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天才と脳筋は紙一重  作者: たんすちゃん
《第一章》-邂逅編-
18/100

18.大会荒らし。

 相手視点ならば悲しいかな、もはや会場のほぼ全てがルナに応援を飛ばしている中、ようやく試合のゴングが鳴らされる。


 対戦相手の肩書きはC級冒険者。武器は王道の、剣一本を持っている。決して油断は出来ない相手である。対するルナの肩書きはD級冒険者。こちらも大剣を背負ってはいるが、いつも通り拳一つ。近接戦に持ち込むつもりである。

 というのも、フェンリルを討伐して以来一度も使っていないのだが、あの戦いでレーヴァテインを初めて抜いた時、大剣には途轍もない力を秘めた消えぬ炎が灯っていた。あんなものを人間相手に使えば、とんでもないことになるのではないかとルナは危惧していたのだ。もはや魔剣はただの荷物、装飾品にしかなっていなかった。


_


「うおぉっ!」

 試合が始まった。眼前の男は走りながら距離を詰め、剣を振りかざしてくる。その動きはとても遅く見えた。


「よっ!」


スカッ


 するりと攻撃を避けて、ルナはそのまま隙だらけの腹に軽く平手突きを決める。男は少し仰け反ったがすぐさま立て直し、剣を両手で握りながら振り回す。しっかりとした剣筋もなにもない、ただのめちゃくちゃな素人の斬撃だ。その程度では当たるわけがない。……まぁルナも剣は素人だが。


「くそ、あ……当たらん……!? まるで剣が避けてるみたいだ……」

 男はそんな錯覚を感じていた。だが相手の少女は体が小柄だ。だからきっと当たりづらいだけだ。そう思って剣を振り続ける。そのうち当たるはずと。

 しかしいつまでたっても攻撃は当たらなかった。そしていつまでも反撃が来ないわけもなく……。


「次は私の番!」

 振り抜かれた斬撃をまたしてもするりと躱し、身をかがめて男の懐に飛び込むルナ。会場からはついに動きがあった戦闘に、『おおっ!?』と声が上がる。

 ルナは懐に飛び込みながら、そのままその小さな細腕を身体に回して、男の剣を持っている方の脇と首をロックし、地面に押し倒し固定する。見事に関節が決まった状態である。

 急に腕を絞められた男は力が抜け、思わず剣を落としてしまう。男はジタバタともがいていたが、首に関節技が完璧にハマってしまっているため、抜け出すことは不可能だった。


「んんーっ!」

「うぐぐ……が……っ!」

 一生懸命絞める力を強めると、男は苦しそうな声をあげながらしばらく足掻いていたが、次第に力が抜けていき抵抗する気力も無くなったようで、その場から意識を手放した。


「ふぅ。なんとか気絶してくれた……!」

「「「「おおおおおおおぉぉぉぉっっ!!!!」」」」

 少女の見事な関節技で男を気絶させ決着がついた試合に、会場からは大歓声が湧き上がる。その中にはもちろんみんなもいた。


「何だあの子!武術の達人なのか!?」

「D級の女の子がC級の男を倒したぞ!!」

 盛り上がる観客たち。それも無理はない。自分よりも体格が大きく冒険者ランクも上で、力も強いはずの男を肉弾戦で倒してしまったのだから。


「まぁ……ルナちゃんなら初戦で負けるわけなかったですよね」

「もっと早く豪快に終わらせれば良かったのに!」

「チームメイトが勝ったんだから、そこは喜ぶとこじゃないのか……?」

「勝って当然って確信があるんだねぇ~? さっすがー」

 マナは勿論のこと、クロエもD級昇格試験で恐らくその実力の一端を目にしたであろうことから、最初の試合で負けることはないと確信していたようだった。その反応を見て、自分たちの反応とは全く違う、とエルド達は少し困惑していたが。


 そこからの試合展開は早かった。Aブロックのカトレア、バロンの二人は順調に駒を進め、ついに準決勝へ。Bブロックのルナとイアンの二人も同じく順調に駒を進め、ルナは準々決勝、イアンはすでに準決勝まで来ていた。この試合を勝てば、ルナは準決勝進出である。

 やはり当初から予想していた通り、案の定『エクリプス』と『グリフォンの爪』のメンバーによるワンサイドゲームになっていた。


「頑張れぇぇ! ルナちゃーん!!」

「負けるな、そこだ! 押せ押せーっ!!」

 轟く観客からの声援。今までの試合では関節技、絞め技、手刀、発勁、など様々な武術を見よう見まねで再現し、堅実な戦い方で勝利してきた。その過程でルナにはすでにかなりのファンがついていた。可愛く、堅実に強い年下の女の子の頑張る姿を応援したくなるという気持ちは、男女にかかわらずこの場にいる者全員にあるようだ。

 そんな密かに人気になっているルナだが、見ればルナは魔法の連撃を放つB級の女性魔術士アンとの戦いで、かれこれ数分間何も出来ずに防戦一方になっていた。


「【ファイアアロー】! 【ウィンドランス】!」


ゴオッ!ヒュオッ!


「よっ、と! ……うーん、これじゃ近寄れないなぁ……。ほいっ、と!」

 絶えず初級魔法や中級魔法を連発してくるアンを前に、ルナはひょいひょいと攻撃を避けながらも中々近づけずにいた。


「ちょっと……あの子、このままじゃまずいんじゃないの?」

「あぁ……。いずれ、避ける体力が尽きて攻撃を食らってしまうかもしれん……」

 この大会に時間制限はない。どちらかが倒れるか諦めるまで勝負は続く。そうなれば一切近寄る事ができず攻撃も出来ないルナは負けてしまうと誰もが思っていた。


「ルナちゃん、防戦一方だな……。相手はB級とだけあって攻撃に移る隙がない」

 心配そうな声を上げる観客たちと同様、エルド達も不安そうな表情を浮かべていた。……が、平然と試合を眺めていたマナはそんな三人に声を掛ける。


「心配することないわよ。あの子、まだ遊んでるみたいだし」

「「「え?」」」

「多分そろそろ動くんじゃない? ……ほら」

 エルド達はマナが促す方に視線をやると、ちょうど戦況に動きが見え始めていた。


「あーもう、ちょこまかと! 【ウォーターウェーブ】! ハァ……ハァ……っ! 【アイシクルショット】!」

(かれこれ数分、こうして連続で魔法を放ち続けてる……。今までの相手は数十秒か、一、二分程度で倒れてくれた。……でも、今回の対戦相手はなに!? もう五分以上は経ってるっていうのに、まだ一度も攻撃が当たってないじゃない……! 今だって避けられた! もう魔力の底が見えてきて集中が……)

 アンには明らかに疲労が見え始めていた。それも当然……。今までの相手は数分かかったとしても、最初のうちから何発かは攻撃が命中していた。だが今回はまだ一度も攻撃が当たっていない。そんな精神的な焦りと、連続で魔法を使い続けたことによる魔力消費過多で、すでにまともな集中が出来なくなっていた。そしてルナはそれを見越してタイミングを図っていた。


(……そろそろだ!)

「うぅ、これで決めてあげる……っ! 『――爆炎よ、燻り高まり、塵も残さぬ業火となれ!』クラス3(トリプル)【フレアカーテン】!」

 魔術士は焦りと疲労の中、最後の最後でとっておきの広範囲上級魔法を完全詠唱で行使した。其の威力は計り知れない。次の瞬間、戦闘フィールド全体を覆い尽くすような爆炎が巻き起こる。観客席には防護魔法がかかっているため被害はないが、その爆炎はフィールドにいた選手二人を完全に飲み込む。


「……ここだっ!」 


ドゴォォォォォォォォォン!!!


「うぉお!? すっげぇ炎! それに揺れも!」

「あのルナって子は無事なの……!?」

 観客席にまで及ぶ、凄まじい猛火と地響き。とてつもない爆発に遅れて聞こえてくる轟音。あまりの威力に、会場に漂う不穏な空気。エルド達護衛組も不安げな顔を浮かべていた。……マナ以外は。


(……最後、闘技場全体を炎が包む直前……。あの瞬間、ルナの姿が消えたのが見えた……。きっと、あそこで何か仕掛けたんだわ)

 マナは相手の魔術士が上級魔法を放つ直前、観客の誰もが詠唱をしているアンを見ていたであろう中、ただ一人、ルナのことを見ていたのだ。冷静に分析していると、やがて煙が晴れ始める。この煙が完全に晴れた時、試合の結果が露わになる……。

 煙が完全に晴れると先程までルナがいた場所には誰もおらず、立っているのは魔術士だけ……に見えたが、その後ろには背後に回り込んで体を羽交い締めにしているルナがいた。


「ギ……ギブギブギブ……! もう無理です!」

「ふうっ! やっと終わった!」

「「「おおおおぉぉぉっっ!!」」」

 アンがギブアップを宣言すると、会場には割れんばかりの歓声が鳴り響いた。魔術士が背後を取られては元も子もない。実質的な敗北である。


「一体何が起きたのか、僕には見えませんでした……」

「安心しろクロエ、俺たちもだ」

「うんうん!」

 唖然とした様子で呟くクロエに同調する形でエルド達も自嘲気味に相槌を打つ。恐らく会場の観客のほとんども何が起きたのか理解していないことだろう。そしてエルドは観客席の縁に肘を突いて座っているマナの方を向いて訊ねる。


「で、マナちゃんには見えたんだろ?教えてくれよ!」

 マナも端くれだがA級……当然見えていた。あの時一瞬ルナの姿を見失ったが、かすかに見えた……。


「そうね~……。ま~簡単に言えば……ルナが音速で炎に飛び込んだだけよ」

 何とも言えない表情を浮かべ、かんたんに告げるマナ。話を聞いていた一同は呆けた顔をしていた。


「……は? 音速? 人間に出来ることなのかそれ?」

「自分から炎に飛び込んだの~……? あっつそー……」

「音速ほどの速さなら、炎に飛び込んでも火傷する前に通り抜けられるのでは?」

 ぶっ飛んだ内容に、皆驚いた顔をしているが、そんな中メナの呟いた言葉に反応し、クロエが呟いたことがズバリ的中したようだ。


「クロエのそれが正解よ。まぁ私はルナじゃないから確証はないけど、多分ね」

 ルナは考えていたのだ。魔法を避け続ければ魔力が尽き始め、いずれ大技で決めにかかってくると。そしていざその瞬間。大技を撃つ瞬間は一番の隙が生まれる。そこを狙って思い切り地面を蹴り正面から突っ込んだのだ。速ければ熱も感じないと直感的に感じとり行動に移した。

 そして大技を撃ち隙だらけになった魔術士を背後から羽交い締めに……。マナの予測はおおよそ当たっているのだった。

 それでも、燃え盛る炎に向かって自ら突進するなど、常人には中々行動に移し難いことだが――。



(さて、ここからはいよいよ面白くなってきそうね……!)

 残った試合達は全て好カード。マナは良い試合が見れると期待を高めていた。残すは準決勝が二つとそれを超えた先の決勝。いよいよ最終盤、大詰めである。

 次の試合はカトレアとバロンの二強だ。この大会でも屈指の好カードと言えるだろう。観客もところどころで話題にして盛り上がっているようだった。しかしやはり今までの戦績から見ても、カトレアが勝つと確信している者が多いようだったが。……バロン、不憫な男である。

 カトレア、バロンが同時に戦いの舞台へ入場してくると、会場は今までよりもさらに大きく盛り上がる。そして早くも試合開始のゴングが鳴らされた。


「正直なところ勝てるとは思っていないが、お手柔らかに頼む!」

「ふふっ! 知り合いとはいえ、手加減はしませんわよ? ……いらっしゃい【シルファ】!」

「ぬっ!?」


ヒュォッ……


 二人はお互い、戦いの前の挨拶を交わしてから剣を構える。カトレアが瞳を閉じ、なにかの名を呼ぶと、彼女の周囲には静かな風が立ち込め、手首や腕、腰や足首に、目で見えるほどの薄緑色の小さな風を纏い始めた。

 今大会でカトレアが初めて見せた魔法? に、観客も護衛組も唖然としていた。これから何が起こるのか、見逃すわけにはいかない。


「なんだ……それは……? 強化魔法か?」

「これはわたくしが契約している風の精霊ですわ! シルファと言いますの。では――行きますわよッ!」

 どうやら今のは魔法ではなく、精霊の力によるものだったらしい。相棒の紹介を終えると、カトレアはレイピアを向け高速で突進していく。その速度は風を纏い、今までよりも何倍もの速さだった。


びゅんッ!! ガキィン!!!


「うぐ…ッ! は、速い!」

 超高速の一撃をなんとか受け止めたバロンだったが、頬には血が伝っていた。どうやらしっかり受け止めたはずの攻撃は、()()が原因で少しすり抜けてきたらしい。まるでカマイタチが通り過ぎたかのようだった。


「あら、並のB級なら今ので終わってるところですのに。流石ですわね!」

「はは、お褒めに預かり光栄だな。次は俺から行くぞ! 【スティールカッティング】!」

 額に汗を滲ませながらも向き直し、斬撃を飛ばす。その斬撃は鋼をも斬れるほどの『高速』の斬撃だった。……だが、上には上がいる。真の『高速』には追いつけなかった。


「やっ! ……遅いですわ! 【ピアシングストライク】!」


ヒュヒュヒュン! ヒュアァッ!


 ひらりと風のように身を躱し、すぐさま反撃に転じるカトレア。それは得意のレイピアによる高速の連撃で、マナには見覚えがあった。


「あれは……A級昇格試験のときにアイザックを圧倒してた技ね……!」

 それはマナが初めてカトレアと出会った昇格試験で、A級試験官アイザックに対し放った剣技だった。A級の試験官を圧倒する技を、一介のB級冒険者であるバロンが受け止めきれるわけもなく……。


ビュオォッ! ガガガガッ!!


「ぐ、おぉぉぉ……っ!!」

 正面を守るのが精一杯で次々に肩や脇腹、額や頬に切り傷が増えていく。じわじわ増える傷と痛みで唸り声をあげるが、嵐のような猛攻は止まらない。


ガキィィィンッ―――!


 そしてついに隙を突かれたバロンは剣を弾き飛ばされてしまう。――決着である。


「終わりですわね。よく耐えたと思いますわ!」

「……あぁ、降参だ! いい体験になったよ。もうちょっと善戦出来るかと思ったんだがなぁ……」

 悔しそうに頭を掻くバロン。ほぼ一方的に試合はカトレアの勝利に終わり、二人は握手を交わして退場した。会場の熱狂は凄まじいことになっていた。

 そして次はルナとイアンの準決勝試合である。興奮冷めやらぬ観客に、さらなる追い打ちを掛けるかのような、またも好カードの試合。番狂わせのD級冒険者の少女対格上B級冒険者の戦闘狂の戦いが始まる。


_


「あのシルファってどんな恩恵なのかしら……? あれが攻略出来ないと、私も勝てないかもしれないわね……」

 攻撃を受け止めても傷が増えていたのを見逃さなかったマナは、カトレアの契約している精霊について考えていた。カマイタチのように傷を作りながら通り過ぎていく鋭い風。しかしその攻撃は目に見えなかった。何か仕掛けがあるにしても、マナは精霊など見たことがないためその実態は計り知れない……。


「マナさんも大概戦闘狂ですよね……」

 カトレアの試合の観戦を終え、すぐにシミュレーションを始めるマナを見て、隣からクロエが苦笑いで指摘してくる。


「心外ね。私は戦いを求めてるんじゃなくて強さを求めてるだけよ!」

 どちらも同じような意味に思えるが、マナにとっては大事な部分なのだろう。そうこうしているうちに試合を終え、怪我の治療をしてもらったバロンが観客席に入ってきた。 


「おかえりバロン~。敗北お疲れ様~! 選手がこっち来てもいいの?」

「俺はもう試合がないからな。こちらに来ても問題ないだろう。にしても、ひどくあっさりやられたなぁ……」

 バロンは特に何も出来ずに負けたことをかなり悔しがっているようだった。普段は冷静で誠実そうに見える彼もまた、戦闘狂の一人なのかもしれない。


「きっとイアンが仇を取ってくれるさ。次はイアンの試合だしな」

「残念だけど、貴方たちの仇を取るのはイアンじゃなくなるかもしれないわね。ま、見届けましょ。もう始まるし」

 イアンが勝つと信じて止まないエルドを理不尽にも突き放すマナ。理由は……察しの通りである。


 そんなこんなで、ルナとイアンの二人が闘技場へ入場してきた。二回目の準決勝だが、会場の熱は冷めない。暖まり切った空気の中、イアンは気合充分といった様子だった。


「ルナ! D級の身でよくここまで勝ち進んできたとは思うが、お前の連勝もここで終わりだ! 子供だからって手加減はしねえからな!」

 準備運動を軽くしながらルナに啖呵を切るイアン。さらっとNGワードを言ってしまったことには全く気付いていないようだ。


「はぁ~!? 誰が子供かあーっ!! ……もー容赦しないからね、イアンさん!」

 頬を膨らませながらも拳に力を入れ、いつでも戦える姿勢を取る。

 もう今までとは相手のレベルも違うはず。しっかりと戦うつもりだった。尤も、剣は使わないが。それと、子供扱いした相手は誰だろうと許すつもりはないのがルナだ。


「いけーイアン! まけんなー!」

「ルナちゃん、頑張って~!」

「あっ……これは一瞬で終わるかもね~……」

 隣でお互いチームメイトを応援しているメナとクロエを差し置いて、会話が聞こえていたマナは一人ぽつりと哀れむような顔で呟くのだった。


 試合開始のゴングが鳴ると、イアンは槍を構えて一直線に突撃していく。ルナは顔を伏せたまま動かず棒立ちのままだ。


「おいおい戦意喪失かぁ? って……なにィッ!?」

 槍がルナの頭に当たる寸前でルナは首をクイッと横にずらし、槍の柄の部分をがっしりと掴んだ。それを見たイアンは信じられないといった表情を浮かべていた。


(本気で突いた槍の速度なんざ、精々避けるか、武器で弾くかがギリだ……。それを掴んだ!? 素手で!?)

「………!」


スッ……


「ハッ!? しまっ……!」

 お互い槍を掴んだまま、動けない状態でルナはおもむろに拳を握り、イアンの顔面へ向けて振り抜く。驚きのあまり呆然としていたイアンはそれを思いっ切り食らってしまう。


「私は子供じゃなあぁぁぁいッ!!!」


ごちん!


「ぐほあァッ!?」

 ルナの渾身の右ストレートが顔面にクリーンヒットし、イアンはあまりの勢いから槍を手放し壁まで吹っ飛んだ。壁はボロボロに崩れ、イアンの型を取った跡が残っていた。魔法を使った様子もなく、ただの拳の威力に、観客は異常な物を見てしまったと困惑と驚愕に包まれていた。

 土煙が晴れ、瓦礫の山に埋もれたイアンの姿が現れると、すでにイアンは一撃で気絶していた。武器も奪われ、この状態。ルナの完全勝利であった。

 まさかのあっさりとした早期決着に観客一同は呆然としていた。


「ルナを子供扱いするのはやめましょうね?」

「「「「肝に銘じておきます……」」」」

 観客席の一部分ではマナによる、ルナの取り扱いについてのお勉強会が開催されていた。

 ちなみにルナは『小さい』『小柄』『幼い』までなら『ぷんぷん!』で許してくれるが、『子供』『ガキ』『チビ』などというと普段の優しい面影は無くなるぞ。

 普段温厚な者ほど怒らせると怖いものなのである……。クロエ、エルド、メナ、イシリア、バロンの五人はマナのその授業をありがたーく拝聴し続けるのだった……。


「もしかしてルナちゃんって……」

「ああ……実はすごく強いんじゃ?」

「これは決勝が楽しみだな!」

 今までルナのことを、ただの武術で頑張って勝ち進んできたD級の少女としか見ていなかった観客達は、B級のイアンを一撃で気絶させたことでルナの強さに気付き始め、考えを改めていた。

 次はついに決勝戦。Aブロックを制したカトレアと、Bブロックを制したルナによる今大会最後の試合である。この大会は過去にも何度か開催されてきたが、今回は過去最高に熱い大会となっており、B級をあっさり打ち破った謎の少女対Aブロックを荒らしに荒らしたA級冒険者という最高のカードに、会場の熱気は凄まじい物となっていた。


「いよいよ、カトレアとルナの戦いが見れるのね……!」

 ぽつりと呟くマナ。その顔はどこかうきうきしたような表情を浮かべていた。心のどこかでは参加したい気持ちもあったのかもしれない。その後ろではエルド達がガヤガヤと騒いでいた。


「カトレアとルナちゃん、どっちが勝つかな~?」

「いくらイアンを倒したとはいえ、D級がA級に叶うとは思えないがな……」

「でも今の戦い……すごく圧倒されましたぁ……!」

「カトレアと直接戦った手前、アレに勝てるとは思えん!」

「僕はどっちも応援してます!」

 次の試合まではまだ暫く時間がある。それまでの間、どちらが勝つのか不毛な議論をしている護衛組であった……。


現在体調も優れずスランプ中です……。申し訳ありません。

体調管理をもっとしっかりせねば……!

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