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天才と脳筋は紙一重  作者: たんすちゃん
《第二章》-王国奪還編-
31/100

31.魔剣アロンダイトの魔力

「ついに、ガウェインを倒せたの……?」

「多分、てか間違いなくな。あー、疲れた疲れた! このおっさんしぶとすぎだぜ」

 地面に倒れ、息も絶え絶えに動かなくなったガウェインを見て、マナ達はようやく勝利を確信する。

 周りを見ればマナもアルも、そしてトリスタンでさえもボロボロになっており、周囲の壁も床も亀裂が入り今にも崩れてしまいそうで、先程までの戦闘の苛烈さを物語っていた。一人を相手に三人がかりでもこれほどの被害とは、ガウェインの強さが窺える。


「いやあ二人ともガウェイン相手にすごいね! 二人のおかげで勝てたよ!」

 無事戦いが終わり、マナとアルの二人に称賛の声を送るトリスタン。


「はっ……ありがたい言葉だけど、本当に役に立てたのかしら? ほとんどトリスタンの反映魔法とやらのおかげな気がするんだけど」

「まあまあ、僕はマナさんもアルさんもすごく活躍してたと思いますよ! もちろんトリスタンさんも。誰か一人でも欠けていたらきっと勝てなかったはずです!」

 トリスタンからの称賛に対し、苦笑しながら渋い顔をするマナと、それを慰めるように称える、刀を鞘に収め元の人格に戻ったクロエ。

 するとそんなクロエを見て驚いた様子で距離を詰めてくるトリスタン。


「クロエさんの雰囲気がまるで別人みたいに変わった!? すごいすごい! ねえどういう原理なの~?」

「うぇっ!? えっと、この刀にはアルキュオネウスさんっていう凄い人の霊が取り憑いてて、僕が刀を抜くと僕の体を借りて表に出てこられるんです」

「へぇ~! 幽霊なんて存在してたんだね! じゃあさっきまで僕が話してたのはクロエさんじゃなくて、そのアルキュオネウスさんって人なんだ! ……っとと?」

 クロエの説明を聞いて、目を輝かせ興味津々の様子のトリスタンだったが、ふと説明を聞き終えるとトリスタンは突然足元が覚束ない様子でふらつき、その場に倒れこんで意識を手放してしまう。


「ちょっとトリスタン!?」

「大丈夫ですか!?」

 二人は急いで駆け寄り、倒れたトリスタンの体を起こすと治癒魔法を行使する。得意属性が光魔法のマナは勿論、本で勉強しているため他の属性の造詣もそれなりにあるクロエも初級の治癒魔法くらいなら使えるのだ。しかし、二人は回復術士が本業ではないため、回復には少し時間がかかってしまうのだが……。

 マナとクロエの二人から治癒され、徐々に傷が癒えたトリスタンはすぐに目を覚ました。



「ご、ごめんね。致命傷は避けたつもりだったんだけど、思ってたより傷が深かったみたいで……」

「そんなの誰が見ても明らかよ。皆ボロボロだけど、貴方が一番重傷なんだから安静にしてなさい!」

 ホッとした様子で溜め息をつくマナ。尤も、本当に一番重傷なのはトリスタンの傷を倍にして受けたガウェインなのだが、マナには敵に対する慈悲はあまりないようだった。まぁ……ガウェインのガタイの良さならば、恐らく致命傷にはなり得ないだろう。


「それにしても、さっきの『反映魔法』ってなんなの? 固有魔力なんて初めて見たわよ」

 マナは傷を治す手を止めることなく質問を投げかける。固有魔力を持つ者はデュランダル王国では極稀で、王族であるマナですらまだ一度も見たことがなかったのだ。


「うーん。固有魔力はカリバーン王国でも確かに稀だけど、デュランダル王国ほど現れないわけじゃないんだ。でも、僕の反映魔法はちょっと不便でね。ただのカウンター魔法ってわけじゃなくて、しっかりと自分がダメージを()()()()()発動出来ないんだ。

 似た魔法のよしみで知り合いに『反射魔法』の使い手がいるんだけど、彼の魔法の場合、飛んできた魔法や攻撃を()()()()()にそのまま威力を倍以上にして打ち返すことができるんだ。だけど僕の反映魔法は僕が受けたダメージをきっかり倍にして相手の体に『反映』する魔法。まぁ簡単にいえば、ちょっとというかかなり燃費が良くないんだよね」

 トリスタンの説明によれば、デュランダル王国ではあまり見られない固有魔力を保持する人間だが、カリバーン王国では稀によく現れるらしい。それは生まれや地域の違いによるものなのか、過去にそこに住んでいた人々の差異なのかは分からない。

 そして反映魔法は反射魔法と違い、必ず相手の攻撃を受けなければ使えないという不便なものらしい。だからこその『燃費の悪さ』なのだ。


「反射魔法の使い手なんてのもいるのね……カリバーン王国では固有魔力はそこまで希少じゃないのかしら?」

「デュランダルだと、本ぐらいでしか見たことないですもんね」

 トリスタンの話を聞く限り、反射魔法と比べると反映魔法は彼の言う通り燃費が悪いようだ。滅多に現れない固有魔力だからといっても、その全てが強く便利な力というわけでもないらしい。


「燃費は悪いけど、それでも反射魔法と違って反映魔法には『相手に必中する』っていう性質があるから、一長一短なんだけどね! 固有魔力だからってそれに頼ってばかりじゃいけないから沢山鍛えたし、これからも強くなるよ、僕は!」

 トリスタンの魔力について話しているうち、徐々に傷が治ってきて元気が出てきたのか、胸を張って宣言するトリスタン。そんな年相応に元気一杯な様子を見て、どこかルナと重なる部分があるように感じていたマナは微笑み、更に治癒を続けるのだった。


「僕が先に治っても皆ボロボロなのは変わらないし、少しの間はここで休憩だね」

「そうね。私もさっきガルムの召喚で魔力を一気に消費したから、皆を治すことは出来てもすぐには動けそうにないわ」

「僕もちょっと体の疲労が凄いです……アルさんの戦い方にまだ体が慣れていないみたいで……」

 三人がかりでもガウェインを倒すのにここまで被害を受けるあたり、日中の全力状態のガウェインは相当な実力、そして魔力なのだろう。


「マナさんには悪いんだけど、僕を治した後はガウェインを治してあげてくれるかな?」

「えぇっ……大丈夫なの? そんなことして」

 トリスタンの突然の頼みに、マナは動揺する。マナが案じているのは、ガウェインを治したところでまた目が覚めたら襲ってくる可能性もあるということを気にしていた。


「あはは。きっと大丈夫だよ。しっかり魔法で拘束するし、万が一襲ってきても僕がなんとかするから!それにほっといたら死んじゃいそうだし」

 なにか確信があるのか、大丈夫と自信ありげに胸を叩くトリスタン。


「はぁ……。まあ、そこまでいうならそうするけど……完治は時間的に無理だからね?」

 マナは別にガウェインに対し恨みがあるわけでもないし、ガウェイン自体も脅威ではあったが、操られていただけで何の罪もない。それに気絶しているガウェインの傷は、放っておけばまずい傷ということもあり、マナはため息をつきつつもトリスタンの頼みを承諾した。


_

_

_


 マナ達のガウェインとの戦いが終わった頃、玉座では未だランスローテとルナの戦いが続いていた。


「ガウェインの支配が切れた……? まさか全力のヤツに勝てるほどの者がいるとはな。いや、トリスタンならば或いは……」

 城全体が揺れるような震動を感じた二人。アロンダイトから発せられる洗脳の魔力が途絶えたことに気付いたランスローテは、どこか感心したような表情を浮かべていた。


「いや~すごい揺れだったね? びっくりしたぁ……」

 そして戦闘中にも関わらず、今しがた起きた強烈な揺れに対して暢気な感想を述べているルナ。それも平然と知り合いに対して問いかけるかのように。その姿はとても間の抜けた様子で、隙だらけに見える。果たしてそれが罠なのか、ただの馬鹿なのかはランスローテには分かりかねる。


(ここまで戦ってきて分かったが、この少女は確かに強い。だが、いかんせん対人戦に慣れていないように見える。そこを突けば決着は早いか……?)


「モルドレッドの支配も途切れているな……。今の揺れはモルドレッドとガウェイン達の戦いによるものか? ……ルナ。どうやら君も、君の仲間も、私が思っていたよりやるらしい」


「えっと……ありがとう?」

 ランスローテからの突然の称賛に、思わずルナは困惑してしまう。先程の揺れと大きな魔力がぶつかるような感覚に邪魔され、ルナ達の戦いは一時膠着状態となっていた。ここまで剣を交わしてみても実力は互角といったところ。剣の腕こそ素人のルナと比べるとランスローテの方が圧倒的に上だが、ルナはそれを補う驚異的な膂力を持っている。

 だが、それは筋力で無理やり力任せに大剣を振るっているだけで、ランスローテの目から見れば、ルナの強さはそれだけにしか見えない。確かにあの筋力から放たれる重く速い斬撃は脅威だが、剣筋がまるでなっていない。恐らく剣を習ったことがないか、まだ武器を持ってから日が浅い。そう感じた。そんな者の攻撃、流すのは容易だ。


「残念だが、どうやらあちらの戦いは君たちの勝利に終わったようだ。我々もそろそろ終わりにしようか? 面倒だが、モルドレッド達が負けてしまったのならば、私が直々に赴いて弱ったであろう彼らを潰さねばならないからな」

 強力な部下達がやられても焦ることなく次の判断を即決するランスローテ。彼の予想通り、ガウェインやモルドレッドと戦ったアーサー、マナ達はかなり疲弊しており、今のランスローテが追い打ちで現れれば容易く始末されてしまうだろう。そのためこちらも決着を急ごうという思考は正しかった。

 しかしそれは目の前にいる少女をすぐに倒せれば……の話なのだが、ランスローテは手段を選ぶつもりはなかった。


「騎士として卑怯かもしれないが、今の私にはもう容赦などない。手段は選ばん――アロンダイト、力を貸せ!」

 ランスローテは魔剣アロンダイトに手をかざして名を呼ぶと、その刀身からは紫紺色の不気味な魔力が溢れ出す。


「な、なに? あの不気味なオーラ……でも――」

 名を呼ばれて呼応するかのように見たことのない魔力で反応を返すアロンダイト。それを見て、その剣にはまるで感情があるように思えた。自分の持っているレーヴァテインと同じように。しかしレーヴァテインとはひとつ違う点がある。

 その剣から放たれる魔力からは、何も感じられないのだ。不気味な色合いとは対照的に、殺気も、威圧感も、気配すらも感じず、ただ何も感じないという不気味な感覚だけが届いていた。


「もしかして……」

「この剣から何も感じられないのが不気味か? フフフ……当然だろうな。なぜならこの魔力は――」

 そんなルナの表情を見たランスローテは剣を構え、不敵な笑みを浮かべながら説明を始める。が、それは途中で結論を出したルナによって阻まれる。


「ただ雰囲気を出すためだけのオーラ!?」


「そんなわけがないだろッ!」

 あまりに見当違いすぎるルナの発言に、思わず声を張り上げてしまうランスローテ。


「えー!? だって、だって何も感じないよ? 見た目はかっこいいからてっきりそういう演出なのかと……」

 続けざまに理由を説明するルナ。確かに、気配に敏感なルナですらこの距離で何も感じないということは、本当に殺気などは無いのだろう。少々言葉足らずではあるが。だがそれはランスローテが今しがた説明しようとしていたにも関わらずそれを遮って結論を急ぐ必要があったのかという問題になるのだが。


「演出如きのためにわざわざ魔剣の名を呼ぶわけがなかろう。変人でもなければな!」

「いやいや、そこはやっぱり色々凝ってるみたいな? 自分の剣が強そうなオーラ纏ってたらなんか燃えてくるし!?」

 ランスローテの指摘は尤もだったが、『変人』であるルナはその指摘では止まらなかった。ルナは自分の持つ大剣が名を呼ばれた時のことを思い出しながら熱烈に語る。

 ルナは思春期特有の『かっこいい中枢』というものをしっかりと持っており、それを刺激するものにはついつい反応してしまうのだ。異国の言葉でいうならば、いわゆる『ちゅうにびょー』というやつである。


「私の剣もそのアロンダイトみたいに名前を呼ぶと炎が出るんだよ! かっこいいでしょ!」

「剣から炎だと? 貴様のそれも魔剣ということか。……ならば、なぜ力を使わない?」

 ルナの口から漏れたレーヴァテインの話を聞き、怪訝な顔を浮かべるランスローテ。

 彼の言う事は尤もで、相手の身を気遣うルナとは違い、相手が敵であれば使える力は全て使う。それがランスローテの騎士道だ。操られていようがいまいが、今も昔もそれは変わらない。


「火力がすごすぎて人相手には使えないんだ。でも、使える場所が限られる力――それって、浪漫あるでしょ?」

「……甘いな、小娘。私にはわからん……!」

 ランスローテは、この真面目な局面での互いの空気感の違いに、非常に複雑な気持ちになっていた。

 そしてルナの甘い発言。敵であれば全てを以ってして手段を選ばない自分にとって信じられないものだ。それがランスローテの……私の騎士道――。


_

__

___


『――いいかいランスローテ。キミの騎士道は全てを以って民を守り、目の前にはだかる巨悪を穿つことだ』


 甘いことを……そんなもの、傲慢だ。どんなに尽くしても守れないものは必ず存在する。


『はっはっは! 確かに傲慢かもしれないね。都合よく全ての民を守りながら全ての敵を討つなんて、難しいことかもしれない。でも、それが騎士というものだ。キミならきっと出来る。私はそう信じているよ――』


_

_

_


『ランスローテ。キミを円卓の騎士団団長に任命する』


 なぜ私なんだ……? 私よりも適任が他にもいたはずだ。ガウェインやモルドレッド……それに最年少のトリスタンでさえ私よりも優秀だ。


『キミにはその器が……強さがあるんだ。あの時言ったキミの騎士道を、私はずっと信じているよ――』


 ……アーサー……様――。


___

__

_


「ちっ……消えろ、忌々しい英雄の記憶め……! 消えてしまえッ!」

「ど、どうしたの?」

 ルナのペースに乱された影響か、ランスローテはここにきて初めて、そして予想外な形で焦燥していた。

 魔剣を手にしてから今まで忘れていた、いや……忘れさせられていた……その昔、主君にもらった優しい言葉。信頼の言葉。自分の道を示してくれた大事な言葉を思い出して……。


「――たとえ貴様が自分のエゴで奥の手を出し渋っていようが、私は甘くない。容赦はせんぞ!」

 首を振り、気を取り直したランスローテはルナをキッと睨み、再び剣を構える。その魔剣には相変わらず何も感じられない不気味なオーラが漂っていた。

 彼の雰囲気が変わったことにルナも気づき、先程までの緩んだ気を引き締めて身構える。


刮目(かつもく)するがいい! これがアロンダイトの魔力だ――【リベリオンクレイドル】!」


ギュンッ……!


「っ!?」

 次の瞬間、アロンダイトが纏っていた不明な魔力は漆黒へと染まり、相変わらず気配もないまま目にも止まらぬ速度で飛んでいき、剣だけを残してルナの全身を包み込んで黒い球体のような形を成した。

 本来であれば反応できたかもしれないが、その魔力は気配という気配が全て感じられず、さらには思わぬ速さによる飛来に、見てからでは咄嗟に反応することが出来なかった。


「な、何これっ? 真っ暗で何も見えない!?」

 閉ざされた視界の中、壁をぺたぺたと手探りで触りながら大きな声をあげるルナ。その球体の大きさは半径二メートルといったところ。しかし、気づけば次の瞬間、今触っていたはずの壁は消え、もはやその空間の広さも分からなくなり、何も感じられなくなっていた。

 先程まで聞こえていた周囲の音は一切聞こえず、暗闇以外には『無』しか存在しない空間。平衡感覚も狂ってしまいそうなその空間は、長いこといれば気がおかしくなってしまいそうだった。


「出ようとしても無駄だ。この魔力は内側からの脱出は不可能。尤も、膨大な魔力で押し潰せば出られるかもしれないが、それもほぼ不可能だ。あの魔力馬鹿のガウェインですら、最後まで出ることは敵わなかったのだからな。まぁこんなことを言っても、こちらの声は聞こえていないのだろうがな」

 球体の中でルナが脱出を図ろうとしているのだろうと察したランスローテは、説明をするように独り言を喋るが、球体の外と中とでは完全に空間が断絶されており、互いの声は届かない。すでにこの魔力に包まれてしまった時点で敗北は確定しているのだ。

 勝利を確信し、ルナが包まれた真っ黒な魔力の球体に触れるランスローテ。そして玉座へ戻ろうとしているところで、玉座の間の扉の向こうから近づいてくる二つの足音と声がその耳に届く。


―――!


「インパクトォッッ!!」


どごおおおっっ!!!


 立派に装飾された巨大な扉を拳で粉々に破壊しながら現れたのは、金髪のサイドテールの少女……と、その後ろからは遅れて桃色のツインテールの小柄な少女。それは階段にてトリスタンと別れ、玉座へと向かっていた第三チームのA級冒険者、シトラスとラフィであった。


「ちょっとぉ!? いくら敵地とはいえ玉座の扉壊すのはまずいですって! しかもなんか大事な場面で乱入しちゃったみたいですし!?」

「え~? むしろタイミングバッチリでしょ? ヒーローは遅れて登場……ってね!」

 後ろから顔を出し真面目なことを言うラフィに対し、おちゃらけた態度のシトラス。先程までの緊迫した空気感をドアごと壊して現れた、騒がしい連中の登場に、ランスローテはまたかとため息をつく。


「やれやれ、今日は騒がしい来訪が多い日だな……。して、貴様達は何者だ?」

 侵入者が複数人いるのはわかっていたが、玉座へ辿り着くのはだれもかれもルナのように姦しい者ばかり。ここは敵地だというのに、あのように明るく居られることはランスローテにとって信じ難いことだった。


「私はデュランダル王国の第三チーム、シトラスだよっ!」

「同じくラフィです! トリスタンさんの指示であなたを止めに来ました!」

 シトラス達が名を告げると、ランスローテはまたしても怪訝な表情を浮かべる。


「トリスタンか……奴はまだ幼いが天才的な直感力を持っている。お前たちをここへ送ったのも、なにか感じ取ってのことだったのだろうな。

 ……だが、もう遅い! つい先程お前たちの仲間のルナとかいう小娘との決着はついた。少し来るのが遅かったようだな!」

「ルナちゃんさんって……もしかして第四チームの『エクリプス』さんの? でもどこにもいないけど……」

 ランスローテの言葉を聞き、シトラスは困った顔で周りをキョロキョロと見渡す。しかしこの玉座の間にあるのは玉座と数本の支柱、そしてランスローテ、シトラス、ラフィの三人と、そのすぐ横にある謎の黒い球体だけで、特に激しい戦闘があったようにも見えない。

 ……そう、それしかないのである。つまり、明らかな異物がそこにあるのだ。


「ってまさかこの中にルナちゃんさんが!? こんなもの……っ!」

 シトラス達は、自分達のすぐ横にある魔力で出来た球体を見て、ルナがこの中に閉じ込められていることを察する。確かにそれは人が一人収まりそうな大きさだ。

 そして即座にシトラスは拳に力を入れ、その球めがけて全力のストレートをおみまいする。ランスローテはそれを止める素振りも見せず、椅子に肘をついて見守っていた。そして、ガツンといい音を鳴らして拳が直撃するが、球はうんともすんともいわずビクともしない。


「硬ぁ~~っ! なにこれ手が痺れる~……!」

「やめておけ、時間の無駄だ。リベリオンクレイドルは魔剣独特の固有の魔力。支配の揺りかごは外からも内からも破壊することは不可能だ」

「し、支配……? いったいルナさんに何をするつもりなんですか!?」

 あまりの頑丈さに手をぶらぶらとさせ悶えているシトラスを横目に、無駄だと諭すランスローテ。それは目的が完了するか、ランスローテ本人が解くことでしか脱出することは出来ないのだ。

 そして支配と聞いて不穏な予感を感じ取ったラフィがランスローテに目的を訊ねると、ランスローテは声高らかに答える。


「洗脳さ! 彼女の膂力(りょりょく)には目を見張るものがある。ガウェインやモルドレッドがやられた今、新たに従者を増やさねばならないからな。それに彼女は自分の持っている大剣は魔剣だと言っていた。火力が強すぎて人にはとても使えないともね。

 そんな人材、確保しないわけがないだろう! 私のアロンダイトとは違う攻撃特化の魔剣……それを人に向けて振るえばどうなるのか……貴様らも気になるだろう? クク……クハハハハ!」

 ランスローテはルナが茶化していた会話の中でもしっかりと情報を得ていたのである。一見気の抜ける会話の中でも、常に情報戦は行われていたのだ。


「そんなの気にならないよっ!! ルナちゃんさんが洗脳だなんて……絶対にそんなことさせないんだから!」

「あのフェンリルを一対一で倒したって噂が本当なら、敵に回ったらとてもじゃないですが私たちでは手に負えないです! 早く助けないと!」

「分かってるけどこれすごく硬いんだってば~っ!」

 ランスローテの目的を聞いて、焦りを見せるシトラスとラフィ。そしてすぐにでもルナを救出しようと球体へ攻撃を加えるが、球体は相変わらずの頑丈さでビクともしない。

 それを見たランスローテは、滑稽なものを見るような目でその様子を悠々と玉座から見下ろしていた。


 シトラス達がランスローテや球体との悪戦苦闘を繰り広げる中、黒き球体の中でも同じように一つの()()()戦いが起きていた――。


今年は暑すぎて何事もやる気が出にくいですよね。自分は気づくと室温が37℃とかになってたりします。

身勝手ながら申し訳ありませんが、最近リアルが忙しく、体調も優れないため少しの間休載します。

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