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天才と脳筋は紙一重  作者: たんすちゃん
《第一章》-邂逅編-
3/99

3.最初の一歩!

 平原を吹き抜ける風の音。山のどこかから聞こえる鳥の(さえず)り。凍てつく森はすでに溶け、元の生態系に戻っていた。

 透き通った銀髪に、腰まで伸びたポニーテールを携えた少女が冒険に出ると言い出してから、すでに三年の時が流れていた。


 ルナがスエズとの修行を始めてから、今日でちょうど三年が経つ。つまり、いよいよ旅立ちの日である。

 ルナは13歳の誕生日を迎え、心身共に大きく成長していた。……一部分を除いて。


「全然おっきくならない……」

 三年前に比べて身長は140センチほどまで伸びていた。それでも平均よりはやや低いのだが……。

 そしてなによりルナが気にしていたのは胸であった。三年経っても以前変化はなく、慎ましやかなまま身体は成長してしまっていた。


「きっとそのうち大きくなるよね……!それよりも今日はいよいよ出発の日、準備しなきゃ」

 ルナは未来の自分へと期待を込めて、止まっていた支度の手を動かし始める。

 支度を終えればあとは家を出るだけである。そしてその一方では……。



「むむむむ……! やはり……いやしかし~……」

 ルナが準備をしている間、スエズはなにやらひとり葛藤していた。


(今日はとうとうルナが旅立ってしまう……。わしとしてはまだいてほしい……だがそれではルナの成長を妨げてしまうかもしれん……。わしはどうしたらいいんじゃ~~!)

 唸り声をあげながら長々と悩んでいるが、いつもの親バカが発動していただけであった。

 そんな葛藤をしているうちに、準備を終えて部屋から出てきたルナ。


「それじゃお爺、私行くよ」

 幼い頃スエズにもらった小さなポーチを携え、旅へ出るにしてはやや軽装に見えるルナがスエズに声を掛ける。するとスエズは思い出したように声をあげる。


「む、むぅ……。お、そうじゃ、これをやろう」

 パッとしない表情でスエズはなにやらバカでかい剣をルナに差し出した。


「でっか!? 何この剣?」

 ルナは自分の身の丈程もある大剣を手に取りながら訊く。


「これはわしが昔使っていた剣でな、名を『レーヴァテイン』という。中々の切れ味と耐久性が売りじゃぞ!それに隠された力もあったりなかったり……。これをわしだと思って持っていくがよい!」

 自慢げな顔で流暢に解説するスエズ。先程まで謎の葛藤をしていたとは思えない姿である。


「レーヴァテイン……! なんかかっこいいね! ありがとう、お爺!」

 剣など持ったこともないが、見た目の良さで満足している様子のルナ。

 子供特有の思考、使えるかどうかよりもかっこいいかどうか、である。


 そしてレーヴァテインを受け取ったルナは、大剣を後ろへ回して背負うと、改めてその剣の大きさを実感する。


(ちょっと斜めに背負わないと引き摺っちゃうかも……)

 ルナがそんなことを考えているとスエズが言葉を続ける。


「それでじゃが……途中の街までわしもついていっても……」

 先程まで一人で唸りながら考えていた言葉を口に出すスエズだったが――……。


「それじゃーいってきまーす! 腰にいい薬があったら持って帰ってくるねー!」

 スエズが葛藤していた内容の結論を口に出そうとしている途中で、すでにルナは出発していた。

 三年も我慢したのだ。逸る気持ちを抑えられないのは無理もなかった。


「え? あ、おぉ……気をつけてな……」

 あっさりと一人取り残され、呆気ない別れに、いまいち腑に落ちない様子のスエズだった……。


_

_

_


 家を出てからしばらく経ち、そろそろ日も暮れるかといった頃、深い森を抜け、丘のてっぺんについたルナは、丘を超えた先に一つの小さな街を見つけた。

 ルナはまず冒険者になるため、王都を目指して道中の街を経由しながら進む予定であった。

 ここから王都までの距離は馬車でも五日はかかるほどだ。それが徒歩となれば、いくら運動神経がよく、身軽なルナであっても最低でも十日前後はかかるだろう。

 周りを気にせず全力で走れば馬車よりも早く着く可能性もあるが……。ルナは初めての旅を楽しみたいのでそんなことはしない。

 なのでルナはまず、目の先に見える街へ向かうことにした。


「旅はまだ始まったばかり! 寄り道しまくるぞー!」

 そんなことを言いながら丘を下っていくルナだった。



 丘を下って道なりに進んでいき、入り口に『コロン』と書かれた街へ着くと、ルナはまず真っ先に宿を取りに向かった。幼い頃の山籠もりで野宿は慣れているが、やはり屋根の下で眠るのが一番である。

 そして小さな街ゆえ、宿屋はすぐに見つかった。

 中へ入るとフロント係、……というほど大きい宿でもないが……を呼ぶため呼び鈴を鳴らした。

 ………しかし中々待っても誰も現れない。


(あれ? いないのかな……。でも宿屋に誰もいないなんてこと、多分ないよね? うーん……)

「たのもーっ!!!」

 少し考えた後、宿全体に響くほどのボリュームで、やや古いセリフで声を掛けるルナ。

 するとようやく気づいたのか、奥から三十代くらいの男性が出てきた。


「すまない、客が来るのは珍しくてな。こりゃまたずいぶんと小さなお客さんだな。泊まるなら一泊10ヘラだが」

「ちっちゃくないし!」

「はっはっは!」

 『小さな』と言われたルナは頬を膨らませて反論するが、軽く流されチェックインを済ますと、ぐぅ~……とルナのお腹が鳴った。


「はは、もう夕飯時だ。これ持って食堂に行って待ってな」

 男は部屋の鍵をルナに渡すと、厨房へスタスタ入っていった。言われた通り、ルナがしばらく食堂の椅子に座って待っていると、先程の男が料理を持って出てきた。

 夕飯のメニューは、卵のスープに角ウサギの肉と、夕食と言うには少し寂しい内容だった。不思議そうな顔をしていると、男はこの街について教えてくれた。

 この街はあまり旅人が来ないらしく、この宿屋もほぼ営業停止状態にあるらしかった。


「営業停止の理由だが、最近この国は物騒でな……。各地で野盗をよく見かけるそうだ。まだこの街に被害に遭った者はいないが、この辺りにも出没するらしくてな……。おかげで満足に食材調達も出来やしない」

 どうやら野盗が増えている影響で、こんな辺境の街にわざわざ旅人が赴く回数が減ってしまったようだ。浮かない顔でこの街の状況を語る男。そんな話を聞きながらルナは食事の手を進める。


「はえー、結構大変なんれふねー……」

 口に物が入ったまま喋るルナ。あまり行儀はよろしくないが田舎育ちの産物である。


「まぁ……こんな小さな子にこんな話をしてもしょうがないか。嬢ちゃんも、旅をするならそういった連中には気をつけるんだぞ?」

 またしても小さい子扱いされたルナだったが、事実その通りであるため仕方がない……。


「んん……! ごくっ……だからちっちゃくないってば!」

 ――尤も、本人はそう思っていないようだが。




 夕飯を食べ終えたルナは取った部屋へ行き、ベッドに寝転がりながら明日の予定を考えていたのだが……。


「なによー! この国じゃ15歳で大人なんだから、13歳の私だってもう子供じゃないし!」

 未だに子ども扱いされたことに対して根に持っていたルナであった……。


「そうだ、さっきこの宿は野盗のせいで営業停止状態って言ってたよね……。私が解決したら見返せるかな? よし決定!」

 それこそなんとも子供らしい感情的な理由だが、これもWin-Winというヤツである。本人がそれでいいなら問題ないのだ。思い立ったが吉日。即決であった。


「なら明日に備えてもう寝なきゃ。結構歩いてきたしね……」

 この寂れた街『コロン』から、スエズの家までは半日以上かかり、大きな丘を超えなければならず、ルナはすでにクタクタだったためベッドで目を閉じるとすぐに眠りに落ちた。


 夜が明ける少し前。まだ街の人々は眠っているであろう頃、一足先にルナは目が覚めた。小さい頃から日課にしている筋トレをするために、早起きする癖がついているのである。

 日課を終えたルナは、外の空気を吸い、目を覚ますため、街を散策することにした。


「昨日はこの街についてから、すぐ宿屋来ちゃったし。私の冒険の最初の一歩である大事な街の探索は欠かせないよね!」

 これから先の出来事に期待で胸を膨らませながら、忘れずに大剣とポーチを背負ってから部屋を出ていく。尤も、ルナ自身の胸は平らなのだが。


 宿の外へ出ると、まだ日は出ていないが、すでに空がやや明るくなり始めていた。あと半時もすれば街の人々が起き始める時間だろう。

 散策をすると言っても、この街はそこまで大きな街ではなく……むしろ小さい街なため見るところはあまりなかった。

 そのため探索というほど時間もかからず、日の出前に終わる軽い散歩程度にしかならなかった。


「ふぁ~ぁ……思ったよりなにもなくて、ほんとに寂れた街って感じ…。野盗のこととか分かれば良かったんだけどな~。っていうか、野盗ってなんだろう? 盗賊のことかな? ……ってあれ、誰かいる?」

 大きな欠伸をしながら、あほの子全開の独り言を呟いていると、民家の陰でこそこそしている男が3人ほど見えた。

 よく見てみると、怪しい男たちは何かを持ち出しているようだった。するとルナと男たちはふと目が合う。


「……ねえ、おにーさん達……こんな時間に何してるの? まだ日も出てないよ? それにその持ってる袋……」

「子供……? チッ、この街の住人はこの時間はいつも寝てるはずだが……。お前ら、撤収だ!」

 明らかに挙動不審の男達は、ルナに質問されるとすぐさま逃げるように街の外へ向かって行った。

 そんな男たちを見て、いくら抜けているルナでも彼らが怪しいことは一目瞭然だった。


「すごく怪しい……。もしかして、あれが盗賊さんかな? なら、追いかけなくちゃ! ……ていうか、私は子供じゃなーーーい!!」

 今の怪しい男達こそが街を困らせている野盗なのだと直感的に察したルナは、子供扱いに腹を立てながら、すでにだいぶ遠くに見える男達を追いかけるのだった。


_

_

_


「今回は楽勝だったな」

「しかしなんかガキに顔見られちまったぜ?」

「気にするこたぁねぇだろ! 所詮子供だ、ガキの言う事なんざ誰も信じやしねえよ」

 移動用の馬車に乗り、今日の成果を話し合いながら、盗賊三兄弟は仲間のいる拠点へ向かっていた。

 彼らはこの付近の街や村で盗みを働き、金目の物を闇市に売り生計を立てている盗賊団の主要メンバーだ。

 今回もいつもと同じようにしっかりと計画を立て、コロンという街が夜明け前は住人が必ず全員寝ているという情報を掴んで実行に移したのだった。

 そうして数年間続いてきた盗賊生活だったが、今回に限ってはいつもと同じようにはいかないことになる。偶然にも彼らが今回、目をつけた街には不幸にも一人の旅人が来訪していたのだから。


ドドドドドド………


「……? なんの音だ?」

 盗賊三兄弟の長男『アルフ』が異様な音に気づき、また少し経つと先程よりも明確に音が聞こえてくる。


ダダダダダダダ!!


 明らかに音が近づいてきている。


「おい様子がおかしいぞ! 確認しろ!」

「わ、わかった兄貴! ……ってなんだァ!?」

 三兄弟のリーダーであるアルフに確認を促され、次男のベータがすぐさま(ほろ)から外に顔を出すとそこには……。


「まてぇぇぇ!」


 そう、ルナが物凄い速度で追いかけてきていた。


「なんだあのガキ!? あんなバカでけえ剣背負ったまま馬車に追いついてきてるぞ!?」

「おいガンマ! もっと速度あげろ! 後ろから追ってきてる!」

 外を覗いて声をあげたベータに続いて外を覗いたアルフが御者台に座っている弟、ガンマに声を張る。

 それを受けた三男、ガンマは急に問題が発生したため、汗をかきつつも馬車の速度を上げる。

 しかし速度を上げたにも関わらず、中々ルナを突き放すことができない。むしろ徐々に距離を詰められ始めている。


(なんなんだ……! どうして突き放せない……!?)

 信じられない状況を前にガンマは完全にパニックを起こし、正常な判断が出来なくなっていた。

 そのまま暫く馬車との追走劇を繰り広げていたルナと盗賊たちは、やがて風化した小さな廃墟に辿り着いた。


「あれ? 止まった……」

 急に停止した馬車に驚いてルナも一時停止する。すると急いで馬車から降りた盗賊三兄弟たちはなにやら揉めているようだった。


「バカ! アジトまで連れてくるやつがあるか!」

「適当な場所で迎撃すれば良かったじゃねえか!」

「んなこと言ってもよ兄貴達……! あんな小せえガキがあんな速度で追いかけてきたらパニックにもなるだろ!?」

 どうやら盗賊たちの本拠地まで、ルナを連れたまま逃げてきてしまったようだ。


(なんか喧嘩してるけど……)

「ここが盗賊さん達のアジトなんだね! なら好都合だよ!」

 探す手間が省けたと、啖呵を切るルナだったが、それに反応した男達は禁句を漏らしてしまう。


「チッ、何が好都合だ。ガキが調子に乗るなよ! ここで貴様を口封じしてしまえば関係ない!」


イラッ……


「こういう問題に子供が首を突っ込んだらいけねえって教えてやるよ」


ピキピキッ……


「へ、へへっ……おいチビ、足は早えみてえだが、ガキが大人に勝てると思ってんのか?」


ブチッ


 ここ最近の子供扱いの連続に、ルナはとうとう我慢の限界が来た。


「ガキガキってさっきから何度も何度も……。私は子供じゃなぁぁぁぁぁい!!!」

 ルナは度重なる子供扱いに完全にキレて、無詠唱で氷魔法をぶっ放した。

 巨大サイズの氷が三兄弟に向かって大量に飛んでいく。彼らが最後に見た光景は目の前に迫ってくる氷と、鬼のような形相をしている少女の姿だった。


「「「なにぃッ……!?」」」


バキィィィィン!!


 氷がぶつかり砕ける音が廃墟中に鳴り響いた。瓦礫(がれき)による煙が風にかき消されると、そこには三人の男が仲良く気絶していた。

 すると爆音を聞きつけた盗賊団の連中がわらわらと廃墟の中から出てきた。


「何事だ!?」


「今のは何の音だ?」


「すごい揺れだったぞ!」


「あの"チビ"がやったのか?」


ブチブチッ


 ……あ。


「くたばれえええええええぇぇぇ!!!!」


ギャアァアアァァァッ……!



小さい体躯に見合わない大きさの得物持ってるのすごく好きです。


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