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天才と脳筋は紙一重  作者: たんすちゃん
《第三章》-王立学園編-
46/100

46.魔法適性試験 2

「うう、武術試験の時と違って何故か凄く視線を感じる……」

 魔力測定結晶の前に立ったクロエは、背後から生徒たちの多くの視線を感じて、緊張に拍車がかかっていた。クロエが緊張している理由は、やはりバジルの影響が大きかった。


(あんなに自信満々で、しかもあんな凄い魔法を短詠唱で使えるなんて……こっちが自信無くしちゃうよね……)

 クロエは自分がどうやっても辿り着けない、短詠唱での最上級魔法の行使という芸当を見せられ、さらにはそんな厳しい条件でなお威力も十分以上という結果を見て、萎縮してしまっていた。それはバジルの後に試験を受けた他の生徒も似たような状態であった。

 貴族と平民では、努力だけでは乗り越えられない才能の差というものがある。それも公爵家……その差は非常に大きいだろう。だが、それをただの血筋での才能の差……と言って割り切ってしまえるほど、クロエは豪胆な性格ではなかった。ちなみに、マナはそれを割り切れる性格のため、先の失言に繋がったといえる。とはいえ、マナは誰よりも努力をしているのだが……。


――エ……! ……ロエ……!


『おいクロエ! ちゃんと目ぇ醒めてっか?』

「……っ! す、すみません、ちょっと緊張してて……」

 ついうっかりぼうっとしていたクロエは、ふとアルに呼ばれる声で意識を現実に引き戻される。――そうだ。今は試験中、こんな考え事をしている場合じゃないんだ。……そう思い、クロエはすかさず刀をスラリと抜く。それをアルは傍からじっと見つめていた。


『………』

「………」


カタカタカタ……


『はぁ~……』

 暫しの沈黙の後、突然大きくため息をつくアル。いきなりのことでついビクッとしてしまったクロエは、どうしたのかとアルに顔を向ける。


『なぁクロエ、緊張しすぎだ。手震えてんぞ? 肩の力抜け』

「えっ……あ、すみません……!」

 現実に戻され、すぐさま刀を抜いたクロエだったが、その刀を持つ手はカタカタと小刻みに震えていた。武術試験の時は問題なかったはずなのに……。アルが指摘して、肩の力を抜くよう促すが、口では分かったと言っていても、緊張とはそう簡単に抜けるものではない。それはアル本人にもわかっていた。


『あー、んー……そうだな……。武術試験の時、自分は最強と思えって言っただろ?あれ、一旦無かったことにしよう!』

「え? あれって僕に自信を持たせるためのおまじないみたいなものじゃなかったんですか?」

 少し考えたあと、アルは先程の武術試験でのアドバイスを忘れろと言い出した。クロエにとって、あれは自信を持つきっかけになったため、とても効果があったものだったのだが……。


『まぁそうなんだが、今のお前はどうよ? 自信を持つどころか、どっかいっちまってふわふわしてんだろ? 刀を持つ手が震えてるのがその証拠だ。はっきり言っちまえば怖気づいてんだよ、今のお前は』

「う……図星で何も言い返せないです……」

 アルからの鋭い指摘に、クロエは何も言い返せずにいた。それは一言一句(たが)うこと無く図星だった。現に、先程のバジルの試験を見てからというもの、クロエは自分との差を比べて自信を無くし、周りがそんな才能に溢れた貴族たちばかりということを認識してしまい、怖気づいていた。……だが、アルの言葉はそこでは終わらなかった。


『だから、逆転の発想だ。今の自分は最弱だと思え!』

「な、なんですかそれ!? それじゃ自信なんて取り戻せないじゃないですか……!」

 アルが提案したのは、自分を最強と思い込む今までの戦法とは真逆。自分を最弱と思えなどという意味不明な提案だった。自分を最弱だと思い込む……など、むしろ自信の無さを加速させるだけの悪手に思える。クロエは理解できなかった。


『そうさ! お前はまだ弱いんだから、過剰な自信なんかいらねーんだよ。そんなもん捨てちまえ! ……クロエ。お前はさっき、あの偉そうな小僧を見て何を思った? "自分もああなりたい"? "自分とはレベルが違う"? "羨ましい"? ただの『凄い』なんて感想だけじゃなかったはずだ』

「そ、それは……自分とはまるでレベルが違う……と思いました。それで格差を自覚して……」

 アルからの質問に答えるクロエだったが、答えていくうちにどんどん気持ちが沈んでいく。それを見かねたアルはクロエのデコに指を立て……。


ぴしっ!


「いたっ……くはないか、幽体だし……そもそもすり抜けるんだった」

 クロエはアルからの優しいデコピンを食らうが、冷静に彼はすでに幽体ということを思い出して、ただの錯覚だということを理解する。クロエ本人は自覚していないが、すでにこの時点で緊張はかなりほぐれてきていた。そこにアルはさらに言葉を付け足す。


『自分とはレベルが違う? 格が違う? そりゃそうだろ。お前はお前。あいつはあいつだ。求めてるもんも、求められてるもんも全部違ぇんだ。……クロエ、お前は何がしたい? 強くなりたいんだろ? だから俺の刀を手に取った。違うか?』

「……僕は強くなるために、本を読み漁り、そしてあのダンジョンに辿り着き、そこでアルさんに出会いました。アルさんはいつも明るく声を掛けてくれるし、ここぞと言った時にアドバイスをしてくれたりもして、凄く強くなれたと思います! ……でも、それと自信の無さにどう関係が……?」

『良く考えろ、お前はまだその程度の期間しか俺との時間を過ごしてないんだぜ? いつだかお前の家でお前について聞いた事があったが、クロエは昔に比べて今はかなり強くなってるじゃねェか。本だって沢山読んで勉強したんだろ?

 でだ。俺と初めて出会って、どう変わった? 契約をした以上、内容がアレだ。今まで戦闘の全ては俺に任せてくれたが、あくまであれは俺がお前の身体を使って戦ってるだけ。身体の負担は結局お前に来るんだ。俺の200年ぶりのウォーミングアップは数日間も続いてたんだ。後日、目が覚めたお前はさぞ地獄だったろうよ』

 アルはいつものおちゃらけた明るい態度とは打って変わって、真剣な眼差しでクロエを見つめている。いつになく真剣なアルに対しクロエは、息を呑んでその話を聞き逃さないように努力していた。


 アルの言うクロエへの負担というのは、アルが身体を借りて戦っていても、それはあくまで精神面。中身が変わっただけで身体はクロエ本人が動かしているのと全くもって違いがないのだ。故に本ばかり読んで魔法の練習ばかりしていたクロエにとって、アルと出会ってからの数日間は本当に疲労が凄まじかった。

 重度の筋肉痛、重度の疲労感、肉離れ、肩こり、軽度の骨折、脱臼、打撲、疲労感から来る頭痛や目眩、吐き気、そして動悸……。ありとあらゆる不調が毎日のように襲いかかってくる。それほどまでにアルの戦闘スタイルは本の虫だったクロエにとって過酷なものだったのだ。

 だがそれは即ち、クロエがアルほどの実力者と全く同じ身体の動かし方をしたということの裏付けでもある。そして今、その疲労はすでに克服し、戦闘の際、アルに身体を貸してもそういった不調が襲ってくることは無くなっていた。


 つまり、クロエの身体はアルの戦闘によって、半ば強制的に鍛えられていたのだ。歴史書に描かれるほどの剣豪が、直々に自分の身体を使って修行をつけてくれていたのだ。それをクロエは理解し、思い出した。


「アルさんのおかげで、武術試験でもあんな凄い結果になったんですね……今日、自分でしっかりと刀を持ってみて、初めて実感しました。アルさんのありがたみを」

『そう言われると照れるが……とにかく! 俺が言いたいのは、お前は十分強くなってんだ! けどお前はあの生意気小僧みたいにはなれない! お前はお前だからな! だが、それを超えるために俺がいるんだ。今は無理でもいつか越えよう! 一緒にな!』

「……!」

 ――今は無理でも、いつか越えよう。一緒に。今は最弱でいい。今の自分は最弱だ。ここからがスタートライン。上には上がいるのは当然の理。しかし、自分には頼れる相棒で、頼れる師匠がいる。ありがとうございます、師匠(アルさん)。ありがとう、相棒(アルキュオネウス)


「ふふ……そう、ですね……! あはははっ! 悩んでいたのがバカらしくなりました! あははははっ!」



あはははは……!



「おい、なんか急に笑い出したぞ?」

「緊張でイカれちまったんじゃねーのか」

 背後で見ていた生徒たちは、そんなクロエの様子を見て不気味がっていた。頭のネジが飛んだのではないかと。

 さらにその横ではルナ達が笑うクロエを眺めて話していた。


「どうやら、吹っ切れたみたいね」

「数分くらい葛藤してたみたいですけれど、あれがその……ゆ、ゆゆ、幽霊っ……とやらと会話してたということかしら!?」

「カトレアは相変わらず幽霊苦手なんだね? クロエくんは強い子だから最初から心配なんていらないよ!」

 どうやらクロエは問題なさそうだということを知って、ルナ達はいつもの雰囲気に戻り、心配する必要もないと安堵し、試験を見守り続ける。


_


「あはは……ふー。よし、肩の荷も降りましたし、やる気も出ました! 行きます!」

『おうやれやれ! 今のお前ならあの生意気小僧は無理でも、その辺のやつよりはいい結果出るぞ多分! あ、使うんだったら――』

「大丈夫です! わかってますから!」

 気を取り戻し、やる気満々になったクロエは肩の力もすっかり抜けて、刀を持つ手からも震えが消えて自然な構えになっていた。そしてアルのアドバイスするかのような言葉を途中で遮る。アルはやれやれ、といった様子で笑い、クロエの勇姿を傍観することにした。


「確か……こうして……」

 クロエは刀を両手で握り、右後ろに構えるように持っていく。そして強く握った刀に向けて、ありったけの水属性の魔力を込める。それはアルがガウェインとの戦いで見せた、アルが使える剣技の中では最も威力が高く、最も範囲が広く、そして最も速度が遅い剣技の構えだった。

 剣技といえど、魔法を纏わせ、それを放てば、それは剣技ではなく立派な魔法という扱いになる。剣に魔法を纏わせたまま斬りつけるのはアウトだが、斬撃を飛ばすなどの剣だけではあり得ない技ならば、魔法と認められるのだ。故にアル……基、クロエの技は魔法適性試験として正しいのである。


(さぁ、水属性の魔力を最大限まで込めたら後は気合込めて振るだけだ。今のお前なら出来る! 身体が覚えてるはずだ、俺の動きを!)

 準備が終わったクロエを見て、アルは心の中で鼓舞する。それに応えるように、クロエは大波が湧き上がるかのように刀を振り上げ、纏わせた魔力を解放する。


「【雨剣(うけん)・ユウダチ】ィィィ!!!!」


 魔力測定結晶に向けて、刀を振り抜いたクロエ。水を纏った刀からは、大量の大波が出現し、クロエの周囲は大渦のように津波が荒れ狂う。そしてその大波は結晶へとゆっくり進撃し、その姿を飲み込んだ。


「!?」

「す、すげぇ大波……」

「本当に平民……なんだよな?」

 クロエの放った大技を見て、じっと観察していた生徒たちはざわざわと驚きの声を上げ始める。ルナ達は仲間であり、平民でもあるクロエがいつもは偉そうな貴族たちに驚かれているのを見て優越感を感じていた。


「なんか……いい気分だわ」

「ですわね」

「こればっかりは分かる気がする!」

 マナが言葉を零すと、カトレアは真顔で即座に同意し、あろうことかそういったことに鈍いルナでさえも同意した。いいぞ、もっとやれ。……というヤツである。


 少し経ち、ようやく大波が落ち着き、結晶の姿が露わになると、結晶は水属性を現す青色に輝き、示された魔力数値は『1297』だった。自分よりも下だからと、ふっ……と嘲笑うような声も聞こえ、マナ達は一瞬表情が険しくなる。……が、周りを見れば同じように険しい表情をしている貴族生徒達もいた。そして、戻ってきたクロエは対照的に満足そうな顔をしていた。

 マナ達は一瞬困惑したが、すぐに気づいた。その理由に。そして今笑った一部の生徒たちは、わかっていなかった。クロエの出した1297という魔力数値。これが何を現すのか。

 これは今までの生徒たちの結果を見ると低く思えてしまうが、"1297"というのは伯爵家や子爵家の生徒たちの平均魔力である。……そう。貴族の平均値なのだ。平民の、クロエが、貴族と同等以上の数値を叩き出したのだ。それに気づいた貴族生徒たちは次々と表情が険しくなっていった。


「何度でも言うけど、いい気分だわ」

「ですわね」

「分かる気がする!」

「僕なりに頑張りました!」

 そんな貴族たちを見て、再度先程と同じやり取りをして気分良くなるマナ達。そしてクロエの試験が終わったということは、次はその後ろに並んでいた者の試験ということである。


「私の番ね! ……一応私って王族だけど、そういった才能がないから家出してるわけで……さすがに公爵家とか侯爵家とかと比べるのはやめてよね?」

 張り切って一歩踏み出したマナだったが、ふと振り返ってボソボソとルナ達にだけ聞こえる声で話すマナ。王族も当然、公爵家や他の貴族のように、偉大なる才能を持って生まれてくるのが当然だ。マナの兄たちや妹がいい例だ。

 しかし、マナだけはそのルーツから外れたイレギュラーとして、平凡な才能を持って生まれてきたため、先程の公爵家の生徒達のように凄まじい威力の最上級魔法を放ったり、短詠唱で最上級魔法を発動させたりなどは全くもって出来ない。

 これだけははっきり伝えておきたかったと、それだけ告げるとマナはさっさと魔力測定結晶の元へと歩いていった。


「えらい自虐的というかなんというか……」

「開き直ってる……ですの?」

「それかも!」

「あはは……」

 

_


「ま、公爵家の連中みたいに()()()()()()()()()は撃てないけど……」

 マナは結晶の前に立つと、剣を抜くことなく、一人で誰に聞かせるでもなく呟きながらその場で足を開いて、大きく腕を広げる。仁王立ちのような姿勢だ。そして――……。


()()()()()が撃てないなんて誰も言ってないから」


どおっ!!


 マナが続けるように呟くと、マナの周囲には真っ白な魔力が漂い始め、ぐるぐると渦を巻き、風のように吹き荒れ始める。マナだって、ルナが眠っていた十日間、何もしていなかったわけではないのだ。剣の腕を磨き、魔法の腕を磨き、聖遺物の魔導書を読み漁り、新たな知識を得る。この数日間はそうして過ごしていたのだ。そのおかげで、少し前までは使えなかった最上級魔法も、しっかりと習得していた。


「『光霊よ、燦然(さんぜん)たる力を! 闇穿つ撃槍となりて!』――最上級光魔法……クラス7(セプタ)【グレア・オブ・グングニル】――!」

 いつもとは違い、少し長い詠唱を終えると、マナは右手を天高く掲げる。すると空中に、周囲を漂っていた白い魔力が集まり始め、吹き荒れていた魔力たちは一斉に集結し、その形を成す。

 風が止むと、マナの右手よりもやや上方には、光の魔力で作られた超巨大な白い槍が浮いていた。その槍は全長5メートルもあろうかといった大きさだった。そして槍には葉っぱが触れた瞬間に塵になってしまうほど濃度が高い光の魔力が凝縮されていて、生徒たちの多くは槍に込められた魔力の濃さと、あまりの槍の大きさに圧倒されていた。


「すーっ……行け――ッ!」

 マナは一呼吸置いてから、魔力測定結晶に向けて右手を振り下ろし、それに同期するように宙に生成された巨大な光槍『グレア・オブ・グングニル』も結晶へ向けて急加速する。巨大な質量を持つ物質は、大きさに伴って速度が落ちるはずなのだが、マナの槍は違った。

 巨大にも関わらず、速度は目で捉えきるのが難しい程の速さだった。それもそのはず。マナの槍はただの魔力の槍ではなく、()()の高い、()の魔力で作られた槍なのだから。光速は質量など無視した速度を生み出す。そして同時に、速度とは、速ければ速いほど途轍もない威力を生み出すのだ。



 そして光の速度で急加速した巨大な槍は、見事に魔力測定結晶に命中し、破壊力抜群な衝撃波と爆音を響かせながら大きな土煙を巻き起こした。

 煙が晴れ、結晶の姿が露わになると、結晶は当然ながら無傷で、光属性を現す白色に光っており、表示されていた魔力の数値はなんと『2893』という、侯爵家やA級魔術士であるラフィよりも高い数値であった。

 マナは王族という身分を隠して入学しているため、冒険者……つまり平民という扱いになる。つまり、またしても平民が連続でとてつもない大記録を叩き出したと貴族生徒たちは思い込むのだ。ましてや、クロエの記録ならば、子爵程度とありえなくはない結果だが、マナの記録は侯爵家に匹敵するか、それ以上のものだ。貴族たちからすれば異常な光景で、そしてプライドが許せない結果であろう。


「ま、こんなもんね。私だって毎日努力してるんだからね!」

 ホッと一息ついて戻ってきたマナ。冒険者になったばかりの一年前までは、身体強化魔法すらまともに使えず、数ヶ月たってようやく身体強化魔法を覚えられた程度の魔法の才能しかなかったというのに、この短い間でここまでの成長ぶり、その理由は恐らく、聖遺物である魔導書だけでなく、ルナ達と出会った影響が大きいだろう。

 ライバルや友人、大切な人の存在というものは、時に人を強くし、意思を強くさせる。魔法の才能はなかったマナだが、努力の才能があったマナ。そんな彼女がひたすら仲間に負けないよう努力を続けた結果が現在なのだ。しかし、マナの目標地点はまだまだ遠く、この程度では満足しないことは明らかだった。これからの成長が見ものである。


「いい気分!」

「ですわね」

「えっと……分かる気がする……?」

「もう三回目よ。いつまでも遊んでないで次は貴女でしょ、カトレア。クロエも付き合わなくていいから……」

 貴族たちに仲間の良いとこを見せて気分が良くなる……というのを三度も繰り返したルナ達。そんなルナ達から出る次の番はカトレアだ。マナに促され、マナと入れ替わるように前へ出ていくカトレア。


「それじゃ、少し行ってきますわね! あと、嘘をついていたマナさんと違って、『本当に!』わたくしは最上級魔法とか使えませんから。さらっと終わらせてきますわ!」

 一瞬こちらを振り返って一部強調しつつ宣言するカトレア。マナのことを同類だと思っていたカトレアにとって、先程のマナのとんでもない最上級魔法は、公爵家のものには劣れど、予想を裏切られたものだった。そのためか、やや恨んでいるようだった。


「別に嘘ついてたわけじゃないんだけど……」

「頑張ってね~!」

 カトレアの言葉に凄く不満そうな顔を浮かべるマナとそれを気にもせずに隣でのんきに応援しているルナ。温度差とはきっとこういうことを言うのだろう。

 ……そして、結局カトレアは自分で言っていた通り、マナのように予想を裏切ることなく、伯爵家らしく普通の上級風魔法を放ち、数値は『1751』という結果で終わった。

 伯爵家の平均値でも上位の部類に入るカトレアの魔力。元々カトレアは魔法精霊剣士であるため、魔法が主体の戦い方はしない。にも関わらず伯爵家の中でも上位クラスということは、やはり貴族らしく元々魔法の才能もかなりあるのだろう。ただ、その才能を伸ばすかどうかは本人次第なため、カトレアは剣の才能を伸ばすことに決めたのだろう。結果としてカトレアは立派な細剣使いであるため、間違った選択ではないことが窺える。


 そしてクロエ、マナ、カトレアの試験が終わり、いよいよルナの試験がやってきた。ルナは偶然なのか必然なのか分からないが、武術試験では金剛石を素材に使った絶対に壊れないはずのダミーを頭突きで粉砕している問題児である。

 ダミーの寿命とは思われているが、実際のところは分からない。生徒達は気にしていなかったが、試験官たちにはややマークされていた。またしても備品を壊されたらどうしよう……という面で。


「なんか凄く試験官の人たちの視線が痛い……なんで睨まれてるのー……。もしかして、さっきの試験のやつのせい!? こ、今回はあんまり派手なことしないほうがいい気がする……!」

 そんな試験官たちの不安げで怪訝な視線に、直感の優れたルナは当然気づく。なぜか凄くマークされている。理由は恐らく武術試験のアレ。そう感じ取ったルナは悪目立ちしたくはないため、派手な魔法は避けることにした。

 全力で、と試験官は最初に言っていたが、手を抜いている生徒は何人かいた。それに、疲れ果てるほど全身全霊の魔法を撃てというわけでもないはずだ。ならばここでルナが目立ちたくないという理由のために手を抜いても、きっと怒られないだろう。むしろ、ルナが本当に全力を出したほうが怒られる結果になりそうである。


(あんな結晶、本気でやったら上級魔法でもすぐ壊れちゃいそうだしなぁ……。無難にそれなりに見える魔法で……)

 ルナにとってあの魔力測定結晶は、第一印象で『壊れやすそう』という感想らしかった。一応、公爵家の最上級魔法を耐え凌ぐほどの耐久性を持つ頑丈な魔導具なのであるが……。

 ということなので間違っても壊さぬように、()つ、変に目立たない程度の魔法で、ルナはできるだけ全力を装うことにした。


「――全力で! 全力っぽさを出して手を抜く!」

 ……などと、ふざけた動機と思考でルナは苦手な詠唱をゆったりと開始する。ただ苦手だから遅いだけだが、遅く長い詠唱は強力な魔法を放つためには必要なものだ。尤も、この場合はそうではなく、ただ純粋に詠唱が遅いだけなのだが。


「『――氷よ、私は祈る。……滴る水滴の時間を止め、空気さえも氷結させ……()がれ(ねじ)れて矛先を現せ……』……中級氷魔法……クラス4(クアドラ)【グレイシャルスピア】!」

 とてもゆっくりと、噛まぬよう慎重に、そして今までで一番長く詠唱をしたルナは、魔法の等級の部分だけは聞こえぬようボソリ……と言いつつ、氷の槍を生成する。スピアは槍系の中では中級クラス。下から数えたほうが早いレベルの中級魔法だ。

 魔法について詳しい者がいれば間違いなく手を抜いているのがバレる。……が、ルナが生成したのは中級魔法とはいえ、大の苦手である詠唱までしっかりとした魔法だ。クラスは4(クアドラ)と控えめに抑えたが手を抜いているとは思われない結果になると信じていた。


「えいっ――! いけぇ!」

 ルナが大きく振りかぶって氷の槍を放つと、槍は魔力測定結晶にぶつかった瞬間激しい音を立ててうっすらとした氷霧を巻き起こす。土煙に似て異なるそれは、氷が砕けたのち、キラキラと周囲にダイヤのように煌めく小さな結晶を散らす。


「おお……っ! 美しい……!」

「綺麗……」

「今までの生徒達のように豪快さはないが、これはいいな」

 見ていた生徒たち、そして試験官たちはその景色の美しさについ心奪われる。そちらに意識が行ってしまい、ルナが手を抜いていたことなど気づかずに。

 そして問題は魔力測定結晶が測定した数値だ。この数値が露骨に低ければ、間違いなく手を抜いたことがバレて糾弾されるだろう。こういった大事な試験の場でわざと手を抜くのは、どの場所でもご法度。真剣にやっている者を侮辱する行為に繋がるため、問題アリなのだ。……要は、かなり怒られる。現に他の生徒もバレない程度に派手な魔法で手を抜いていた。

 しかしルナの場合、その適当に放つ派手な魔法がうっかり魔力測定結晶を壊してしまいかねないのである。それはルナ本人も何となく結晶を見て『壊れそう』だと察していた。尤も、それが分かるのに、自分のレベルを未だにちゃんと理解っていないままなのだが……。


 そして、問題の魔力測定の結果だが、結晶は氷属性を現す眩い水色に輝き、その上には『1251』と表示されていた。ルナの狙い通り、目立たずそこそこの成績で魔法適性試験、突破である。試験官たちも怪訝な顔から安堵の顔へと変わり、どうやらマークは外れたようだった。


「いぇすっ!」

 ホッとしたルナは次の生徒と入れ替わるようにして後ろへ戻り、ついガッツポーズを決める。……が、直後後ろから誰かに頭をしばかれる。 


「何ガッツポーズしてんのよ。ちょっとルナ! さっきの腑抜けた魔法はなによ! それに魔力が1251!? んなわけねーでしょっての! なんで手を抜くなんて真似したのよ! 私はルナが豪快な魔法をぶっ放して試験をめちゃくちゃにするのが見たかったのに……!」

「マナさん、後半に本音が漏れてますわよ。わたくしも少し期待しましたけれど……」

「ちょちょ、カトレアさんまで……!?」

 試験を終えたルナに未練たらたらで話しかけてきたのはマナ、カトレア、クロエの三人。どうやらマナやカトレアはルナの実力を知っているため、一瞬で手を抜いていることがバレてしまったようだった。まぁ、当然といえば当然である。

 そして、マナとカトレアはルナが試験をぶち壊す勢いでとんでもない結果を出すことを望んでいたらしい。本音漏れまくり、口調崩れまくりのマナからそれは伝わってきた。余裕綽々の公爵家に一発お見舞いしたかったのだろう。残念ながら願い叶わずだが……。 


「なんか試験官の人から凄くマークされてたみたいで、結晶壊したら絶対怒られるし、もしかしたら私だけ退学になるかも……って思ったらつい……」

 ルナはマナ達に素直に事情を話す。流石に入学初日から退学など、ありえないとは思うが、万が一自分だけが退学になったらせっかくの皆との楽しい学校生活が無くなってしまう。即ち、ルナの夢の一つが潰えてしまうのだ。そんなこと絶対に許されない。だからこその行動だった。


「ですって。ルナにも事情がお有りなのでしょう。少しむず痒いですけれど、理解しましょうマナさん」

「分かってるわよ……けど、ルナにそんな判断をさせた試験官は恨んでやるわ……! 試験官の影響でルナの評価が下がらざるを得ない行動をさせられるなんて、そんなのただの妨害じゃないのよ! 試験官の目なんて気にせず、あんな魔力測定結晶なんて破壊しちゃえば良かったんだわ!」

「それでルナちゃんの不安が的中したら本末転倒ですよ……。というか、あのすごく硬い結晶をルナちゃんが壊せるのは大前提なんですね……」

 カトレアとクロエが諫めるが、マナは未だに不満が残っているようで、いっそ吹っ切れればよかったのに、だの、試験官ごと巻き込んでしまえば……など、徐々に収拾がつかないところまで行きそうだったため、途中でカトレアが強く静止してそこで議論……というか文句祭りは終わった。


 そして残る数人の試験は無事何事もなく終わり、魔法適性試験は全員分きっちり記録を取れたようで、試験官は終了の合図を告げ、魔法適性試験はそこで終わりを迎えた。

 長いようで短かった両試験。一体ここでの結果と評価がこの先どのようなことに繋がるのか……それは分からないが、入学式はいよいよ新入生にとって最も重要な『寮分け』へと歩を進める――。


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