34.黒幕現る、ですわ!
「やれやれ、それにしても随分と大所帯になったな? なぁそこの嬢ちゃん?」
ガランが頭を掻きながらなんとなく横にいたマナに話しかける。確かに、今この玉座の間にはルナを抜いたマナ隊、シトラス隊、そしてアーサー達王国組の計14もの人がいる。全員が集結すれば中々の大所帯だ。
「……貴方誰だっけ? 知り合いだったかしら?」
「ガーン……! おじさんショックだ……」
「えっ? えっと……ごめんなさい?」
だが突然話しかけられたマナはガランのことを覚えてすらおらず、話をポッキリと折られてしまう。一応作戦会議の際に顔合わせだけはしているはずなのだが……。
(マナさんマナさん……第三チームのメンバーの方ですよ……!)
(あぁ……! 名前は知らないけど確かにいたわね……!)
マナが忘れられていてショックを受けているガランに困惑していると、隣のクロエから助け舟が出される。しっかり者のクロエは、ちゃんと作戦会議の時のメンバーの顔を覚えているのだ。
「ごめんなさい。色々あったおかげですっかり忘れてたわ……。作戦会議の時にも名乗ったけど、私はマナよ。貴方は?」
今のは完全にマナが悪いことは自覚していたので素直に謝罪しつつ、二度目だが名前を名乗る。
「ガランだ。最近キミと同じくらいの娘にも辛辣な対応をされてて、おじさんすっかりセンチメンタルだよ……」
「おっと、ガランさんが名乗るならついでに僕も! エディンだよ! ガランさんと違って、僕の顔は覚えててくれたかな? マナさん!」
返すようにガランが名乗ると、隣で話を聞いていた優男……エディンも割り込んでくる。マナは苦笑いしつつ話を濁す。十中八九、覚えていなかったのだろう。マナ、興味のない相手に対して露骨すぎである……。
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「……アーサー様。私は先にギネヴィア様を安全な場所へお連れしておきます」
「ああ、すまない! 頼めるかい?」
ふと、マーリンがアーサーに声をかける。確かにここは一応まだ戦場だ、戦えないギネヴィアには危険だろう。そう思ったアーサーはその言葉に甘え、ギネヴィアを託す。
「えーっ!? 私もここにいたいのに~っ!」
「駄々をこねないで下さい、ギネヴィア様。さぁお手を……」
まるで子供のように駄々をこねるギネヴィア。どうやら先程ランスローテを庇っていた時のあれは真面目モードの時のようで、普段はこんなものらしい。
マーリンに促されるまま、ギネヴィアは渋々彼女の手を掴むと、マーリンの魔法によって二人は一瞬でその場から消えていった。
「き、消えた……!」
それを見ていたクロエは、初めて見る転移魔法に驚かされるのであった。
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「ところで、ルナはどこなの? 玉座に向かったんじゃないの?」
ふと思い出したようにその場の全員に向けて質問を投げかけるマナ。皆が集結した中で、姿が見えないのはルナただ一人だけだった。それもそのはず。ルナは未だにアロンダイトの魔力で出来た黒い球体の中にいるのだ。
「そうだっ! ランスローテさんを倒したのに、まだルナちゃんさんが解放されないんだよ! ほらっ、マナさんの横の球体!」
「これ? この中にルナがいるの!? 一体、どういうことなのよ……?」
シトラスの指差す球体を見て、困惑を隠せない様子のマナ。当然である。今この場にいるほとんどが玉座で何が起きたのかを知らないのだ。
そしてシトラスは玉座で何が起きたのか、事情を説明し始めた……。
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「なるほど。先程の爆音はラフィの魔法だったのか」
「まさか最上級魔法が使えるとは……その若さで大したもんだ」
シトラスの説明を聞いて感心した様子のアーサーとガランの最年長の二人。先程ラフィの放った最上級炎魔法による爆音や震動は城全体に届いていたようで、一階や地下にいたガラン達やマナ達にも聞こえていたらしい。
「それで……どうすればそのアロンダイトの魔力っていうのは解けるのよ?」
「私はてっきり、発動者のランスローテさんを倒せば魔力も解除されると思っていたんですが……」
マナが訝しげな表情で訊ねるが、ランスローテを倒した本人であるラフィの予想も外れ、今もルナは囚われたまま。誰にも答えは分からなかった。そこでアーサーがひとつの提案をする。
「ならばいっそ、魔剣を壊してしまうというのはどうだろう? あの剣には呪いもかかっていて色々と危険だ。本来ならば国で厳重に保管すべきだが、あれが原因でルナが閉じ込められているというのなら、それも一つの案だろう」
アーサーの出した案は、シンプルながら分かりやすいものだった。握れば正気を失う力に合わせて、斬れば治癒魔法が効かない傷を作る呪い。得体の知れない凶悪な力を宿すアロンダイトは、アーサーの言うように、いっそのこと壊してしまったほうが安全のように思えた。
「そうだな。ならばアーサー、その役目は俺がやろう。このまま不甲斐ないところばかりを見せていられるか……」
そう言って足を引きずりながらも前へ出るモルドレッド。ここに来るまでに多少は体を休めたが、傷というものはそう簡単に治るものではない。だが、モルドレッドのプライドや騎士としての矜持がそれを許さないようだった。
そんなモルドレッドを見兼ねたアーサーは、モルドレッドに肩を貸しながら、共に玉座の奥に刺さっている魔剣アロンダイトの方へと進んでいく。
「自分達の国の不始末は自分達でつけなくてはね。私も手を貸すよ、モルドレッド」
小さく頷くモルドレッド。正直なところ、今のボロボロな自分だけではアロンダイトを壊せるか不安だった。きっとアーサーはそれを察してくれたのだろう。
アロンダイトは激しい戦闘の末にランスローテの手から離れ、衝撃で部屋の奥の床にまで飛んでいったようだった。まぁ、地面に刺さっているのならちょうどいい。剣を破壊するために魔力をぶつけても、どこかへ吹き飛んでいく心配も無くなる。
……そしてアロンダイトを破壊するため、二人がゆっくりと剣を抜き、狙いを魔剣へと定めた時――、そこで一同は突如としてこちらへ接近する強烈な殺気を感じ取る。
「なにか、飛んでくる……!?」
「マナさん……?」
マナが流れる冷や汗を感じながら小さく呟く。無意識にマナは、側にいたクロエを庇うように立っていた。防衛本能が年下のクロエを守るという行動をさせたのだ。するとその悍ましい気配はさらに強くなる。
イヒヒッ――!
ぞわっ……
背筋が凍るような威圧感と共に、その気配はみるみるアーサー達の方へと近づいてくる。皆が緊張で体を強張らせる中、そこでカトレアが声を上げた。
「アーサー様っ! モルドレッドさん! 数歩お下がりになって! 何か来ますわッ!」
「……!」
「分かっている!」
カトレアが声を張り上げると、アーサーは咄嗟にモルドレッドを抱えてその場から後方へ飛び退る。その姿はさながら姫を抱える勇者である。
「あら、紳士ですこと……」
「………」
そんな紳士っぷりを発揮するアーサーを見て、思わず口に手を当てて少し頬を染めるカトレア。モルドレッドは非常に複雑そうな顔をしていたが。
だが、そんなふざけている間もなく、直後――先程までアーサー達が立っていたところに何かが高速で飛来した。
「あ~あ~。立派な城も随分と風通しが良くなっちゃってさァ~! 五年で急成長を遂げた国とは思えない一夜城っぷりだねぇ、ランスローテサマよォ?」
舞い上がる土煙の向こうから聞こえる男の声。皮肉たっぷりに言葉を投げかけるそれは、圧倒的な存在感を放っていた。
「この声……まさか、あの時の……!?」
その声の主の正体は誰も知らない様子だったが、ただ一人……ランスローテだけは、その声に覚えがあるらしかった。
そして声の主は腕を横に振るうと、突然強い風が巻き起こり、周囲を漂っていた土煙は吹き飛び、その姿が顕になる。
現れたのは茶色のフードを深く被り、顔を完全に隠した男。それはデュランダル王国でオリヴィアが演説をしていた際に、陰でランスローテに情報を流していた男だった。
「ランスローテの知り合いか? とても話が通じる相手には見えないが……」
アーサーは、明らかに敵対している様子の男に警戒を解くことなくランスローテに訊ねる。するとランスローテは苦い顔をしながら渋々答えた。
「奴は……あの男は……私に、あの魔剣アロンダイトを授けた張本人です……!」
「「「「!?」」」」
ランスローテの口から飛び出した衝撃の事実に、アーサーは勿論、話を聞いていた一同は驚愕する。そして皆が驚いている間もなく、ランスローテは続ける。
「全てが変わってしまったあの日……私は途方に暮れていた――」
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――ある日、ランスローテは円卓の騎士団長として、日々行っている団員の訓練のために複数の分隊を引き連れ、カリバーン王国の王都から遠い森へと遠征していた。
その森は未だしっかりと開拓されておらず、王都からはかなりの距離で、行軍だけでも足腰の鍛錬のほかに、忍耐力や環境への適応力の向上が見込まれる。その上、開拓されていない森にはBランク相当のモンスターも出現するとの情報もあり、まだまだ未熟な団員達の訓練には適しているとランスローテは踏んでいた。
そして同時に、自分の鍛錬にもなると考えていた。ランスローテの騎士道は、『全てを以って民を守り、巨悪を穿つ』こと。アーサーの側近の一人として、アーサーを守り、妃であるギネヴィアも守りつつ、民も守らなければならない。実に傲慢な騎士道だが、アーサーに託された大事な使命だ。そしてそれには今よりももっと研鑽が必要だということは分かっていた。
「今のままで良いのだろうか……。何か、もっと変化がなければ強くなれないのでは……」
団員達の森での散策、訓練を各自開始し、森に入っていく団員を見送ったランスローテは、森の入り口で一人呟いていた。
ランスローテは『騎士団長』という役目をアーサーから与えられているが、それすなわち騎士団で最も強い……ということにはならない。
同年代で、同じ側近の一人であるモルドレッドの方が剣の腕はやや上であり、筋力や魔力では副団長のガウェインには勝てない。ましてや、騎士団最年少のトリスタンにすら技術で劣る。円卓の騎士団主力の中ではランスローテが一番劣っていることを本人は自覚していた。
「パーシヴァルやガラハッドに追い抜かれるのも時間の問題かもしれないな……」
パーシヴァル、というのは円卓の騎士団探索部隊の隊長で、聖遺物の探索をするために何度も遠征を繰り返している女性騎士だ。少し天然な性格だが、優秀な騎士の一人であることに間違いはない。そしてガラハッドはランスローテの一人息子であり、そのパーシヴァルの補佐を務めている探索部隊の副隊長だ。どちらも若くして優秀な騎士で、近い将来ランスローテが抜かれることも容易に想像出来た。
そんな自分を団長に任命したアーサーの期待に答えたい――。だからこそ、ランスローテは今よりも高みを目指しているのだ。騎士道を成し遂げるには、もっと上の実力が必要……。そんな憂鬱のランスローテの元に、一人の男が背後から突然声をかけてきた。
「ごきげんよう。円卓の騎士団団長……ランスローテ卿」
どこからともなく現れた、茶色いフードを被った謎の男。先程まで周囲には誰もいなかったはずだ。前方に森はあれど、背後には隠れるような物陰もない。本当に突然、男は何の前触れもなくそこに現れたのだ。
「……どなたでしょうか? 団員には見えませんが……それに、一体どこから……」
「私の名などどうでもいいことだ。それよりも、貴方は強くなりたいのでは? 貴方からはそんな気配を感じられる」
「……!」
男はランスローテからの質問に答えることなく、妖しげな雰囲気を漂わせながら本題に入る。強くなりたい。確かにそう思っていた。先程小さく呟いていたのを聞いていたのだろうか?
「ええ……私はアーサー様のため、もっと強くならなくてはいけません……! ですが、団員の訓練と称して未開の地へ踏み入ってみても、中々変化は訪れず……途方に暮れていたのです」
男からの質問に対しランスローテは、心の内を言葉に出す。団長として、団員達を引っ張っていけるような強さがほしい。期待に応えられるような成果をあげたい……そう考えていた。それらは全て、自分のためではなく団長としての責任感から来るものだ。
そんな思いを告げると、フードの男は懐から徐ろに一本の剣を取り出し、ランスローテに差し出すように柄を向ける。
「これは……?」
「この剣は魔剣アロンダイト。世界各地に眠る強力な魔剣の内の一つです。魔剣というのは強い魔力を有し、国に一振りあれば情勢が傾くと言われているほどの代物……これがあれば、貴方は今よりももっと強くなれる。……譲りましょう。私は貴方がこれを使いこなす様を見てみたい」
「ま、魔剣……それほどの力が……!」
アロンダイトを差し出した男の説明を聞き、興味を惹かれるランスローテ。彼の言う魔剣の力が本当ならば、アーサーの役に立てる。今の行き詰まった状況にこれほどぴったりなものはないだろう。しかし、突然現れた見知らぬ男がなぜこのような希少なものを差し出したのか、ランスローテは疑問に思う。
「言ったでしょう? 私はこれを使いこなす貴方が見てみたい、と……。強いて言うならば、ただの気まぐれですよ。……さぁランスローテ卿、今ここで貴方は強さを手にするのです!」
「これを使えば……私は、強く……!」
ごくり……と息を呑みながら、ランスローテはゆっくりと手を伸ばす。本来ならば、このような怪しい謎の男からの都合の良い話など、間違いなく蹴っただろう。だが、この時のランスローテは伸び悩んでしまった強さに固執するあまり、我を忘れていたのだ。思えば、すでにこの時から何かが狂っていたのかもしれない……。
そして男から剣を受け取ったランスローテはおもむろに剣柄を握り、そのまま慎重に、スゥー……と引き抜いていく。剣が鞘から抜ける直前、謎の男はぼそりと言葉を零す。
「それでは……いってらっしゃいませ、ランスローテ卿……。魔力の闇の底へ……。正気を失い、その剣を使いこなす貴方を楽しみにしていますよ――ヒヒヒッ……!」
その言葉を最後に、剣を引き抜いたランスローテの意識は闇に包まれ、そこからの記憶は飛んでいた――。
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「操られていた時の意識はなかったのですが、正気に戻った今、記憶だけは残っています。あの後、私が何をしたのかすらも……」
あの後、正気が失われたランスローテは謎の男に言われるがまま、訓練中であった団員達を次々と洗脳し、そしてカリバーン王国へと帰ったランスローテは、アーサーを……。
「アッハハハ!! なんだァ、やっぱ覚えてるもんなんだな?操られていたときの記憶っての。なぁランスローテサマよ~、いったいどんな気分だったんだぁ~? 自らの手で! 主君を騙して! 刺した気分は!?」
今の説明をしっかり聞いていた謎の男は、疲労で膝をついているランスローテに凄まじい速度で接近し、耳元でひたすらに感情を煽る。実に愉快そうに。
「貴様ぁ……ッ!? ぐうっ……!」
「おぉっと。無理しないほうが良いんじゃねーか? 激痛で立つこともままならないんだろ? 大事な大事な主君サマのためにあ~んなに頑張ったのになぁ? 可哀想になぁ? あっはははははァ!!」
「い、いい加減に……ッ」
煽りに煽りを重ね、皮肉に皮肉を重ね……こちらの感情を揺さぶってくる男に、ランスローテは自分の不甲斐なさと悔しさと怒りで爆発しそうになっていた。だが……。
「いい加減にしろッ!!!」
ヒュンッ!!
「おっ、と……。いきなり斬り掛かってくるなんて危ないじゃねーか? 当たったら大怪我しちゃうだろ? ククククッ!」
「黙れ、下郎め……! それ以上私の親友を侮辱するようであれば、容赦はしない!!」
ランスローテの側にいた男を勢いよく剣を振ることで下がらせ、怒りを露わにしているのはアーサーだった。
「今ので確信したよ。君は間違いなく私の敵だ。このアロンダイト帝国の一件は、全て君の仕業だね?」
「ほ~。さすが元王様。理解が早いねぇ~? ……そうさ! 全ては俺が仕組んだんだよ! 魔剣に呪いを掛けたのも、ランスローテに魔剣を渡して狂わせたのも、正気を失ったランスローテを陰から支援し、裏で操っていたのも全部なぁ!」
すでに敵意をむき出しにして警戒を高めているアーサーが訴えると、フードの男は腕を広げて声高らかに語る。つまり、カリバーン王国乗っ取りからデュランダルでの傭兵や盗賊事件、マナの襲撃……そして今回の戦争勃発も、全て元凶はこの男だったのだ。
「い、いったい何が目的でこんな酷いことをしたんですか!?」
男の発する威圧感ですっかり怯えていたラフィが、なんとか勇気を振り絞って質問を投げかける。だが、男から返ってきた返答は、残酷なものだった。
「目的ィ? さっきそこの元皇帝サマの話に出てきた俺が言ってたじゃねぇか。『ただのきまぐれですよ』ってさァ! 暇潰しだよ! 変わらねぇ日々に退屈してたんだ俺は!」
「そんな……退屈凌ぎなんかでこんな酷いことを……!」
「最低っ! あなたのせいで、いったいどれだけの人が苦しんだと思ってるの!?」
ただの暇潰しの遊び心でこのような事態を引き起こしたのにも関わらず、なんとも思っていない様子の男を糾弾するシトラスとラフィ。
「苦しんだ、ねぇ……? 人間はいつだってそうだよなァ。自分たちの事は棚に上げて、誰かのためだなんだと戯言ばかりをほざきやがる……」
「……『人間は』? その言い方……あなたは一体何者ですの?」
シトラスの言葉を聞いて、どこか意味深なことを言い出す謎の男。しかしその真意が分からず、発言に違和感を感じたカトレアが男の正体を尋ねる。すると男は思い出したような反応で、深く被ったフードに手を伸ばす。
「あぁ……そういえばまだ自己紹介もしてなかったなぁ……」
そう言いながら男がおもむろにフードを取ると、現れたのは短く赤い髪で、ギラついた刺すような鋭い目つきの顔だった。そして何よりも目を引いたのが、その頭部に生えた二本の小さな黒い角である。
「なっ……その角は、まさか……っ!?」
「あー……改めて、俺の名はベリト。見てわかると思うが、『悪魔族』だ――」
ベリト……と名乗った男は、なんと人間ではなく悪魔族だという。悪魔――それは主に魔界を住処にしており、強大な身体能力と魔力を有し、人との契約を結ぶことによって地上に降臨し、代償を貰う代わりにその契約者に力を与えたり……知恵を授けたり……望みを叶えるという。
だが悪魔は、歴史では嘘をついて人を誑かす危険な存在とされており、契約者に嘘を教えたり、裏切って命を奪うこともあるそうだ。そしてベリトも例に漏れず、危険な存在であることは先程から感じている威圧感で皆、理解していた。
「……まさか、悪魔だなんて……! でも、わたくしは……っ、ハッ……ハッ……!」
ベリトの正体が悪魔だと知り、突然様子がおかしくなるカトレア。恐怖でどうにかなってしまった……というわけでもないようだが……。
そして、ついに正体を現したベリトに対し、一同の警戒度は頂点にまで高まっていた。悪魔など、普通の人間が勝てる相手ではない。まして、今や戦いの後で皆身体はボロボロで疲労困憊、魔力も尽きかけなのだ。かなりの実力者たちが集まっているが、このような状態では目の前の悪魔に勝てるかすら怪しい。だが、やるしかないのだ。
「まァそうピリピリすんなよ。俺の事が怖いのは分かるが、俺がここに来たのは皇帝サマの敗北に気づいてコレを取りに来ただけなんだからさぁ? 今回は運が良かったと思えよ、人間共」
そう言って部屋の奥に刺さっているアロンダイトを引き抜き手に取るベリト。どうやら、彼の目的は魔剣にあったらしい。……しかし、こちらの目的もそのアロンダイトの破壊にある。今持っていかれるわけにはいかない。
そして魔剣を拾ったベリトは、その場から去ろうとする――が……直後、前へ踏み出そうとしたベリトの目の前をかすめるように炎の弾が通過する。
チリッ……
「いっ……行かせません……っ! その魔剣は……あなたには渡しません!」
「あァ……?」
恐怖の中、声を振り絞って啖呵を切るラフィ。去ろうとするベリトの足を止めるために炎の弾を放ったのはラフィだった。
だが、ラフィに止められたベリトは、瞬間――凄まじい殺気を放つ。そして次の瞬間……ラフィの眼前には刃が迫っていた。
ガキィンッッッ!!!
「へっ……?」
何が起きたのか早すぎて理解が出来ていないラフィ。眼前にはアロンダイトの刃、そしてそれを止めるように重なる、もう二振りの剣があった。
「ぁん? 二人係とはいえ、今のを止めたか。偶然か、必然か……まぁ人間にしては中々やるみたいだな?」
「ぐっ……生憎、私一人だけじゃ止められていなかっただろうけどもね……!」
「今回の騒動を起こしてしまった張本人として……騎士団長として……今ここで動かなければ私は意味がない!」
ベリトの凄まじい殺気から放たれた、ラフィでは目で見えない程の斬撃を防いだのは、アーサーとランスローテの二人だった。ラフィがベリトを止めた時から、すぐ側にいたアーサー達は警戒を高めていたのだ。ベリトの放つ威圧感、そして殺気はすでに最初から異常だったからだ。
アーサーは今の攻撃を止めた反動で、モルドレッドとの戦いの傷がぶり返して腹から血が滲んでいた。ただの不意打ちに見えたが、それほど強力な一撃だったのだ。ランスローテもいてくれていなければ、きっと止められていなかっただろう。
「ひっ!? すみませんっ……!?」
「問題ない! ラフィ、君は魔術士だ。すぐに後方へ!」
「は、はいっ!」
アーサーに諭されると、ラフィは急いで後ろへ下がる。今のような不意打ちが起こる可能性もあるからだ。アーサー達がいなければ、ラフィは間違いなく死んでいた。こういう状況において、素早い判断を下せるアーサーの存在は大きかった。
ラフィが下がったのを確認すると、アーサーとランスローテはベリトの剣を弾くようにして距離を取る。そして突如として始まった戦いに、周囲の者は皆戦闘態勢に入っていた。
「おうおう、多勢に無勢とはまさにこの事だなァ? クハハハッ! 別に見逃してやっても良かったんだが……まぁそこまで死にたいんなら、少し遊んでやってもいいかなァ!?」
そう言ってアロンダイトを無茶苦茶な型で構えて、敵意をむき出しにするベリト。背後からは禍々しい紫のオーラのようなものが溢れ出ていた。気配に鈍感なものでも気づきそうな程濃い威圧感は、一同を萎縮させた。
「これでも私は一国の王だ。簡単に殺せるとは思うなよ、悪魔とやら! ――『エクスカリバー』ッ!」
皆がベリトに怖気づき、萎縮している中、前に歩み出たアーサーは皆を鼓舞するかのように聖剣エクスカリバーを解放する。その暖かい魔力は、皆の下がりきった士気を少しずつだが高めていった。
アーサーがすでに限界が近く、無理をしていることは皆分かっていた。だが、そんな中で先陣を切って前に立つ騎士王を見て、いったい誰が怖気づくというのか――。
「出来る限りサポートします! 罪滅ぼしになるとは思ってもいませんが、貴方にもらったご恩を必ず返さなければなりませんから!」
「さあクロエ! 私たちも負けてられないわ! 行くわよ! ――クラス7【フィジカル・フルパワー】!」
「はいっ、マナさん! ―――またしても出番か!! 魔力馬鹿のおっさんの次は悪魔か! 初めて戦う相手だが、不足はねえな!」
「悪魔……ッ! わたくしの……倒さなければいけない相手……っ! 起きて、【シルファ】ッ!!」
『カトレア……そっか、ようやく……。……よし、任せなさーいっ!』
「長年冒険者をやってきたがこんな体験は初めてだな。だが、娘が待ってるんだ! 悪魔なんかに負けてられねぇな!」
「はりきりすぎたらまた娘さんに臭いだのなんだの言われちゃいますよ? 今回なら暑苦しい……とかですかね?」
「さ~さ~! アーサーもやる気バッチリみたいだし! 僕たちも王国代表として頑張っていこうね! 二人ともっ!」
「おうよ! トリスタンもずいぶんと頑張ったみたいだし、何も出来なかった俺たちは尚更気合入れないとな? モルドレッド!」
「ガウェイン……魔力はちゃんと残っているだろうな? 大事な場面でガス欠になれば一生の恥だぞ」
「ラフィが無事で良かった! さ~て、私もルナちゃんさんのために頑張っちゃうぞっ!」
「皆さんのおかげで今の私がありますからね。勿論シトラスさんのおかげでもあります。なので、帰ったら一杯やりましょう! それまで死なないで下さいよ! シトラスさん!!」
先頭に立ったアーサーに続き、剣を構えアーサーの一歩後ろに立つランスローテ。身体強化を使ったマナと刀を抜いたクロエ、アル。思い詰めた様子のまま、シルファを呼び起こし風を纏うカトレア。
そして、肩を並べて剣を構えるガランと杖を構えるエディン。王が先陣を切っている中、負けじと張り切るトリスタン、ガウェイン、モルドレッド。先程のラフィの無事を安堵し、拳を構えて気合を入れるシトラスとそれを鼓舞するラフィ。
圧倒的な存在感と強大な力を持つ悪魔、ベリトとの総力戦が今、幕を開けた。
「お前ら人間に教えてやるよ……! 真の絶望ってのをなぁッ!!」




