29.一筋の光
「「ハアアアアアアアアアァァァッ!!!!!」」
城内に木霊する二人の雄叫びと、激しく弾ける魔力の脈動。
最初こそ互角に見えた戦いだったが、痛みを気にも留めないアーサーの半ば捨て身の攻撃は、モルドレッドの闇の魔力を徐々に飲み込み押し返していく。
(クッ……ここまでか。だが、最期に戦えたのがアーサーで良かった……)
その魔力の大きさに、モルドレッドは飲み込まれる直前死を悟った。これほどの威力、間違いなく死ぬ。仮に生きていても致命傷ですぐに息絶えるだろう。
だが、悔いはない。どこの誰とも知らぬ者に殺されるより、唯一無二の親友の手によって最後を迎えられるのならば。
「クラレント……最後までお前を使いこなせなかった俺を許してくれ――」
モルドレッドがそう呟くと、アーサーの白い魔力はモルドレッドの黒い魔力を完全に押し切り、モルドレッドは強烈な魔力の爆発に巻き込まれる。
ズガアアアアァァン!!!!
激しい揺れと共に舞う土煙。パラパラと崩れる瓦礫の音。先程まで二人が戦っていた場所には壁に大きな穴が空き、外の景色が一望出来てしまうほどになっていた。
そして壁にもたれ掛かるアーサーと床に倒れ伏したモルドレッド。古傷がぶり返し立っていられなくなったアーサーは、傷を抑えながら楽な姿勢を維持していた。
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「モルドレッド……無事か?」
ボロボロになって倒れているモルドレッドに声を掛けるアーサー。死んだように動かないモルドレッドだったが、声を掛けられた瞬間ピクリと指が動く。
(俺は……生きているのか。だが、何故だ? あれほどの威力の攻撃を食らってただで済むはずがない……)
意識が戻ったモルドレッドは、軽く目を開け、体の痛みのおかげで声が出ない中で自分が生きている理由を思考する。すると考えるまでもなくアーサーが答えを口に出す。
「目が覚めたか。その様子……自分がまだ生きていることに疑問を抱いているようだな。無理もない。あれほどの威力……私も食らっていたら死んでいただろう。
キミには悪いが……あの瞬間、攻撃を逸らして直撃は避けたんだ。だからキミは死ななかった。尤も、直撃は避けたと言っても相当なダメージは負っただろうけどね。上手くいったようで良かった」
(……そうか。俺はアーサーに救われたのか。主君であり友人でもあるお前を殺そうとした俺を……)
アーサーの説明を聞いて、声が出ないため心の中で物思いに耽るモルドレッド。今は痛みと疲労感で指先くらいしか動かせないが、自分の意思で体を動かせるようになったということは、洗脳も解けたということなのだろう。
果たしてそれはアーサーの暖かい光の魔力の力によるものなのか、洗脳が解けてしまうほどに叩きのめされたからなのか……。モルドレッドは前者のように感じていた。
「すまないな。手加減はしないと言った手前、私は騎士としての矜持より、キミに死んで欲しくないという自分の気持ちを優先してしまった。まだまだ甘いな、私は。王としても、騎士としても」
「……そう……だな。お前は、甘い……。だが……騎士として、というのなら……それも間違ってはいない行動のはずだ」
自嘲するようなアーサーに対し、モルドレッドは振り絞るように声を漏らす。相手の覚悟を受け止め、自分も本気で応えるという誠実さもまた騎士道かもしれないが、友人を思いやり、相手の命を重んじる慈愛の精神もまた騎士道。
モルドレッドにとって、アーサーの行動は王としては甘いかもしれないが、人としても騎士としても間違っていないように思えた。
「何はともあれ……しばらくは動けそうにないな……。やれやれ……手加減するなら、もう少し優しくしてくれても良かったんじゃないのか」
「う……すまない……。だが私も古傷がぶり返して動けそうにないんだ。お互い様ということで許してくれ、モルドレッド」
普段の調子に戻ったモルドレッドが不満を垂れると、アーサーは重ね重ね謝罪する。ボロボロの二人はすでに満身創痍で気力も無く、しばらくそこから動くことは出来なさそうであった。
「……フッ、冗談だ。……疲れた……少し寝るぞ」
そう言うとモルドレッドからはすぐに寝息が聞こえ始めた。即座に睡眠に入れるというのは熟練の戦士ならば皆身に着けている技術の一つなのだ。
「ああ。私も少し……ここで休むとするよ……」
アーサーも、寝るまではいかないものの、少し休憩してから行動を再開することにした。
(ルナ……キミに背負わせる形になってしまって悪いな……どうか私が行くまで、無事であってくれ!)
すぐにでも後を追いたいところだが、もはやそんな気力も残っていないアーサーは、体が回復するまで、先へ向かったルナの身を案じることしかできないのだった。
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「やっと着いた……! 多分ここが玉座だよね……よし!」
アーサー達の戦いが決着するよりも少し前。一人で先に向かったルナは廊下を抜け、豪華に装飾された大きな両開きの扉の前まで来ていた。
漸く目的地に辿り着いたことに安堵しつつも、まだ目的は達しておらず、本番はこれからだと意を決して取っ手に手をかけドアを勢いよく押し開ける。
どーん!
「たのもーっ!!」
元気に声をあげながらドアを開けると、そこには玉座へ向けて敷かれた真っ赤なカーペットと、部屋を支える数本の柱だけがある広い空間が広がっていた。そして、部屋の奥にある玉座に足を組んで鎮座している黒髪の男が声を掛けてくる。
「ようこそ、我が城へ。お嬢さん」
部屋には意外にもその男しかおらず、護衛の兵や側近などはいないようだった。兵は全員街や一階に回しているのだろうか?それにしても侵入者がいる中、王が一人でいるというのは無防備にも程がある気がするが……。
「……あなたがランスローテ?」
「如何にも。私がこの国の皇帝、ランスローテだ。そういう君は……話に聞いたデュランダル王国の冒険者かな? ずいぶんと……可愛らしいじゃないか」
ルナが確かめるように名を尋ねると、ランスローテは玉座に腰掛けたまま肯定し、ルナに確認するように質問を返してくる。見知らぬ顔を見て、事前に忍び込ませていた諜報員から聞いた冒険者だと思ったからだ。
「……私はルナ! 訳あってアーサー達に協力してるの!」
「アーサーだと? ……ハハハ、そうか! どういうトリックかは知らないが奴は生きていたのか、しぶとい男め!」
利害の一致で協力していることを伝えると、アーサーの名を聞いたランスローテは一瞬怪訝な顔をしたが、特に驚くこともなく状況を理解したようだった。
「して……ここへ辿り着いたのは君一人か! 仲間はどうした? ハハッ、まさか死んだのか?」
「死んでないもん! マナちゃん達は地下にいったの! それでカトレアとアーサーは私を先に向かわせるために今も足止めしてくれてるんだから!」
見え見えの挑発に乗せられて、ボロボロと情報を漏らしてしまうルナ。すでに戦いは始まっているのだが、ルナは残念ながら会話での情報戦は得意ではなかった……。
「ふん……なるほどな。なんとも口の軽い少女だ。アーサーは頼る相手を間違えたな。ここへはアーサーが来るべきだった」
ゆっくりと立ち上がりながら呟くランスローテ。自分のよく知るアーサーの実力ならば、目の前の間抜けな少女よりもずっと良い結果になっただろう。なぜアーサーはこんな子供を差し向けたのか……いや、奴の甘い性格ならば危険を後回しにするのも理解出来るか……? 尤も、その場しのぎにはなっても結局自分が相手では意味もないが。
ルナの実力を知らないランスローテは、完全にアーサーの采配ミスだと思い、そんなことを考えていた。ここに来る途中に配置していたモルドレッドよりも強い自分の元へ向かわせたアーサーのミスだと……。
「なんでそんな意地悪なこと言うの~? なら、アーサーが間違ってないってことを証明して見せ――」
ひゅっ……
がきん!
ルナが頬を膨らませて啖呵を切ろうと喋っている途中。凄まじい速度で距離を詰めて剣を振り下ろしたランスローテ。思いもよらぬ不意打ちだったが、ルナは咄嗟にレーヴァテインで受け止めることによってなんとか防御することに成功する。
「ほう……? 今のを止めたか。少しはできるようだな、ルナとやら」
「あっぶなぁ……!? もうっ! 不意打ちなんて卑怯だよ! 人の話は最後まで聞きなさい!」
完全に油断を突いたと思ったのにも関わらず、ギリギリではあるが攻撃を止められて感心した様子のランスローテ。
そしてルナはそんなことよりも話を途中で遮られた事に対し不満を垂れる。今の一撃は明らかに殺意が込められていたが……命を狙われているにも関わらず暢気な態度である。
そんな言葉を交わしながら、ランスローテは続けて連続で剣を振る。ルナは危うく舌を噛みそうになりながらもその攻撃を剣で弾き続ける。ルナとランスローテの戦いは、こうして突然の不意打ちから始まった。
「私の攻撃を全て受け流すとは、中々やるじゃないか? アーサーが君をここへ送った理由が少しずつ分かってきたよ。だが……仮に君が強くとも、その仲間はどうかな?」
「ど、どういう意味っ?」
お互い凄まじい速度で剣をぶつけ合いながら、どこか含みがある言い方をするランスローテに聞き返す。
「アーサーならば、モルドレッドと良い勝負が出来るだろう。それどころか勝つことも可能なはずだ。しかし、君のいう地下へ向かったという『マナちゃん達』とやらは別だ……。地下にはヤツが……ガウェインがいる。
彼は日中ならばモルドレッドよりも……そしてあのアーサーよりも強い! 君の仲間がどれほどの使い手かは知らないが、一介の冒険者では到底敵わないだろうな」
(アーサーよりも!? そんなに強い人なんだ……! マナちゃん……クロエくん……無事でいてね……)
ランスローテの言葉を聞いて、地下へ向かったマーリン、マナ、クロエの三人の身を案じるルナ。マーリンはきっと強いはずだからそこまで問題はないだろう。だが、マナは大怪我をしているところを何度か見ているし、クロエは自分よりもさらに年下……心配するのは当然だった。
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一方その頃……地下へ向かい、待ち受けていたガウェインに遭遇し、マーリンを先に向かわせ二人での戦闘になっていたマナ達は……。
「………」
折れた長剣と共に、砕けた壁の瓦礫に埋もれる形で倒れ伏しているマナ。今現在、その意識は無く、頭から血を流して完全に気絶している状態だった。壁の崩れ方から、相当な威力で叩きつけられたことが容易に想像出来る。
近くでは、剣同士がぶつかりあう戦闘音が聞こえていた。クロエ……の体を借りた、アルだ。アルはマナが気絶してからも一人で果敢に戦い続けていた。
「ハハハハッ! はぁ……はぁ……あんた、本当につええな! 最高だ! マナの嬢ちゃんが戻るまでは俺の好きなタイマン勝負と行こうぜェ!!」
『一応僕もいますけどね!』
クロエの体で戦っているアルは息を上げつつも、久々の……本当に久々の、心の底から燃えるような命のやり取りに生き生きとしていた。だがその体は節々が切り傷だらけで、横腹には唯一目立つ大きな火傷が出来ており、そこだけは直撃をもらってしまったらしい。
しかしボロボロではあるが、二百年ぶりの燃えるような戦い。体を傷つけてしまったクロエには悪いが、謝罪の意の他にもただ感謝していた。
「……貴様は先程の少女と違い、かなり骨があるようだ」
「お褒めに与り光栄だな……! だがマナ嬢はあんたに不意を突かれただけだ。おかげで俺はここまで持ち堪えられてんだ。決してマナ嬢が弱いわけじゃねぇからな!」
クロエとアルの目の前には、緋色の長剣を構えた巨漢……ガウェインがいた。彼もまた、クロエ程ではないが多少なりとも傷を負っていた。しかしどれもわずかなかすり傷程度で目立つ大きな外傷はなく、クロエよりも実力は何枚も上手ということは明らかだった。そしてあのアルよりも……。それは戦っていたクロエとアル自身もよくわかっていた。
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マーリンと別れ、マナとクロエのガウェインとの戦いが始まった直後……。マナ達はガウェインをしっかりと正面に捉えていたにも関わらず、一瞬姿を見失った。
ガウェインはまずマナを狙った。瞬きをしたほんの僅かな一瞬の隙に、あっという間に距離を詰めて剣を振るう。その筋骨隆々な巨体から放たれる高速で重たい一撃は、咄嗟に剣で受けとめたマナの体を軽々と吹き飛ばしてしまう。
思いもよらぬ速度から放たれた重い一撃を、咄嗟に不安定な受け方をした影響で剣はあっさり折れ、強く壁に叩きつけられた衝撃でマナは一撃で気絶してしまった。決してマナが油断していたわけでも、弱かったわけでもない。ただ単純に、ガウェインの一撃が重すぎたのだ。時刻は真昼。特異体質により強化されたガウェインの強さとはそれほどのレベルなのだ。
マナが気絶してからというもの、クロエはマナの復帰の時間を稼ぐために一人で戦い続けていた。絶好調のガウェインは冒険者ランクがSS級レベルの強さのアルですら手こずる程だったが、なんとか食らいついていた。
ガウェインの一撃はかつて無いほど重い。それは当時強力なモンスターが跋扈していた時代を生きていたアルですら見たことがないような力だった。ガウェインの攻撃はまともに受け止めるとマナのように押し負けてしまう。それは先程のマナを見て分かっていた。
故にアルはガウェインと剣を打ち合う中で少しずつ調整し、力負けしないよう攻撃を受け流しながら戦っていた。純粋な力勝負では絶対に勝てない。クロエの持つ得物が刀だからこそ出来る柔軟な動きで対応したのだ。
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(参ったな……あのおっさん一筋縄じゃ行かねえぞ……! これ以上クロエの体を傷つけるわけにもいかねぇし……なら、手段は選べねェな!)
(この構えはあの時の……!)
汗を垂らしながら低迷するアルキュオネウス。思考の末、アルは刀を脇に通し腰を落とす。クロエの記憶に覚えのある居合の姿勢をとったそれは、薄霧の森でクロエと出会ったダンジョンを真っ二つにしたあの技の構えだった。
「こちとらあんた相手じゃ余裕もないもんで……わりぃな! ――【静剣・ヨコシグレ】!」
相手はこちらが一手間違えれば命を取られるような強さだ。そのためアルは手段を選ばずに、殺傷能力の高い高速の斬撃を繰り出すことを選んだのだ。しかし……。
「無駄だ」
『「!?」』
音も無く凄まじい速度で飛んでいく水の斬撃。それをガウェインは右手を前に出し、なんと手で受け止めそのまま斬撃を握り潰して消し去った。ブシッ! と握った手からは血が噴き出たが、その程度で済み、クロエとアルは目を見張った。
「おいおい……こりゃいったいなんの冗談だ? そんなんありかよ!?」
『そんな……!』
自分の出せる技の中で最も速度の速い攻撃をあっさりと受け止められた。それも素手で簡単にかき消された。水とはいえ、石レンガで出来たダンジョンをあっさり両断するほどの水圧の斬撃だ。剣で止めるならまだしも、素手で止めたうえに軽く血が出る程度で済むなどありえない。
そう思い、悪い夢でも見ているのかと考えているとガウェインが口を開く。
「俺のアレイラはこの国で最も硬い。その程度の攻撃は効かん」
「アレイラ……? なんじゃそりゃ?」
ガウェインが口にした聞いたことのない単語。それは200年以上この世を漂っていたアルですら知らない言葉だった。……が、疑問を浮かべるアルの脳内に、意識下からクロエが声を上げる。
『前に少しだけ本で読んだことがあります! アレイラ……それは生まれ持って魔力を持つ者だけが体内に宿す微弱な魔力障壁のことで、体内の魔力量が多ければ多い程強固になる一種のバリアのようなものとか……』
本をよく読むクロエは、戦いは苦手なため戦闘面の本は普段あまり読まないのだが、アレイラとやらについては少しだけ知識を齧っているようだった。
魔力が多いほど硬度が上がる……つまり、ガウェインのアレイラがアルの斬撃を凌ぐほどの硬度ということは、彼は相当な魔力を有しているということになる。
「ハァ~!? なんだそれェ! おいずりぃぞおっさん!」
クロエの説明を聞いたアルは反則だと言わんばかりに指を指しながら不満を垂れる。魔力のなかった生前のアルならともかく、クロエには魔力がそこそこあるため自分にも同じアレイラはあるのだが、ガウェインほど頑丈なものではない。というか、ガウェインの硬さは異常だ。反則だと嘆くのも無理はなかった。
「独り言の多い少年だ……。次はこちらからのお返しだ」
そう言うとガウェインはおもむろに長剣を上に構え、その強大な魔力を込める。すると剣には真っ赤な炎が纏われ、みるみるうちに膨れ上がる剣の炎。すでに剣が纏う炎はかなりの大きさになっているがその膨張は留まるところを知らない。
「冗談だろ……!? あんなに魔力を注いで壊れねェのかあの剣は……!」
カリバーン王国の名剣の一つであるガラティンは、ガウェインの強大な魔力に耐えうるために名工によって打たれた最高の武器だ。注がれているのはかなりの魔力だが、この程度では壊れることはまずないだろう。
最終的に五メートル近くまで膨れ上がった炎は轟々と燃え上がり、ガウェインはついに剣を振り下ろす。
「後ろの少女ごと塵となれ……! 【炎羅・ホノカグツチ】!」
剣から放たれた巨大な猛炎は、竜のような形を成し、クロエの体を飲み込まんと大きく口を開き進撃してくる。その迫力と威圧感はまるで本物の竜と対峙しているかのようだった。
「な、なんじゃそりゃァ!?」
チリチリと肌が焼け付くような迫る熱の中、アルは叫びつつもどうするべきか高速で考えていた。
(俺だけなら避けるこたァ出来そうだが、後ろにはマナの嬢ちゃんが倒れてる……そりゃ無しだ。クロエが嫌がるだろうしな。そもそも逃げ場とかあんのか? 無えだろ。……んならやることはただ一つ……相殺するしかねぇな!)
「悪ぃなクロエ。俺に命預けてくれ……!」
思考を終えたアルは意識下のクロエにだけ聞こえるように呟く。失敗すれば間違いなく命を落とすだろう。逃げることも許されない。これは命をチップにした賭けだ。勝てば助かり負ければ死ぬ……そんなギャンブル。
『は、はい……! 僕も覚悟は出来てます!』
「よく言った!」
アルの言葉の意味を理解し、潔く返事をするクロエ。どのみち自分ではこの状況を切り抜けることはできない。あとはアルに委ねるしかなかった。
そしてアルは、刀を後ろに構え両手で強く握り水属性の魔力をありったけ込める。炎属性の弱点は水属性。相性的には有利だがいかんせん魔力の差が激しい。その差を埋めるだけの魔力が必要だ。
「気合い入れろ俺ェ! ――【雨剣・ユウダチ】!!!」
ざっばあぁぁぁんっ!!!
限界まで魔力を込めた刀を振るって放たれた、激流の波のような巨大な水の斬撃。『ユウダチ』は、アルが使える技の中で一番威力が高く、支配力も大きい技で、最も速度が遅い技でもあった。
だが、ガウェインの放った炎の竜はゆっくりとまっすぐこちらへ向かってきているのだ。こちらも速度を捨て、威力の高い技を放ったほうが相殺しやすいというものだ。
バシュッ! と大きな音を立てて、ゆっくりと邂逅する炎の竜と水の波。ジュウジュウと水が蒸発する音を立てながら大技同士は激しく衝突する。アルの技によって炎の進行は一瞬止まったように見えたが、完全に止めることも押し返すことも敵わず、徐々に押され始めていた。
「クッ……相性良くてもこれか! どんな魔力量してやがんだあのおっさんは!」
『ダメです! 少しずつ押されてます!? このままじゃ……!』
焦るアルとクロエ。じわじわと押され始めたアルは、なんとか押し返そうと刀を握る手にさらに魔力を込めるが、特に変化もなくみるみるうちに炎は近づいてくる。
「――ガルム! 【ルクスドライブ】!」
「グルルアァッ!!」
背後から聞こえた声と同時に、後ろから凄まじい勢いで突撃してくる眩い光を纏った巨大な白狼。フェンリルが炎の竜に直撃すると押されていた勢いは止まり、わずかながら押し返し始めた。
「マナの嬢ちゃんか!?」
『マナさん!』
声のした方を見ると、そこにはガルム召喚による魔力消耗の疲労で膝をついているマナがいた。どうやらアルの時間稼ぎの甲斐あって、万全ではないものの気絶から目覚めたようである。
「状況はよくわからないけど、とにかくやばそうってことは分かったわ! このまま押し切るわよ!」
「おらああぁっ!!」
ガルムが攻撃を続ける毎に徐々に減っていく魔力を逐一与えながら叫ぶマナ。ここでマナが復活したことは大きい。合わせるようにアルはさらに魔力の出力を上げ、みるみるうちにガウェインの炎を押し返していく。
「小癪な……。はぁっ!!」
しかしまだ余裕があったガウェインはさらに魔力を上げ、炎の竜はより大きくなり波を押し返し飲み込んでいく。
「そんなっ……!?」
「ダメだ、押し切られる……!」
『二人がかりでも押し返されるなんて……』
三人がもうダメか、と諦めかけたその時――。
「――【フェイルバスター】!!」
パシュンッ―――!!!!
突如背後から飛んできた紫色の高濃度の魔力の矢が炎の竜を貫き、一瞬のうちにそこにあった魔力の流れを打ち消した。
「「「……!?」」」
その場にいた全員が驚き、後ろを見るとそこにはトゲトゲとした黒い弓を構えた、長い銀髪の少年が立っていた。
それを見たアルとマナの二人は声を揃えて呟いた。
「「……誰?」」




