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天才と脳筋は紙一重  作者: たんすちゃん
《第三章》-王立学園編-
45/100

45.魔法適性試験 1

 クロエの試験が終わった辺りで、残りは20人弱といったところ。そして一人、また一人と試験を終えて、いよいよ最後の一人となったところでようやくルナが呼ばれる。運が良いのか悪いのか、ルナに順番が回ってきたのは150人以上いる生徒の中で一番最後だった。

 150人もの生徒たちの攻撃を受け続けたダミーは、金剛石が含まれているにも関わらず、すでに傷だらけで、ここまでの生徒たちの才能の高さを示していた。長いようで短かった武術試験は、これで終わりを迎える。


「えーっと、私は剣と拳どっちのほうが良いんだろう?」

 『思いっきりやってきなさい!』とマナに背中を押されたルナは、ダミーの前に立ちながら考えていた。自分の武器はいつも背負っている魔剣レーヴァテインなのだが、しかしルナは剣技などまだ知らない。己の拳で戦ってきた時間のほうが長いのだ。

 現に今までの冒険や悪魔ベリトとの戦い、トリアの街での大会のほとんども拳だけで戦っていた。ルナが最も得意とするのは剣ではなく拳での接近戦なのだ。というかそもそもこの試験、魔力は禁止だし、炎を纏わせていなくとも、魔剣を使うのはなかなかグレーゾーンな気がする。


「なんだぁ。なら最初から決まってるじゃん!」

 そう思ったルナは、ダミーに向けて拳を構える。ここまでの生徒たちは皆、剣や槍、弓や杖など何かしらの得物を持っていた。冒険者ともなると拳を武器に戦う拳闘士は多くいるが、貴族の多いこの学園の生徒は武器を使うのが主流となっているようだ。拳を使ってダミーに挑むのは、ルナを除いてシトラスぐらいしかいない。


 そしてルナは直感的に、亀裂が深く入っている部分に目をつけ、そこに狙いを定める。金剛石……とやらがどれだけ硬いのかは知らないが、壊れないものなどこの世に存在しない。ルナはマナに言われた通り、本気でダミーを殴るつもりだった。……それこそ、壊すつもりで。

 他の生徒たちは、マナ達やシトラス達を除いて、そのほとんどがもはや試験に飽き始めており、最初や中盤こそ集中して他の生徒の試験を注目していたが、最後ともなると見どころはもう無くなっただろうと踏んでルナのことはあまり気にしていない様子だった。


「よーし……魔力なしの修行はいっぱいしてきたからね! 本気でいくよ!」

 ルナは気合を入れると、構えた拳に力を入れ、腰をさらに低くする。そして数秒のあいだ息を整えると、一気に地面を踏み込み、距離を詰める。踏み込んだ地面は大きく盛り上がり、どれだけの圧力がかかったのか容易に想像できた。


「あっ……!?」

 目にも止まらぬ速度で距離を詰めたルナだったが、寸前で地面から突き出ていた小さな石に躓き、勢いが乗っていたせいか、そのまま転んでダミーにゴチンと良い音を立てて頭から突っ込んだ。



(転んだわ……)

(盛大にこけましたわね)

(ルナちゃんはおっちょこちょいだなぁ……)

(そんなルナちゃんさんも可愛いな~!)

(結構ダイレクトに顔面入りましたけど大丈夫ですかね……)

 それを見たマナ達は呆れたようで、驚いたような、はたまた心配するかのようにルナを眺めていた。しかし、一見失敗に終わったかに見えたルナの一撃は……事実、失敗には終わったのだが――……。


ピシピシッ……!


 ルナの強烈な顔面頭突きを食らったダミーは、次第に音を立てて亀裂が広がっていく。それは今までの生徒たちの強力な攻撃を重ね重ね受けた影響なのか、もしくは――。


 直後、大きな音と共に限界を迎え、バラバラに崩れ去ったダミー。長い年月、学生たちの攻撃を耐え凌いだであろうダミーの一生はそこで終わりを告げ、同時に今回の武術試験も終わりを迎えた。

 無事……とは言えないが、平穏に終わった武術試験。教師たちは今年は優秀な生徒が多いことを確認できて、満足そうな顔をしていた。問題のルナの試験だが、ダミーの寿命ということで曖昧な評価で終わってしまったようだった。良くも悪くもツイていないルナであった……。


_


「とんだ災難だったわね、ルナ?」

「結構痛かったデス……」

 マナに気遣われつつ、顔面強打の影響による鼻血を止めるために布を鼻に詰めてマヌケな顔になっているルナ。そんなルナ達新入生一行は、次の試験である『魔法適性試験』のため、場所を移して大きく広い闘技場のような場所へと来ていた。


「これより魔法適性試験を始めます。この試験は君たち新入生の魔力を測る目的と、魔法の得意属性を知るためのものです。何も気負う必要はありません。では順番に並んで前の者から順に、この『魔力測定結晶』に全力で自分の最も得意な魔法をぶつけてください」

 闘技場に着くなり、試験官が説明を始める。魔力測定結晶というのは、アーレス学園が特別に開発させたここにしかない特殊な魔導具だという。試験官によれば、この魔導具にはダンジョンで稀に取れる聖遺物『ミステリークリスタル』という水晶が材料に使われていて、魔法をぶつけるだけでその人の魔力の量、そして得意な属性が判別できるという便利な魔導具らしい。

 ミステリークリスタルと聞いて、ルナは三年前にスエズに見せられたあの水晶のことを思い出す。ルナが触れた瞬間強い光を放って砕けてしまったが、確かスエズはあの水晶のことをミステリークリスタルと呼んでいた。

 あのクリスタル自体にも魔力を測る機能が備わっていて、それを加工したからこその性能差なのだろう。尤も、触っただけで属性が測れるミステリークリスタルとは違い、この魔導具は全力で魔法をぶつけなければ魔力と属性が測れない、という多少のデメリットはあるらしいが。


 そして言われた通り順番に並んだ生徒たちは、武術試験と同じように一人ずつ、闘技場の中央に置かれた結晶に向けて魔法を放ち、測定を開始する。魔法適性試験のスタートだ。

 生徒が魔法を放つと、魔力測定結晶はその魔法を飲み込むようにして吸収し、火属性の魔法を受ければ結晶が赤く光り、上に数値が表示される。今しがた生徒が放った魔法は火属性で、表示された数値は385。平均値が分からないため指標がないが、平然とした試験官たちの顔を見るに、平均値かそれ以下なのだろう。


 そこから次々と試験は進み、早くもやってきたのはラフィの順番である。ここまでの生徒たちの数値は396、440、528……最高でも730など、平均して見ると400から500付近が普通の範囲なのだろうということが分かっていた。

 しかし、それは魔法が得意な者の平均値と一概にはいえない。ここまで試験をやってきた生徒たちが魔術士専門でも、魔法が得意な者でもない可能性もある。そして対するラフィは立派な魔術士、それもA級だ。彼女のおかげでようやく魔術士並の魔法の平均値が割り出されるといったところだろう。……尤も、ラフィが並の魔術士であるならば、だが。


「ラフィやっちゃえーっ! いつもの凄いやつー!」

「分かってますよ、試験官も全力で……って言ってましたしね!」

 後方からシトラスに声をかけられつつ、『当然!』と言った様子でラフィは杖を構えて詠唱を開始する。


「『――燃え盛る炎よ、今――その形を変え、眼前の敵を穿つ弾丸となれ……!』」

 ラフィが詠唱を開始すると、周囲には渦巻くように膨大な量の魔力が漂い始める。それを見ていた試験官や後方で並んでいる生徒たちも、その魔力量を見て顔色が変わる。これを見ても尚平然としているのは、一部の生徒とシトラス、そしてルナ達だけであった。


「『――熱を秘め、猛り狂いて瞬き弾けっ!』最上級炎魔法――クラス7(セプタ)【ブレイジングエクスプロージョン】!!」

 ラフィが詠唱を終えると同時に、周囲に漂っていた膨大な魔力は収縮し、大量の小さな火球となる。闘技場全体を埋め尽くさんばかりに生成された一見初級魔法にも見える火球は、ランスローテとの戦いの時と同じで、見た目は小さくとも、中には大きな魔力を秘めていた。


「す……すげぇ……!?」

「ふーん、あれが最上級魔法ね……」

「ほう、中々だな」

 ラフィの周囲に現れた魔力が大量に込められた数多の火球を見た他の生徒達は、何人か驚愕の声や感心したような声をあげていた。感心している生徒は恐らく魔法が得意な者たちなのだろう。これほどの最上級魔法が使えるラフィと同等か、或いはそれ以上か……。


「てーっ!」

 そしてラフィは上に挙げた杖を前へと振り下ろし、火球たちに攻撃の命令を出す。高速で飛来する大量の火球は止まることを知らず、次々と連続で結晶に着弾し、連鎖して大爆発を巻き起こす。

 全ての火球が命中し、辺りを覆い尽くしていた爆煙が晴れると、魔力測定結晶は無傷のままだった。全力の魔法を受けて魔力を測るというだけあって、やはり頑丈な作りになっているのだろう。

 そしてラフィの大技を受けた魔力測定結晶は炎属性を表す眩い赤色に光り、結晶の上に書かれていた数値は――。


『2239』


 それは今までの生徒たちの中では頭一つ抜けて高い数値だった。あの破壊力に見合った結果と言えるだろう。数値を見た試験官も生徒たちも、皆驚いたような顔をしていた。


「さっすがラフィ! 今までで一番じゃん!」

「これでも一応A級の魔術士ですからね。そのへんの学生と同じにされちゃ困りますよ」

 ラフィの試験は皆を驚かせる結果で終わり、戻ってきたラフィを感心した様子で褒めちぎるシトラス。二人はチームを組んでからというもの、更に友情が深まっているようだった。

 試験官はうんうん、と結果に満足そうな顔でササッと紙に何かを書き綴る。魔力の数値と属性、そして評価を書いているのだろう。ラフィはアロンダイト帝国の時とは違い、最上級炎魔法を行使してもバテることなく平然としていた。きっとこの十数日の間で彼女も色々と修行をしていたのだろう。


 ラフィの試験が終わった次は、その後ろに一緒に並んでいたシトラスの順番だったが、残念なことにシトラスは魔法が得意ではなく、魔力も少ない。そのため初級魔法ですら放つことが出来ないため、魔力測定結晶に直接触れて魔力を全力で流し込む形で試験は進んだ。

 結果、魔法の属性は光属性で、数値は『110』と今までで一番低いものだった。武術試験では良い手応えがあったが、魔法適性試験では散々な結果に終わってしまった。人には得手不得手があるので仕方がないといえば仕方がないことだが……。シトラスは特に気にしていない様子であった。


「あっはは~……やっぱり私、魔法はてんでダメだ~!」


_


 そしてそこからさらに試験は進み、貴族というだけあって後半の数値の平均は高く、1242、1121、1569、1720と、魔力の高い生徒が増えてきた。どうやら前半に試験を受けた三桁の者たちは比較的才能の低い平民や男爵家だったり、またはシトラスのように武術ではいい成績を残したが魔法は苦手……といった者たちのようだった。

 事実、武術試験でダミーに亀裂を入れた白髪の少年アレンも、この試験では魔力数値は1011と、魔術士達に比べればやや低めなものだった。尤も、それでも十分一般的な魔術士としてやっていけるクラスの魔力ではある。侯爵家ともなると武術と魔術両方の才に長けている者も少なくはないのである。


 全生徒のうち、3分の2ほどが終わった頃、ようやくこの学園に入学する生徒達の魔力平均値が割り出されてきていた。侯爵家は魔法が得意な者は2500から、そうでない者までで1000程度。伯爵家は2000から900程度。子爵家は1600から700程度。

 男爵家や平民はそこまで大きい差は無く、どちらも1300から200程度とかなり幅が広いものだった。ちなみに、ここまでで魔力数値100台を計測したのはシトラスただ一人だけである。その結果は彼女の魔力の小ささ、魔法の苦手さが窺える。逆に、貴族ではないはずのラフィの魔法の才が素晴らしいものということも判明していた。

 生まれ持った才能に加え、何年もの間努力を怠らず鍛え続けたラフィは、平民にも関わらず侯爵家や伯爵家にも負けないほどの魔力を持っているのだ。だが、貴族というのは、そういった努力をしなくともそれに匹敵する程の魔力を持っている。才能の差というのはそれほどまでに大きいのである。


 そしてこの学園にもそう多くはない公爵家の人間。公爵家は他の貴族に比べ、武術、魔術にかなり長けており、特に魔法の才は飛び抜けて高いと言われている。そんな公爵家の生徒は、ルナ達新入生の中にも数人いた。


「はぁ……この程度ですか、王立学園の生徒の魔力は……。もう少し期待していたのに」

 前の生徒と入れ替わるように魔力測定結晶の前に立った、長く艷やかな金髪を編み込みにした可憐な少女。少女の名は『リュミエル・フォン・ベアトリクス』。デュランダル王国において一際大きな力を持つ東の名門貴族、ベアトリクス公爵家のご令嬢だ。

 リュミエルは自分の一つ前の生徒の結果を見て、今までの生徒たちの結果も加味した上でキツい評価を言い下す。リュミエルの前の生徒は伯爵家の少年で、彼が出した数値は1530と、今までの生徒たちの中でも高い部類に入るはずなのだが、公爵家であるリュミエルにとってそれは()()()()()()()()ようだった。むしろ、『その程度』と言ってしまえるくらいには。


「『――疾風迅雷、雷鳴轟く閃光の稲妻……風吹き荒れ豪嵐と化せ!』最上級雷嵐魔法……クラス8(オクタ)【エクレール・テンペスト】!」

 先程の発言を裏付けるように、彼女が魔力を溜めて放った魔法。それは雷属性と風属性を合わせた合成魔法、最上級雷嵐魔法であった。どこからともなく現れた雷雲と暴風は、強大な質量を宿し、混じり合い、雷を宿す巨大な竜巻は魔力測定結晶に向けて進撃し、激しく雷を散らしながら衝突する。

 ここまでで最上級魔法を使えたのはラフィを除いてごく一部の上級貴族のみで、それも複雑で難易度の高い合成魔法ではなく元素の五属性の魔法だった。そして同じ最上級魔法といっても魔力には差があり、測定された数値は2500から1500といったところ。

 しかしリュミエルの放った雷嵐魔法の衝撃が落ち着き、魔力測定結晶が姿を現すと、結晶は雷属性を現す黄色と風属性を現す薄緑になっており、結晶の上に書かれていた数値は……。


『3893』


「なっ……!?」

「おいおい、俺たちとは桁違いじゃねえか……!」

「全生徒でもトップクラスだな……」

 魔力測定結晶が表示したリュミエルの桁外れの魔力。それを見た他の生徒たちは口を揃えて驚いていた。数値を見なくとも、今の荒れ狂う雷嵐魔法を見た瞬間、自分たちとは格が違うことを一瞬で理解はしていたのだが。


「あら……これくらいで驚くんですね? 尚更期待外れ……この学園なら私の求める人が見つかると思っていたのに、残念……」

 リュミエルは他の生徒を見下しつつ吐き捨てるようにそう言うと、凛とした佇まいのまま後ろへ下がっていってしまった。バカにされた生徒たちにとって、それはなんとも腹立たしい態度だったが、今のリュミエルが放った迫力満点、威力十分の最上級魔法とその結果を見て、言い返すことも出来ないようであった。


 貴族は生まれ持った才能の高さから、幼い頃から周囲に散々煽てられて育ってきたため、プライドの高い者が多い。それは公爵家や伯爵家、子爵家や男爵家などでも同じだ。

 当然、プライドの高い貴族は他人に見下され、自尊心を傷つけられることを良しとしない。それは自分よりも格上だとわかっている相手だとしてもだ。必ず恨まれ、報復される。故に貴族に対し、立場の弱い者たちは頭を下げ、媚を売るしかないのだ。

 だが、リュミエルは公爵家の令嬢。貴族の中でもトップのトップだ。さらにあれほどまでの実力。逆らえばどうなることかわからない。そのため比較的地位の高い侯爵家や伯爵家の生まれであっても、リュミエルに言い返す事はできないのだ。彼女があのような物言いができるのも、その立場と実力あってのものなのである。


 ちなみに王家や伯爵家の娘であるマナやカトレアは、地位が下の者にも比較的温厚で見下すようなことはないが、それは彼女たちの過去の境遇などが影響しているだけで、珍しいことなのだ。もし別の世界線というものがあれば、今とはまた違った性格だったかもしれない。


「貴族というのは凄いですね……私の記録もあっさり抜かれちゃいました」

「いやいや、ラフィも十分凄かったよ! 私なんて110だよ?」

「それはシトラスさんに魔法の才能が欠片も無いからですよ」

「毒舌っ!?」

 リュミエルの試験の結果を見て、簡単に、そして圧倒的に記録を抜かれてしまったラフィは少し落ち込んだ様子で呟く。すかさずシトラスは自分を犠牲にフォローを入れるが、相変わらずシトラスに対して辛辣なラフィにバッサリと斬り捨てられてしまう。尤も、これはいつものやり取りなのであるが。どうやら、シトラスが思っていたよりもラフィは落ち込んでいないようで一安心だった。


 そしてそこからさらに数人の試験が終わった頃、新たにもう一人の挑戦者(チャレンジャー)が現れる。


「他の生徒は中々出来るヤツが多いみたいだな? 褒めてやるよ、光栄に思え! ま、この俺"バジル・フォン・グレイス"ほどじゃあないが!」

 準備運動に身体を伸ばし、指を順番にパキパキと鳴らす短い輝く金髪の少年。バジルと名乗った少年は、自信満々に魔力測定結晶の前へと立ちはだかる。

 公爵家であるリュミエルの試験内容を見ていた生徒たちは、あまりの格差に萎縮してしまったのか、最初のように自信たっぷりといった表情の者は減っていた。……が、バジルは違った。自分の実力を疑わず、他人の実力も理解した上でなお自分が上だと信じて疑わない。

 そんなバジルの自信はどこから来るのか……それはバジルもリュミエルと同じ公爵家の生まれだからである。さらにその傲慢さを加速させた理由は、剣術と魔法、両方の才能を持って生まれたからだった。


 バジルは剣術と魔法の両方の才能を持つが、剣術のほうがやや上。得意な武術試験ではあえて手を抜き、苦手な魔法適性試験で結果を出そうと考えたのだ。得意、苦手、といっても、その差はほんの僅かなものだ。公爵家とだけあってその才能は普通の者と比べると凄まじいものだった。


「俺は最強だからな、剣を捨てても魔法で生きていける。お前ら底辺貴族達とは違ってな! 全く、自分の才能が恐ろしいぜ!」

 常に自分に対して絶対的な自信を持つバジルは、後ろで待機している自分より地位の低い生徒達や、魔力の低い生徒達を嘲るように嫌味をこぼす。公爵家といえど、さすがにその露骨な態度にイラッとしたのか、何人かの貴族生徒は前に出ようとする。


「公爵だかなんだか知らないが、見下すのも大概にしろよ!」

「あんたに馬鹿にされる筋合いなんて無いのよ!」

 そう言って生徒の何人かがバジルの元へ詰め寄ろうとするが、途中で行く手を遮るように炎の壁が迫り上がり、炎が生徒達を弾き飛ばす。


「ぐあっ……!?」

「熱っ……!」

 炎に弾かれ、尻餅をついた貴族生徒達。炎の壁がスッと消えると、彼らを見下ろすようにしてバジルは忠告する。


「お前らも貴族なんだろ? なら逆らってはいけない相手くらい判別しろ。あとで困るのは自分だけじゃないんだぞ? 俺は最強だからこの程度のことじゃ騒がないけどな! フハハハハッ!!」

 えらく傲慢で下を見下した態度ではあるが、貴族としての有り様をわざわざ忠告している辺り、バジル自体の性格はそこまで悪いものでもないのかもしれない。公爵家たる者、自信に溢れた立ち振舞いは重要だ。そうして育てられてきた影響があるのだろう。

 そしてバジルからの忠告を受けて、ハッとした様子で何も言い返せなくなっている貴族生徒を置いて、気を取り直したバジルは魔力測定結晶の前に陣取って右手を構える。直後、闘技場全体には、まるで標高が高い山中にいるかのような息苦しさを感じるほど、濃度の高い魔力が渦巻き始める。


「俺に長ったらしい詠唱は必要無え! 最強は常に最強! ――最上級豪炎魔法……クラス9(ノナ)【ダイレクトフレアブラスト】ッ!!」

 バジルはここまでの生徒たちの常識を覆し、なんと短詠唱のみで高クラスの最上級魔法を発動するという、やろうと思っても難易度が高くて簡単には出来ない芸当をやってのける。

 バジルが放った最上級豪炎魔法は、闘技場全体を漂っていた濃度の高い魔力を吸い込むようにして収縮し、一瞬の静寂が訪れたかと思うと、直後……周囲にいくつもの炎の輪を生み出し、その輪の中心からは高出力の炎で作られた巨大なレーザーが放たれ、魔力測定結晶を容赦のない威力で飲み込み、大爆発を引き起こした。



「なんて熱気と威力なの……!」

「他の最上級魔法とはレベルが違いますわね……」

「た、短詠唱でこれって……ちゃんと詠唱したらどうなっちゃうんでしょう?」

「すごーいっ! 豪炎魔法って炎魔法とは何がどう違うのかなーっ? やっぱり火力かな!?」

 バジルの強烈な豪炎魔法を見たルナ達……そして他の生徒達は、短詠唱にも関わらず、通常詠唱となんら変わりない……むしろそれ以上といっても差し支えない程の威力に驚いていた。これだけの威力の魔法を短詠唱で使えるのならば、あれだけの自信を誇るだけのことはあるといえた。

 最上級豪炎魔法をぶつけられた魔力測定結晶は、あの威力でさえも相変わらずその頑丈さから傷はついていなかったが、結晶はギラギラと赤く光り、その上には『3570』という圧倒的な数値が測定されていた。


「なんだこの結晶……めちゃくちゃ頑丈だなぁ? ぶっ壊すつもりで撃ったのによ~……」

 バジルは結果に対して特に何か特別な反応は無く、当然と言った様子だった。むしろ魔力測定結晶を壊せなかったことに対してぶつぶつと文句を垂れながら後ろへ下がっていった。本当に、どこまでも自信家なのだろう。

 同じ公爵家であるリュミエルよりも結果は下だったが、バジルの場合は短詠唱。比較しようとするだけ時間の無駄だろう。どちらが上かなど分からない。どちらにせよ、他の生徒たちに強烈なインパクトを与えたのは間違いない。


 そこからさらに数人挟んで、いよいよ順番が回ってきたのはクロエである。その次は一緒に並んでいたルナ達だ。ルナ達は列の後半に並んでいたため、ここまで順番が回ってこなかったのである。慎重なマナが提案したためだ。

 マナはギルドの昇格試験でも、中盤、または後半の順番を狙っていた。様子を見るためだ。他の者の結果を見て、何か気持ち的に変わることもあれば、学ぶこともある。尤も、対人ではなく自分の魔法だけで完結しているこの魔法適性試験ではあまり意味がないことかもしれないが、もはや癖になってしまっているのだろう……。


「よ、よーし……じゃあ、行ってきます!」

 ふー……と息を入れて気持ちを入れ替えたクロエは、ルナ達にそう言い残すと相棒の刀を手に、張り切って前へ出ていった。


「クロエくん、緊張してるなぁ……。なにか良い言葉を掛けてあげられればいいんだけどー……うーん……が、頑張れぇぇ!!?」

「良い言葉を掛ける話はどこへ行ったんですの?」

 張り切るクロエはどこか力が入っていて、ルナには緊張しているように見えた。そこで何か言葉をかけようと思ったのだが、そういったことに頭を使うのは苦手なルナは、結局シンプルな応援という形に落ち着いた。


「無理もないわよ。クロエの前の数人の生徒もかなり緊張していて、とても全力を出せているようには見えなかったもの。理由はまぁ……さっきの公爵家の影響でしょうね」

 緊張しているのはクロエだけではなく、その前の生徒達も同じだった。それは公爵家であるバジルの試験が終わってから現れ始めたものだったため、マナは十中八九それが原因と踏んでいた。

 恐らくは、バジルの傲慢さと、それに釣り合う圧倒的な実力と才能に気圧されてしまったのだろう。ストイックなマナにとって、そういった理由で自分の力を発揮できなくなることはよく理解できなかった。


「……まぁ、私にはよく分からないけれど、クロエは一人じゃないらしいし、問題ないでしょ」

 魔力測定結晶に向かって歩いていくクロエの背中を見ながら、チラとクロエの腰に差してある刀に目をやるマナ。そう、クロエは一人ではないのだ。いつも傍にはあの刀がいる。クロエの話を聞く限り、人の良い性格のようだし、その通りならば問題はないように感じていた。


「というか、ランクと実力が釣り合ってないルナと違って、クロエって本物のD級なんでしょ? ならそもそも貴族なんかと肩を並べられる結果にならなくて当然じゃないの? いったい何を気負ってるのかしら……」

「……マナさん、それは言ったらおしまいですわ……それになんて失礼なことを……」

「マナちゃんってばひど~い……」

 つい思ったことを口に出してしまい、カトレアだけでなくルナにまで咎められるマナ。仲間といえど、思っていても言ってはいけないことというものもあるのだ。マナ、失言であった……。


「ご、ごめんなさい……」

 マナは今の発言を振り返り、良く考えれば中々にキツい発言をしてしまったことを理解し、反省したところで、ついにクロエの試験が始まった。


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