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天才と脳筋は紙一重  作者: たんすちゃん
《第二章》-王国奪還編-
40/100

40.空白の十日間!

「ん――、んんっ……!」

 ぼんやりと意識が覚醒して目が覚める。


「ここは……」

 目を開けると、そこは見覚えのある天井。目をゆっくりと動かし周りを見れば、見覚えのある部屋。いつもの宿屋だ。マナちゃんと二人で寝泊まりしている、あの宿屋。隣には戦ってた時から見当たらなかったレーヴァテインが立てかけてある。誰かが拾ってくれたのかな?

 あの時、あの悪魔を殴った後……あそこから記憶がない。きっとあの時から気絶してたんだ。理由は……まぁ間違いなく、身体強化魔法の酷使……だよね……。


 ――光魔法が得意なスエズお爺に教えてもらった光魔法のうちの一つ、"身体強化魔法"。誰も傷つけないし、自分にかけたり他人にかけたりと小回りが利くし、詠唱が短くても効果がそこまで大きく減衰しない、すごく使い勝手のいい魔法。私はそれが気に入って、沢山練習したけど、どうやっても超えられない壁があった。それは――二重で強化をかけた際の負荷。

 身体強化魔法は短時間で二重に付与すると、一時のあいだだけ限界を超えられる。一人で山籠りしてた頃、それに初めて気づいた時は感動して走り回ったなぁ……。


 ……でも、その代償は大きかった。二重の身体強化は、確かに限界を超え、身体能力や代謝が通常の数十倍近くまで跳ね上がる。だから傷も治癒魔法並の速さで治る。……だけど、効果時間が4分の1くらいになっちゃうんだよね。

 それだけじゃない。効果が切れた後、数日間は凄まじい疲労度から意識を失う。それに初めて気づいた時は最初とは別の意味で走り回ったなぁ……。まぁ、()()を超えるってことは、そういうことなんだろう。


 ……まぁつまり、今はアロンダイトからデュランダルに帰ってきてるわけなんだけど、多分その通りなら、もう数日は経ってるんだよね。今まで二重強化をして気絶した時の過去最長期間は……5日間だったかな? コレに関しては独学で得た魔法の使い方の結果だからしょうがないんだけどね……。


「ふぁ……ぁっ。なんか身体が重いなぁ。まだ二重強化の影響が残ってるのかな……」

 ベッドの上で身体を起こし、恐らく数日ぶりに思いっきり伸びをする。二重強化のせいで身体を酷使したためか、とてつもないぐらいにパキパキと骨の音が鳴る。傷は無理矢理二重強化で治したけど、あんなに大きな怪我したのなんて何年ぶりだろう……。などと窓の方を見ながら考える。

 すると後ろでドサッと何かを落とすような音がして、振り返るとそこには訓練でもしていたのか、床に剣を落として呆然とこちらを見ているマナがいた。


「ルナ……?」

「あ、マナちゃん! おはよっ――!?」

 わなわなと震えるマナちゃんに対し、私がにへらと笑って声をかけようとすると、セリフの途中で飛びついてきたマナちゃんに強く抱き締められた。まあもう傷は治ってるから、別に痛くはないけど。

 そうして数分くらいの間だろうか。マナちゃんの温もりを感じながら静かな時間が続いていたころ、ようやく私はゆっくりと口を開いた。


「えっと……? そろそろ大丈夫?」

 私は恐る恐る訊ねる。マナちゃんに抱き締められてるのは温かくて落ち着くし、いい匂いだしで好きなんだけど……流石に無言で抱きついたまま数分は不安になってくる。ずっとこのままってわけにもいかないし、ちょっと惜しいけど聞きたいこともある。


「ごめんなさい……つい……」

「うん、それはいいけど……やっぱり数日くらい寝てたよね?」

 マナちゃんは私の言葉を聞いて私から離れると、さっき落とした剣を拾いにいく。その背中に向けて私は声を投げかける。今までと同じならやっぱり3日とか4日とか……意識がなかったってことだし、心配もかけたよね……。だからさっきはあんな風に飛びついてきて――……。

 そこまで考えた辺りで、振り返ったマナちゃんから出た言葉を聞いた私は度肝を抜かれた。


「数日どころじゃないわ! あれからもう十日よ!? 心配したんだから!」

「十日かぁ~。……十日!? ……えええええっ!?」

 十日……!? そんなに寝てたの私? 寝坊助にも程が……じゃなくて! ――今までじゃ一番長くても5日程度だった……。2日だったり3日だったこともあるけど……きっとその違いの理由は……疲労度。二重強化を使う直前に負傷していたり疲れていたり、二重強化を使った後に負傷したり無理をした場合、多分その差で反動の大きさが変わる。

 ……で、多分今回の気絶が10日っていう長い期間な理由は、今言った理由の両方……前者と後者だから……かな? 一個目。二重強化を使う前……私はあのベリトっていう悪魔に魔剣で身体を深く斬られて腹を貫かれた。ぶっちゃけ死ぬかと思ったけど、それぐらい疲労したってこと。

 二個目。二重強化を使った後……その深い傷はたちまち治って、本気で踏み込んで悪魔を殴った。傷の治りが早くなるのは魔法で代謝が数十倍にもなるからだ。でもそれは無条件じゃない。通常の身体ではあり得ないような挙動で活発に細胞とかが活動した結果、きっとそれはとてつもない疲労を生んだ。

 ……つまりは疲労に重なる疲労の反動の結果、過去最高記録を大幅に更新して2倍の10日間もの気絶期間になった……ってこと。大寝坊じゃん……。


「と、十日も寝てたら流石に色々あったよね……よかったら聞かせてくれる?」

「そ、そうね……そりゃ知りたいことも沢山あるわよね……。まず、貴女が気絶してからのことだけど――」

 私が訊ねると、マナちゃんは当然だ、とベッドに腰掛けながら、あの後起きたことについて話してくれた。私が気絶したあと、カトレアとマナちゃんは当然心配したんだけど、疲労で気絶しただけってことに気づいて一旦落ち着いたみたい。……まぁ、その疲労が半端なくて、気絶期間も数時間とかじゃ済まないんだけどね……あはは。


 そしてその後、気絶していた面々は皆時間が立つとその場で目が覚めて、ランスローテは改めて皆に謝罪とお礼を告げたらしい。それで洗脳が解けた兵士達もまだ気絶していたり怪我していたり人も多いからってことで、私の使った治癒魔法のおかげで比較的元気だった皆は、それぞれのところにいる怪我人とか錯乱している人たちの元へと向かって、手当てと事情を説明したんだそう。

 全てが終わった後、アーサー達カリバーン王国の人たちは、私達デュランダルの冒険者に凄く感謝してたみたい。そんなに大きなことをしたようには思えないんだけども……。


 私が一番驚いたのは、カトレアがたった一人であの数の兵をなんとかしちゃったこと。カトレアのことは信じてたけど、本当になんとかしちゃうなんてやっぱり凄いよ。それに、そんな100近い人数差で余裕なんかないはずなのに、死者は誰もいなかったらしい。尤も、死ぬまではいかなくとも、やっぱり大怪我した人はいたみたいだけどね。


「重傷だったラフィやトリスタンもすぐに目が覚めて、念のため数日間の休養を経て、今ではもう普通に過ごしてるらしいわ。というか、未だに目が覚めていなかったのは貴女だけよ」

「そっか、エディンさん以外は無事だったんだね。……ごめん。私がもっと早くあの魔力から脱出出来てたらエディンさんもきっと……」

 マナちゃんの説明を聞いて、私は安堵と共に強い後悔を感じた。そうだ。私がもっと早く戦いに参加出来ていれば、もしかしたら怪我人も減らせたかもしれないし、死者も出なかったかもしれない。犠牲がエディンさんだけだったのは不幸中の幸いかもしれない……けど、決して最高の結果とは言えない……。


「きっと……とか、たられば……は無しよ? 彼が亡くなったのは貴女のせいじゃない。あの悪魔のせいよ! あいつがいなければこんなことにはなってない。

 でも、まだ脅威は去ってないわ。最後、あの悪魔……ベリトは去り際にこう言った――『いつか必ず殺しにくる! その時まで震えてやがれ――』……と。あいつはいつかきっとまた現れる……なら、マイナスな事考えてないで、それまでに今よりもっと強くならなきゃ!」

 落ち込んでる様子の私をマナちゃんはマナちゃんなりに慰めてくれた。きっとカトレアやクロエくん達も同じことを言うだろう。みんな優しいから。我ながら、いい仲間に巡り会えたと思う。

 それにしても、悪魔がまた来るって結構大事(おおごと)だよね……。私も次こそは最初から戦えるようにして、犠牲者が出ないように頑張らないと!


「うん。ありがと、マナちゃん。私ももっと強くなろうと思う! 一緒に頑張ろうね!」

「その意気よ! あの悪魔には借りもあるしね! それじゃ、私はルナが目覚めたことをお医者様とか他要人に伝えてくるから、もう少し待ってなさい!」

 そう言うとマナちゃんは嬉しそうに部屋を出て駆けていった。そっか、十日も寝たきりだったんだもんね。そりゃお医者様も呼ぶよ。多分意識がない間も何回か診てもらったんだろうな。じゃあこの後私に待ってるのは目覚めの健康診断ってとこか。正直、すぐにでも身体を動かしたいところなんだけど――……。


_

_

_


「333……334……335……」

 数分後……私はただベッドで待つのも飽きて、部屋の中で逆立ちし、片手で腕立て伏せをしていた。日課の筋トレだ。十日も寝たきりだったなんて、筋肉が萎えちゃうよ! 筋トレは継続が命! 皆頑張ろうとしてるんだ……私も強くなるには色々試さなきゃ!

 そんなこんなで十分程度の間筋トレをしていたんだけど、途中でお医者様を連れて部屋に入ってきたマナちゃんに見つかってブチギレられた。『病み上がりなんだから変なことするな』だって。私はもう大丈夫なのに?


 そして私は後ろからマナちゃんに見守られながら、お医者様からの数分間の簡単な問診、聴診、触診を受け、特に問題はないと言われた。


「恐らく過度な疲労……魔力切れや、大規模な魔法を行使した際に起こるものと似た疲労から来る意識途絶でしょう。十日間も昏睡状態だった理由はわかりませんが……。身体に問題はありませんが、念のため無理はしないように」

 そう言うとお医者様は念を押してから部屋を出ていった。王都では結構有名な人らしい。わざわざそんな人呼ばなくても私は元気なんだけど……マナちゃんは過保護だなぁ……。


「ふぅ。何事もないみたいで良かったわ。それにしても魔力切れや大規模な魔法ねぇ……。たしかに、あの時ルナの使ってた魔法はすごかったけど、そんなに負荷がかかってたようには見えなかったんだけど……?」

 あ、そっか。マナちゃんは理由が分からないんだった。そりゃそうだよね、いきなり倒れて十日も寝たきりなんて、普通はあり得ないもん。

 そう思った私はマナちゃんに説明することにした。なぜ私がここまで大きな疲労が溜まったのかを。


「えーっとね、その理由なんだけど……私が使ってた氷魔法とか治癒魔法は全然関係無くてね……?」


_

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「はぁ!? 身体強化魔法にそんな副作用が!? ていうか二重強化って何よ! そんな使い方したらそりゃそうなるでしょ!」

 マナちゃんに私が二重強化の影響で意識を失っていたことを話すと、マナちゃんは凄く驚いてたし、凄い怒られた。まぁそれもそう……なのかな? 『二重身体強化』は山籠りで修行してた頃に私が編み出した変な魔法の使い方だし……普通の使い方じゃないからこんな副作用も出ちゃうし、自業自得だよね。

 ていうか、ただ二重強化をするだけなら2日か3日程度で済むんだけど……今回は無理矢理致命傷を治癒しちゃったから例外なんだよね。言い訳ついでにそれも伝えたら、『今後はもうそれ使うの禁止!』とか言われちゃった。まあ昔は調子乗って沢山使ってたけど、私も好き好んで何日も気絶したくないからね。私はすんなり頷いた。


「もう……昔からそんな危険な魔法を使いまくってたなんて……おじいさんが心配するでしょ!」

「あ~……実はお爺は知らないんだよね、私がこの魔法を使えるってこと。修行の仕方的に何を出来るようになったかとか細かく教えてないんだ!」

 お爺がつけてくれた修行は複数あった。……けど、この二重強化を覚えた時にしてた修行は、一人で凶悪なモンスターが蔓延る山で山籠りをし続けて、どれだけ耐えられるかっていう精神修行みたいなものだった。だからお爺は修行中の私を見てないし、私も教えてないからこの魔法の事は知らない。

 ほんとは使った後に気絶しちゃうこの二重身体強化をなんとかしようと頑張ってたんだけど、どうしても無理だったから結局未完成ってことでお爺には内緒にしてた。マナちゃんとはさっき使わないって約束したけど、でもやっぱりたまにくらいなら練習させてほしいなぁ……。


「……身体強化魔法の"その先"ね……。私もそれを使えれば――」

 私の話を聞いたマナちゃんは何やらぶつぶつと呟きながら考え事をしていた。何を考えているのか分からなかったけど、マナちゃんは勉強熱心だからよく見る光景だ。私は暫くそれを眺めていた。

 するとマナちゃんは考え事が終わったのか、突然顔を上げてこちらに話しかけてくる。


「そうね! たまに、私達二人が同伴でなら、二重強化の修行を許すわ! どっちかが倒れたらどっちかが運ばないといけないしね?」

「ほんと!? なーんだ、マナちゃんも使いたかったんだ?」

 マナちゃんの口から出たのは、なんと危険な二重身体強化の修行をさせてくれるというものだった。……ていうのは口実で、多分マナちゃんも覚えたいんだと思うけど。二重身体強化。マナちゃん、強くなるためにいつも頭を捻ってるから……。


 でも私も気絶したまま放置っていうのはいつも危ないなーって思ってたし、ちょうどいっか! 山籠りの時は効果が切れそうな時に高いところに登ったり、誰も来ないような洞穴に隠れたり、あとは余裕が無くてその場で倒れたり……まあ、運が良かったんだと思う。

 マナちゃんは照れくさそうに顔を背けていたが、やっぱりそういうことなんだろう。私の()はよく当たる。


「ま、修行をするのはまた今度の話よ。一応、暫くは『エクリプス』の活動は休止にするから、もう元気とはいえしっかり休養するのよ? いい?」

「はーい!」

 マナちゃんは一旦話を落ち着かせ、暫くの休暇ということを告げる。マナちゃんの言う通り私はもう元気だけど、心配かけるのもアレだからちゃんと大人しくしていることにした。

 それだけ告げるとマナちゃんは用事があるのか、私に一度手を振ってから『じゃあね』と部屋を出ていった。それと、『そのうちもう一人来るから、外に行くのはもう少し待っていなさい』とも言われた。もう一人……さっきお医者様を呼びに行った時に声をかけてたのかな? 誰が来るんだろう……。


_

_

_


コンコン……


 15分程度が経った頃だろうか。ぼーっと窓から外を眺めていると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。


「どうぞ~?」

 と声をかけると、部屋に入ってきたのは艷やかな長い黒髪の女性。……誰だろう? 目を引くような綺麗な顔立ちの人……見覚えがあるような、ないような……。そんなことを考えているとその女性は適当な椅子に腰掛け、優しく微笑みながら話を切り出した。


「突然の訪問ですまない。姫様から君が目を覚ましたと聞いてな。覚えているだろうか? オルランド聖騎士団、団長のオリヴィアだ」

「ああっ!」

 思い出した。作戦前に演説と、会議室で作戦会議をしてた人だ。あの時は白銀の鎧を身にまとってたけど、今はお忍びなのか、私服だから全然気づかなかった。……でも、そんな人が何の用だろう?


「まずは……本当に良かった。君が生きていてくれて! 姫様も無事五体満足で任務を成し遂げられた! 君たちのおかげだ!」

 オリヴィアさんが最初に切り出したのは、私や私たちへの賛辞だった。そういえば、帝国に転移する前にオリヴィアさんはマナちゃんのことを気にしてたっけ。まあ一国の王女様を危険な戦地に赴かせるんだからそりゃそうだろうけどね。

 でも私たちは無事戻ってきた。……オリヴィアさんが直前に言ってた『全員生きて帰ってこい』っていうのは成し遂げられなかったけど……。私がもっと早く……いや、マナちゃんに言われたばっかだもんね。


「帰ってきた者達に事情は聞いた。皇帝ランスローテのことや、悪魔のこと、そしてエディンのことも……。だが、悪魔という強大なイレギュラーが現れたにも関わらず、ほぼ犠牲者なしで帰ってきたことは素晴らしいことだと思う。

 エディンが犠牲になってしまったのは残念でならないが、彼もまたこの作戦に参加した一人の冒険者。覚悟は出来ていたはずだ。私には尊い犠牲として冥福を祈ることしか出来ん……」

 どうやらオリヴィアさんは自分の立案した作戦で、悪魔というイレギュラーの出現とはいえ、犠牲が出てしまったことをかなり悔いている様子だった。でもその場にいたのに何も出来なかった私のほうが責任は大きい気がする。ましてや悪魔を退けても倒しきれなかった。挙げ句に十日間も寝たままだったなんて、つくづく落ち込むよ……。

 そんなマイナスな気持ちで空気が重くなるかと思えば、オリヴィアさんはすぐさま話を変えた。


「もちろん君の活躍も聞いている! 何やら魔剣の力で囚われていたというのに、それを内側から破壊したとか……」

「ああ……あれはそうするしかなかったっていうか、それしか思いつかなかったっていうか……」

 アロンダイトの魔力の中は、無が広がっていて気を抜けば心が黒く染められるような居心地の悪い場所だった。壁も無ければ地面も天井もない……あるのは暗闇と、心に隙を作らせようとしてくる思い出のまやかし。

 しかしそんな中で見たのはスエズお爺の幻影。お爺は私を堕とそうとしているようには全く感じられなくて、その言葉の一つにあった『魔力が使える』という発言で私は思いついた。『そうだ、この空間を魔法で破壊してしまおう』と。

 他に案は浮かばなかった。……っていうか考える時間も惜しかったから、思いついたそれを試した。苦手な完全詠唱でじっくり慎重に詠唱した"超級氷魔法"をあの中で放った。久しく出していなかった気がする全力で。


 まあそしたら空間に割れるように穴が空いて、出たらあの悪魔がいて、皆が集まってたんだよね……。久しぶりに会ったような感覚のせいで、思わずマナちゃんあたりに飛びつきそうになったけど、それどころじゃなかったっぽいし流石の私も空気を読んだ。


「しかもその悪魔を最終的に追い払ったのは君だとか? フェンリルに続き、悪魔までもなんとかしてしまうとは……君ならすぐにA級になれるだろうな!」

「あはは……逃げられちゃったんだけどね、悪魔……」

 正直、あの時の私は怒ってた。皆ボロボロにされて、死んだ人もいた……それだけ必死に戦ったのに、それを嗤ってたあのベリトっていう悪魔にムカついた。だから無理してリスクの高い二重強化を使ってまで戦った。

 ……でも倒せなかった。きっとあいつはまたどこかで悪さをして、人を襲う……そんな気がする。それは倒せなかった私の責任だよね……。


「そのベリトという悪魔については現在国を挙げて調査中だ。グリモワールの悪魔、序列12位ベリト……だったか。姫様の話では、奴は必ず再び現れると仰っていたが、如何せん、悪魔については情報が少なくてな。

 ――魔界に棲んでいるという悪魔は、召喚者との契約を以って我々の住む地上に顕現し、契約者の願いを聞き、時に人を騙し、時に人を殺す……狡猾で危険な種族だ。そんな悪魔がなぜひとりでに現世に現れ、カリバーン王国を狙ったのか……。

 遊びでやったということは本人からの供述があったらしいが、現世に契約者もなしに顕現出来た理由が分からない……。いや、契約者自体はどこかにいるのか……? それにグリモワールの悪魔など聞いたことも……」


(凄い真剣な顔で考え始めちゃった……)

 オリヴィアさんは途中まで悪魔の説明をしていたのに、話しているうちに熱が入ったのかあの悪魔の謎について深く考え始めた。真剣に考えているその顔はとても美しく、戦う女性には見えないほどだ。

 私は悪魔についてはよく知らない。でも序列12位ってことは12番目ってことだよね? じゃああいつよりも上の悪魔があと11人もいるんだ……。不安だけど、きっとなんとかなるよね?

 そんな私の不安そうな気配を感じ取ったのか、オリヴィアさんは考えるのをやめて話題を変える。


「そうだ。今回の一件の報酬として、しっかりとギルドから功績ポイントが付与されているはずだ。報奨金も、君の分は代理で姫様が預かっている。あとで受け取るといい」

 そういえば、演説の時に報酬は多く出る……とか言ってたっけ。一日の間に色々あったからそんなことすっかり忘れてたなぁ……。お金は……まぁマナちゃんに渡したままでいいかな。特にこだわりとかないし。


「ありがとうございます! オリヴィアさんは今日は仕事ないんですか? 鎧着てないし……」

 私はずっと辛気臭いのもどうかと思い、オリヴィアさんの変えてくれた空気のまま、話題を振る。聖騎士団長ともあろう人が、私服の姿というのは珍しいような気がしたからだ。


「ん? ああこれか! 実は君たち帝国潜入部隊が帰ってきてからというもの、色々な事務処理で休む間もなくてな。なんせ、悪魔などという危険な輩が出現したというのだからな……。おかげで大変忙しい数日間だったよ。

 立場上、元々あまり休日は戴かないのだが、ローラン王妃殿下が休め休めとうるさくてな……私は平気だと言ったのだが……全く、世話焼きな方だ……あ、いや……今のは聞かなかったことにしてくれ!」

 うぉおぅ……事務処理……なんか大変そう……! やっぱり色々あったからそのぶん入ってくる情報も多くて大変なんだろうな。そういうの苦手だからよくわかんないけど、休ませた王妃様はいい判断だと思う!

 王妃様……ってことはマナちゃんのお母さんだよね。どんな人なんだろう? マナちゃんって、あんまり家の話してくれないからなぁ……。


「あの、王妃様ってどんな人なんですか? マナちゃんはあんまり教えてくれなくて……」

 ふと気になった私は、普段最も近くにいることが多いであろうオリヴィアさんに訊ねてみた。この人なら色々知ってそうだし。マナちゃんといるうちに会うこともあるかもしれないしね!


「ご存知ないのか? 君は随分と王都から離れたところから来たようだな……」

「国の端っこの名も無い土地から来たので……」

 オリヴィアさんの言うことは図星で、私はかなり辺境から来た。それがすぐ分かるほど有名な人なのかな? 考えているとオリヴィアさんは口を開く。


「とても美しく、聡明で勇敢なお方だ。病弱なシャルル国王陛下に代わり、事務や国の統制を積極的に行っている。そして何より……」

「……?」

 王妃様について話を聞いていると、オリヴィアさんの言葉が一瞬止まる。何事かと首を傾げると複雑そうな顔を浮かべて続きを話し出す。


「……何より、親バカであらせられる……。自分の子のことになると奔放すぎて困り果てたものなのだ……。姫様が家出をされた時はそれはもう大変だった……」

「あ~……」

 ああ……。なるほど。偉い人でもやっぱりそういう人もいるんだ……。なんだろう……凄く親近感を感じるよ……。だからマナちゃんはあんまり話したがらなかったのかな? 苦労してるんだな……マナちゃんも、この人も。

 私は話を聞いて凄く共感した。旅に出たいと言ったら3()()も止められた経験があるから。まあ、色々教えてもらえたし、悪いことばかりじゃなかったけどね?


「おっと、済まない! 休日とはいえ、あまり城を放ってうろうろしていられないのだ。私はこれにてお暇させてもらおう。今後も姫様のこと、どうか頼んだぞ!」

「あ、はい! 無理せず頑張ってくださいね!」

 そう言うとオリヴィアさんは席を立った。部屋を出ていく彼女を見送りながら私は騎士団長の苦労をなんとなく理解していた。


「オリヴィアさんもランスローテも、きっと苦労してるんだなぁ……」


 誰かに仕える人っていうのは、皆苦労人だ。そんな事を考えながら、私は外に出かけようと支度をするのだった。



新しい事をしてみたかった。

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