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天才と脳筋は紙一重  作者: たんすちゃん
《第二章》-王国奪還編-
37/100

37.第二ラウンド、ですわ!

 ベリトが"第二ラウンド"と称して再度始まった戦い。しかし先程あれほどの人数でようやくベリトに与えた傷も再生し、ほぼまっさらのスタート。いや、むしろこちらの人数は半減しているのだから圧倒的にアウェーな戦いであった。

 それにベリトは最初とは姿も変わり、真っ黒な翼と尻尾が生え、両腕も硬く鋭く変貌を遂げていた。恐らく本来の悪魔としての姿があれなのだろう。つまりベリトは最初よりも本気ということだ。苦戦は必至だった。


「先手必勝! やられる前にやるッ! はぁっ!」

 まず先に先陣を切ったのはシトラスだった。そしてその後ろをすかさずついていくカトレア。シトラスにはシトラス歩法があるが、味方も混乱させることになるため今回は使っていない。それに、ベリトには通じないような気がしたからだ。

 そしてシトラスはベリトに高速で接近し、拳を振るう。素早く複雑で、しかし的確な連打。だが、ベリトの人ならざる動体視力からすればそれもスローに見えており、まるで遊んでいるかのようにヒラヒラと躱される。


「二人ならどうですの! 【ピアシングストライク】!」

 ならばとカトレアも同時に攻撃に参加し、手数を更に増やす。シルファの風を纏い、風のように優雅で素早い突きがベリトを襲う。しかしそれでもベリトは顔色ひとつ変えることなく、攻撃を簡単に避け続ける。


「遅いなァ人間ってのは! こんなもん目を閉じてても避けれちまう……ぞ……?」

 相変わらず小馬鹿にしたように嘲笑うベリトだったが、突然表情がやや強張り、その言葉を途中で止める。そしてカトレアは返すようにニヤリと笑う。

 カトレアの高速の突きを避けるベリトだったが、ベリトの顔や腕には攻撃が命中していないにも関わらず、いくつかの切り傷が出来ていた。それはルナとの戦いでも見せたシルファの力、攻撃の範囲拡大によるものだった。

 精霊の悪戯で範囲の伸びた見えない斬撃は、攻撃を躱したと思っていても少しずつ傷が増えていき、最終的に鎌鼬が通った後のようになるという、素早い突きが得意なカトレアと悪戯好きな風の精霊シルファだからこその噛み合った合わせ技だ。それは攻撃を全て躱していたルナに効いた時と同じように、ベリトにも傷をつけた。

 先程マナとガウェインの二人がベリトに初めて傷をつけたのは、数名の犠牲があってようやく届いた一撃だった。だが今回はカトレア一人であっさりと傷をつけた。相性というのもあるのだろうが、小さな傷でもそれは大きな差だ。


「おおっ、傷が! カトレアすごいっ!」

「あら? 先程までの余裕な表情はどこへ行ってしまったのでしょう?」

 絶えず攻撃を続けながらも感心した様子のシトラスと、今までのお返しと言わんばかりに煽り返すカトレア。プライドの高そうな雰囲気のベリトは、煽れば動きが単調になると思ったのだ。素直な実力勝負では人数差があっても勝てない。あの手この手でやりくりするしかないのである。

 そしてカトレアの思惑は上手くハマったのか、ベリトは避けても傷が増えていくことに対して怒りを露わにしていた。その傷は小さくとも、ベリトの心には大きな爪痕を残した。


「アァッ! うぜえうぜえッ! 小細工ばかりしやがって! 人間如きが俺にこんなにも傷を!! こんなもんかすり傷にもならねえんだよ!」

「……くっ!」

 そう言うとベリトはシトラスの拳を避けつつも、防戦一方だった態勢を変え、カトレアの一突きを鋭く変貌した左手で掴んでそのまま剣を振りかぶる。先程剣を掴まれたマナと同じように、カトレアも逃げることが出来なくされていた。

 瞬間――。カトレアに魔剣が襲いかかる寸前、ベリトの背後から二つの人影が現れる。モルドレッドとトリスタンだ。


「――【秘剣・虚空】」

「【フェイルブレイク】ッ!」

 モルドレッドの虚空に吸い込まれるような闇を纏ったクラレントと、トリスタンの長剣に変化したフェイルノートの一撃は、カトレア達に夢中で隙だらけとなったベリトの背中に深く突き刺さる。


「ぐあああああぁぁぁッ!?」

「チッ……!」

「うわあっ!?」

 攻撃は命中したが、直後ベリトは身を捩って翼を広げ、咆哮と共に強烈な風圧を巻き起こし、一同を四方へ吹き飛ばす。


「あぐっ……」

「痛っ……!?」

 四人は四方へ散らされ、壁に後頭部を非常に強く叩きつけられたシトラスとカトレアは、激しい脳震盪で動けなくなっていた。そしてそんなカトレアの元に追い打ちをかけるようにベリトは高速で接近してくる。


「ぐっ……待てッ! 悪魔!」

「……! 待って、モルドレッド!」

 それを庇うようにすぐさま立ち上がっては後を追うモルドレッド。先程煙幕の中でつけられた深い傷が痛むが、それを厭わずモルドレッドは剣を構えて全力で飛び出していく。何かに気づいた様子のトリスタンが静止をかける頃には、すでにモルドレッドはベリトに向かって飛び込んでいた。


「なんてなァ! この俺が冷静さを失うとでも思ったか? モルドレッド!」

「しまった……!」

 次の瞬間、シトラスへ向かっていたはずのベリトは急停止し進行方向を変え、後ろにいるモルドレッドに剣を突き立てる。避けようもないこの状況に、舌を出して下卑た笑みを浮かべるベリト。このままいけば、モルドレッドの体はアロンダイトによって貫かれることになるだろう。


「それはさせない……【フェイルバスター】っ……!」

 モルドレッドの腹にアロンダイトの刃が届く寸前、止まらないモルドレッドを追うように走ってきていたトリスタンが、モルドレッドに向けて弓へと変形させたフェイルノートで魔力の矢を放つ。

 速度に魔力を全て注いだトリスタンの矢は、ベリトの刃がモルドレッドを貫くよりも速く、モルドレッドの団服の襟を貫き、そのまま体ごと空中から座標をずらし、部屋の端まで連れていく。

 それによってベリトの攻撃を避けさせることに成功するが、ならば……とすぐに標的を変えたベリトは剣を構えたまま加速し、トリスタンに迫る。


「別に先にお前でも良いんだよなァ!? トリスタン!!」

「あはっ……僕の負けだな……」

「トリスタン―――ッ!!!」

 全ての魔力を注いでなんとかモルドレッドを救えたが、代償にその隙は大きいもので、加速するベリトから身を守る術は無かった。そしてトリスタンは悔しそうに笑いながら、そのままベリトのアロンダイトに勢いよく貫かれて壁まで押し込まれた。



「チッ……悲鳴も苦痛の声も無しか。つまらねぇ……」

 瓦礫が崩れ落ちる音と共に、吐き捨てるように呟くベリト。目の前にはアロンダイトで腹を貫かれ、大量の血を流しながら気絶しているトリスタンの姿があった。アロンダイトで貫かれたのであれば、ラフィと同じように命が尽きるまで時間の問題だろう。


「さて次は――」


ガキンッ!!


 トリスタンから剣を雑に抜き取り、振り向いた直後ベリトの眼前にはモルドレッドの刃が迫っていた。しかし、隙をついたにも関わらず、モルドレッドの攻撃はベリトに真顔のまま簡単に受け止められてしまう。


「貴様、よくも……っ!」

 ――皆、ベリトにやられた。このような騎士道も人間性も全く持ち合わせていない悪魔に。身を犠牲にしてまで自分を庇ってくれたトリスタンですら、ゴミを捨てるかのように斬り捨てた。モルドレッドはそんなベリトに怒りを露わにしていた。剣を握る手は怒りで震え、血が滲んでいた。


「次はお前かァ……モルドレッド? せっかく拾った命を無駄にするなよなぁ~? ――オラァ!」

 ギリギリと剣を鳴らしながら押し合っていた二人だが、ベリトの姿が一瞬消え、直後モルドレッドの脇腹には強烈な回転蹴りが直撃していた。


「がはっ……!? はぁっ……はぁっ……!」

 激痛が走り、嫌な感覚も脳に届く。恐らく肋骨が数本折れたのだろう。ただの蹴りだというのにとてつもない威力だ。悪魔というのはどいつもこいつもこれほどの膂力を持っているのか?

 溢れ出るアドレナリンが高速で脳を回転させるが、そんな疑問も虚しく、ベリトはモルドレッドに向けて追撃をかけてくる。


「おらおらァ! トリスタンに拾ってもらった大事な命を簡単に落とすんじゃねぇぞォ!? あひゃひゃひゃっ!!」

「はぁっ……はぁっ……ほざけ……! まだ俺はここに立っているぞ……!!」

「面白ェ!」

 頭や胴体の傷口から大量に血を流しながら、ベリトを挑発するモルドレッド。すでにモルドレッドは怒りのあまり冷静ではないが……もはや意地とプライドの戦いになっていた。


_


ドゴォ……


バキィッ!


ガキンッ……!!


 剣戟の音や叩きつけるような音。様々な音が聞こえてくる、悪魔との激しい戦闘を一対一で繰り広げるモルドレッドを後方から見守っているガウェインとアル。背後では未だに、マナが汗を流しながら必死な表情でラフィの延命治療に勤しんでいた。

 目の前で倒されていく仲間を見て、今すぐ援護に向かいたい気持ちはあるものの、ここを離れれば危険になるのはマナだけではない。ラフィも同じだ。そして先程四人が戦っている間に運んできた、ベリトにやられてまだ気絶しているアーサーやランスローテにガラン……ついさっき近くの壁に吹き飛ばされてきたカトレアやシトラスもそうだ。

 マナはこのメンバーで唯一治癒魔法がまともに使える者。気絶し、大怪我をしている者をここに運び、優先的に治療しているのだ。


「ぅ……わたくしは……っ! ま……まだ……戦え、ますわ……!」

「わ……私もまだ……うぅ……!」

 気絶している怪我人ばかりの中で、唯一意識のあったカトレアとシトラスが苦しそうに声をあげる。しかし二人とも当たりどころがかなり悪かったようで、力が入らず、腕一本動かすことも出来ずにいた。


「……ダメよ! 貴女たちの症状は脳震盪……力も入らないし集中も出来ないでしょ? それに当たりどころが悪かったら最悪の場合、これから先……立つことも出来なくなるかもしれないんだから……大人しくしてなさい」

 マナはカトレア達の状態については深刻に考えているようだった。無理をしなければ治癒魔法でなんとかなるため、きっと問題はないが、今はラフィを優先しなければ命が危ういのだ。


ぱき……


(まさか私が戦闘員じゃなくて治療員になるとはね……。エディンやラフィだったらきっと私よりも治癒魔法が……いや、考えるのはやめておきましょ……。今は私しかいないんだから)

 そんなことを考えていたマナ。きっとエディンやラフィのような本職の魔術士ならば、剣士であるマナよりももっと熟練度の高い治癒魔法が使えたかもしれないが、それ以上は考えるのをやめた。とにかく今自分に出来ることをしなければ。仲間を信じて……。

 だがそんな想いも虚しく、激しい戦闘音が止んだかと思えば、マナのすぐ側まで転がってきたのは血まみれで息も絶え絶えのモルドレッドだった。


「がっ……はぁっ……! はぁっ……! ぐ……クソが……っ」

「ひっ……」

 思わず小さく声を上げてしまうマナ。今は治癒に集中しなければいけないため、剣も握っていないのだ。横にガウェインとクロエがいるのを信じてはいるが、いつもは気の強いマナも一人の女の子なのだ。恐怖を感じるのは当然のことだろう。


「おいおい! もう終わりかよモルドレッド? まだ立てるだろ?」

 遠くから話しかけてくるのはあの悪魔だ。どうやら戦闘中にモルドレッドをこちらへ向けて投げ飛ばしたらしい。無傷のベリトに対し、モルドレッドがこの傷の深さというところを見ると、一方的な戦いだったようだ。


ぱき……


「くっ!戦友(とも)よ……どうする? 我々では皆を守りながらなど、まず勝てんぞ!」

「へへ……弱気だなおっさん……! でも漢には、やらなきゃならねえ時ってのがあんだろ……?」

 こちらへゆっくりと向かってくるベリトを見て、汗を伝わせながら構えを取り、クロエに話しかけるガウェイン。いつになく弱気なガウェインだが、状況は絶望的。弱気になるのも仕方がないことだった。

 だがそんなことはクロエ……アルにも分かりきっていた。アルも同じように刀を構え、思考する。


(――ガウェインのおっさんはまず間違いなくこのメンツじゃ一番強ぇ……多分怪我の具合考慮したら俺も二番手ってとこだ……。トリスタン坊の反映魔法があればもしかしたらと思ったが、だがあいつは隙をついたとはいえトリスタン坊もあっさり倒しやがった。そんなん相手じゃ勝てねぇ……何か変化でもねえと……)

 アルは冷静に今の戦力分析をするが、やはりガウェインとアルだけでは怪我人を庇って戦うのは無理がある。最悪の手段だがラフィを見捨ててマナも参戦……したとしても恐らく無理だろう。それにそんなのはアル自身が認めない。任侠(にんきょう)に反するからだ。

 この怪我人の量では、もはや逃げることも出来ない。何か奇跡でも起きれば別だが……。


ぱきぱき……


「一か八か、我々だけでやるしかないか……ッ! 済まないなトリスタン、モルドレッド……待ってろ!」

「人間、火事場のクソ力ってもんがあんだよ……! こうなりゃ当たって砕けろだ!」

 いよいよ万策尽きたガウェインとアルは、いよいよベリトとの戦いに臨む。誰かを守りながら故に伸び伸びとは戦えないし、二人は疲労も相まって全力も出せない。だが、人間……根性でなんとかしてみせるものだ。二人は皆を守り、戦い抜くと覚悟を決めた。

 その後ろではマナがこの絶望的な状況に耐えきれず、ついに涙を流していた。ラフィを治癒するその手は震え、恐怖で力も入らなくなってきていた。


「誰か……助けて……この状況をなんとかしてよ……! ルナ……っ」

 恐怖と絶望の絶頂に達したマナは、涙ながらに親友の名を呟く。ここにはいない、魔力の空間に閉じ込められた一番信じている親友の名を。

 すると、どこからか何かが割れるような不思議な音がマナの耳に届く。いや、先程から少しだが聞こえていた気がする。


ぱきぱきぱきっ……


「なんの音だ……?」

「なんかが割れる音? ……まるで……()が砕けるみてぇな……?」

 その音はガウェインやアルの耳にも届いたようで、訝しげな顔をしていた。……しかし、ベリトはすぐ目の前まで迫っていた。すぐさま意識を戻し、二人は戦闘態勢に入る。


「作戦会議は終わったかァ、人間共? ようやくフィナーレだなァ! 楽しかった祭りももう終わりだ……悲鳴があまりなかったのは少し残念だけどなぁ~?」

 アーサー、ランスローテ、モルドレッド、トリスタン、ガラン、エディン、カトレア、シトラス、ラフィ。彼らをほぼ一方的に痛めつけた快感を語るベリト。さすが悪魔……といったところだろう。そしてベリトは剣を構え、こちらへ踏み出そうとする。すると……。


ヒュオォォォ………


「あァ? なんだ……? さっきから妙に冷えやがるな……」

 突如周囲を漂い始める冷気。それはわずかなものだが、環境の変化に敏感な悪魔であるベリトはいち早く気づいた。続いてガウェイン、アル、マナの3人も温度の変化に気づく。


「なんだ……少し寒いか?」

「うおおぉっ……! っささ、さみぃ……! 俺寒さ苦手なんだよ、おいおっさん! お得意の太陽魔法で暖めてくれ!」

「そんなことしてる場合じゃあないだろう戦友(とも)よ! 敵は目前だぞ!」

 どうやらガウェインは太陽魔法の使い手だからか、はたまたその鍛え抜かれた筋肉のおかげかは知らないが、寒さには強いようだった。

 敵前でコントをしはじめたアル達をおいて、マナはこの冷気に変化を感じていた。


「なぜかしら……この冷気……冷たいはずなのに、暖かい気がする……自然現象じゃない……誰かの魔法? 氷の……まさか……!」

 マナは察した――これは魔法だと……。マナは思い出した――そこまで多く見ない氷属性を使える者のことを。直後、先程聞こえた氷が砕けるような音がまたしても響く。さらに大きく、鮮明に。


ぱきぱきぱきっ!!


「チッ! 洒落臭え! こんなんじゃ俺は止まらねェ! さっさと全員ぶち殺してやんよ!!」

 そう言ってベリトはガウェイン達の方へと踏み込み、翼を広げて加速する。その速度は今までベリトと戦ってきた中で見たものよりずっと速かった。恐らくこれがベリトの最高速なのだろう。

 そして一瞬のうちに距離を詰め、ガウェインに向けて刃を向けて突進するベリト。ガウェインも身構えるが、直後――。


「なんっ―――!?」

 困惑するベリトの目の前には、巨大な氷の棘が至る所から生えた、さらに巨大な氷柱の塔が迫っていた。そしてそれはベリトが言葉を言い切るよりも先に突き刺さる。


ずどどどどどどおおおぉぉぉっっっ!!!!!!


「ぐあああああああああああぁぁぁぁぁっ!!!!??」

 氷が砕ける音と共に、ベリトに命中した氷の塔の勢いは留まるところを知らず、ベリトをみるみるうちに突き放していく。ベリトは痛みで絶叫を上げながらそこから脱出しようとするが、氷柱に生えた氷の棘が腕や身体に突き刺さり、離れたくても離れられない状態になっていた。

 そしてそのまま玉座の部屋の壁へと強制的に運ばれたベリトは、氷柱の塔ごと勢いよく壁に突き刺さり、激しい衝撃で壁の至る所が崩れ落ちる。

 静まり返る周囲。あまりの出来事にアル達は言葉を失っていた。……が、少しずつ現実に戻されてきた一同は言葉を漏らし始める。


「一体なにがおきたんだ……!?」

「おいおい、すげぇな……おっさんのどでかい炎の竜よりすごかったんじゃねえか?」

 あまりの出来事に未だに状況を理解しきれていない様子のガウェインとアル。今の氷はガウェインの放つ炎羅・ホノカグツチよりも凄まじい威力だった。実際に体験したアルだからこそ分かる差だ。


「てかあいつが壁に刺さってる今のうちだ、トリスタン坊運ぶぞおっさん!」

「……! お、おう、わかった! 力仕事は俺に任せろ戦友!」

 ふと冷静になったアルがガウェインに声をかけ、二人は急いで大怪我のトリスタンをマナの元へと運び始めた。


_


「……ふっ。……ふふふ」

「カ……カトレア? ど、どうしたの……?」

 突然隣で笑い出すカトレアに困惑を隠せないシトラス。二人とも、それなりに会話が出来るほどには回復してきたようだった。


「今の氷……あんなハチャメチャな氷魔法が使えるのは……わたくしが知っている中では一人しかいませんわ」

「えっ? それって……」

 嬉しそうな顔をして語るカトレア。カトレアはゆっくりと慎重に起き上がると、座ったまま床に手をついて周りを見渡す。どうやら誰かを探しているようだった。そして壁に突き刺さっている巨大な氷の柱の根本を見ると、一つの黒い球体に目をつける。それには割れるように大きな穴が空いており、そこから氷の柱は生えていた。

 側にいたマナもそれに気づいたようで、相変わらずラフィを治癒する手は止めないまま、マナはカトレアに声をかける。


「そうね、カトレア……私も一人しか知らないわ! あんな氷魔法が使える知り合いなんて……ね」

 涙を拭いながらマナが呟く。すると、黒い球体に空いた穴から小さな手が覗き込む。


バキィッ!


「ああもう! 硬すぎなのこれっ! 出るのにめっちゃ時間かかっちゃったじゃん! このっ……このぉっ!」

 文句を言いつつ、球体に出来た穴の縁を掴んで、思いっきり残りの部分をゲシゲシと蹴り飛ばしながら、中から球体を割って出てきたのは――。


「「ルナ!!」」

「ん? あっ、ただいま~!」

 ぱあっ、と表情が明るくなったカトレアとマナが呼びかけると、気づいたルナは気の抜ける挨拶をしながらこちらへ駆けてくる。

 ルナはアロンダイトの魔力の中でスエズに向かって宣言した通り、中から暗黒空間ごと『ぶっ壊して』出てきたのであった。



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