17.トリアの街、ですわ!
王都を出発してから三日目。朝早くにエント村を出発した一行は、特にこれといった問題もなく昼を迎え、夕方には軽くモンスターの襲撃に遭ったが、この護衛の数だ。難なく襲撃をいなして、野営の準備をし、三日目は無事終わりを迎え、四日目の朝。
そこまで距離もないということで、まだ馬車で寝ている者もいるが、昨日よりも早い明け方に出発し、そして皆が起き始める朝の時刻を少し過ぎた頃、一行はようやく目的地であるトリアの街へと辿り着いた。
「わぁ~! ここがトリアの街? やっとついたんだね!」
「大きいですわね……。『バルネア』にも負けないほどの大きさではなくて?」
馬車から降りて、その地に足をつけたルナ達は、あの観光名所『温泉街バルネア』にも匹敵するほどの広さの街に興奮していた。山の付近にここまで栄えた街があるとは、皆予想外だったようである。
「本日、私共はこの街で商売を行いますので、冒険者の皆様は今日一日、依頼の契約は一旦忘れて、どうぞお好きなように行動なさってください! ここまで無事辿り着けたのは皆様のおかげです! ありがとうございます! また、帰路もどうかよろしくお願い致します……!」
出発は明日の朝。今日はこの街で泊まる予定のようで、商人は冒険者たちにそう告げると、いそいそと馬車のほうへ戻っていった。これから商売の準備をするのだろう。
自由行動ということで、『エクリプス』、『グリフォンの爪』、『アマゾネス』の冒険者達はそれぞれ、各々のチームメンバーと共に街を散策することになった。
『グリフォンの爪』の五人は、一行を代表してトリアの街の官憲に盗賊団と黒いローブの集団を突き出すため、役所のほうに向かっていった。
『まずはやっぱり宿!』といつもの台詞を言うルナに連れられ、ぱぱっと適当な宿を取った『エクリプス』の四人は、人の多いこの街で取り敢えず一旦落ち着ける所に行きたかったのと、軽食でも摂ろうということになり、喫茶店で話をしながら予定を考えていた。
「結局、この三日間は連続でなんかしらの襲撃に遭ったわね……」
「一日目は盗賊団に、二日目はルナちゃんとマナさんが怪しいローブの男達に、三日目はモンスター……。確かに大変な護衛の旅でしたね」
はぁ……。とため息をつきながら椅子に寄りかかるマナと、馬車での旅の出来事を振り返るクロエ。普通は馬車移動でこんなに襲撃に遭うことはない。よほど運が悪かったのか、依頼書に書いてあった通り、周辺に盗賊が出やすい事が関係しているのか……。どのみち、この仕事量だと依頼の報酬と拘束期間では少し割に合わないだろう。
「私は楽しかったよ? 友達も増えたし!」
とぼけた顔で話すルナ。友達とは、ルナは恐らく全員のことを指しているだろうが、具体的には馬車で話したエルドや服を羽織ってくれたコリンなどのことだろう。そしてカトレアも同じように話す。
「わたくしもエント村での大食い対決は楽しかったですわ! メナさんとクロエさんとも親しくなれましたし」
「カトレアさん、その話はっ……。思い出すだけで気分が……!」
ただ腹を満足するまで満たせたカトレアはともかく、クロエにとっては楽しかったのもあるだろうが、同時に苦しかった思い出でもあるのだろう。だが、大食い対決における一番の被害者はメナであることを忘れてはいけない……。
_
「うっ……!なんか急に一昨日の大食い対決のこと思い出して、吐き気が……」
「身の程もわきまえずにそんなに食うからだろうが? ただでさえお前は食が細いんだからよ」
「だからメナ、お前はどうしてそんなものに参加したんだ……」
ルナ達が噂をしている頃、ふとエント村での出来事を思い出して苦い顔をしているメナと、それを見て哀れむ『グリフォンの爪』であった。
_
「さて、そろそろ行きましょうか? 見世物とかちょっと興味あるのよね」
「この街の特産物とか買って帰りたいね! マリーちゃんにもプレゼントしたいし!」
「やはりここは大食いがいいですわ! この街特有の食材が使われた料理、食べてみたいですの!」
「大食いはちょっと勘弁して下さい……。僕はグッズとかアクセサリを見たいです!」
それぞれが行きたい所を言い合いつつ、席を立った『エクリプス』の四人は店を後にした。
今日は単独行動は無し。四人で行動しようと決めていたため、順番に行きたい所をみんなで巡ることとなった。
最初はリーダーであるマナの要望、見世物をやっている大きなサーカス小屋へと来ていた。ピエロが玉の上に乗りながら初級魔法のファイアボールをお手玉したり、水魔法と光魔法の合わせ技で虹を架けたり、果てには調教されたオークとのじゃんけんバトルなど、どうやら、サーカスのように見えるが、普通のサーカスとはこれまた違った見世物を披露しているようだ。
「あっはっは! なにあれ! 人とオークがじゃんけんしてるわ!」
どうやら見たがっていただけあり、マナにはかなりハマったようで、手を叩いて大爆笑していた。他の三人も思っていたよりのめり込んでいた。
「ファイアボールをお手玉なんて、熱くないのかな~! 今度真似してみようかな?」
ルナはピエロのやっていた芸を真似しようなどと考えていた。火魔法を使えないルナがそんなことをすれば、間違いなく事故が起きそうである。
「マナさんって、あんなに笑うんですのね……」
「水魔法で虹かぁ……。僕にも出来るのかな? そしたらシロエのことも喜ばせられるかな?」
カトレアは芸を見ながら大爆笑しているマナを見て、普段は笑わないことはないが爆笑とまではいかないので、初めて見る表情に少し驚いていた。
そしてクロエは水魔法と光魔法で虹を作り出したのを見て、自分の得意属性である水魔法を使って同じことが出来たら、妹のシロエにも見せてあげたいと考えていた。実に妹思いな姉……いや、兄である。
「あ~、面白かったわ! またいつか来たいわね」
サーカスを見終えたマナは、いつになく満足気な表情で会場を出て街を歩いていた。
「確かに面白かったですわね? それに珍しいものも見れましたし……」
カトレアが言っているのは九分九厘、マナのことだろう。今のところマナがあそこまで笑顔になったのはルナの前ぐらいなものなのだから。
「僕も良いもの見れました。練習して、いつか妹に見せたいと思います!」
「私も練習したいもの出来たよ!」
クロエとルナは、二人とも同じようにサーカスに影響を受けてやりたいことが増えたようだった。……できればルナのほうは危険なので、やめておいて欲しいものだが……。
次はルナの目的である買い物である。これに関してはクロエの目的とやや被っているため、同時に消化してしまうことにした。
そうしてやってきたのは食材を売っている八百屋である。魚屋や肉屋もあるが、それは王都でも買えるだろう。ここ、トリアの街は山のすぐそばである。ならば山菜や山にしかない茸や木の実、果実などもあるはずだ。八百屋に来たのはそれが理由だった。
「おー、やっぱり色々あるね……!」
「今買い物なんてしたら、後々面倒になるんじゃない?」
時刻は昼前。夜まではまだかなり時間がある。その間ずっと、荷物を持ったままというのは中々面倒だろう。それを危惧したマナがルナに訊ねるが、ルナは平気と言った顔で自分が掛けているポーチを指差す。
「ふっふっふ……。このポーチを忘れちゃいけないよ! なんでも入るんだから! あ、クロエくんの買った物も入れといてあげるからね!」
「あ、うん! ありがとうルナちゃん!」
ドヤ顔で鼻を鳴らすルナが指差すのは異次元ポーチだった。異次元ポーチは物理法則を無視した働きをするため、中に入れたものの腐敗や腐食の時間経過すらも超越する。ゴブリンすら丸々収まるその聖遺物のポーチなら、この街で買ったものなど簡単に収納出来るであろう。普段は抜けているようだが、案外こういうことはしっかりと考えているのだ。
そしてルナ達はこの街の特産物の山菜やキノコを買い、八百屋の次は小物やアクセサリなどの装飾品が売っている店へ向かった。
「流石、人が多いだけあってここも色々と置いてありますわね」
「わぁ、ほんとですね……! 良いものあるかな……?」
店へ着くなり、感心したようにカトレアが呟くと、クロエはきょろきょろと店内を見回しながら目を輝かせていた。そしてすぐさま商品を色々と見て回り始めた。
同じようにルナやカトレアも店内を歩き、良い物がないか探し始める。マナは特に欲しい物もなかったため、そんな彼女たちを保護者のように眺めているのだった。
「……これ、かっこいいけど、気取ってるように見えないかな……? そもそも僕にこんなもの似合わないんじゃ……!?」
クロエは装飾品のコーナーで、一人葛藤していた。視線の先には銀のブレスレットが置いてある。これを買うか買うまいか悩んでいるようだ。しかしこの様子だと、決断にはもうしばらくかかりそうである……。
「ま、こんなもんですわね」
「あらカトレア、ずいぶん早いわね?」
カトレアはというと、店内をぐるっと見て回ったあと、特に何も買うことはなく、すぐにマナの元へと戻ってきた。別に店が悪いというわけではなく、単純にただ気分転換に商品を見て回ることだけが目的だったらしく、最初から何か買うつもりはなかったようだ。
「元々欲しい物はないですし、ただの気分転換ですわ! ……それで、あの子は何をしているのかしら……」
二人がルナの方を見ると、なにやらいろいろと片っ端から手に取っては買ってを繰り返していた。
「いや、私にもちょっと分かんないわ……。……あ、帰ってきたわよ」
「ただいまー!いっぱいあって決められなかったから直感で選んできちゃった!」
噂をすればなんとやら。マナとカトレアが話していると会計を終えたルナが二人の元へ駆け寄ってくる。どうやら直感的に選んだものを色々と買ったようだ。まぁフェンリルやゴブリンロード討伐の分のお金がかなりあるので問題はないだろう。
そして同じように会計を終えたクロエも戻ってきた。その手には先程悩んでいたブレスレットではなく、黒のマグカップと白のマグカップ、対になった二つのマグカップを持っていた。
「あら、お揃い? 誰かにプレゼントするの?」
「悩んだんですけど、その、妹にプレゼントしようと思って……。せっかくなら兄妹揃ったものをと!」
「クロエさんが黒でシロエさんが白の方ってことですわね! クロエさんは本当に妹さんがお好きなんですのね? 素敵ですわ!」
名前に因んでクロエが黒のカップ、妹のシロエには白のカップをプレゼントするらしく、結局アクセサリは買わなかったようだ。そんな美しい兄妹愛にカトレアは甚く感動した様子であった……。
_
時刻はとっくに昼を過ぎ、もうじき日が暮れ始めるだろうといった頃。買い物を終え、残すはカトレアの大食い……もとい、食事だけとなったが、時間も中途半端なのでもう少し後にすることにした『エクリプス』の四人は、次はどうするかと話しながら街をぶらぶらと歩いていた。すると一行は突然後ろから声を掛けられる。
「おっ? 『エクリプス』じゃんか」
聞き覚えのある声に振り返ると、そこにはイアンとバロン、その後ろには他の『グリフォンの爪』の面々がいた。
「イアンさんにバロンさん! それに『グリフォンの爪』のみんなも!」
「街に到着して以来だな。どうだ、満喫してるか?俺たちは手続きやらなんやらでそんな時間なかったがな!」
ニッと自嘲気味に笑いながらバロンが訊ねてくる。どうやら彼らは盗賊団や、あの怪しい男達を官憲に無事届け終えたばかりらしい。
「サーカスは面白かったわよ。オークとじゃんけんするとこは特にね! ……ふふ、今思い返しても笑えてくるわ」
「ほう、マナちゃんがそこまで絶賛するとは……。俺も是非見てみたいもんだ」
やはりあのサーカスはかなりツボにハマっていたようで、説明しながらマナはつい思い出し笑いをしてしまっていた。そんな様子を見てエルドも興味が湧いたようだった。
「『グリフォンの爪』の皆さんはこれからどこへ?」
クロエがバロンに質問すると、バロンは快く答えてくれた。
「ああ。どこで聞いたのやら、イアンが『この街で力試しのできそうな大会がやってるらしいぞ!』って言ってきてな……。どうしても参加したいらしくてこれから行くつもりなんだよ」
「そうそう、さっき街の連中が話してるの聞こえてよ! この街はデカいし、強い奴も結構いるはずだろ? 力試しにもってこいだと思ってさ! あとついでに賞金も出るらしいぞ? 俺はそっちには興味ねーけど!」
生き生きとした表情で語るイアン。恐らく彼は強い者との勝負、力の高め合いが好きなのだろう。
「そうだ! 暇ならお前らも参加してくれよ! 競う相手は多いに越したことはないからな!」
「「「「えっ?」」」」
思ってもいなかったイアンからの急な提案に、ルナ達は困惑する。彼はいったいどこまで戦闘狂なのだろうか……。そしてその誘いに、なんとバロンまでもが同調してくる。
「イアンの奴がすまんな。当然無理にとは言わんぞ。だが、A級のマナとカトレアの実力に興味があるというのも事実……。共に参加してくれたら良い勉強になりそうだ、どうだろうか?」
「良いのではなくて?わたくし達、目的を終えて何をするか考えていたところでしたし、ちょうどいいですわ」
「んー……そうね。見るだけでも楽しめそうだわ。行きましょうか?」
乗り気のカトレアに賛成する形で、イアンの誘いに乗ることにした『エクリプス』の四人は、彼らについていくことにした。
「やる気なのはバロンとイアンだけだからさー、私たちは観客席で応援するんだ~! 強さに自信もないしね~?」
大会が行われるという闘技場へ向かう途中、メナが事情を教えてくれた。どうやらメナ、エルド、イシリアの三人は参加するつもりはないようである。
「えっと、じゃあ僕も実力には自信ないので、観戦することにしますね……」
「私も今回は見る側に回ろうかしら。カトレアとやり合うのはしんどそうだし」
メナの話を聞いたクロエとマナは、同じように観客側に回ることにしたらしい。マナが参戦しないというのは、カトレアやルナ、メナ達にとっては意外だったようであった。尤も、マナには考えがあってのことだったが……。
(ルナとカトレアの二人なら、相当な猛者でもいない限り決勝まで行くでしょうし、二人の戦いを見れば何か強くなるきっかけを見出せるかも……)
「えー、じゃあ私も参加はやめておこうかなぁ……。戦いってあんまり好きじゃないし……」
「ルナ、貴女は参加しなさい! ……その、『グリフォンの爪』は二人参加するっていうのに、『エクリプス』はカトレアが一人だけじゃ可哀想でしょ?」
考えていた矢先、ルナが参加を蹴ろうとしたため、急いで無茶苦茶ではあるが適当な理由をつけて後を押す。カトレアとルナの戦いが見たいというのに、ルナ本人が参加しなければ本末転倒、意味がないからだ。
「たしかにそうだけど、それなら私じゃなくてマナちゃんが参加すればいいのに、どうして?」
「どうしてもよ。……ね?」
「うーん……。そこまで言うならそうするけど……」
(……よし!)
なんとかルナを説得し、参加を決めさせたマナは心のなかでガッツポーズを決めていた。意味不明な理由づけだというのにも関わらず、ルナ……ちょろすぎである。
「ここだ。参加する者はあそこの受付で申請すればいいらしい」
「んじゃ、みんな頑張ってね~? どっちも応援してるから~!」
「ルナ! カトレア! いい勝負を期待してるわ!」
話しているうち、闘技場の入り口に到着した一行は、手続きを済ませてから別れの言葉を交わし、観戦者と参加者でそれぞれ別々の入場口へと向かった。
参加者にはとても広い別室が用意されていて、そこには多くの参加者と、魔道具によって壁に大きく投影されたトーナメント表と隣には大会のルール、そして準備運動が出来るようにと、仕切りで分けられた空間に頑丈な等身大のダミーが複数設置されていた。
大会のルールは単純。参加者はAブロック、Bブロックに分かれ、それぞれのブロックで交互に一対一の試合を行い、最後まで勝ち進んだAブロックの猛者とBブロックの猛者が決勝で戦うといった内容だ。
試合のルールはこの国の取り決めと同じで、優秀な回復術士が配備されているため、死ななければどんな攻撃でも構わない。ダウンした方、又はギブアップした方の負けとなる。
「よっし、Bブロックか! 俺の順番は割と早そうだな? ちょっくらアップしてくるわ!」
イアンはトーナメント表を見て自分の相手を確認すると、そのまま足早にダミーのある空間へ歩いていってしまった。バロンも同じように自分の名前を確認すると、静かに頷いてからイアンと同じ方へ向かい、端のスペースで瞑想を始めた。これもまた立派な準備運動の一つである。
「結構参加する人多いんだね……! えーっと、私の名前は……あった! Bブロックだ! イアンさんよりも少し後くらいかな?」
「わたくしは逆サイドですから、ルナと戦うのは最後……決勝になってしまいますわね。手合わせをするのは少々難しそうですわね……」
ルナ達も後に続いて自分たちの名前と対戦相手を確認すると、カトレアはどうやらBブロックのルナの対面、Aブロックの配置のようで、お互いが決勝に行かなければ戦うことが出来ないようだった。
カトレアはマナとは違い、ルナの実力を知らない。護衛の際に出くわしたモンスターや盗賊団との戦いでも、時間をかけることもなくあっさりと決着がついたため、ルナのことを少し力持ちなだけのD級冒険者だと思っている。そのため、ルナには決勝へ行くことは難しいと考えていたのだ。ただ少し、馬車旅の途中でマナが時折口にしていた『ルナがこの中で一番強い』という発言が気にかかってはいたが。
「大丈夫、きっと勝ち進んで見せるから! お互い頑張ろうね!」
そんな事を考えているとも知らず、ルナは笑顔で親指を立てながら宣言する。そんな明るく前向きな姿勢のルナを見て、カトレアは自分を戒めていた。
(いけませんわね、わたくしったら……。仲間を信じないでどうするんですの!)
「……そうですわね! 決勝で待ってますわよ!」
気を取り直したカトレアは、ルナへ笑い返しながら自信満々に告げるのだった。
「お~、すごい観客の数だね?」
「そうですね! それだけ人気の催しって事なんでしょうか? ルナちゃん、大丈夫かなぁ……」
「あわわ……! 戦いの最中に魔法の不発弾とかが飛んできたらどうしよう……!?」
「イシリア。それは恐らくないから大丈夫だ」
「ほら貴女たち、もうすぐ最初の試合が始まるわよ」
ルナやバロンたち参加者組と別れたクロエとマナ、そしてメナとエルドにイシリアの五人は、観客席に一緒に座って呑気に雑談しながら試合の開始を待っていた。
マナが声を掛けるとAブロック最初の試合が始まった。試合はAブロックとBブロックで交互に行われる。会場は円形になっており、観客席はぐるっと一周していて、どこにいても試合をしっかり見れるようになっていた。
「やっぱりでかい街なだけあって、こういう大会の参加者は強そうなやつが多いな?」
試合を見ながら呟くエルド。トリアの街は人口が多く、腕利きの者も多い。参加者には冒険者もそれなりにいたが、ただの腕利きの一般人も多く参加していた。今試合をしているのも力自慢の一般人同士のようだ。
会場の上空には大きく名前と肩書きの書かれたトーナメント表が表示されているため、いつでも目的の選手の順番や対戦相手、現在誰が勝ち進んでいるのかなどを確認することができた。
そうして話しながら観戦しているとあっという間に数試合が終わり、イアン、バロン、カトレアと順番が回ってきた。
イアンの試合は一方的な戦いで、相手がリーチの短い拳闘士だったため、リーチが長い槍士のイアンに分があり純粋な戦術差でイアンが勝利。
「いいぞ~、イアンー! その調子で行けるとこまでいっちゃえー!」
「ふむ、イアンには相性が良い試合だったな!」
「流石です! ……けど、怪我はしないでください~……!」
イアンの試合を見た『グリフォンの爪』の三人は大絶賛、大興奮だった。勿論、会場も大盛り上がり。ここ数試合の中で一番の手練だったイアンに一定数ファンもついたらしく応援する声も上がっている。
続いてバロンの試合だが、年の功……というやつだろうか。バロンは安定して強かった。対戦相手もC級冒険者と決して弱くなかったのだが、特に大きなことをさせることもなく堅実な勝利を収めた。イアンと同じように、この大会屈指の実力者であろうバロンにも応援の声が上がり始めていた。
「やっぱりB級ってだけあって二人とも安定してるわね」
「僕もあれくらい強くてかっこよくなりたいです!」
マナ達もイアンとバロンの試合を見て三人と同じように素直に称賛を送る。そして次はいよいよカトレアの試合である。
「「「「うおおおおおぉぉぉぉぉっっ!!!」」」」
カトレアが現れると、会場には今までで一番の歓声が上がりはじめる。理由は単純。トーナメント表に書かれているカトレアの肩書きがA級冒険者となっているからだ。
「流石A級……。そちらのカトレアちゃんはすでに大人気だね?」
「いきなり一気に歓声があがってびっくりしました……!」
「観客は戦いにでも飢えてんのかしら……」
この街は人口や訪問客は多いものの、A級ほどの実力者が現れることはあまりない。精々がよくてB級クラスだ。それ故、滅多に見れぬA級冒険者の参加に会場は大盛り上がりなのだ。
かくいうマナ達も、カトレアの実力をしっかりとは知らないため、彼女がどういった戦いをするのか興味津々だった。
……だが、その思いも虚しくカトレアの最初の試合は相手との実力差がありすぎて、一瞬でカトレアの勝利に終わってしまった。
「えっ、一撃で終わった……!?」
「A級の冒険者ともなるとここまで強いのか……。道のりは険しそうだ……」
「これはもう優勝決まったんじゃないの~?イアン達じゃ無理だよあんなの!」
「まぁ、この様子じゃカトレアは決勝まで行くでしょうね……。でも、結果は最後までわからないわよ」
一同だけでなく、会場の観客達もA級冒険者の圧倒的な強さを前に、結果は見えたのではないかと考えていたが、マナだけはただ一人、まだこの大会にはジョーカーのカードが混ざっていることを理解していた。
_
「……よし! カトレアも勝ったみたいだし、私も頑張るぞー!」
控え室で頬をぺちぺちと叩き、気合を入れるルナ。そう、次はようやくルナの最初の試合なのだ。試合の内容は選手たちには見れないが、勝敗だけは見ることができるため、カトレアが勝ち進んだことを確認したルナは、先程アップ用の待合部屋で宣言したこともあって絶対に決勝まで行くと張り切っていた。
戦いのフィールドへ出ると、歓声の他にも応援やら驚いたような声やら、色々と聞こえてきた。
「お、ルナちゃんが出てきたよ~!」
「ほんとだ、おーいルナちゃーん! 応援してるぞ、頑張れー!」
(……あ、エルドさん達だ! マナちゃん達と一緒に見てくれてるんだ……。あは、なんかちょっと恥ずかしいかも?)
入り口から出てきたルナに声を張り上げて声援を飛ばしているエルド達に気づき、照れくさそうに小さく手を振るルナ。
「ふふっ♪ こっちに気付いて手振ってるわよ?」
まるで親のような目線でルナを見守る一同。それは会場の観客も同じで、現れた小さな可愛らしい挑戦者に頑張って欲しいという想いからであった……。




