26.いざ王城へ
この帝国は元々名前が違った。アロンダイト帝国の皇帝『ランスローテ』は五年前まで、とある国で王から最も信頼を置かれていた側近であり、その国最強の騎士団の長だった。
だがある時、ランスローテはどこかでとある剣を手に入れた。その名はアロンダイト。この帝国の名前の元になった武器だ。だが、その剣の正体は――魔剣だった。魔剣は魔力を纏う強力な武器でもあるが、物によっては大きな代償を伴う諸刃の剣。
それを知らずに魔剣アロンダイトを手にしてしまったランスローテは正気を失い、国へ戻り主君である王の元へと向かい、とある国の王を騙し、隙だらけの背後から斬り掛かった。彼を心から信頼していた王は、まさか忠臣に斬りかかられるなどとは思っておらず、あっさりと深い傷を負い地に伏した。
そしてランスローテは魔剣の力を使い、城の者や兵士を洗脳し国の内部を完全に乗っ取って玉座についた。それからその国の名は『アロンダイト』と名前を変え、付近の弱小国に戦争を仕掛け吸収、のちに帝国となったのだ。
「乗っ取られた国の名はカリバーン王国。闇討ちされた王の名はアーサー・フォン・カリバーン……私のことだ」
「「「「えええええええっ!?」」」」
自嘲気味に笑いながら衝撃の事実を話すアーサー。ルナ達は揃って驚愕の声を上げてしまう。
「は、話の流れからてっきり僕は、その王様は……アーサー様は完全に死んでしまったものかと……」
「ああ、死んださ。一度な」
「ええええ!?」
またしてもぶっ飛んだことを言い出すアーサーに、つい先程と同じリアクションをしてしまうクロエ。そんなクロエを見てアーサーは補足するように説明を付け足す。
「尤も、ランスローテ達の中では死んだことになっているだけで、実際は私の優秀な側近の魔術士が助けてくれたよ。紹介しよう。……マーリン! いるだろう?」
スゥッ……
「はい……常に貴方のお側におります」
アーサーが部屋の中に対して声を掛けると、何もない空間からどこからともなく、紫のローブを纏った、短い栗色の髪の女性が姿を現す。
「彼女はマーリン。カリバーン王国最高の大魔術士で、私の補佐役。そして不老不死の力を持つ、この国の賢者様だ」
「お初にお目にかかる。デュランダルの冒険者……ルナ殿、マナ殿、カトレア殿、クロエ殿」
マーリンと紹介された女性はルナ達に対し、丁寧に会釈をし挨拶をする。ルナ達も慌ててお辞儀を返すが、そこでマナに一つの疑問が生まれる。
「ふ、不老不死……! あれ、ていうかなんで私たちの名前を……? まだ自己紹介してなかったわよね?」
色々と驚きの連続ですっかり忘れていたが、まだルナ達はここに来てから自己紹介をしていない。にも関わらず名前を知っているマーリンに疑問が浮かんだのだ。
マナが不思議そうに訊ねると、マーリンに代わってアーサーが答えた。
「彼女は未来を見通せる力を持っているんだ。222年も生きている賢者様だからね! きっとキミ達がここに来ることも、どこかで自己紹介をすることも知っていたんだろう」
「不老不死に未来予知、おまけに大魔術士……至れり尽くせりですわね」
『230年生きてる俺のほうが年上だな!』
「いや、アルさんはとっくの昔に亡くなってますよね……」
アーサーの説明を聞いて感服している様子のカトレアと、マーリンが222年も生きていると聞いて、でかい声で誇らしげに謎のマウントを取るアルキュオネウス。それを聞いて矛盾している、と苦笑いしながら小声でツッコミを入れるクロエ。尤も、アルの声はクロエやシルファぐらいにしか届いていないのだが。
「話の続きをしよう。私がランスローテに深い傷を負わされたのは事実なのだが、とどめを刺されそうになった時、事態に気付いたマーリンが咄嗟に幻術魔法で守ってくれてね。彼が精巧に作られた私の死体に気を取られている間に、城を抜け出しここまで逃げたのだ」
どうやらアーサーは傷は負ったが、すんでのところで一命を取り留めたということらしかった。自分が目を離していた隙に主君が命を奪われかけたことで、マーリンはそれ以来、いつも姿を消していながらも近くで見守ってくれているという。
それにしても、アーサーが最も信頼を置くほどの実力者であるランスローテを騙すほどの幻術とは、マーリンは相当な魔法の使い手のようである。
「そうなんだぁ……。でも、マーリンさんがそれだけすごい人なら、デュランダル王国の力を借りなくても自分たちで国を取り返せたんじゃ? アーサーも王様だし、ランスローテって人より強いんでしょ?」
話を聞いていたルナが素朴な疑問を投げかける。たしかに、マーリンほどの使い手に、ランスローテを従えていたアーサーならば、マーリンが彼の傷さえ治せばすぐにでも反撃に出れたはずである。
「そうかもしれないな。だが、ことはそう上手くいかなかったんだ。魔剣アロンダイトによって付けられた背中の傷は、あろうことかマーリンですら治せなかった」
「えっ? そんな、どうして?」
アーサーによると、魔剣アロンダイトには、何者かの手によって強い呪いが掛けられていた。それは斬った相手の『傷に対する治癒魔法を弾く』という忌々しいものだった。その呪いによって、いかに大魔術士のマーリンといえど傷を治すことは不可能だったのだ。
幸いにも致命傷ではなかったため、治癒魔法を使わずとも応急処置で命は繋いだが、その傷がしっかりと治るまでに五年も掛かってしまった。普通の傷なら治癒魔法なしでも数ヶ月……長くて一年程度で傷は治るものだが、魔剣による傷は完治にかなりの時間を要してしまったという。
五年。そう、カリバーン王国が乗っ取られてから今日この日までの期間。即ち、アーサーの傷はまだ治ったばかりで病み上がりということを表していた。
「たった五年で、国は大きく変わってしまった……。その期間、何もしていなかったわけじゃない。私が療養している間にも、マーリンはランスローテに洗脳される前に何名か仲間を連れてきてくれた! 今ここにいる者や、別のアジトにいる皆がそうだ!
私はこのアジトを作り、様々な箇所に秘密の通路、もしものための別のアジトを作り上げた。いつか来る反撃の時を狙って……。そして私の傷が治った今、キミ達がここに来てくれた!」
五年かけて療養しつつ、反撃のために様々な策を講じていた。そのためのトリガーになるデュランダルからの使者である冒険者達。故に先程、救世主などと大袈裟なことを言われたのだ。
急激な成長を遂げ、周辺国を次々と吸収していく帝国に何かあるかもとは思っていたが、まさかこんな大層な事情があるなどとは予想外だった。そして協力者がその帝国の前国王だということも……。ただルナたち潜入部隊は、自国の危機を退けるためにここ、アロンダイト帝国まで訪れただけだというのに。
「そこまで聞いたら、助けてあげなくちゃ気が済まないよ! ね? マナちゃん!」
「えっ? ええ……そうね! それで、アーサー王。私たちは、『皇帝ランスローテを討て』という任務を出されているわ。戦争を止めるためにね。でも、話を聞く限り色々と事情がありそうだし、戦争を止められるなら私たちも協力するわ。どうすればいいかしら?」
ルナに急に振られて困惑するマナだったが、すぐさま取り直してアーサーに目的を告げる。話を聞けば、ランスローテは魔剣の影響でおかしくなってしまっただけのように思える。任務の内容も『ランスローテを討て』という内容だ。『殺せ』でも『首を取れ』でもない。そのため確認を取るようにマナはアーサーに質問を投げかける。
「そう言ってくれるとありがたい! まず、私たちアーサー部隊は地下秘密通路を経由し城へ潜入。そして城内で私の部隊とマーリンの部隊で二手に分かれ、私率いる部隊は上の玉座の間へと向かい、マーリン率いる部隊は城の地下へ向かってもらう」
「城の地下? ランスローテを討つために上の玉座へ行くのはわかるけれど……地下に何かあるの?」
作戦の説明に区切りがついたタイミングで、マナが疑問を投げかける。するとアーサーは不安そうな表情を浮かべながら答えた。
「地下にはカリバーン王国の王妃……ギネヴィアが軟禁されているんだ……! ギネヴィアは至って普通の女性で戦う力がない。それゆえ心配でね、早く助けてやりたいのだ」
カリバーン王国の王妃。要はアーサーの妻である。何を以ってして裏切った主君の妻を捕らえているのかは分からないが、か弱い女性が一人で幽閉されているなど、心配でたまらないだろう。
「そう……なら急がないとね!」
「王妃様救出作戦、決行だー!」
「女性が一人じゃ心細いだろうしね……!」
「アーサー様、部隊の編成は決まってますの?」
話を聞いて、一層やる気を出した『エクリプス』の四人。そしてカトレアが部隊についての内容を訊ねる。
「ああ。部隊は動きやすいよう少数精鋭で、エルヴィン達はここに置いていく。何かあったときのためにアジトに残しておかないとな。
そして私の部隊にキミ達四人のうち二人、マーリンの部隊に二人欲しいのだが……どうだろうか? 誰が行くかは自由に決めてくれて構わない」
「了解しましたわ。少し時間をくださいまし!」
そう言うとカトレアは三人を集め、ルナ達は誰がどちらへ向かうかを会議し始めた。その間にアーサーは懐から連絡用の魔道具を取り出し、なにやら奥で話し始める。
………。
「どうかな、決まったかい?」
「ええ。私とクロエが地下へ行くわ」
アーサーが魔道具を懐に仕舞いながら戻ってくると、結果の確認を取る。一同が話し合った結果、アーサーと共に玉座へ向かうのはルナとカトレア、マーリンと共に地下へ行きギネヴィアを救出するのはマナとクロエということになった。
ルナ達の確認が取れるとアーサーは頷いて、部屋の端にある壁を弄って隠し扉を出現させる。
「向こうのトリスタン部隊と連絡は取っておいた。どうやらすでに城に向かっているらしい。我々も早速向かうぞ、城へ!」
「「「「了解!」」」」
アーサーの掛け声と共に、一行は隣の部屋から話を聞いていた近衛兵達に見送られながらアジトを出発した。
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「トリスタンっていうのは?」
人が二人分通れそうな程度の狭い通路を走りながらマナが訊ねる。
「カリバーン王国最強の騎士団、円卓の騎士団の一番隊隊長……トリスタンのことだ! キミ達の仲間と共に城へ向かっているらしい! 冒険者ランクはSS級、彼は15歳とまだ若いが王国最強の騎士だ!」
マナの質問に対して走りながら答えるアーサー。円卓の騎士団……それは王であるアーサーが設立したカリバーン王国最強の騎士団である。トリスタンは齢15にして、その騎士団で才能を遺憾なく発揮し、最強の称号や竜狩りの称号を持つという。
そしてマナはトリスタンの冒険者ランクがSS級ということに驚いていた。国ごとにSS級冒険者の数や強さに違いはあれど、その実力は間違いないだろう。何より自分と同い年にも関わらず、SS級だという圧倒的な差を突きつけられ、内心では悔しさを感じていた。才能とは恐ろしいものである。
とてつもなく強く、才能があって年の近い冒険者……マナは身近で似たような人物に憶えがあるような感覚を覚えていた。後ろを走る少女にちらりと目をやりながら。
「敵の中で特に注意すべきところはある!?」
「ああ! 同じく円卓の騎士団のモルドレッドとガウェインには気をつけろ! モルドレッドはあのトリスタンに戦い方を教えた男だ!
そしてガウェイン……特に彼には気をつけた方がいい! 彼は王国トップクラスの実力で、日中の間は特に力が増す特異な体質を持っている!」
魔剣アロンダイトによる洗脳から逃れられなかった家臣たちがモルドレッドとガウェイン、この二人だった。ランスローテの他に敵の戦力で特筆すべき点は、彼らだという。モルドレッドは円卓の騎士団二番隊隊長で、冒険者ランクはS級。そしてSS級であり一番隊隊長であるトリスタンに戦い方や剣の使い方を教えた張本人でもある。その強さは計り知れないだろう。
そしてアーサーが特に注意するべきだというガウェインという男。彼もまたS級で、騎士団の副団長を務めているのだが、日中の時間帯のみ戦闘力が数倍に跳ね上がるという特異体質を持っていて、力が落ちる夜間においても国内トップクラスの実力があるらしい。もし遭遇した場合、勝率はかなり低いだろう。必ず二人以上で戦うようにと念を押された。
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「マーリンさんって、どうして不老不死なの?」
マナとアーサーが問答をしているあいだ、その後ろを走っていたルナは隣にいるマーリンに純粋に気になったことを訊ねていた。
「………」
「もしかして秘密?」
「……200年前のことだ。突如として世界中にダンジョンと呼ばれる謎の建造物が現れ始めた」
(わぁ……! 前触れも無くいきなり喋りだした……)
聞いても前を向いたまま暫く黙っているマーリンを見て、教えてくれないのだろうかとルナが諦めかけた時、彼女はなにかを考えていたのか、突然静かに口を開いてぽつぽつと話し始める。
「その頃はまだ冒険者ギルドというものも無く、慈善事業でモンスターを狩って礼金を貰うといった、冒険者と似たような事をしている者たちがいた時代だ。その時代は今よりもずっと野生のモンスターが強く、今で言うところのB級やA級クラスのモンスターが跋扈していた……」
(こないだアルさんから聞いた話と同じだ……!)
『そうそう、おかげで良い修行場所が多くてなァ! 言っちまえばこの時代の人間よりも、昔の時代の人間のほうが強かったな!』
ルナ達のさらに後ろ……最後尾で話を横聞きしていたクロエは、アルキュオネウスと契約したあの日に彼から聞いた話を思い出していた。アルの死ぬ直前に修行していた森にも、A級クラスのモンスターが沢山いたと言っていた。
「……私も同じ。冒険者の真似事をして日銭を稼いでいた。魔法の腕には自信があったから……。
そしてある日を境に、世界中の至る所に正体不明の建造物が出現し始めた。
それは特定の条件下でないと姿を拝めなかったり、入り口が開かなかったりと、物理的な法則を完全に無視した物だった。私たちはそれをダンジョンと呼んだ……」
「ダンジョンかぁ……。まだちゃんと入ったことないなぁ……」
ルナはダンジョンについては詳しくない。一度だけ、マナと初めて出会った際に常識を覆すような入場の仕方でダンジョンに足を踏み入れたことはあるが、その時はダンジョンのことなど知らず、宿をとるためすぐに地上へ上がってしまった。
「ダンジョンの中の内容には、いくつか種類があった。謎を解いて仕掛けを作動させるもの……迷路のように入り組んだ道を進み、最奥を目指すもの……。
どこからともなく半永久的に出現するモンスターを退けながら奥を目指すものや……通常種のモンスターに比べ、見た目は似ていても力に圧倒的な差がある変異種、ヌシモンスターを倒さなくてはいけないものまで……ダンジョンにはかなりのパターンが存在していた」
「ダンジョンについての本に書かれていることと同じですね! 先人の知恵っていうのは偉大ですねぇ……!」
「何しみじみと実感してるんですの……。わたくしはダンジョンについてはよくわかりませんわ。見たこともないですし」
口下手なマーリンの説明を長々聞いていたクロエは、本での知識と同じ部分に触れ、先人の偉大さを改めて実感する。そして隣で同じように話を聞いていたカトレアだが、どうやらカトレアはダンジョンには一度も入ったことも見たこともないらしい。
「そしてダンジョンの難関を乗り越えた者たちによれば、その最奥には一生遊んで暮らせるほどの財宝が眠っていたり、ダンジョンと同じように物理法則を無視した道具や武器が入っているらしかった……。
私もそれが目当てでダンジョンを探し、攻略した。奥地には一つの大きな箱が置いてあり、開けると中には財宝の山の中に、一つだけぽつりと金色の林檎が入っていた。
私はその林檎を特に深く調べることもなく、食した……」
「「「………」」」
「………」
「えっ!? それで終わりですの!? まだ全然説明になってないですわよ!?」
淡々と余計な言葉もなく語り続け、いよいよ本題かと思った途端、その語り部は止まってしまった。まさかのここで終わりらしい。マーリン、口下手にも程がある……。
「つまりはその食べた林檎のせいで不老不死になっちゃったってことかな?」
こくり……
「そう、みたいだね……」
ルナの言葉に無言で小さく頷くマーリン。クロエは苦笑いしながらそれを見ていた。隣ではカトレアが不完全燃焼といった様子で不満げな顔を浮かべていた。
マーリンはそれ以降、一切喋らなくなってしまった。元々彼女はあまり喋らない性格のようで、かなり喋らせてしまったため、疲れてしまったのかもしれない。
もしかしなくともSS級であるマーリンは、昔から才能があった魔法を200年間極めた結果、大魔術士や賢者などと呼ばれるほどになったのだろう。……すると先頭の足が止まり、アーサーが声を掛けてきた。
「世間話はここまでにしよう。このハッチを開ければそこはもう城のすぐそばだ! 皆、気を引き締めろ!」
そう言いながら狭く長かった通路の天井部に手を掛け開け放ち、外の様子を窺うアーサー。
周りには誰もいないようで、問題ないと後ろを振り向き皆に号令を掛ける。
「さぁ……行くぞッ!」
「「「「了解ッ!」」」」
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「……そろそろか」
肩まで伸びた黒髪の男は、他に誰もいない玉座の間にて、肘を突いて玉座に座りながら呟く。すると直後、そこへ一人の兵士が慌ただしく入ってきたかと思えば跪いて頭を垂れる。
「城内に侵入者です! 二箇所からほぼ同時に、数はそれぞれ六名と五名です! 予定通り、数百の兵を一階と二階に配置しております!」
「そうか……ご苦労。下がって良いぞ」
「はっ!」
その男……ランスローテは王城への侵入の報告を聞いても全く動じず、静かに兵を下がらせる。その様子はまるで侵入者が来ることが分かっていたかのようだった。
いや……事実、知っていたのだ。どの程度の実力者が来るのかは分からなかったものの、デュランダル王国に送り込んだ一人の間諜からの情報によって、数名の冒険者が送られてくるということを事前に伝えられていた。
「さて、すでに兵の配置は済んでいる。デュランダルの冒険者がどれほどの腕なのか、見せてもらおうか!」
相変わらず玉座に座ったまま、ほくそ笑むランスローテ。その階下では先を見越して配置された兵たちが待ち構えているのであった。
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「よし、ここが地下への階段だ! 予定通り、私とマーリンの部隊で分かれるぞ! 皆、武運長久を祈っている!」
「……アーサー様、どうかご無事で」
「ルナ、カトレア! 相手はS級以上……気をつけるのよ!」
「マナちゃん達もね!」
一同はお互いの無事を祈りながら、『マーリン、マナ、クロエ』と、『アーサー、ルナ、カトレア』の三人ずつに分かれ、それぞれの目的地へと向かった。
玉座の間がある二階への階段は、生憎ここではなく西側にある。なのでアーサー達は西の階段へと向かうが、早速待ち構えていた100は超えているであろう大量の兵士たちがアーサー達の行く手を阻む。
「やれやれ、厄介だな……。ルナ! カトレア! 彼らは洗脳されているだけだ! 出来るだけ命を奪わないように応戦してくれると助かる!」
この人数差の状況でずいぶんと無茶を言うものだが、確かに彼らに罪はない。ルナとカトレアは快く頷き了承した。それに、あくまで『出来るだけ』である。当然自分の身が危険になるようであれば、兵士の命を奪うのも重傷を負わせるのも気の毒ではあるが仕方がない。
命の価値は等価だが、この場合優先順位というものがある。敵の命を救うために味方の命が危険に晒されてしまっては元も子もない。これは戦争であり、内乱であるということを忘れてはいけないのだ。
そして別の場所から侵入していた他のチーム……シトラスとトリスタン率いる第三チームも、ルナ達のように多くの兵に囲まれ戦闘を開始していた。
「もーっ! 敵の数多すぎ! 倒しても倒してもキリがないよぉっ……!」
「文句言わないで集中してくださいシトラスさん!」
あまりの敵の多さに辟易するシトラスを宥める、第三チームのA級冒険者であるラフィ。
彼女たちもまた、ルナ達と同じように兵士を殺さないよう、ある程度手加減しながら戦っていた。
「みんな! 不利な状況ではあるけど気後れしないで! この人数差だ……少しの油断やミスが命取りになる! 大丈夫、僕がいるから!」
冷静に戦いながらも味方の様子を伺い、声を掛けて鼓舞しているのはSS級冒険者であり円卓の騎士団一番隊隊長のトリスタンである。
こんな状況でも明るいトリスタンの声に励まされながらも着々と敵を倒していくトリスタン部隊。流石はSS級冒険者。不利なことには変わりないが、お互いをカバーしあいながらここまで未だ無傷のまま、敵兵力は確かにその数を減らしていた。
一方その頃、地下へ向かったマナ達にも強者の影が迫っているのだった……。




