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天才と脳筋は紙一重  作者: たんすちゃん
《第二章》-王国奪還編-
35/100

35.悪魔の所業。

 まず先に仕掛けたのはアーサー、そしてランスローテだった。アーサーは大きく前へ踏み込み、ベリトに向かって突撃していく。すかさずその後ろを、アロンダイトがないため腰に提げていた予備の剣を構えてついていくランスローテ。


 ベリトはアーサーの剣を受け止め、剣同士がギリギリと激しく擦れ合う音を鳴らしながら肉薄する。


「【閃空】!」

「……!」

 直後、アーサーはゼロ距離にて、エクスカリバーの魔力を刃にして飛ばす剣技を放つ。モルドレッドとの戦いで彼の反応速度を超え、傷をつけた光速の技だ。ゼロ距離ともなれば傷は安く済まないだろう。……だが、アーサーが技を放った瞬間、ベリトの野性的な直感がそれを察知し、ベリトは剣を上に弾くことで角度を変えて閃空を不発に終わらせる。

 そして剣を弾いたベリトは、そのまま姿勢を崩され懐がガラ空きになったアーサーに向けて高速で回転し、カウンターの回し蹴りをお見舞いする。


「がっ……!?」

「はぁっ!」

 血を吐きながら後方へ飛ばされていくアーサーと入れ替わるように陰から斬りかかるランスローテ。主君が大きなダメージを負っているが、今はそれを気にする猶予はない。アーサーの作ってくれた一瞬の時間をも無駄には出来ないのだ。

 ランスローテの剣は、蹴りを放ったばかりで姿勢が不安定なベリトには死角となっており、刃はその身体に届くかと思われた。しかし――。


スッ……


「何っ!?」

 完全に隙をついたはずのランスローテの刃が捉えたのは、そこにいたはずのベリトの残像。ベリトはまたしても野性的な直感で攻撃を察知し、高速で後ろにステップしたのだ。その速度はあまりにも速く、本人が意図せずとも残像が生まれるほどだった。


「遅いなァ! ランスローテェ!」

「……ッ!」

 そして高速で移動したベリトはいつの間にかランスローテの背後に回っており、次の瞬間――ランスローテの背中には重い衝撃が走り、同時に腹部にも深い痛みが走る。

 今の一瞬で何が起きたのか理解するのにわずかに戸惑ったが、激痛で脳から発せられるアドレナリンによって、高速で回転した脳が理解した。高速で背後に回ったベリトはランスローテの背中に蹴りを放ち、ランスローテが背中に一瞬意識が行ったタイミングで、さらに速いスピードで残像を残したまま懐へと回り込み、腹部へ強烈な拳をお見舞いしたのだ。

 後方と前方から同時に強い衝撃を与えたため、慣性が相殺され、どちらかに吹き飛ぶことはなく、まるで両側から圧迫されるような感覚でランスローテはそこに留まっていた。いや、留まらされた……というべきか。


「があぁッ……!?」

 びしゃびしゃと大量の血や胃液を吐きながら、背骨と肋骨がほぼ同時にひしゃげる感覚に、意識が朦朧となり、気が狂ってしまいそうになるが、あまりの激痛に気を失う自由すら奪われた。

 すでに限界が近かったところに手痛い追い打ちを受け膝をつくランスローテに、ベリトは剣を床に刺し、ランスローテの髪を掴んで吐き捨てるように言う。


「おいおい、もうギブアップか? お前は俺を楽しませてくれたからなァ。まだまだこんなもんじゃあ終わらせねえぞ? イヒヒッ……!!」

「ぐっ……が……っ……」

 ニタァ……と下卑た笑みを浮かべながら、ランスローテの顔を地面に叩きつけるベリト。意識も曖昧になり、痛みの感覚すら曖昧になり始めたランスローテはすでに満身創痍であった。


「――【静剣・ヨコシグレ】!」

「【光焔一閃】ッ!」

 そんなランスローテを救うべく、ベリトの背後からは水と光、二つの攻撃が向かっていく。マナとクロエだ。またしても死角からの攻撃だが……。


「ぁん? こんなもん、避けるまでも無えな……」

 当然のように死角からの攻撃に気づいたベリトは、ランスローテを掴んでいた手を放し、左手を縦に振ってクロエの斬撃をまるで瓦を割るかのように叩き割り、光焔を纏って高速で突撃してきたマナの剣先を右手の指で挟んで、いとも簡単に受け止める。


「んなっ!?」

「マジか……!?」

 二人が使える技の中で最も自信のある技が、あまりにも簡単に止められたことに驚きを隠せず、思わず声を漏らすマナとアル。それを見たベリトは心底馬鹿にしたように鼻で笑う。


「はっ! 今のがお前らのとっておきか? まるでオママゴトだなぁ? デュランダルの冒険者はこの程度かよ! 剣を使うまでも無いじゃねぇか!」

「くっ……何か言い返したいところだけど、このザマじゃ返す言葉もないわね……!」

 デュランダルの冒険者全員を馬鹿にされ、普段のマナなら何か皮肉混じりに言い返すところだが、まさか光焔一閃を指で止められるなどとは思ってもおらず、圧倒的な力の差に言い返すことも出来ずにいた。

 こうしている間にマナは剣を引こうとするが、指で挟まれているだけなのにマナの剣は押しても引いてもビクともしないことに気づく。――危険だ。本能が告げる危険信号。バクバクと高鳴る心臓の鼓動。不安と焦燥、そして本能的な恐怖で吹き出す冷や汗。すると後方のアルから声がかかり、マナはハッと現実に引き戻される。


「――い……! ――おいマナ嬢! 何やってんだ早く下がれ!」

「……! う、うっさいわねっ! 分かってるけど剣が離れないのよ!」

 アルのおかげでどこかフワフワしていた意識が戻り、焦りで強く言い返すマナ。意識は戻れど危険な状況であることには変わりない。すると目の前のベリトは空いた左手をコキコキと鳴らしながら宣言する。


「んじゃあ、そろそろ一人脱落しとくかぁ?」

 そう言うと、鳴らしていた左手が腕から先にかけて黒く染まり、爪はナイフのように鋭く、皮膚はまるで黒曜石のように変貌する。一同は変貌した手を見てゾッとする。その手で貫かれれば、間違いなく軽傷では済まないだろう。


「マナ嬢ッ!」

「やばっ……」

 マナが剣を取り返すのを諦め、手放すことを判断するには少し遅すぎた。気づいた時にはベリトはすでに左手を突きの形に変え、振りかぶっていた。

 もうダメか――そう思った瞬間、マナの脇を抜けてベリトの懐に入りこむ巨漢と壮年の男が視界に入る。


「フンッ!!!」

「おおぉらぁっ!」

「チッ……!」

 体を強打する鈍い音と、剣で鋼鉄を引っ掻いたような摩擦音がしたかと思えば、ベリトはマナの剣から指を放し、その場から飛び退っていた。

 解放されたマナが隣を見ると、横にいたのは鎧をガチガチに着込んだオレンジ色の髪の巨漢……ガウェインと、第三チームの冒険者の……。


「誰だっけ……」

「ガランだっつの! さっきも同じことやったぞ! おじさん泣くぞ!」

 鋭いツッコミを悲しそうな顔で入れるのは、先程全く同じやり取りをしたA級冒険者のガランであった。どうやら二人がマナを命の危機から助けてくれたらしい。


「貴方たちが助けてくれたのね。ごめんなさい、助かったわ」

「気にするな! 騎士たるもの、戦友(とも)を守るのは当然のこと!」

 胸を張って自信たっぷりに答えるガウェイン。操られていた時とはえらいテンションの違いである。……が、それもギネヴィアを救出してから玉座へ戻るまでの間で、すでに見慣れたものであったため驚くことは無かった。


(いつ私は彼と戦友になったのかしら……)

 だが戦友と言われたことについては些か疑問に思うところがあったようである。昨日の敵は今日の友……とも言うし、ガウェインの騎士道とはそういうことなのかもしれない。


「あいにく俺の剣はあの凶器の左手で防がれちまったがな」

 腑に落ちない表情で告げるガラン。あの鋼鉄を引っ掻いたような『がりがり』という音は、ガランの剣とベリトの左手がぶつかり合う音だったのだろう。

 並んだ三人は目の前の悪魔を見据え、様子を窺う。下手に動けば命を落としかねない相手だ。見れば、自分たちの後ろにはラフィやエディン達魔術士組も詠唱を終えてスタンバイしている。やはりここは手堅く、堅実に行くほうが無難だろう。



「邪魔が入ったか……まぁこの人数差だ、そりゃそうだよなァ。だが何人かは気にする必要もねぇ羽虫だ。――狙うはやはり騎士共か……」

 ベリトはそう呟くと、先程下がりながら地面から抜いた魔剣を乱雑に構え、前に踏み込み急加速する。並の冒険者では目で捉えきれないほどの速さだ。そしてそれを見たガウェインはマナとガランに注意を促す。


「来るぞ! かなり速い!」

 ガウェインが叫ぶと同時に、さらに加速を速めたベリトが真っ先に狙ったのはガウェイン――ではなく、なんとガランであった。


「オラァッ!!」

「ぬおぉっ!?」

「ガランっ!」


ガガガガガガッ!!!


「ぐ、ああああぁぁっ!!」

 ガランが咄嗟に攻撃を防ぐために構えた剣は、ベリトのアロンダイトと激しく衝突し、その勢いのままガランはゴリゴリと押されていく。地面を抉りながら押し込まれていくガランはいくら踏み込んでも力負けしており、押し返すこと敵わずそのまま勢いよく壁に激突した。


「ハイ、一人終わりと……」

 ベリトの呟く声と共に、土煙が晴れると、そこには壁に押し付けられるように倒れたガランがいた。たった一撃……一瞬の出来事である。ガランも歳を重ねた熟練のA級冒険者だ。決して弱いことはない。だが、それが逆にベリトの……悪魔の強さを表していた。

 よく見ればガランは気絶しているだけで、息はあるようだった。しかし安心する間もなく、ベリトはさらなる追撃をかけてくる。


「くっ! 次は私ってことかしら!」

 ベリトが次に急接近するのはマナ。先程邪魔が入って仕留め損ねた分を、今ここで回収しにきたらしい。そしてマナにアロンダイトの切っ先が及ぶ寸前に、後方から炎の弾が複数飛来し、ベリトの動きが止まる。


「やらせない! 【ファイアバレット】!」

「ちっ、邪魔くせぇ!」

 後方から炎の弾を飛ばしてマナを援護したのはエディンだ。エディンの絶えず連続する炎弾を避けるため、ベリトは剣を回して魔法をガードする。そしてわずかに出来た隙を逃さず、背後に回り込んだマナは再度剣を振るう。


「後ろからならさっきみたいに掴めないでしょ! ――【光焔一閃】!!」

 二度目の正直。光焔を纏い加速するマナ。同時に、魔力を溜めていたガウェインもそれに続いて右手を振り上げ、まるで剣を持つように拳を握る。それはマナがガウェインと戦った際に見せた、あの大技の構えであった。


「超級太陽魔法――クラス5(クインテ)【灼陽の太刀】」

 ガウェインが魔法を発動すると、ガウェインの握った拳に形を合わせるように業火が生成され、みるみるうちに炎で出来た刀の形を成す。そしてマナの一撃が当たると同時に、ガウェインは焔の太刀を振り下ろす。


ザシュゥッ!


「グウアアアアアアアアァァッ!!!」

 二人の一撃が命中し、ベリトの背中を抉るように深く傷つけると、ベリトは耳を(つんざ)くような断末魔を上げ、その声は城中に響き渡る。直後、ガードをやめたベリトにエディンの放ったファイアバレットがさらなる追い打ちで襲いかかる。


ドドドドォッ……!


_

_

_


「やったのか……?」

「油断しないで下さいよ、まだ何か起きるかもしれません……!」

 モクモクと大きな煙幕が巻き起こる中でエディンは呟くが、それを諫めるラフィ。煙で周囲は何も見えないが、確かな手応えはあった。間違いなくダメージを負ったはずだ。その隣ではラフィが念のため詠唱をストックしている。熟練のA級冒険者なら、ここで警戒を解くことはしないのだ。


_


「無事か? 戦友(とも)よ!」

「え、ええ。おかげさまでね……。でも……ねえガウェイン。何かおかしいと思わない??」

 ふと隣に歩み寄ってきたガウェインに声をかけられ、思わず動揺するマナ。まだ戦友と呼ばれ慣れていないのもあるが、理由はそれだけではない。今しがたの攻撃、確実に手応えはあったのだが、何か……現実味のないふわふわした感覚なのだ。それにこの辺り一帯を覆い隠すほどの煙幕……これは言ってしまえば勘だが、マナは妙に嫌な予感がしていた。


「うむ……気を抜くなよ戦友。戦いはまだ終わっていないぞ!」

「ええ、決して離れないで!」

 それにはガウェインも同意し、お互い側を離れないように立ち回る。そしてその予感が当たったかのように、マナ達とは別の場所でそれは起きた――。


_

_

_


ひゅっ――!


「……っ!?」


ズガアアアアァァン!!


「エディンさんっ!?」

 煙の中から小さな音と共に突如飛来した、目に見えぬほどの高速の魔力の玉。それは煙の方を注視していたはずのエディンへ向かって飛んでいき、声を発する間もなく大爆発を起こした。ラフィが目をやると、そこには黒焦げになってピクリともしないエディンが倒れていた。そして息は……していなかった。死んでいる……一撃だ。

 突然隣にいたはずのエディンがやられ、ひどく動揺し、焦るラフィ。煙で周囲が見えない上、唯一近くにいたエディンまでもがやられた。彼の魔法の影響によって起こった煙幕かと思っていたが、すぐ近くにいた者以外が見えないほど濃い煙……明らかにこの煙幕はこちらを分断するための害意のあるものだった。


「ど、どうしたら……! とっ……とにかく誰かと合流しないと……エディンさんが……! 誰かぁっ! シトラスさん! どこですか!?」

 ラフィは目の前で仲間があっけなく一人やられ、味方とも分断された恐怖と不安感によって、パニックに陥っていた。まともな判断がすでに出来なくなっていたラフィは、ストックしていたはずの詠唱も破棄し、声を上げながら煙の中をひたすらに駆け回る。それは味方にこちらの居場所を伝えるためだが、声が伝わるのは味方だけではないのだ――。


どんっ……


「あうっ……! って、人!? 誰でもいいからお願いします! エディンさんが……! 私、蘇生術とかわからなくて……っ?」

 ラフィが煙の中を闇雲に走り回っていると、ふと何かにぶつかる。それは自分よりも少し大きく、だが壁や瓦礫のように硬くはない。しっかりと温かみのある人の形をしていた。間違いない、人だ。……だが、そこで奇妙にも突然冷静になったラフィは気づく。煙の中には敵が潜んでいる可能性もあるということに。


(そうだ、あのベリトって悪魔も、きっとまだ死んでない。この煙もなにかおかしいし……まさか目の前にいるのって――)

 そこまで考えた辺りで、目の前の人影はこちらへ手を伸ばしてくる。迫りくる手はラフィの冷静となった脳に恐怖を与え、再度今自分は一人ということを思い出させる。


「い、嫌っ!? 来ないで! 来たら最上級魔法食らわせますよっ……!?」

 先程ストックしていたのは最上級炎魔法だ。これは冗談でもなんでもなく、本気で言っているのだが、すでに詠唱は破棄してしまったことにも気づけないほどにラフィはパニックだった。そしてあまりの恐怖に死を覚悟したラフィは泣きそうになっていた目を強く閉じる。



「――あれ、ラフィ? 良かった! 無事だったんだね! ……って、おーい? 目開けてよ~? 私だよ~?」

 だが、聞こえてきたのはラフィには聞き覚えのある明るい女性の声。それはラフィがこの押し寄せる不安の中で、最も求めていた者の声だった。

 恐る恐るラフィが目を開けると、そこにいたのは予想通り、シトラスだった。シトラスのとぼけたような顔を見るなり、すぐさま胸に飛び込んで抱きつくラフィ。その姿は、まるでようやく姉を見つけた迷子の妹のようであった。


「シトラスさんっ! 良かった! ほんとうに……! シトラスさんは誰かと一緒じゃなかったんですか?」

「……うん。私は近くに誰もいなかったからね。ラフィはエディンさんと一緒だったんじゃないの?」

 涙を拭いながら再会を喜ぶラフィ。ふとシトラスが一人なことが気になり質問するが、どうやらシトラスは最初から一人だったらしい。エディンのこともあり、一人同士のシトラスと合流出来たのは僥倖だった。


「そうだ! エディンさんが不意打ちでやられて息をしてないんです! それで……私は蘇生術とか知らないからどうすることも出来なくって……」

 シトラスに訊ねられ、ラフィは自分がここまで来た経緯を話すが、話している途中でシトラスはそっとラフィを抱きしめる。


「そっか、怖かったよね。一人にしちゃってごめんね?」

「シトラスさん……? もうだいじょぶですよ、今は一人じゃないですから……」

 突然シトラスに抱きしめられ、温かい言葉をかけられて安心するラフィ。しかし今はもうひとりではなくシトラスもいるのだ。不安はない。するとシトラスがどこか意味ありげな発言をし始める。


「……ううん。まだラフィは大丈夫じゃないよ。だって仲間と分断されちゃってるんだから」

「……? まぁ確かにそうですけど……」

「だからすぐに仲間のところに連れてってあげるからね」

「シトラスさん? さっきから……何……を……」

 突如として腹部に感じる鋭い痛み。シトラスの抱きしめる手が緩み、ラフィが力が抜けたように一歩後ろに下がると、ラフィの腹には一本の剣が突き刺さっていた。そしてその剣を握っているのは、他でもない……目の前にいるシトラスだった。


「ぇ」

 小さく漏れ出たラフィのか細い声。それは今起きた状況が飲み込めず、何が起きているのか理解出来ていないという困惑の声。


 ――目の前にはシトラスさんだけ。――剣で刺された。――誰に? ――敵? ――剣を持っているのは? ――シトラスさん。――何故? ――分からない。――腹に刺さっている剣は? ――これは、魔剣? ――なぜシトラスさんが魔剣を持っている? ――分からない。――じゃあ私を刺したのは? ――シトラスさん……?


 ラフィの脳内では、痛みと共に高速で状況の分析をして自問自答を繰り返していた。だが結論は出ず、出たのは一つの疑問だけだった。


「ぁ……シ……トラス……さん……? ……な、なん……で……」

 激痛で過呼吸になりながらも、振り絞るようにして声を出すラフィ。なんとか紡いだその言葉は、一番信じていたはずのシトラスに対する疑問だった。


「えへへ。あははは。あはははは! くくくく……!! あーっはっはっはっは!!!」

 ラフィが疑問を投げかけると、シトラスは突如狂ったように笑い始める。まるで彼女ではなく、別人のように。いや、事実――……。


「ラフィちゃん。()()()()()()()()ごめんね?」

「な……にを……」

「私が……"俺"が、エディンさんを――エディンを殺したから、()()()()()()()()……ごめんなァ?」

「……ぁ」

 そしてラフィは気付く。先程まで一緒にいたシトラスは、シトラスではなかったのだと……。


「悪魔ってのはな……人を騙すのが上手くて、嘘が大好きなんだぜ? 嬢ちゃん――」


びしゃっ……!


「がふ……っ……!?」

 血を流しながらゆっくりと倒れていく中で、ラフィは頭の中で謝っていた。

 

(――ごめんなさい、シトラスさん。私は一瞬でも、貴女が裏切ったんじゃないかと疑っちゃいました……。きっと、きっとこれは天罰なんだ……。エディンさん、助けてあげられなくてごめんなさい。私もすぐに後を追いますから、どうか許してください――)


「アハハハハハハハハハ!!!」

 腹から強引に剣を引き抜かれ、周囲に飛び散るラフィの鮮血。全身の力が抜け、意識が朦朧とする中、最後に見たのは……()()のようにゲラゲラと嘲笑う、男の姿だった――。



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