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天才と脳筋は紙一重  作者: たんすちゃん
《第二章》-王国奪還編-
33/100

33.集結、そして終結?

「とてつもない揺れだったな……大丈夫か、モルドレッド?」

 アーサーは肩を貸してゆっくりと歩きながらモルドレッドに声をかける。


「あ、ああ……。これも誰かが戦っている音なのか? 今にも城が崩れそうだ」

 モルドレッドは今しがた聞こえてきた連鎖的な爆音に感想を述べるが、先程まで自分たちも城が震えるほどの戦いをしていたことには自覚がないようだ。


「はっはっは! 私たちが言えたことじゃないんだがな。とにかくまだ誰かが戦っているのなら私たちも急ごう!

 こんな魔力もまだ少ししか回復していないボロボロの私たちが行ったところで何か変わるとは思えないが、一人で玉座へ向かわせたルナが心配だ」

「そうだな……悪いな、足を引っ張って」

「気にするな! 私達の仲だろう」

 相変わらず明るいアーサーと卑屈なモルドレッド。モルドレッドはアーサーよりも重傷で、しばしの休憩で少しは癒えたが、アーサーに肩を借りなければフラついてまともに歩けないような状態だった。

 そんな二人は戦いを終えた後、広間で動かず少し休憩を取ってからルナを追って玉座へと向かっていた。そしてその道中で玉座の方から謎の爆音……というかラフィの最上級魔法の炸裂音が聞こえてきたのだ。

 そしてゆっくりと廊下を進む二人の背後から、三人の影が近づいていた。


_

_

_


「ハアッ――! はぁ……はぁ……! くっ……」


 最後の兵士を倒し、階段前の廊下にて、膝をつくカトレア。その体はすでに血まみれで、元々赤い髪も相まって全身が真っ赤に染まっていた。だがそれはほとんどカトレアの血ではなかった。

 周囲には廊下の至る所に倒れ伏す数多の兵士たち。残るのは激しい戦いの跡。壁や窓、床のところどころには、鎌鼬(かまいたち)が通り過ぎたかのような傷ができていた。死屍累々……という言葉が間違いなく当てはまる状況だった。


「はっ……。誰も……死んでおりませんけれどね……」

『カトレア……大丈夫?』

 息を吐いて呟くカトレアを心配するシルファ。そう、ここに倒れている百以上の兵士達は誰一人として死んでいなかった。気絶している者、意識はあるが戦闘不能にされている者、腱を断たれ動けなくされている者。それらが全てだ。致命傷は与えていない。カトレアの完全勝利であった。

 だが、当然ながらカトレアも無傷では済んでいない。直撃はないものの、多数の切り傷が重なった出血による目眩、そして継続戦闘による疲労も凄まじいものだった。


「シルファ、貴女も疲れたでしょう? 少しお休みなさいな。わたくしはもう休憩は充分ですわ……! 先へ、進まないと……」

『うん……でもカトレアも無理しちゃダメよ? 少し休むけど、いつでもあたしを呼んでよね! あたしはカトレアの力の一部なんだからっ!』

 そう言うと傍に浮いていた緑の球体は、しゅんっ……と姿を消す。気を遣ってか、余計なことはいわず言われた通りに休憩を始めたシルファ。きっと彼女の疲労も相当なものだろう。精霊とて疲労感はあるのだ。カトレアにしっかり休めと言いたい気持ちはあっただろうが、カトレアの強い意思を感じ取ったシルファは大人しく引き下がったのだ。


「ありがとうシルファ。さて、喜びを噛み締めている暇はないですわね……! ふぅーっ……さあ、先へ進みますわよ!」

 カトレアはシルファに礼を言いつつ深く深呼吸をすると、意を決して階段へと足を踏み出し、二階のアーサー達の後を追っていくのだった。


_


 カトレアが階段を登り、暫く二階の廊下を壁伝いに歩いていると、ふと後方から声をかけられる。


「――おぉい! そこの嬢ちゃん!」


「……?」

 背後からカトレアに声をかけてきたのは二名の男性冒険者。一人は無精髭を生やした壮年の男性で、もう一人はもう少し若い穏やかな雰囲気の青年だった。


「あれは……たしか、作戦会議のときにいた方ですわね……第三チームの……」

 カトレアがなんとか顔を思い出そうとしていると、こちらへ駆け寄ってきた二人はそのまま名乗り始めた。


「いや、すまん! ようやく敵兵以外の見覚えある顔が見えたものでな! 俺はガラン、第三チームのA級冒険者だ」

「同じく、エディンだよ。たしか君は第四チームの冒険者だったよね?」

「ええ。第四チーム、A級のカトレアですわ。先程ようやく役目を終えて玉座へ向かっているところでしたの」

 二人に合わせるようにカトレアも自己紹介をする。見たところ、彼らも自分ほどではないが、多少傷を負っている。きっと今まで二人で敵と戦っていたのだろう。

 カトレアが思っている通り、彼らはシトラス達のためにカトレアのように足止めを引き受けていた第三チームのA級冒険者、ガランとエディンだった。


「実はさっきまで僕たちも戦っていてね。ようやく落ち着いたから先に向かったリーダー達を追って玉座へ向かっていたんだ」

 エディンの説明を聞いて、なるほど……と理解を示すカトレア。どうやら彼らは自分と同じ状況らしい。


「せっかく合流できたんだ。このまま一緒に向かわないか? ……お互い、疲労しているみたいだしな」

 ガランの言う通り、カトレアはかなり疲労していたし、ガランとエディンも中々消耗しているようだった。人数は多いほうがいいだろう。まさかとは思うが、この先にもまだ敵がいる可能性だってある。


「そう……ですわね。分かりましたわ。でしたら急ぎましょう! 先程聞こえた爆音……きっと玉座ではまだ戦いが続いているはずですわ!」

「だね。よし、行こう!」

 そうしてカトレアはガラン達と行動を共にすることになり、三人は廊下を進み始めた……。

 暫く歩いていると、三人の前方には肩を貸しながら歩いている二人組が見えた。それは――。


_


「アーサー様っ!」

 そう、先行していたアーサーとモルドレッドだ。傷に気を遣っていた二人の進行は非常に遅かったため、カトレア達が追いつく形になったのだ。


「ああっ!? カトレアじゃないか! 良かった、無事だったのか!」

 アーサーは声をかけたカトレアに気づくと、心底嬉しそうに笑顔を見せる。信じてあの場を託したとはいえ、やはり負い目があったのだろう。

 無事再会し、合流した五人は、簡単に今持っている情報交換を済ますと、玉座の間へ向かって歩き始める。



「そうですの……アーサー様はモルドレッドさんと広間で戦っておられたんですのね。それでルナが先に……」

「ああ。生憎、お互い引き分けてすぐには動けそうもなくてね。こうしてゆっくりとルナを追っていたんだ」

 カトレアとアーサーが話しながら歩いている横では、モルドレッドを支える役を変わったガランとエディンがいた。この中で一番疲労が少ないのは二人だからである。



「すまないな、デュランダルの冒険者……。俺ばかりが足を引っ張っている……」

 相変わらず卑屈な態度のモルドレッド。それはアーサー以外の冒険者に対しても同じようである。だが、都合よく操られ、親友に手をかけようとまでした挙げ句、その親友に救われてしまったのでは立つ瀬がないのも事実。不器用なモルドレッドなりに落ち込んでいるのだ。


「まったく、何を言うかと思えば……。俺らだってボロボロさ! 気にするこたぁねえ! ……で、どうなんだ? おたくの王様の実力ってのは?」

「ん……ああ、そうだな……。あんた達A級冒険者が束になっても勝てないんじゃないか? 俺も強さに自信はあるが、やはりアーサーは天才だった。五年ぶりの再会だったが、その戦闘センスは変わらず残っていた……」

 ガランの小声での質問に答えるモルドレッド。五年間もの長い療養でまともな鍛錬ができていないうえ、さらには病み上がりで自分と戦ったのにも関わらず、その戦いの中で感覚を取り戻していく様は、さながら英雄……勇者とも呼べる代物だった。どこか嬉しそうな表情でモルドレッドは親友を語る。


「あいつがいる限り、俺もまだ成長の余地がある。これからが楽しみだ」

「はー、あんたも王様もそんなに強いんだな……。やれやれ、最近は若いのにも追い抜かれてるってのに、同年代にも敵わねえのかぁ……」

 モルドレッドの熱い闘志を感じ取ったガランは、比較して自分の情けなさを自嘲していた。ガランももういい歳だ。そろそろ冒険者業の引退も視野に入れても良い頃だろう。だが同年代に見えるモルドレッドがこれほどでは、そこで引退するのは情けないというものだ。


「そうやってすぐ年齢のせいにして嘲るの、ガランさんの悪い癖だと思いますよ? さっきだってシトラスさん達のために頑張ってたじゃないですか」

「そうは言ってもなエディン……おじさん年々つらくなってきちゃったんだよ~。若い奴らにゃ次々と追い抜かれて、戦闘じゃたまに腰を痛めるし、娘には汗臭いとか言われて距離を置かれるし……」

「いや、それはちょっとどうしようもないな……」

 ……最後のはあまり関係性が薄い気がするが、確かに歳の影響はあるかもしれない。

 そんなことを話しているうちに玉座の扉が……いや、扉はシトラスが粉砕したため廊下からは中が丸見えになっているのだが……。玉座が見え、アーサーが声をあげる。


「見ろ! なぜか扉がなくなっているが、あそこが玉座の間だ!」


_

_

_



ドドドドドドドドォォッ……!


(………今の揺れは……何? 誰か……戦ってる? 外に誰かいるの?)

 ――深い暗闇の中、激しい震動を感じて意識がぼんやりと覚醒する。音も気配も感じないはずの空間だが、ラフィの魔法のあまりの威力の高さに震動がここまで届いたのだ。

 そしてその圧倒的力押しによる揺れは、ルナの意識下における認識に影響を与えた。


(外に誰かいるんだ……きっと。もう……どれくらい経ったの? なんだか、何年も経ったように感じられる――)

 ルナは深い闇の底から意識が戻り、まだ薄っすらとした意識のまま、頭を整理する。

 王城にてランスローテと出会い、戦闘になり……その戦いの中でランスローテの魔剣……アロンダイトの魔力を見た。直後、視界は闇に包まれ、仲間たちの声を聴いて……眠りのような状態に落ちたのだ。


 ――そうだ。私は……まだ……戦いの最中なんだ……。きっと私の代わりに……誰かがランスローテと戦ってくれてる。……世話をかけちゃうな。私が不甲斐ないから……。

 ルナの意識が徐々に鮮明とし始め、脳の細胞が活発になり始める。同時に思考する量も、速度も増える。そんなルナを止めるように、アロンダイトの中では、またしても声が聞こえてくる。


『いい? ルナ! 神話っていうのはね――』

『フェンリルって倒すのにコツとかあるんですの?』

『えぇっ!? あの年に一度しかやらないバルネアの腕相撲大会で優勝したの!?』


(マナちゃん……カトレア……クロエくん……会いたいなぁ)

 絶対に出られない空間で見せられる幻覚に、会えない寂しさを増幅させられる。そんな負の感情が心を染めて堕としていく。――それがアロンダイトの魔力……洗脳魔法だった。


『俺はもうすぐB級昇格目前なんだよ! 頼れる男になって、いつでもチーム入り待ってるぜ!』

『今日はありがとうございました! あんなふうに友達に誘われるなんて初めてで……っ!』

『お花……姉妹らしいと言ってくださって、ありがとうございました。次にアイギスさんに会える休日を楽しみにしておきます』


(ウェッジさんに……マリーちゃん。……それに、レイラさんも。楽しかった思い出。会いたい……また、会いたいなぁ)

 ルナが王都についてから出会った懐かしい面々。アロンダイトはルナの心を寂しさで染めるべく、あの手この手で孤独感を煽る。


 ――会いたい。その気持ちに嘘偽りはない。みんな大事な思い出だし、みんな大切な人達。

 でも……。


「私の代わりに誰かが戦ってるんだ。もう、行かないと」

 こうしている間にも、定期的にラフィの魔法の震動は聞こえていた。そしてルナは暗黒空間の中で立ち上がる。地面がどこにあるかも分からず、壁もどこなのかは分からないが、しっかりとその場に立ち上がる。

 すると隣に光の粒が集まり、暗闇の中に人の形を作り出す。その姿は――。


「……スエズお爺」


『行ってしまうのか、ルナ』


 ルナの隣に現れたのはスエズだった。いや……スエズだけではない。後ろにはマナやカトレア、クロエはもちろんのこと、ルナが初めて訪れたコロンの村の町民達や、乗り合い馬車で出会ったウェッジ、ロット、クレイヴやデイナ。受付嬢のライラとレイラ。

 そしてトリア行きの馬車護衛依頼で出会った『グリフォンの爪』の五人に、『アマゾネス』の三人……。まだ始まったばかりの旅の途中だが、そんな中で出来たルナの大切な思い出たちだ。


「行かないといけないから……」

『そうか……。そういえば、お前さんはいつだったか、今みたいに同じようなことを言っておったのう……。『冒険者にならなきゃいけない気がする!』なーんての?』

「あはは……修行中にそんなこともあったね……」

 にこやかにスエズと会話をするルナ。ここにいるスエズはあくまでただの幻覚だ。アロンダイトが見せているまやかしにすぎない。だが、それは紛れもないルナの記憶の中から来ている人物達だ。粗末に扱えるものではないのだ。


『じゃが、ルナよ……ここをどうやって出るつもりじゃ? ここでは魔力は使えても、壁もない……天井もない……床もない……。油断すればまた負の闇に落ちてしまうんじゃぞ?』

 スエズはルナに語りかけてくる。アロンダイトが見せる幻覚にしては、負の感情になりえないような会話だ。まるで本当にそこにスエズがいるかのように。


「そこなんだよね~……! どうやったら出れるかなぁ? 力技で殴って解決できればいいんだけど……多分無理そうだよね?」


ドオォォン……!!


 暫く止んでいたと思えばまたしても聞こえてくる戦いの震動。それは現状を打破できないルナを困らせる。だが、自然と焦りはなかった。それは幻影とはいえ、後ろで皆が見守ってくれているからかもしれない。


「早く出ないとなぁ……。ん? そっか! 今、魔力は使えるって言ってたよね。なら簡単じゃんっ!」

 ルナは今さっき言っていたスエズの言葉を思い返し、一つの答えに辿り着く。そして両手を前に出し、意識を集中させる。






「この空間ごと……ぶっ壊す!」


_

_

_


「そうだ……私は……! あの魔剣を()()()日……あの日からおかしくなったんだ……! 思えば、そう都合よく力が手に入るわけがない……そんな一時の気の緩みで……私は……アーサー様を……っ!」

 ラフィから全ての事情を聞いたランスローテは取り乱していた。無理もない。魔剣によって操られていたとはいえ、この大規模な謀反を起こしてしまった張本人なのだから。


「だ、だいじょうぶですよっ! どうやらアーサー様もまだ生きているようですし、いくらでも謝罪する時間はあります!」

「そうだよ! トリスタンくんもいるし! またやり直せるよ!」

 取り乱すランスローテを落ち着かせるべく、優しく励ますラフィとシトラス。今、ランスローテの心は不安定だ。きっと傷心と困惑でかなり落ち込んでいるはずだ。しかしそれは、真面目なランスローテにとって、何の慰めにもならなかった。


「アーサー様が生きておられるのは……不幸中の幸い……ですが……っ、私には、合わせる顔がありません……! 一体どんな顔をしてあの方に声をかければいいのですか!? 謝罪など! ……言葉では足りるわけがない……。

 ……それに、モルドレッドやガウェインにも悪いことをした……きっと私は彼らを操り、多くの罪なき人々を殺させた……本人の意思を強制して! 一生(あがな)っても償いきれない罪だ……。何が騎士だ……私はただの……クズだ……」

 ラフィ達の言葉を聞いて、自分をひたすらに戒めるランスローテ。確かに彼のやったことは騎士道からは大きく逸脱しているだろう。この数年の間に、カリバーン王国だった国は複数の国に戦争を仕掛け、吸収した。きっと大勢の人々が殺されただろう。それも、自分の意思とは関係もなく……手にかけさせた。

 そんな責任……重圧……後悔に……普通の人間が耐えられるわけがなかった。そんなランスローテにかける言葉が見つからず、シトラスとラフィは困った表情で顔を見合わせていた。

 だが……涙を流し下を向くランスローテの背後から、一人の手がぽん……と肩に優しく乗せられる。



「――君は今、どんな顔をしている? ランスローテ。良ければ私に見せてくれないか?」

「………っ! この……声は……」

 優しく肩に置かれた手。優しく語りかけてくる声。そして今は少し弱々しいが、この暖かい魔力の感覚。どれも深く記憶に残っている。そう思い、ゆっくりとランスローテは振り向く。


「ア……アーサー様……!」

 ランスローテの背後にはアーサー……そして、粉々に粉砕された玉座の入り口付近にはカトレア、モルドレッド、ガラン、エディンの四人がいた。


「やあランスローテ! 五年ぶり、だね? 元気してたかい? 私はおかげさまで五年間もの療養生活で、体もかなり鈍ってしまったよ! ハッハッハ!」

「ぁ……ぇ……わ……わたし……は……!」

 久しぶりの正面切っての再会。アーサーは相変わらず誰にでも明るく、前向きな態度で声をかける。少し皮肉混じりの冗談をこめてみたりして、錯乱状態のランスローテの気を和らげようとしているのが窺える。


「アーサー様……私は……」

 アーサーのおかげか、ようやく少しだけ落ち着きを取り戻したランスローテは少しずつ、ゆっくりと言葉を紡ぎ始める。


「うん。キミのやったことは全て分かっているよ。モルドレッドやガウェインは勿論だが……それにトリスタンとマーリンにも苦労をかけたねぇ……」

「アーサー様! でもランスローテさんは……っ!」

 一つ一つランスローテの悪行を指摘していくアーサーに、庇うようにラフィが声をかける。ランスローテはただ操られていただけなのだ。罪はない……と。

 しかし、世間はそれでは許してはくれない。暴君ランスローテが統治したアロンダイト帝国の存在はすでに世に知れ渡っているのだ。

 人としても騎士としても、そして王としても……それを見逃すわけにはいかない。それを理解していた周りの冒険者達は終始黙っていた。アーサーの結論を……待っているのだ。

 そして庇うラフィの言葉を遮るように声を出したのは他でもないランスローテだった。


「ありがとうございます、ラフィさん。庇っていただいて……。ですが、私は騎士以前に人として、してはならないことをした。あなた達デュランダル王国にも多大な迷惑を掛けたことでしょう。

 そして……カリバーン王国にも。今私が洗脳から目覚め、こうしてこの場にあるのは……きっと、罰なんでしょう……。まずは、この場にいる皆様……大変申し訳ありませんでした」

 ランスローテはラフィに礼を言ってから、周りの皆に視線を送ったあと、深く頭を下げ謝罪の言葉を述べる。そして、ランスローテは最後にアーサーの方へ向き直し、跪いて頭を垂れる。そしてゆっくりと口を開いた。


「アーサー様……どうか……どうかこの場で、私の処刑を求めます」

「………」


ざわっ……!


「そんな……っ!?」

「うっそ~ん……」

「まじかよ……」

「……ランスローテ」

 ランスローテの言葉を聞いた周囲は、アーサー以外にざわめきが広がった。一気に変わった空気感に、皆、気分はあまりいいものではなかった。

 だが、アーサーだけは表情を変えず平然としていた。そしてそんなアーサーが口を開こうとした時――。


「――お待ちくださいアーサー様っ!! ランスローテは悪くないのです!」

 入り口から聞こえた声に、一同は一斉に振り返る。するとそこにいたのはなんと地下へ向かったマナとクロエ、マーリンにトリスタン。さらには正気に戻ったガウェインまで……。そして長い黒髪の女性――。


「ギネヴィア!? 無事だったか!」

「ギネヴィア……」

 そこには地下に幽閉されていたアーサーの妻、ギネヴィアがいた。マーリン達はガウェインを退け、彼女を無事救出することができたのだ。

 するとギネヴィアはアーサーに乞うように言葉を紡ぐ。


「私のことはマーリンが助けてくれました……。ですが今はそれは置いておいて、ランスローテを許してあげてはくれませんか? 彼は魔剣に操られていながらも、貴方に与えられた『死んでもギネヴィアを守れ』という使命だけは忘れていませんでした……。

 彼は操られていたとはいえ、確かにこの五年間非道の限りを尽くしてきました……ですがその中でも潜在意識の下で洗脳に抵抗し、軟禁という形ではありますが貴方の使命を忘れずにいたのは温情が与えられても良いのではないでしょうか……!」

 ギネヴィアによれば、ランスローテは幽閉されていたギネヴィアの元に稀に訪ね、言葉を交わしていたらしい。その会話の中でギネヴィアは、ランスローテは正気ではないが未だに使命をうっすらと覚えており、無意識に役割を果たしていることに気づいたのだ。

 ギネヴィアを処刑も拷問もせずに軟禁していたのはそれが理由だった。

 それを聞いたアーサーは神妙な顔つきになる。だが、口を割り込んだのは他でもないランスローテだった。


「ダメだ! たとえギネヴィアを守る使命を覚えていようが、私のした罪は消えない……私は今ここで処刑されるべきだ!」

「ランスローテ……っ!」

 庇うギネヴィアを余所に、ランスローテにまだ残る騎士としての矜持がそれを許さなかった。他の者は口を入れずに黙って聞いていた。そしてランスローテはアーサーに再度請う。


「さあ……アーサー様! 私をどうか処刑してください……!」

 ランスローテがそう言うと、アーサーは目を見開いて、閉じていた口をようやく開く。


「断る! キミは死んではならない!」

「な……っ! 何故ですか! 私のような大罪人は即刻処刑するべきだ! 早く私の首を()ねてください!」

「どうしても嫌だね! 処刑とか私には向いてないし! なんか怖いだろう!」

「ふ、ふざけないでくださいっ! 貴方はいつも甘いですが、今回ばかりはその甘さを捨ててください!」

 アーサーのせいで突如として空気感が軽くなった二人のやり取りは、どうやら過去にも似たようなやり取りをしたことがある雰囲気だった。


「アーサー様……!」

 アーサーの言葉を聞いて安堵した様子のギネヴィア。


「ぷふっ……相変わらず甘いな、アーサーは……」

 そしてそんな二人を見て思わず後ろで口を隠して吹き出すモルドレッド。この真面目な空気感ですらあの調子なアーサーがツボに入ったのだろう。



「なんか、空気変わったな……」


「問題なさそうですわね」


「そうだね……」


「あ、あのあの……っ!?」


「ラフィ落ち着いて~!」


 シトラスやカトレアたち他の五人も、なんとなくアーサーの気持ちを察したようだった。マーリンやマナ達はすでにギネヴィアから話を聞いていたため、こうなることは薄々分かっていたのだろう。

 そしてようやく落ち着いたところで、相変わらず跪いているランスローテに向けてアーサーが口を開く。


「分かった。ランスローテ。キミがそこまで罰がほしいのならば与えよう。だが与える罰は死刑ではなく、死よりも長い懲役期間をつける」

「……そ、それは……?」

 それは一見とてつもなく重い罰のように聞こえるが、アーサーは続ける。


「ランスローテ。私はこれから先、王としてこのアロンダイト帝国をカリバーン王国として再建する。そして民にも、兵達にも、周辺国にもその存在を誇示しようと思っている。私が新たな王だと……。

 そして君にはその補佐についてもらいたい。円卓の騎士団団長として、そして私のもう一人の親友として……ランスローテ! 君に与える罰は、全てを以って新たなカリバーン王国の民を守り、目の前の巨悪を穿つことだ!」

 アーサーがハッキリと告げた罰。それは、かつてアーサーが彼に与えた、ランスローテの騎士道そのものだった。


「それは……それでは……私の罪は洗い流せません……!」

「返事が聞こえないぞランスローテ? ――罪など、人間誰しもが抱えて生きているものだ。キミも今まで奪ってしまった命を背負って、私と共に罪を贖い生きていくんだ!!」

「っ……はいっ……王に、誓って……っ!!」

「うむ!」

 大量の涙を流し、顔がぐしゃぐしゃになりながらも、騎士団長ランスローテはアーサー王に誓う。それを聞いたアーサーは満足そうに頷き、ランスローテの肩を抱えて立ち上がらせる。




「とても優しいお方ですわね……アーサー様は」

「馬鹿をいうな、アレはただの甘ちゃんだ。王には向いてない」

「でも、すごくいい人だよね?」

「まぁ……否定はしない」

 そう言って、アーサーとランスローテから少し離れた後方でカトレア、モルドレッド、シトラス達は言葉を零すのであった。


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