28.アーサーVSモルドレッド!
「ねえ、ほんとに置いてきちゃって良かったのかなぁ? 皆で一気に方を付けたほうが安全だし確実だったんじゃ……?」
一階の廊下を走りながら、隣にいるラフィ、トリスタンに疑問を投げかけるシトラス。
「確かにそうかもしれないね。でも、彼らは僕たちを信じてあの場を受け持ってくれたんだ。その期待には答えてあげないとね!」
「そうですよ! それにマナさんたち第四チームも、きっと今頃頑張っているはずです! 私たちが遅れるわけにはいきません!」
トリスタンの言う『彼ら』とは、シトラスやラフィ以外の第三チームメンバー、ガランとエディンのことである。
先程まで多くの兵に囲まれ戦闘をしていたシトラス達だったが、別の場所にいるルナ達やマナ達と同じように、このまま足止めされていては先へ進むことなど出来ないと、ガラン達が名乗りを上げ、二人を残してシトラス達三人は先へと進んだのだ。
「そっか……それもそうだよね! よーし、頑張ろうっ!」
多くの兵の足止めを引き受けたガランとエディン。それは人数差でかなり不利にも思えるが……というか、十中八九不利なのだが、同時刻、一人でさらに多くの兵を相手にしているカトレアよりはマシであろう。
「あっ! あそこが階段かな?」
そうして走り続けていると、やがてシトラス達三人は地下と二階へ続く階段へと辿り着いた。ルナ達やマナ達が通った階段とは違い、二階への階段と地下への階段が一緒のものである。
「うん、それじゃあここで分かれよう! 僕が地下、シトラスさんとラフィさんは、二階に向かってくれる? 本当は僕が上に行くべきなのかもしれないけど、きっと上にはアーサーがいるからね! 僕が下に向かったほうが戦力的にバランスもいいだろう。……それに、何か嫌な予感もするし」
「おっけーっ! じゃあ私とラフィはこのまま二階に上がって玉座に向かおう!」
「少人数すぎて少し不安ですけど、了解です!」
シトラスは快諾し、ラフィはただでさえ少ない人数を更に割るのが少し不安だったが、トリスタンの指示はいつだって的確で正しいということは先の戦闘時に分かっていたため、ラフィも素直にトリスタンの指示に従うことにした。A級を長くやっているがゆえの判断力である。
勘の鋭いトリスタンは何か嫌な予感を感じていたが、確証も得られないまま地下へ向かう。
「じゃ、無事を祈ってるね!」
「トリスタンくんも気をつけてね~!」
そうして挨拶を交わしたのち、トリスタンは地下へ、シトラスとラフィは二階へと向かうのだった。
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カトレアと別れたアーサー達は、この先の玉座を目指し、廊下を進んでいた。しかし、一階にあれだけの兵がいたからといって上の階に見張りがいないはずもなく、アーサー達もまた、広間で待ち構えていた団服を着た一人の男と接敵していた。
「モルドレッド……キミが立ちはだかるとはね」
「……アーサー? 死んだと聞いていたが……久しぶりだな」
二人の前に立ちはだかったのは、アーサーが敵の戦力で注意すべき特記戦力と言っていた、円卓の騎士団二番隊隊長のモルドレッドだった。
(この人がモルドレッドさん……! 雰囲気が違う気がする……たぶん強いかも!)
ルナは感覚的にモルドレッドの強さを察知していた。それは獣のような本能的な直感で、その感覚が狂うことはない。
「何はともあれ、生きていてよかった。そっちの少女は……何者かは知らないが、見た目によらず中々の手練れに見える。王城奪還作戦の助っ人というわけか」
「は、はじめまして! ルナっていいます! この先の玉座に用があるんだけど……」
せっかくなので名前を覚えてもらおうと挨拶しておくルナ。どうやらモルドレッドはルナと同じように、鋭い感覚でルナの強さを感じ取ったらしい。彼はガウェインとは違い、操られていても自我はかなり保っているように見えた。
「久しぶりの再会を喜びたいところだが、今はそんな時間もないんだ。このまま通してはくれないだろうか?」
こうしている間にも、他の者は皆戦っている。自分たちも目的を果たすため先へ進まなければならない。アーサーはダメ元で提案してみるが……。
「悪いな。意識はあっても体の自由はそこまで利かないんだ。もう抑えるのも限界だ……剣を抜け、アーサー!」
警告するようにそう言うと、すらりと腰に提げた黒い剣を抜くモルドレッド。どうやら彼は自我を保つどころか、その強い精神力から、洗脳にすら抗っているようだった。
「まさかはっきり意識が残っているとはな……流石はモルドレッドだ! それでこそ我が親友……すぐに正気に戻してやる!」
そんなモルドレッドに合わせるように剣を抜くアーサー。光の魔力を纏う剣の名はエクスカリバー。カリバーン王国一の名剣で、アーサーの愛剣でもある。
円卓の騎士団の主要メンバーは、皆それぞれ名高い武器を持っている。しかしそれは勿論、モルドレッドも同じだった。
「――秘剣……『クラレント』!」
「――聖剣……『エクスカリバー』!」
二人が同時に自分の持つ愛剣の名を呼ぶと、どおっ! と凄まじいオーラと魔力が周囲を漂い始める。
「うわぁっ!? す、すごい気迫と魔力……! とてもじゃないけど割り込めないよ……」
その勢いに圧倒され、迂闊に手を挟めば巻き込まれてしまいそうに感じた。――邪魔は出来ない。そう思って見守っていると、アーサーとモルドレッドはお互いに大きく踏み込む。
ザッ……!
「「ハアァッ!!」」
二つの強大な力同士が正面から激突する。そのぶつかり合いで生じた衝撃波は凄まじく、ルナの小さな体躯では油断すれば今にも吹き飛ばされてしまいそうだった。するとモルドレッドと剣を交わしているアーサーが口を開く。
「ルナ! 彼の相手は私がする! 先へ進んでくれ!」
アーサーは剣を打ち合いながら、後ろにいるルナに対し声をあげる。それはカトレアと同じように、自分が足止めをするというものだった。
「えっ? でも……!」
しかしモルドレッドの強さは今少し見ただけで分かる。彼はかなり強い。勿論アーサーも相当な強さだが、一対一より二対一のほうが勝率は格段に上がる。といっても、二人の気迫が圧倒的すぎて手を出すことも出来ないでいるのだが……。
そうして尻込みをしていると、まだ意識だけは残っていたモルドレッドが声を掛けてきた。
「……ルナとやら。俺がアーサーに掛かりっきりになっているうちに早く行け。騎士として、少女に手は掛けたくない」
どうやら身体は操られているが、まだ会話をする程度の意識は保てているようだ。一見クールに見えるが、モルドレッドにもしっかりと騎士としての矜持があるらしい。
二人からそう言われては、ここに留まる理由もない。それに、このままここにいてもきっと邪魔になるだけだ。
「……分かった。二人とも死なないでね!」
アーサーとモルドレッド、二人にそう告げるとルナは横を抜けて玉座へ向かってその場から走り去っていった。
そしてルナが走り去った後、アーサーとモルドレッドは剣を交わしつつも間の抜けた顔でその言葉を思い返していた。
「二人とも死なないで……か。ハッハッハッハ!! 全く面白い子だ!」
「俺はあくまで一応敵側なんだが……。なんだあの少女は……矛盾している」
操られているとはいえモルドレッドはあくまで進行を妨げる敵……なのだが、ルナにはそんなことは関係なく、少し話してみて悪い人に思ったかどうかで物事を考えているようだった。そしてルナの目にはモルドレッドは『良い人』に見えたようである。
「……ともかく、これで心置きなくやれるな……アーサー」
「そうだな。キミと本気で剣を交えるのはいつぶりだろう?」
剣をギリギリと鳴らし、刃を押し付け合いながら、お互いの目を見つめる二人。その目には、こうなった以上最後まで戦い抜くという意志が宿っていた。
少しの言葉を交わしたあと、ザッと距離を取り、二人は再度剣を構える。
アーサーが最後にモルドレッドと剣を交えたのは今から二十年以上も昔の話で、今は敵同士だが、当時は立派な王となるべく主従の関係ではありながらもお互い切磋琢磨をした仲である。
従者なのにも関わらずモルドレッドを親友と呼び、互いに恭しい態度でもなく親しげに接しているのは、操られているせいではなくそれが理由だ。
「確か、キミとの勝負はいつも私が勝っていたかな? 勿論今回も負けるつもりはないよ」
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――アーサーには幼い頃から飛び抜けた剣の才があった。それは国内でもトップクラスと呼ばれるほどで、当時剣聖と呼ばれていた父、ユーサー王にも一目置かれるほどだった。
魔法は苦手だったが、一方で剣の才能は開花し、みるみるうちにその才能を伸ばしていった。その過程で父ユーサーがアーサーの訓練のために手がけ、用意したのがモルドレッドだった。
騎士爵の息子だったモルドレッドはアーサーと歳も近く、同じように凄まじい程の剣の才があり、王国の剣術指南の者達を悉く打ち負かしてしまう程の強さだった。国民や城の者からは、いずれ王になるであろうアーサーの側近としての将来を期待されていた。ユーサーはそんなモルドレッドに目をつけたのだ。
息子と歳も近く、実力も近しい。高い才能を持ったモルドレッドに期待し、ユーサー王は宝物庫の鍵を開け、強大な力を秘めたる剣、秘剣クラレントを授けた。そしてアーサーには、選ばれし者にしか使いこなすことの出来ない国宝、聖剣エクスカリバーを与えた。
そしてモルドレッドは秘剣クラレントの秘めた力を引き出すために……。アーサーは聖剣エクスカリバーを使いこなせる選ばれし者になるために……。二人は互いに試練を超えるため、毎日のように剣を交えた。
カリバーン王国でも有数の名剣を与えられた二人の強さは拮抗していた。だがそれが互いの実力を高め合う良い塩梅になり、アーサーとモルドレッドは瞬く間に成長していった。
いつしか互いを親友と呼べるほどに仲を深めた二人は、ユーサーの思惑通り、剣を使いこなせるレベルにまで実力を伸ばすことに成功した。互いを高め合えるライバルの存在は、強くなる上で必須と言ってもいいほど重要だったのだ。
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そんなモルドレッドとは、過去に何度も剣を交えた中で、アーサーはまだ一度も負けたことがなかった。だが、数年ぶりの再会、数十年ぶりの手合わせ……勝負はどうなることか予想が付かない。
「昔と同じだと思ってもらっては困るな。……戦うからには、俺も負ける気はない……!」
当然モルドレッドは、自我はあれど負けるつもりなど更々ないようで、久しぶりの手合わせにどこか胸を躍らせているようだった。
「「――行くぞッ!」」
再度剣を構えた二人は、先程と同じように深く踏み込み、勢いよく前へと飛び出していく。
ガキンッ!
またしても互角にぶつかり合う剣と剣。モルドレッドの自信ありげな態度は冗談でも見栄でもなく、本当に実力をかなり上げているようだった。
対するアーサーは、長い療養を重ねていたのもあり、全盛期よりも力が鈍っていた。それらの要因によって、アーサーとモルドレッドの元々あった力の差は埋められ、ほぼ互角と言っても差し支えなくなっていた。
「はああっ!」
聖剣の力を引き出し、モルドレッドを弾き返すアーサー。
「ぐっ……! 流石だなアーサー! だがまだこの程度では終わらんぞ!」
モルドレッドはそれに気圧されることなくすぐさま反撃に転じ、秘剣クラレントによる身体強化の恩恵を駆使し、連撃を繰り出す。
凄まじい勢いで放たれる連撃を慣れた様子で受け続けるアーサー。それは昔、何度も手合わせをしていた頃に散々見てきた太刀筋だからだ。
「この見慣れた太刀筋……昔を思い出すよ……!」
「ふ……! 慣れたものだな……だが、言ったはずだ! 昔と同じだと思ってもらっては困ると!」
「なにっ!?」
モルドレッドがにやりと笑みを浮かべた瞬間、今までにない体の中心を狙った突きが飛んできて思わず動揺する。昔と動きが変わっている。動揺したアーサーはすんでのところで剣を引き、剣の腹で受け止めるようにして突きを防ぐ。
剣の腹というのはあまり頑丈ではなく、あまりに強い攻撃を受け止めると折れてしまうことがあるため、このような防ぎ方をするのは剣を使う者としては二流なのだが、アーサーの持つエクスカリバーは普通の剣ではないため、そのような無茶な防御を可能にしていた。
上手く防御を成功させたアーサーだったが、次の瞬間、またしてもモルドレッドが不敵な笑みを浮かべる。
「――クラレント!」
「……っ!!」
モルドレッドがクラレントの名を呼ぶと、瞬く間に剣先へと魔力が集中し、強烈な魔力の衝撃波が放たれる。
ドォンッ!!
次の瞬間、剣越しに衝撃波を食らったアーサーは勢いよく吹き飛ばされ、衝撃で広間の壁の一部が崩れ落ちる。
しかしこれで倒れるとは思ってもいないモルドレッドは、続けて魔力を刃の形に成し、アーサーが吹き飛んだ位置に向けて連続で黒い斬撃を飛ばす。
数十発の攻撃を撃ち込んだのち、土煙で見えなくなったアーサーの様子を窺う。
一撃一撃に殺意を込めて放った斬撃である。生きていたとしても無傷では済まないはずだ。すると土煙が晴れるよりも先に、モルドレッドへ向けて凄まじい速度の白い斬撃が放たれる。
「く……っ!?」
咄嗟に斬撃を剣で逸らし、頬を切る程度のかすり傷に収めたが、恐ろしく速い斬撃。油断はしていなかったはずなのに不意を突かれたことによる若干の動揺で、モルドレッドの頬に汗が伝う。
「――ふふ……くははははっ! 懐かしいなモルドレッド! 昔はよくこうして互いを高めあったものだ! ははっ! なんだか楽しくなってきたよ!」
笑いながら土煙を切り裂いて姿を現したアーサー。その体には予想外にも傷ひとつついておらず、モルドレッドは先程の攻撃を全て凌がれたことを理解した。
元々才能や力の差はあったものの、自分が実力を上げたことは確かだ。それなのにかすり傷一つついていないことには不満を感じざるを得ない。
……だが、モルドレッドも動揺はしつつも、アーサーと同じように内心気持ちが昂り始めていた。
「フッ……変わらないなお前は!」
懐かしむように笑いつつ、追い打ちをかけるように距離を詰めて剣を横薙ぎに振る。
対するアーサーは剣を縦に構え、その一振りを容易く受け止める。すかさず剣を上に弾いて反撃をするが、持ち手を蹴り上げられ攻撃を透かされる。
そんな攻防を繰り返していくたび、アーサーもモルドレッドも動きがだんだんと鋭く速くなっていく。
「まるで鈍っていた体が目覚めていくような感覚だ! さあ、もっと楽しもうモルドレッド! 【閃空】!」
剣を弾き、少しの隙が生まれた際に、先程放ったのと同じ光速の斬撃を飛ばし、その斬撃はモルドレッドの肩を深く抉る。
「ぐっ……! 鈍っているようには到底見えないがな……!」
剣を交わすたび、戦いの勘を取り戻していくアーサーの勢いに、モルドレッドはやや押され始めていた。しかし負けじと剣速を上げてなんとか食らいついていく。
次第に戦いはセンスと頭脳の競り合いになっていった。戦いは一見互角に見えたが、やはりアーサーのほうがやや優勢……そんな状況を見兼ねたモルドレッドは、流れを変えようと剣に魔力を込める。
「――【秘剣・朧月】……!」
「ぐぁッ!?」
次の瞬間、モルドレッドの振るったクラレントの姿が一瞬消え、エクスカリバーをすり抜けてそのままアーサーの胴体に深い傷を付けた。
今まで見たことのない予想外の一撃に、アーサーは一旦距離を取る。クラレントの性能を引き出した剣技……。それはアーサーには一度も見覚えのないもので、思わず不意を突かれ食らってしまったのだ。
「そうか……キミも変わっているということか。うっかり失念していたよ……私の悪い癖だな……」
体から血を流し、額に汗を滲ませながら自戒するアーサー。傷の深さから、これ以上の長期戦は不利になると感じたアーサーは、気を取り直し、剣を握る手に力を込める。
「もっと戦いを楽しみたいところだが、悪いな……決着を急ごう、モルドレッド。お互い傷は深い……長期戦は嫌だろう?」
胴に深い傷を負ったアーサーと、肩に深い傷を負ったモルドレッド。たった一度の被弾にも関わらず二人の出血は激しく、見兼ねたアーサーは提案する。国の秘宝である名剣達の力はそれほどまでに強力なのである。
「そうだな……良いだろう。ならば、次の一撃に全霊を込める……!」
ダメージによる疲労の加速で、息が上がっていたモルドレッドはアーサーの提案を飲み、同じように剣を持つ手に力を入れる。
一定の距離を取った二人は、それぞれ深呼吸し、全霊の一撃のために集中を高める。
アーサーはエクスカリバーに、剣に元々備わる特有の光の魔力を纏わせ、集中し魔力を最大限まで高める。手加減などもってのほか、油断は許されない。確かにアーサーのほうが実力は上かもしれないが、それはモルドレッドが弱いということにはならない。少しでも気を抜けば命を落とす可能性もある。
……それになにより、このように真剣な戦いで手を抜くなど彼に失礼だ。騎士王として恥になる。きっとモルドレッドも全力で来るはずだ。ならばこちらも、容赦はいらない……ッ!
対するモルドレッドは、クラレントの力を今出来る限界まで引き出し、さらに持ち前の闇属性の魔力を纏わせる。だが、クラレントのポテンシャルはこんなものではないはずだ。もっと……もっと引き出せる。モルドレッドは今この時、最強の親友という絶好の相手を前に、限界を超えてクラレントの力をさらに引き出そうとしていた。
自分のほうが力で劣っているのは分かっている。だが、それでもアーサーの全力に応えたい。背中を追うのはもうやめだ。今、俺はここで、親友を超える……!
「……いいかアーサー。殺すつもりで来い。俺の身体もそのつもりのようだ。でないと……死ぬぞ」
「………。ああ、分かっているさ。……本気で行くぞ、モルドレッド!」
力を溜め終えた二人は互いに向き合い、改めて剣を構える。二人の剣には、これまで以上の魔力が溜められていた。解放すれば辺り一帯が消し飛んでしまうのではないかと思える程に。
ピリピリとした張り詰めた空気の中、静寂を打ち破るようにアーサーは剣を上から振り下ろし、同時にモルドレッドは地を這うように下から斬り上げる。
「――【聖剣・エクスカリバー】ッッ!!」
「【秘剣・クラレント】……ッ!!」
凄まじい破壊力で床を削りながら突き進む魔力の波。白い魔力と黒い魔力がぶつかり弾け、周囲にバチバチと飛び散る激しい魔力の奔流。
どちらも愛剣の秘めたる力を最大限引き出した上で放った大技だ。その威力は城全体を大きく揺らすレベルの破壊力で、今にも城が崩れてしまうのではと感じる程だった。
「「うおおおおおおぉぉぉぉっっ!!!!」」
ドドドドドドドッ!!
あまりにも強大な力同士の衝突により、ピシピシと壁や床に亀裂が入っていく。しかしそれでもアーサーとモルドレッドは力を緩めたりなどしない。今二人に見えているのは互いの事だけ……どちらかが倒れるまで止まることはない。
押し合う白と黒の魔力は、やや白い魔力の……つまりアーサーの魔力のほうが押していた。傷は負っていてもそれはお互い様。地力の高さはアーサーのほうが上なのだ。しかし……。
(クッ……押されているか……! だがまだだ、限界を越えろ……モルドレッド! 俺なら出来るはずだ!)
モルドレッドはアーサーとの地力の差があることは最初からわかっていた。しかし彼の持つ秘剣クラレントは、あの聖剣エクスカリバーよりも潜在能力が高いとされている。それが『秘剣』と呼ばれる所以なのだ。
それ故に、押されているのは自分の鍛錬不足と、クラレントの性能を引き出しきれていないことが原因だろうと考えていた。ならば、今ここで超えるしかない……限界を。そう思い立ったモルドレッドは全力を込めながら強く叫ぶ。
「応えろッ! "クラレント"オオオォォォッ!!!」
覚悟を決め、相棒の名を呼ぶと、まるで呼応するかのようにクラレントから発せられる魔力の質量が上がる。次の瞬間、劣勢だった形勢は一気に逆転し、今度はアーサーが窮地に立たされる。この土壇場でクラレントがモルドレッドに応えたのだ。
「ははっ……! それでこそモルドレッドだ! キミが成長するのならば、私もそれを超えてみせよう!」
モルドレッドが勢いを上げ、押され始めたにも関わらず、アーサーは焦るどころか、むしろ対抗心を燃やし笑っていた。そして宣言した通りアーサーは剣を握る力を血が滲むほどさらに強く、そしてさらに魔力を高める。
アーサーの持つエクスカリバーは、相手が自分よりも強ければ強いほど、その力を増大させる。しかしそのポテンシャルを最大限発揮するには彼自身の力と器量が試される。
限界などとうに超えている。相手が壁を超えるのなら、こちらも壁を超えるまでだ。そんなこと、言うだけなら簡単だが、普通は不可能だ。……しかしアーサーにはそれを可能にする天賦の才があった。それ故、あっさりと不可能を可能にしてしまう――。
「さあ行くぞ、エクスカリバー!! おおおおおぉぉっ!!」
モルドレッドのように、愛剣の名を呼ぶと、待っていたと言わんばかりに聖剣は応え、その光をより一層強くする。力の競り合いはアーサーが再度押し返し、またもやアーサーが優勢になる。
止まることなくみるみるうちに押し返していく白い魔力の波。このままアーサーが押し切るように思えた……だが……。
ズキッ……
(うぐっ……! 背中の古傷が痛む……こんな時に!)
あまりにも激しい攻防の末、そして現在進行形の常に全力を発揮させた魔力の比べ合い。それらの影響によって、五年前ランスローテにつけられた背中の傷がぶり返してしまったのだ。
突然の激痛に襲われたアーサーは、思わず力が緩んでしまい、圧倒的優位だった押し合いは互角にまで押し戻されてしまった。
「どうした、力が弱くなっているぞアーサー! お前はその程度じゃないだろう!?」
「ぐ……問題ない! この程度……これで決める!」
アーサーはこれくらいではへこたれずに痛みをこらえ、再度力を強くする。同じくモルドレッドも勢いを取り戻し、さらに魔力を高めていく。
「「ハアアアアアアアアアァァァッ!!!!!」」
強大な力同士がぶつかる中、大きく揺れる城内に二人の雄叫びが木霊した。




