44.武術試験。
武術試験が始まり、試験官に最初に呼ばれた生徒から順にダミーへと攻撃を加えていく。新入生の数は150と少しと中々に多く、かなり時間がかかるかのように思えたが、たった一度ダミーに攻撃を与えるだけなので、思っていたよりも試験の進行は早かった。
一人、また一人と次々に名を呼ばれ、30人ほどが終わった頃、次に呼ばれたのはマナだった。
(魔力は使っちゃいけないのよね……。なら、身体強化なしの剣術ってことね! 魔法なしでも剣の腕なら自信があるわ!)
マナは普段、戦闘の際には常に身体強化魔法を使っているため、魔法なしでの純粋な剣術だけというのは訓練の際を除いて久々だった。……が、幼い頃から一体誰に剣を習っていたのか。そしてそれをどれだけの期間一人で磨き続けたのか。それを裏付けるように、ダミーを見据えたマナは自信たっぷりに剣を構え、大きく踏み込む。
試験官や他の生徒、そしてルナ達が見つめる中、前に踏み込んだマナは、身体強化なしだというのにも関わらず、まるでそれを使っているかのような速度で加速し、速度の乗った強烈な威力でダミーを斬りつけ、小さな傷をつける。
マナの剣は、あまりの迫力に『おおっ……!』という声が生徒たちからあがる。ここまで呼ばれた生徒達の中で、マナの剣術は一番と言っても誰も疑わないだろう。それを見ていた試験官や上級生達も、感心したような目でマナを見ていた。
ルナにとってもそうだった。十日間寝ていたルナにとって、マナの剣技を見るのは久しぶりで、アロンダイト帝国で見せたマナの動きとは全く違っていた。この十日と少しの間で、マナは大きく成長しているようだった。思えば、ルナの目が覚めた時も、マナは訓練帰りの様子だった。恐らくアロンダイトの一件が終わってから、この数日間は常に鍛錬し続けていたのだろう。
マナの強さへの執着はルナも理解していたが、家出をしてからの期間、強くなることだけを目標に鍛錬し続け、冒険者ランクを駆け上がっていったマナのモチベーションの高さと成長率には常々驚かされる。
今までも、何か評価をつけていたらしき試験官達は、満足そうに頷き、机に置かれた用紙にササッと何かを書き綴るとマナの試験は終わった。今までも指名された生徒が実力を示すと、こうして紙に何かを書いていた。恐らくは実力の指標や感想、評価などをつけているのだろう。
マナの剣を見た試験官達の反応を見るに、マナは間違いなく高評価であろう。それはマナ本人もなんとなく実感があったようで、満足そうな顔をしていた。
「ふふん♪ ま、いい手応えだったわ! 何のために鍛え続けてると思ってるのよ!」
満足気に鼻を鳴らして、自信満々にルナ達の元へ帰っていくマナ。当然ながら、見ていたルナ、カトレア、クロエの三人からは絶賛されていた。
そして再度、他の生徒の武術試験が再開し、十数人が終わった後。早くも次はカトレアの番がやってきた。
「カトレア頑張って~!」
「本気でやるのよ!」
「応援してまーす!」
ルナ達三人に鼓舞され見送られながら、カトレアは細剣を構え、ダミーの前に立つ。マナの順番が終わってからというもの、試験官たちや他の新入生たちの中でのハードルは逆に上がってしまったようで、それ以降にダミーに挑む生徒達にはかなりの視線が浴びせられていた。
それはカトレアも例外ではなく、試験官や生徒たちはカトレアの所作ひとつひとつに注目していた。
(マナさんの成長ぶりには驚かされましたけれど、わたくしだって何もしていないわけではありませんわ。自己流で編み出した剣技は、自己流でしか磨けない……それを今、魅せる時!)
マナの成長した実力を見て驚いていたのは、ルナだけではなかった。カトレアも同じだ。同じ高貴な家の生まれで、同じように家出をして、お互い強くなるという目的を持った歳の近い仲間。カトレアにとって、マナは所謂ライバルというやつだ。
そんなマナの成長っぷりは、剣技だけといえど、先程の一瞬ともいえる試験でよく理解出来た。今のマナは間違いなく自分よりも強い。さらにそこに彼女の得意な身体強化魔法を使えば、その差は歴然だろう。
「ふぅっ……!」
だが、逆にそんな差を見せられて、カトレアは燃えていた。息を抜いたカトレアは、ダミーに向けて意識を集中させると、愛剣であるレイピアを構えて鋒をダミーに向ける。
すると、周囲には小さな風が巻き起こり始める。それを見ていた周りの生徒達はざわついていた。
「えっ、魔力って使ったらだめなんじゃ?」
「試験の内容も覚えてねえのかよ……」
「おい! 魔法は使うなってさっき言われただろ!」
カトレアの周囲を漂う風を見て、ざわざわと騒ぎ出す生徒たち。中にはカトレアに対して声をあげるものもいた。そして同じくそれを見ていた上級生も怪訝な顔をしていた。だが、試験官たちは違った。
「ふむ……魔力のようでまた違った感覚ですな、これは」
「あの子が纏うようにして吹いている風……あれは魔力じゃにゃいにゃ」
「そうだな。決してルール違反はしていない。あれは私のように魔力を使うのが苦手な者が身につける、気というものだ。まだ小さいが……きっと、彼女の類稀なる集中力がこの土壇場で気を高めたんだろう」
――気。それは魔力とはまた違った、体内に宿る潜在的な力のことである。気を使いこなすことで、効果は様々だが、戦闘や日常生活において有利な効果を得ることができる。具体的に言うと、自分の背後に誰かが立っている時になんとなく誰が立っているか分かる……など、そんな感じである。
試験官である教師の一人とキャティアとアレスの話は、近くにいたルナ達の耳にも入っていた。ごちゃごちゃと騒ぐガヤに嫌気が差していたが、ルール違反などカトレアがするはずもないことは分かっていたので、アレスの言葉を聞いたルナ達はむしろ、騒ぐ生徒達を見て優越感のようなものを感じていた。
(なんだか身体が温かい……力が湧いてくるようですわ……。魔力は使っていないのに、不思議な感覚……これなら!)
集中を途切れさせることなく小さな風をその身に纏ったカトレアは、温かい感覚に包まれながらも、これなら行けると細剣を握る手に力を込めて前へと踏み込む。
「はぁっ!!」
まるで身体が風になったかのようだった。風になったカトレアは重さを忘れたかのように加速し、目にも止まらぬ速度でダミーを一閃した。
残念ながら頑丈に作られたダミーを真っ二つとはいかなかったが、あの頑丈なダミーに僅かながら傷をつけた。カトレア自身、今の攻撃にはいい手応えを感じていた。試験官も満足そうに頷いて紙に評価を書き綴る。
文句を言っていた生徒たちも、今のカトレアの動きを見て、もはや文句すら出ないほどに唖然としていた。悠々とルナ達の元へ戻ってきたカトレアは、ルナ達とハイタッチして笑顔を見せていた。
そして再度試験が再開し、数人の試験が終わった後……ルナ達含め他の生徒たちは、またしても驚くことになる。
「――ラァッ!!!」
ガガガガッ!
ガキンッ!!
「「「「!?」」」」
一人の生徒の番となり、あいも変わらず集中して一同は試験を見ていた。その中で、呼ばれた短い白髪の生徒が放った斬撃は、目にも止まらぬ速度と驚異的な威力で、ダミーに大きく傷をつけ、亀裂を入れたのだ。
金剛石も含む頑丈な素材から作られたダミーに亀裂を入れるなど、普通は考えられないことだ。それも、魔力なしで。おまけにあの剣技……我流だろうが、凄まじい迫力だった。上級生や新入生徒達のみならず、教師達も驚いていた。
「こりゃたまげた」
「にゃ~……世の中は広いにゃ……」
「……驚いたな。まさかアレに傷どころかヒビを入れるなんて……まぁ結構前から使っているせいで古いのもあるんだが……それを抜きにしても素晴らしい才能だ!」
ダミーに亀裂を入れた白髪の生徒の評価は、教師たちには絶賛だった。
「ふん……当然か。俺は世界を獲る男だからな。トップを獲るためなら何だってやってやるよ……!」
今しがたダミーに亀裂を入れ、皆から絶賛されていた白髪の生徒『アレン・フォン・グランベルグ』は、今の結果に満足した様子で、自慢げに鼻を鳴らしながら元の場所へ戻っていく。生徒達の間では、暫くは注目の的だった。
そして、そこからの展開は早かった。アレンの登場を機に、次々と猛者である生徒が頭角を現し始めたのだ。皆それぞれ、ダミーに傷を残す者もいれば、先程のカトレアのように気を操る者、目に焼き付くほどの高速の連撃を叩き込む者など、猛者達のバリエーションは様々だった。
アレンに続いて現れた才能ある猛者達は、皆そのほとんどが伯爵家以上の貴族だった。同じ王族、貴族であるマナやカトレアも、例に漏れず優秀な力を示したが、マナは努力の力。カトレアは対抗心の力によるものだ。それらと同等以上に並ぶ才能の塊達は、武術試験の熱を加速させた。
「皆凄いなぁ……」
「才能の塊って感じね。羨ましい限りだわ」
「さっきのマナちゃんもカトレアもすごかったよ?」
「なんだか不思議な体験でしたわ」
白熱し始めた武術試験を眺めながら言葉を交わすルナ達。残すはあと30人程度といったところ。この四人の中でまだ呼ばれていないのはクロエとルナである。
そんな四人の元に、懐かしき人影が近づいていた。
つんつん……
「んっ……? あっ!」
「こんにちは! アロンダイトでの一件以来ですねっ☆」
ふとルナが背中をつつかれ振り向くと、そこにいたのはアロンダイト帝国の任務で一緒になった第三チームの臨時リーダー、シトラスだった。
「シトラス! どうしてここに!?」
「久しぶりだねカトレア! ふふふ……それはね……」
ルナの驚くような声に釣られて振り返ったカトレアは、シトラスを見て嬉しさ半分、驚き半分といった様子で声をかける。訊ねられたシトラスは答えようとするが、そこでシトラスのさらに背後からまたしても見覚えのある少女が歩いてくる。
「ちょっとシトラスさんってば、置いて行かないでくださいよ……!」
「あぁ、ごめんごめんラフィ! ルナちゃんさん達見つけたらテンション上がっちゃって……」
シトラスに続いて現れたのは同じく元第三チームのメンバー、ラフィである。シトラスに聞けば、二人はどうやらギルドマスターの図らいで、『エクリプス』のように推薦入学でここに来たという。
「私もう冒険者歴は5年になるんだけど、ギルドマスターに『お前はまだ若いし経験が浅い!』って言われて半ば無理やり入れられたんだよね! ラフィも同じ感じだよ」
「あのヒゲオヤジ、これは借りにしてやりますからね……」
事情を話したシトラスと恨みたらしくギルドマスターに対して嫌味を垂れるラフィ。どうやら二人とも、あれから変わっていないようだ。変わったことと言えば……。
「あれ? そういえば、お二人はどうして一緒なんですか?」
「確かにそうね? 任務が終わったのなら臨時チームは解散のはずだし、一緒にいる理由がないわね」
ふとクロエが疑問に思ったことを投げかける。確かにそうだ。アロンダイトでの臨時チームはあくまでギルド側とオリヴィアの提携で組まれたチーム。互いに面識はないはずだし、皆それぞれ元々入っていた自分のチームもある。ソロの者は別だが。
臨時であるチームは事が終われば解散し、皆自分の元いたチームへと帰っていくのだ。それ故、解散したはずのシトラスとラフィが一緒にいることは不思議だった。それにはマナも同意した。
「ふっふっふ……! 実はなんと! 私とラフィは新たにチームを組んだのですっ!」
「「「「おおっ……!」」」」
シトラスは自信たっぷりに溜めてからドヤ顔で語る。ルナ達は声を揃えて驚きを露わにする。
「そんな溜めて言う事じゃないですよ。あ、ちなみにチーム名は『パッションフレア』といいます! あれからシトラスさんと仲良くなって、ちょうど前のチームにはうんざりしてたので鞍替えって感じですね」
ジト目でシトラスを見つめつつ、補足で説明を付け足すラフィ。相変わらず口は悪いままのようだ。仲良くなったというのは、恐らくシトラスとラフィは気が合ったのだろう。戦いの際、ラフィはかなりシトラスを心の拠り所にしている節があった。きっとその影響もあるのだろう。
口は悪いが、ラフィは内心ではシトラスをとても信頼している。それはルナ達から見てもよく分かった。
「そうなんだ! おめでとう! お互い新人チームとして頑張ろうね?」
「はいっ!! そう言って貰えると嬉しいです! 一緒に頑張りましょーっ!」
新たにチームを結成し直したということは、シトラスたちもチームとしては新人に当たり、再出発という形になる。ルナ達『エクリプス』と同じである。似たような境遇でさらに友人同士ということで、これからもよろしくやっていければいいと、この場の全員は考えていた。
そんな世間話に花を咲かせていると、次第に試験の手は進み、シトラス、ラフィ、と呼ばれていき、次に『エクリプス』から呼ばれたのはクロエだった。
……ちなみに拳闘士であるシトラスはともかく、ラフィの試験はただ杖でダミーを殴ってみただけで終わった。その時ダミーから聞こえた音は『ぽこっ……』であった……。
「もう僕の番……で、でも刀を抜けばアルさんが代わってくれるし……」
緊張した様子でダミーの前に立つクロエ。後ろではルナ達が見守ってくれている。が、他の生徒にも注目されているし、試験官にも注意深く見られている。クロエが緊張するのも無理はなかった。
しかし実際に刀を抜けば、その身体を使うのはクロエではなく、身体を借りたアルだ。これまでの経験も加味し、アルに任せた戦闘自体に不安はない。……なかったのだが、そこでクロエが刀を抜く直前、背後からアルの声がかかる。
『なあクロエ。ここはお前が勉強して強くなるための学び舎なんだろ? なら、お前がやるべきだ。俺はこの学園にいる間、お前の身体は借りないことにする! それがお前のためになると俺は思うからな』
「えぇっ……!? でっ、でも僕、アルさんと会ってから戦闘のほとんどをアルさんに任せてましたし……ろくな修行も出来てないですよ?」
思わぬアルからの言葉に動揺するクロエ。アルと出会い、契約をしてからというもの……刀を抜いた際の戦いは全てアルに任せていた。クロエ自体が刀を使って戦闘したことは今まで一度もないのだ。そんなクロエではこの武術試験、まともな結果が出ないだろう。他の誰よりも、クロエ自身がそう思っていた。
『なんだ、そんなことか。大丈夫だろ! 物事ってのは、何事もやってみなきゃ分かんねェもんだ! ほらっ、早く刀抜いてみろって!』
「うう……急に不安が押し寄せてきた……」
謎の自信に満ちたアルに背中を押され、渋々話を受け入れたクロエは恐る恐る刀を抜く。当然だが、刀を抜いても意識が切り替わることはなかった。こうしてクロエがこの刀を握るのは、初めて刀を手にした時以来だ。
クロエは不安に包まれながらも刀を強く握り、ダミーに向けて武器を構える。しかし、初めて自分で刀を構えたというのに、どこか手に馴染む感覚があった。そして構えも、まだどこか拙い感じがあるが、様になっていた。
不思議そうな顔をしているクロエを見たアルは、何か納得したように頷くと、クロエの側に寄り、肩に手を乗せる。
『いいかクロエ。今だけでいい。自信を持て。今この瞬間だけ、『自分は最強だ』という強い自信を胸に持て。ずっとじゃなくていい。後から自信はついてくるもんだからな』
「自分が最強だという……自信……」
アルは、刀を構えたクロエに対し、ゆっくりと落ち着いた口調で指導を始める。こんな状況ではあるが……いや、こんな状況だからこそ、アルはここでクロエの成長を促そうとしたのだ。
ここは王都一の学園なのだ。クロエの成長にはいい機会だろう。アルは契約のこともあるが、一人の男としてクロエを強くしてやりたいと思っていた。
『腰を落として刀をそのまま左の脇腹に差すように持っていけ。左手は鍔に添えるだけだ』
「は……はいっ……!」
アルの指示通り、姿勢を低くしたクロエは右手に持った刀を左脇に通し、左手を刀の鍔に添える。その型は、まさに"居合"だった。
(これっ……いつもアルさんが攻撃する時にしてた居合の構え……覚えてる。身体が、脳が、心が……!)
言われた通りに居合の形をとると、クロエはこの感覚に覚えがあった。一連の動作はまるで誰かに支えられながら動かしているかのようにスムーズに身体が動き、その構えをとった。
そしてその後、どうなるのかも身体が覚えていた。そしてクロエの側で、アルは続ける。
『まださっき言ったこと、忘れてねぇか? 今のお前は"最強"だ。なんだって斬れる! さぁ! あとは分かるはずだ! 俺がいつもやっていた動きだ! そこから右足を踏み込んで――』
「――後方の左足のつま先に力を入れて、前方へ加速――ッ!」
アルの言葉を継ぐように、クロエは身体が感じている過去のアルの動きを思い出しながら、口に出して身体を動かす。前方に向かって高速で加速し、ダミーに接近したクロエ。そしてクロエはそこで刀を握る手に力を込める。
『「――添えた左手を軸に身を捩り、重心を変えて刀を抜き放つ!」』
アルと声を揃えながら、身体に導かれるままに刀を脇から勢いよく抜き放つクロエ。その間、わずか一秒程度の出来事だった。刀を抜き放ちながらクロエは叫ぶ。薄霧の森で身体慣らしという名目で暴れていた時、アルが使っていた技の名を。
「【静剣・ヨコシグレ】!!」
―――……。
(……俺は元々魔力なんか使えねぇ。いつもはクロエの身体に魔力があるから使ってるだけだ。だから、魔力なんか無くたって俺たちは戦えるんだぜ?)
アルはクロエが見事に自分と同じ技を成功させたことを確認すると、嬉しそうに口角をあげながら思い耽る。呆然としているクロエの眼前には、両断とは行かないまでも、斜めに大きく斬り跡がついたダミーがあった。
「僕……本当にできた……? それにこの傷跡……僕が……!?」
今まででダミーに目に見えるほどの傷をつけたのは、どれも才能の高いと言われている上級貴族の生徒たちばかりだった。だがその中で唯一平民であるクロエは、それらと並んで同等か、同等以上の力を示したのだ。それは周囲にも、そして自分でも信じられないことであった。
この武術試験での評価がどういった影響を受けるのかは分からないが、とにかくクロエにとっては嬉しいことだった。成長を実感し、同時にアルに頼りっぱなしだった現状も変わっていく……そう、思えたからだ。
「わーっ! クロエくん凄いね!? 今のって自力だよね!?」
「凄いじゃない! 自分の力であのダミーに傷をつけるなんて!」
「気の所為でなければ、雰囲気がいつも刀を抜いたときとは違うように見えましたけれど……もしかして?」
元の場所へ戻ると、クロエはルナ達に絶賛されていた。そしてルナ達は気づいていたようだ。アルがクロエの身体を借りていないことに。ルナは持ち前の直感で、マナは立ち回りの僅かな違い、カトレアは雰囲気から。クロエが事情を話すと、ルナ達は声を揃えて驚いていた。……と、同時に感心もしていた。仲間の成長とは、自分のことのように嬉しいものなのである。
「今年は優秀な生徒が多いみたいだね、キャティア?」
「……にゃ~」
ルナ達が盛り上がっている中、アレスとキャティアはクロエの結果を見て、今までの生徒たちを振り返りながら話していた。キャティアは適当に言葉を返すと、ごろりと台の上で横になってしまった。猫特有の気まぐれというやつなのだろうか。アレスは苦笑いしながらも試験の続きを楽しそうに眺めていた。




