この手で辻褄を合わせようと躍起になっていた。

 一生徒にこだわりすぎるのは教師として良くないことなのは分かっているが、それを厭わないほどに目の前の少女の才能は大きいものだったのだ。


「それで……そのおじいちゃんは何か言ってにゃかったかにゃ? こう……使う武器についてとか……」

「?? おじいちゃんには魔法の基礎とこの剣を貰っただけで、直接的な修行はほぼ自主練で……」


(おじいちゃんっ――!!? もっと色々教えてあげて!! あんたの孫はとてつもにゃい才能を秘めてるんにゃよ!!?)

 ルナは拾い子らしいので厳密には孫ではないのだが……キャティアはそんなことは知らないため仕方がない。とにかく彼女にとってはこの宝の持ち腐れ状態はどうしても受け入れ難いらしい。


(師匠? がそれしか教えにゃいのは理由があるのかもしれにゃいけど、こうにゃったら代わりにワタシが師匠に……いや、アレスが良いかにゃ? ……って何を考えてるにゃワタシは!

 教師だから生徒に固執しちゃいけにゃいんだったにゃ……! うう……仕方がにゃい――とは言えこの異常にゃまでの才能の高さ……間違いなく古竜寮にゃんだけど――)


「先生? だいじょーぶですか? ずっと難しい顔してるよ? おーい!」

「ハッ――!? いやいや、ついお前の才能に驚いちゃってにゃ。気にしにゃくていいにゃ」

 先程から何度も考えっぱなしのキャティアに気を遣って、そっと声をかけるルナ。こうしている間にもキャティアの手はずっとルナの頭に乗ったままなのだ。そのまま硬直されては不安にもなるというものだ。

 ……尤も、ルナは『肉球ぷにぷにだなぁ』などと、キャティアが必死に考えていることとは真逆に暢気なことを考えていたのであるが……。


「それで、私の寮は……?」

「ふむ……少し待つにゃ……」

 ルナが不安そうに尋ねると、キャティアは改めてルナの才能を見るために固有魔力を発動させる。白く光った肉球を伝って、キャティアの脳内にはルナの才能についての情報が流れてくる。


 キャティアの感覚で冒険者ランクのように表すと、剣術は短剣、双剣、長剣、大剣がS級で細剣はD級といったところ。槍術は全般的にB級。特に大身槍が一番か。弓術は大きめなものがS級で小さめはD級。

 斧術は大きい戦斧や短めな両手斧がS級、片手斧や小さめなモノはD級。杖術はスタッフや三節棍がA級で短いものはD級。どうやらルナは得物は大きめ、長めな物が得意らしい。小さかったり短めなものは短剣以外あまり才能がないようだ。


 そして格闘術。これに関してはセンスがS級。恐らく天才的な感覚で近接戦闘を得意としているはずだ。最後に問題の魔法だが……驚いたことに闇属性はF級。とことんまで闇属性の才能はない……が、他の属性全てがSS級なのだ。何度見てもこれは変わらない。これがキャティアの頭を悩ませている原因だった。

 元素の五属性がSクラスの才能を持っている者はそれなりにいる。一般的に天才と呼ばれる部類の者達だ。だが……闇以外の全て……すなわち闇以外の元素の五属性だけでなく、派生属性である炎や氷、雷や木、岩など、数多ある属性がSSランクの才能を持っているということだ。()()はありえない。()()は。


(ありえにゃいけど現実にゃんだ……受け入れよう……で、試験の結果は微妙だったけど、これは間違いなく古竜寮だと思うにゃ。でもこの子は……)


「……ルナ、お前は精霊寮(スピリット)に入りたいのにゃ?」

「えっ? どうして分かったの……!?」

 キャティアは周りに聞こえないよう小さな声でルナに尋ねると、返ってきた反応からして当たっているようだった。キャティアの固有魔力は、直接相手に触れている間だけしか使えないが、その代わり才能を見通す他に、考えていることや思いがぼんやりと読める。ルナが精霊寮に興味を持っていることに気づいたのである。


「精霊寮って聞いた時、なんかビビッときて……私、これでも直感だけは自信があるので、それを信じてみようかと思って! 友達は皆別々の寮になっちゃったし、少し残念だけど……」

 ルナはアレスに各寮を案内されていた時、他の寮には特に何も感じなかったが、精霊寮の案内の時には持ち前の直感……という名の、頭の中の小さなルナが『この寮はいいことある気がする!』と告げていた。

 自分の直感は何故かよく当たる。ついこの間も良いことが起こる気がして街へ出た時は、ベルという不思議な友達ができたばかりだ。そのためルナはそれを信じてみようと思ったのだ。


 それを聞いたキャティアは、少し考える素振りを見せた後、ふと笑みを浮かべて口を開いた。


「わかったにゃ! 改めて、ルナ・アイギス――お前は平民にゃがら偉大にゃ才能を持ち……試験も十分にゃ結果を残した。よって精霊寮(スピリット)とするにゃ!」

 本来ならばここまで優秀な成績や才能の者は古竜寮か魔狼寮なのだが、キャティアはルナの精霊寮に入りたいという要望を受け入れることにした。それは単純にキャティアの好奇心、興味心が理由だった。

 キャティアは、これほどまでにぶっ飛んだ才能を持っているのに、ほとんどそれを活用しきれていないチグハグ少女が、学園最低と謂われているあの精霊寮に入ってどうなっていくのか。それが気になったのだ。


 そして無事寮を宣言されたルナは、キャティアが魔力を流すと身体が白く光り、スッと現れた精霊寮のエンブレムが施された制服がその身体に羽織られる。ルナの身体はまだ成長期で小さいため、やや制服はブカブカに見えた。


「やった! これで私もここの学生ってことだよね!?」

「そうにゃ。精進するといいにゃ~!」

 嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねて喜びを体で表現しているルナをニコニコと眺めているキャティア。その内心はこれからのルナに期待しているものだった。ルナ、一人の教師に早くも目をつけられた様子である……。

 果たして、ルナが精霊寮を選んだことが吉と出るか、凶と出るか……。それは今はまだ分からない……。


 そして、やや長かったルナの組分けが終わり、残りの数人の生徒の寮分けも無事終わった後、新入生たちは選ばれた寮毎に分かれ、それぞれに教師が一人ずつ付いた一同は、各寮の中の案内へと連れられ向かうのだった――。


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