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天才と脳筋は紙一重  作者: たんすちゃん
《第一章》-邂逅編-
19/100

19カトレアVSルナ

 イアンとルナの試合が終わり、暫くのインターバルの後、傷を治癒され気絶から目が覚めたイアンがマナ達の元へとやってきた。


「いやぁ、やられたやられた! 正直ルナの事ちょっとナメてたわ!」

 ガハハ、と笑いながら観客席に腰を掛け、盛大に負けたのにも関わらず、意外と明るい様子のイアン。清々しいほどの負けっぷりで、逆に後腐れがないようだった。

 ルナをD級冒険者の子供とナメてかかったのが油断となり、あの一撃で速攻終わるという無様な敗北に繋がったというわけだ。


「あんなにイキってたのに、ちょーカッコ悪かったよイアン~!」

「う、うるせえ! 一応準決勝まで進んだだろうが!」

 あれだけ啖呵を切っていたのに、あっさりと年下の後輩冒険者に負けたことをメナにいじられる。そんなイアンは逃げるようにして話題を変える。


「そ、そうだ! バロンの試合はどうだったんだよ? 選手はお互いの試合が見れねえからな! いくらカトレアがA級だからって、結構いいとこまでいったんだろ?」

「うっ……! い、いや……それはだな……。ハァ、聞くな……」

「えっ……」

 逃げ場として利用されたバロンだったが、訊かれた内容が内容だったために答えづらく、苦い顔で濁され、イアンは困惑する。


「バロンは風を纏ったカトレアに一方的に負けたのよ。貴方ほど一瞬ではなかったけれどね」

「お、おぅ……。マジか……」

 中々答えようとしないバロンの代わりに、無慈悲にも試合内容を教えるマナ。それを聞いて同情の顔を浮かべるイアンであった。


「なんかウチら、『エクリプス』に散々な目に合わされてる気がするねぇ~?」

「まだまだ実力不足だな……不甲斐ない」

 『グリフォンの爪』の最高戦力二人をあっさりと撃破され、散々だと嘆くメナと当人のバロン。誘ったのはこちら側だが、思っていたよりも悲惨な結果に終わってしまった。


「あ、そろそろ始まるみたいですよ!」

 彼らがそんなことを嘆いていると、次第に会場がざわざわと盛り上がり始め、それに気づいたクロエが試合を振り返っている皆に声をかける。いよいよ決勝が始まろうとしているのだ。


_


「次はいよいよ決勝戦かぁ……。よーし、マナちゃんのためにも頑張るぞー!」


「まさか本当に決勝まで来るだなんて、驚きましたわね……。これは、負けられませんわ!」


 会場がざわついている中、ルナとカトレアはそれぞれの控え室で気合を入れていた。

 それぞれが心の準備を終えると、いよいよ試合が始まる時間を迎え、二人は闘技場へと足を踏み出す。ついに今大会最高のカードがぶつかる。小休止を挟んだにも関わらず会場のボルテージはマックスになっていた。


ワアアァァァァァ………!!


 ルナとカトレアが姿を現すと、会場には大きな歓声が瞬く間に広がっていった。


「来たわね……」

「二人とも頑張って!」

 マナとクロエ。『エクリプス』の二人も他の観客と同じようにワクワクした様子でルナとカトレアを見ていた。これはマナが求めていた景色である。それも当然だった。すると後ろからは雰囲気を壊すような会話が聞こえてくる。


「俺はカトレアにヘラ金貨五枚賭けるぞ」

「んー、私もカトレアに金五枚かなぁ~?」

「カトレアにヘラ金貨五枚! まぁ、安定を取るならカトレア側だな!」

「賭け事やめましょうよぉ……。でも、ルナちゃんに金貨四枚……!」

「はっはっは! 結局ルナに賭けてるじゃねえかイシリア! 俺もルナだな! やられたからこそ分かる……あいつは強え! だから七枚だ! 金貨七枚賭けてやるぜ!」

「四枚に七枚~? お前らちょっと調子乗りすぎだろ! いくらイアンに勝ったからってルナちゃんはD級で、相手はA級のカトレアだぞ?」

 後ろでは『グリフォンの爪』の面々が、空気を読まず呑気にどちらが勝つかに賭け事をして遊んでいた。どうやら内訳は、カトレアが三人で15枚:ルナが二人で11枚、の割合のようだ。


「私はルナにヘラ金貨十枚よ。……これで、対等ね」

「お、おぉ……!」

 盛り上がっているところに横からマナが割り込み、すぐさまルナに賭けた。三人でカトレア15枚:三人でルナ21枚である。マナのおかげで差枚は凄いが人数差は対等である。マナ自身、カトレアの強さの底はまだ見えないため、ルナが勝てる保証もないが、ただ親友を信じている。それだけのことだ。


「クロエくんは参加しないの~?」

「僕はどっちも応援してますから……」

 メナに誘われるが、クロエはカトレアとルナどちらにも勝ってほしいし、どちらにも負けてほしくない。そう思っていた。……のもあるが、ただ賭け事が苦手なだけというものあった。


 そうこうしているうちに、ついに戦いの開始を告げるゴングが今鳴り響いた。



「まさか有言実行でここまで来るとは、見直しましたわよ!」

 カトレアは細剣を抜き放ちながら対面にいるルナへ語りかける。


「うん! ちょっと時間かかったけど、約束通り来たよ! だから……」

 それに対しルナも、ぴょんぴょんとジャンプし準備運動をしながら明るい顔で返答する。アップ部屋での約束をしっかりと果たした事を告げ、二人はいよいよ戦闘態勢に入る。


「「いざ、勝負!!」」


ザッ!


「やぁっ!!」

「えーいっ!」

 二人は掛け声と同時に前に踏み出し、距離を詰め合う。カトレアのレイピアの(きっさき)がルナ目掛けて飛んでくるが、体を捻って顔スレスレで避けながらそのまま剣を持つ腕を掴んで空中へ投げ飛ばす。


「おっと……中々やりますわね! 流石ここまで来ただけあって、そう簡単には行かないってことですわね……!」

 投げ飛ばされつつも空中で身を翻し、綺麗に着地をするとルナに称賛を送る。まだお互い小手調べ程度の一撃だったが、まさかあっさり避けられるとは思ってもおらず、カトレアはすでにこの戦いを楽しんでいた。

 そして第二陣。またもカトレアから攻撃を仕掛ける。ヒュヒュンと風を切る高速の突きを繰り出すが、ルナはちょこちょこと動き回りその(ことごと)くを(かわ)していく。

 その最中に下級魔法も織り交ぜてみるが、それすらも見事に避けていく。


「【ウィンドスピア】! 【ウィンドショット】!」 


ヒュンッ! シュシュンッ!


 下級魔法で動きを制限しながら高速突きを繰り出す……。しかし、それも紙一重で(かわ)されてしまう。ルナの取り柄のひとつである身軽さは、A級のカトレアが相手でもしっかりと猛威を振るっていた。


「気は抜けないけど、よけてばっかりじゃないよ! えーいっ、【ちゃぶ台返し】~~っ!!」

「なんですのそれッ!?」

 攻撃を躱し続けていたルナは、その場から少し高く飛び距離を取ると、地面を思い切り殴って表面を剥がし、そのまま剥がした地面のプレートをカトレア目掛けて名前の通りちゃぶ台返しのようにひっくり返して投げつける。予想外の攻撃方法にカトレアだけでなく観客全員も度肝を抜かれていた。


「あはは……。ルナらしい自由さというかなんというか……」

「力持ちにも限度があんだろ……」

 マナ達が苦笑いを浮かべながら呟く中、カトレアは意表を突かれつつも飛んできたプレートやら岩石やらを大きく横に跳んで避ける。ちゃぶ台返しされた瓦礫は直線的に飛んできたため、あっさりと避けることが出来た。……しかし攻撃を避けながらルナのいた方を見ると、そこにはすでにルナはいなかった。


「……っ! 消えた!?」

 カトレアが瓦礫を避けつつも忽然(こつぜん)と姿を消したルナを探していると、ふと飛んできている瓦礫の後ろからルナが姿を現す。


「こっちだよっ!!」

「しまっ……!?」

 飛来する瓦礫の影から姿を現したルナに、咄嗟に反応することが出来なかったカトレアは、背中に強烈な蹴りをもろに食らってしまう。


「ぐあッ……!?」

 ルナの驚異的な身体能力から放たれる蹴りが直撃したカトレアは、闘技場の壁まで一気に吹っ飛ばされてしまう。この試合最初の一撃を決めたのはルナだ。まだ試合は始まったばかりだが、いきなり大きく動いた展開に会場は沸いていた。


「……まだ、この程度じゃ終わらないよね~……」

 ルナは壁に叩きつけられ土煙が舞っているカトレアの方を向き、いつでも反撃に備えられるように気を張っていた。今の攻撃は、イアンの時よりも深く入った感覚があったが、きっとまだカトレアは倒れていない。なんとなくだがそう()()していた。

 やがて煙を払うようにカトレアが起き上がり姿を現す。もろに背中に深い蹴りを食らったにも関わらず、その姿はピンピンしているようだった。


「あれっ? にしても思ったより効いてない……?」

「蹴りを戴いた分はしっかりと食らいましたけれど、壁にぶつかる直前に受け身を取れたおかげで無事でしたのよ」

 ルナが不思議そうな顔をしていると、それに気付いたカトレアは背中をさすりながら軽く説明してくれた。彼女は壁にぶつかる直前、得意の風魔法で衝撃を和らげ、受け身を取っていたのだ。

 とはいえ、彼女の言う通り、直接蹴りが命中した背中には多少ダメージが入ったようだったが。


「なるほど……そういう使い方もあるんだ……」

 カトレアの器用な風魔法の使い方に、ルナは思わず感心してしまう。



「地面をひっくり返して、瓦礫に紛れて攻撃したルナちゃんもすごいけど……」

「あぁ……。不意にあの勢いで吹っ飛ばされて咄嗟に魔法で受け身を取ったカトレアもすげえぞ……!」

 クロエの言葉を継ぐようにイアンが続けてカトレアの所業を褒める。不意を突かれた際に咄嗟に受け身を取るというのは中々難しいものなのだ。


「でも、この程度じゃ終わらない。もう小手調べは終わりよ。……そろそろ試合は動き出す」

 ルナ達をじっと見ているマナが視線を移すことなく淡々と呟くと、それに合わせたように一同は場内に視線を送る。



「もうウォーミングアップは充分でしょう? そろそろ本気で行きますわよ……! 【シルファ】!」

 カトレアが契約している精霊の名を叫ぶと、バロンとの戦いの時にも見せたように、風がみるみるうちにカトレアの方へと集まり始め、次第に手首、腕、腰、膝、足首と、身体の至る所の可動部分に風を纏わせる。

 会場の皆はこれを見るのは二度目だが、初めて見るルナは今までとの明らかな空気の違いを直感的に感じ取っていた。そして、その直感は決して間違っていなかった。


 ――直後、ほんの一瞬音が遅れた。


ヒュッ――


「うわぁっ!?」

 次の瞬間、音も無く地を蹴ったカトレアの剣先はルナの眼の前まで近づいていた。無意識で反射的に顔を逸らして攻撃を避け、距離を取ったルナだったが、あまりの速度に、攻撃は頬を掠めて顔に傷を作る。ルナ、この大会において初めての被弾である。


「あら残念。決まったと思いましたのに。初見で最初の一撃をほぼ無傷で凌いだのは、バロンさんに続いてルナが二人目ですわ」

「あはは、私もヒヤッとしたよ……! もしかして、毎回そんな速度で動けたり……しないよね?」

 頬の傷から流れる血を拭いながら、嫌な予感を感じ、苦笑いをしながら恐る恐る訊ねる。するとカトレアは無言でニヤりと笑い、姿勢を低くし剣を構える。


「まさかっ……!」


ひゅっ! ひゅひゅんっ!


「ひいぃぃぃっ!?」

 ルナの予感は的中した。先程とほぼほぼ差がない速度で連撃を仕掛けてくるカトレアに、ルナは冷や汗をかきながら必死で攻撃を避けていた。観客達はそれを見て愕然としていた。なぜならその速度は誰が見てもバロンとの試合の時よりも明らかに速かったからだ。……そしてそれを連続で避け続けているルナにも皆驚いてはいたが。


「おいメナ、あれ見えるか?」

「んーん、見えない……」

「俺の時よりさらに速度があがってないか? まさか、あれで本気じゃなかったってことか……?」

 一同はルナと同じように汗をかきながら試合を観戦していた。尤も、攻めも守りもお互いの動きが速すぎてまともに見えてはいないのだが。


「あの子、あの速さの攻撃を避け続けてるんだよな……」

「でもなんか……避けてる方の子、攻撃を食らってないのに傷が増えてない?」

 観客達がざわざわと話す中、見ればルナはまだ一度も攻撃をまともに食らっていないはずだというのに、体の至る所には複数の傷が出来始めていた。


「やっぱり……あれのタネは一体……?」

 観客たちがようやく気づき始めた頃。バロン戦の時点ですでに気づいていたマナは、改めてカトレアの攻撃を観察するが、やはり傷が増える原因がわからない。




(いてて……! また傷が増えてる……。避けてるはずなのになんで……?)

 ルナ自身もまた、この現象に疑問を抱いていた。カトレアが何かしている様子もなく、ただ剣を振るっているのを避けている。それだけのはずなのに……。


「避けても傷が増えることを疑問に思っていますわね? 教えて差し上げますわ! これはわたくしと契約している風の精霊、シルファの仕業ですのよ!

 避けれたように見えても、剣に纏うシルファの風が即座に判定を広げ、攻撃は命中し、少しずつ体の傷は増えていく……。それは理解すれば単純明快、しかし分かっていても防ぎようがないことですわ!」

 剣を振りながら自慢気にこの現象の説明をするカトレア。仕組みを理解しても、こちらには対策の手段がないことが分かっているからだろう。たしかにこれでは防ぎようがない。いずれジリ貧になって、最後に倒れるのは間違いなくこちらだ。しかしならばとルナは一つのシンプルな答えに辿り着いた。


「じゃあやられる前にやらなきゃ、だよねッ!!」

「ふふっ! この速さの中、そんなこと考えていられますのっ?」

 どうせこのままなら負ける。なら被弾覚悟の反撃に移るしかない。そう思い、凄まじい速さの猛攻の中、ルナは反撃の姿勢を取り始める。


ひゅひゅひゅっ!

ガッ……!


ひゅうっひゅん!

コンッ!


「……!?」

 風を切る音を鳴らす連撃の中、徐々に拳でレイピアの側面を弾くような音が紛れ始める。その違和感にカトレアはいち早く気づいた。


(まさか……回避だけだった態勢から、少しずつ反撃に態勢を変えていますの……? この、剣速の中で……!?)

 ここまで、まだ一度も攻撃が直撃していないことにも驚きだが、この連撃の嵐の中、未だに避け続けながら、さらに反撃までし始めているというのは、自分の速度に絶対の自信があるカトレアにとっては衝撃だった。


(ふ……ふふ……! (たかぶ)ってきた……ですわ)

 しかし、それはむしろカトレアの心を躍らせた。すでにカトレアの中ではルナをD級冒険者ではなく、自分と対等のライバルのように思っていた。――そんなことを考えていた矢先、ルナの速度が一瞬だけ加速する。


「いい加減この速さにも慣れてきた! 行くよ、カトレア!! ハァッ!」

「なっ!?」

 ルナは大きくそう宣言し、前に踏み込む。その際にも剣は振られるが、もはや視線を向けることすら無く左手でいなす。そして一瞬動揺を見せたカトレアの隙を突き、腹に向けて渾身の右ストレートを打ち込んだ。


「ちぇすとおぉぉッ!!」

「かはぁッ……ッ!?」


ドゴオオオォッッ!!!!


 強烈な一撃がもろに急所に入った……。そのまま途轍もない勢いで壁まで吹き飛ばされていく。今度は受け身を取れた様子もない。しっかりとダメージが大きく入ったはずである。


「はぁっ……はぁっ……! うっ、いったぁ~~……!?」

 見事なカウンターを決めたルナだったが、その体は一度も攻撃を受けていないにも関わらず、すでにボロボロで息が上がっていた。ルナがここまでの傷を負ったのは、今までの人生において数えられる程度だった。

 ふと強い痛みを感じたルナが前屈みになり、痛みを感じた箇所を見ると右肩には深く傷が出来ており、そこからは血が滲んでいた。どうやらカウンターを成功させたのはルナだけではないようだった……。


「最後の一撃で少し気を許しちゃったかな……。私のカウンターに合わせて咄嗟にカウンターを仕返すなんて、やっぱりカトレアは強いなぁ……」

 この右肩に傷があるというのが一つの問題点なのだが、ルナはまだ気付いていない。


パラ……パラ……


「ぐ……うぅっ……認めますわ、ルナ……! そしてルナ……貴女まだ本気じゃないですわね?」

「ええっ……!?」

 誰もが決着がついたと思っていた矢先、崩れる瓦礫の中からボロボロながらも平然と現れたカトレア。……そう。右手で放ったカウンター……。右肩に出来た傷……。カトレアは、ルナのカウンターを、咄嗟にルナの右肩を刺して威力を殺していたのだ。つまりは『クロスカウンター』である。

 すなわち、まだ戦いは終わらないということだ。それにはルナだけでなく会場全体も驚愕していた。



「確かにカウンターは決まってたよな!?」

「見てわからないの!? あの一瞬でカウンターにカウンターを重ねて威力を殺したのよ!! しかもクロスカウンター! あの猛攻の中での反撃ってだけで凄いのに、さらにそれにカウンターを合わせるなんて! ルナもカトレアも最高よ! この試合、絶対に最後まで見なくちゃいけないわ!」


「おいおい、なんかマナの奴、キャラ変わってねえか……?」

 一同がまだ戦える様子のカトレアに驚いている中、マナが興奮した様子で今の一部始終を説明し熱弁する。それはまるでルナに神話知識を披露している時のようだった。望んでいた試合を見られて普段のキャラが崩れてしまっているようだ。



「ルナ。わたくしに本気を見せてくださらない? その剣……それに魔法も、これまで一度も使っていませんわよね?」

「い、いや魔法はちょっと加減間違えたら危ないし……。剣はその、事情があって……!」

「その言い草……やっぱり本気じゃなかったんですのね……! ならばその剣、わたくしが抜かせて差し上げます! 【エアリアル・エンチャント】!」

「えっ、ちょっ……」

 反論の余地もなく、レーヴァテインの事情を知らないカトレアは、『ルナが本気じゃないから剣を抜かない』などと勘違いしたまま覚悟を決め、自身に風の付与魔法を行使する。

 風の精霊シルファの加護によって纏われた風に重ね、全身を薄い緑の風が漂い、細剣には強い風が纏われ始める。その切れ味はとてつもなさそうだ。


「ごほっごほっ! ……行きますわよ。【ピアシングストライク】!!!」

 カトレアは先程のダメージが残っているのか、軽く血を吐き、拭いながらも地を蹴って距離を詰めてくる。その速度は怪我をしているにも関わらず最初と引けを取らない速さだった。


ヒュウン! びゅびゅぉッ!!


 ――ピッ、と頬が切れるのを感じた。

 避けてもシルファの効果で無傷じゃ済まない……。素手では、やはり無理……。ならば。カトレアもそれ相応の覚悟をしているようだし、こちらも応えなければ――ルナはそう考える。


(行くよ……)

 同じく覚悟を決めると、ルナは横薙ぎの攻撃を体を伏せて避けた際、その体勢のまま地面に手を付き魔法を行使した。……三年ぶりに使う、『大の苦手な火魔法』を。


「【ファイアボール】!!」

「なにをッ!?」


ドガアアアァァァァアアアァァン!!!!!!


 勿論、大爆発した。三年前、初めて魔法を使ったあの時と全く同じように。

 闘技場内は激しい爆煙に包まれ、観客たちも選手本人も何も見えていないだろう。


「おい! 一体何が起きたんだ!?」

「わからない! ルナって子がなんかしたっぽいんだが……!」

「爆破魔法か!?」

 観客たちが騒ぐ中、護衛組も同じように何が起きたのか議論していた。


「今のって……?」

「多分……ルナ、でしょうね……。でも、私はあんなの見たことないわ」

「ファイアボールって言ってなかったか? 俺の知ってるファイアボールじゃないんだが……」

「こんな煙幕が出るほどの威力ってことなのか……?」

 否。これはルナの火の魔力の暴発により起こる謎の爆発であり、ファイアボール自体は一切発動していない。ただこの状況を発現させるために放った魔法がファイアボールだっただけ。この煙幕のために。

 そして誰も何も見えない状況で、動けないかのように思われたはずだったが、その煙幕の暗闇を走る者がいた。


「……【アイスブロック】」


ゴゴゴゴ………! ヒュゥ……!


「けほけほっ……。ッ! ルナ……!?」

 煙の中飛び上がり、中級魔法を発動しながら現れたのはルナだった。そしてその視線の先にいるのはもちろんカトレアだった。

 カトレアは視界の悪い中、こちらへ攻撃を仕掛けて来るルナに気づき、飛んできた氷のキューブ達を避けたり斬ったりして軽く回避した。だが反撃しようと今さっきルナが見えた場所を再度見ると、そこにルナはすでにおらず、今度はカトレアの真右に魔法を構えながら現れた。


「まだまだ! 【アイシクルエッジ】!!」

 スライディングをしながら氷の刃を飛ばしまくるルナ。そしてすぐさま煙の中へ消えていく――。


きぃん! キキキンッ!


「なんですの!? この視界の中、どうやってこんなに移動を繰り返して、こちらを特定して……っ!?」

 カトレアが足元に違和感を感じ下を見ると、地面が凍りついていた。氷の床に足を踏み入れてしまったカトレアは身動きが取れなくなってしまった。そしてそこにすかさず現れるルナ。


「【フローズンバレット】!」

「くっ……! 何度もそうは行きませんわよ! 【ストームブリンガー】!」

 お互いが上級魔法を発動すると、ルナからは氷の弾丸が放たれ、カトレアの周りには嵐のような暴風が荒れ狂い始める。暴風はルナの魔法を弾き飛ばし、周りの視界を悪くしている煙までも全て払って吹き飛ばしてしまった。

 煙が晴れ、視界がよく見えるようになり、周りを見渡すと、闘技場の床は凍てつき、カトレアとルナの周りは小さな氷山のような物に囲まれていた。


「こ……これは!? ……なるほど、そういうことですのね……」

「これでお互い逃げ場もない。本気をぶつけ合えるね」

 ルナは煙幕の中、フィールドを作っていた。小さいとはいえ簡単には超えることが出来ないような氷山が周囲を囲い、凍った床、一直線で結ばれて残った平地。逃げることは許されない、決着を決めるためのフィールドだった。


 ルナはカトレアの本気の覚悟を感じとっていた。ただの大会とはいえ、負けたくないという気持ちが。そして応えねばならないと思った。故に、あれ以来一度も抜いていなかった大剣に手を掛け、ゆっくりと引き抜いた……。


スゥッ……


「あれ……? 炎を……纏ってない?」

 すると驚いたことに、抜き放ったレーヴァテインはあの時のように、炎を纏ってはいなかった。これではただの頑丈で切れ味のいい大剣だ。なぜかはわからない……。だが、これなら思う存分剣を振るえる。消えぬ炎で死んでしまう可能性もないのだから。理由を考えるのはひとまず後にし、カトレアを正面に捉え、剣を構える。


「ようやく剣を抜いてくれましたわね。認めてくれたということでよろしいのかしら! なら今度こそ本気の本気で――ッ! 『――風の精霊よ、荒れ狂う強風をわたくしの力に……!』クラス6(セクスタ)【ゲイルフォース】!」

「これなら大丈夫……。今度は正面から受けて立つからね! カトレア……行くよ!『―――光よ、私は祈る。天を照らす数多の暁光の一部を分け与え給え……』クラス8(オクタ)【シャイニーフル・エンチャント】!」

 カトレアは得意な風属性付与の上級魔法を完全詠唱し、全身に風属性のオーラを纏う。すでにカトレアには三重で風属性の強化魔法がかかっている。周囲には常に台風のように強い風が吹き荒んでいた。その身体から放たれる攻撃は岩をも砕くことだろう。


 対するルナは得意属性ではないが、高クラスで身体強化の上級魔法を完全詠唱し、剣や身体に光属性のオーラを纏う。魔法のクラスではルナの方が上回っているが、上乗せ分には差がある。ルナとカトレアの自力の差を鑑みれば、恐らく五分五分といったところだろう。

 お互いが完全な強化魔法を自分に掛け、準備は整った。その力の奔流は凄まじいもので、それは会場全体にも伝わり、皆、息を呑んでいた。


「この威圧感……! 一撃で……決まる!」

 皆が静かに見守る中、マナが確信したように呟くと、それをきっかけに二人は地を蹴って動き出す。


 一直線にお互いへ向かって突き進み、緑のオーラを纏ったカトレアと白いオーラを纏ったルナは肉薄し、叫び、そして激突する。


「――【エアリアルストライク】ッッ!!」

「【グローリアスセイバー】――ッ!」



カッ――!!



 眩い閃光と吹き荒ぶ暴風が入り乱れる中、二人の攻撃は激しくぶつかり合い、闘技場をとてつもない衝撃波が襲う。

 防護魔法をすり抜けてくる程の魔力の奔流に、観客は皆驚き、慌てふためいていた。……そして力の衝突の余波による揺れが収まり、土煙が晴れていく。落ち着きを取り戻した観客達が戦闘フィールドの中を見渡すと、そこには大剣を床に刺し、寄り掛かる形で立っている、傷だらけになったルナの姿があった――。




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