15.新生『エクリプス』!
「それで? その子は一体誰なのよ、ルナ!」
「ふぁふぁはふぃくふぉほふぁふぃひなった……」
「口の中のものを飲み込んでから喋んなさいよ!! 『なった』しか聞き取れんわ!?」
出会って早々、ルナの隣にいる大人しそうな子について訊ねるが、口いっぱいに詰め込んだ食べ物のせいでツッコミの連続のマナ。尤も、知らない者を連れているのは、ルナ視点から見ればマナも同じなのだが……。
「んぐ……。D級昇格試験のときに、新しく友達になったんだ! ねー?」
「ふぁうぃふぇふぁしふぇ!」
「いや、あなたも口の中の物をしっかりと飲み込んでから喋ったらどうですの!?」
ルナに促され、こちらへなにか話しかけて来たが、ルナと全く同じように天丼をされ、今度はカトレアがツッコミを入れる。
「んぐ、ん……。初めまして! ルナちゃんの友達になったばかりのクロエです!」
そう言って笑顔で挨拶するクロエは、くるくるとカールのかかった、ふわっとした短い黒髪で、とても整った、端正な顔立ちをしていた。
そんなクロエを見て、マナはどこかルナに似たような空気を感じていた。どこかポンコツで、どこか抜けた雰囲気。だからこそ波長が合って友達になったのかもしれない。
「なんか雰囲気似てるわね、貴女達……。私はマナよ、よろしくね。それとこっちはカトレアよ。昇格試験で意気投合して友人になったの。まあルナ達と似たようなものね」
「ごきげんよう。カトレアと申しますわ。マナさんとは力を合わせて試験を突破しましたの! それはそれはすごかったんですのよ!」
クロエに合わせてマナが軽く自己紹介をし、カトレアを紹介すると、カトレアもそれに反応し、スカートの裾をつまみながら簡単な自己紹介をする。
「よろしくねー! 私はルナだよ~! マナちゃんとチーム組んでまーす!」
「あ、そうだ。そのことだけど、一旦宿屋に戻らない? 話したいことがあるのよ」
「おっけー! こっちも話したいことがあるんだ!」
そう言うと、一行はその場を後にし宿へと向かった。
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そして四人はマリーのいる宿屋へと来ていた。人数が倍になって帰ってきてマリーは驚いていたが、ルナが朝に盗られた財布と共にウェルドの謝罪を伝えると、とても嬉しそうにお礼を言っていた。
四人は、ルナとマナが泊まっている部屋に集まって話していた。二人部屋のため、四人では少し狭かったが、話をするだけなら問題はない。
「カトレアさんがチームに入りたがってるの? いいね! 私は歓迎だよ!」
「『さん』をつけなくてもいいですわよ。ルナさん!」
「わかった! じゃあカトレアも、ルナでいいからね!」
マナから話を聞いたルナは、笑顔で歓迎し、カトレアとも早速打ち解けていた。ルナのこのコミュニケーション能力の高さは、密かにマナの憧れである。
「それで、ルナが話したいことって何なのよ?」
腕を組みながらマナが訊ねると、ルナはクロエを手で指しながら説明を始めた。
「クロエくんもチームに入れたいなって思って、マナちゃんに許可貰おうと思ってたんだ!」
「なんだ、同じような内容だったのね。私もルナに確認を取ろうと思って探してたのよ……っていうか、クロエ"くん"?」
ルナの説明を聞いて、似たような内容に肩透かしを食らった気分になったマナが、ふと違和感を抱く。隣ではカトレアも眉をひそめていた。
「あ、クロエくんは可愛いけど男の子だよ?」
「「えぇ~~~っ!?」」
夜の宿屋に、マナとカトレアの声が木霊した。普通の宿屋ならば、他の宿泊客から文句が飛んでくるところである。
クロエはとても端正な顔立ちで、声も中性的な、どちらかと言えば女の子のような声だった。そして仕草も体格も到底、男には見えなかった。
「あはは、よく間違われます……。でもれっきとした男ですよ、僕は!」
言われ慣れてしまっているのか、苦笑いしながら嘲るクロエ。そんな彼を見たマナは、なんだか少し申し訳ない気持ちになった。
「ま……まぁ、チームに性別なんて関係ないから、ルナと本人が大丈夫なら私も歓迎するわ!」
こうして話はあっさり決まった。もう夜だが、四人はギルドへ向かい、チームメンバー追加の手続きをし、結成したばかりのチーム『エクリプス』には、早くも新たに二名の仲間が加わった。
そしてもう時間も時間なので、明日の朝ギルドで落ち合う事に決め、今日の所はここで解散し、それぞれ泊まっている宿、自分の家へと帰っていった。
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後日、ギルドで合流した四人は、空いている席に座り、改めてしっかりとした自己紹介をすることになった。
「D級冒険者のルナ・アイギス、13歳です! 国のはじっこにある名前もない土地でお爺と二人で暮らしてたけど、冒険者になるために無理を言ってここまで上京して来ました! 趣味は朝の筋トレ、特技は氷魔法とインファイト! 冒険者歴は……えーと、今日で四日目かな?」
「二人暮らしでしたの……。まだ幼いのに苦労したんですのね……」
まずは一番手、ルナが自己紹介をする。マナはすでに知っていたので特に大きな反応もないが、カトレアは感傷に浸っていた。そこまで年齢が離れているわけでもないだろうに……。
「A級冒険者のマナ、15歳よ。訳あって家出中。強くなるため、日々研鑽を重ねているわ! 趣味は魔法の研究。特技は光魔法と炎魔法よ。冒険者歴は、一年とちょっとかしら?」
「マナさん、かっこいいです! 僕も強くなりたいです!」
そして二番手、マナである。無駄な情報は省いた簡潔な自己紹介。もちろん王族としての事情は明かさない。ここでは人目が多いし、面倒なことになる気がしたからだ。それに、隠し事は誰にだってあるものである。クロエはそんなストイックな雰囲気のマナを見て羨望の眼差しを向けていた。
「A級冒険者、カトレア・フォン・ローズマリー、15歳ですわ! 是非、カトレアとお呼び下さいまし! 西にあるローズマリー伯爵家の一人娘ですの。諸事情あって強くなるため、お父様に三日三晩頼み込んでなんとか冒険者になりましたの! 趣味は速さを鍛えること! 特技は風魔法ですわ! 冒険者歴は今年で三年になりますわね!」
「おぉ……! 本物のお嬢様だ! 冒険者としてはマナちゃんよりも先輩なんだね!?」
三番手はカトレア。マナと違い、堂々と家名を名乗る。一応、親に許可を取っているからというのもあるのだろう。ルナは初めて見る生の貴族に目を輝かせていた。尤も、いつも側にいるマナは貴族よりもさらに上の存在なのだが、ルナは知る由もない。
……それにしても皆、冒険に憧れて家出しすぎである。
「D級冒険者のクロエ・ミール、12歳です。妹のシロエと二人暮らしで、妹を養うため、出稼ぎで冒険者になりました! 趣味は妹へのお土産探し、特技は水魔法です! 冒険者歴は今年で一年になります。よろしくお願いします!」
「ふぅん、妹のためね……。いい子じゃない。……ハティ、元気にしてるかしら……」
最後の四番手は流れ的にクロエだった。頭を下げ、丁寧に自己紹介をするクロエ。妹がいたり、二人暮らしという点では、ルナやマナとは少し似た境遇で、妹と聞いたマナはしばらく会っていない妹のことを思い出していた。
お互いの自己紹介も終え、理解を深めた四人は、改めてチーム『エクリプス』の再出発として、乾杯をして盃を交わした。……もちろんまだ昼間なのでお酒ではなく、ジュースでだが。
「「「「かんぱ~い!」」」」
自己紹介もして、盃も交わしたところで、新生『エクリプス』の四人は、このメンバー最初の依頼を選んでいた。
「こないだのゴブリン討伐依頼は散々だったからね。次はまともな依頼だったらいいんだけど……」
「ただのゴブリンくらい、マナさんがいるなら問題なさそうですけれど、何かあったんですの?」
依頼を探しながらため息交じりに愚痴をこぼすマナへ、隣にいたカトレアが当然の疑問を投げかける。E級やD級相当の依頼にA級のマナが苦戦するなどとは到底思えないからだ。
「ただのゴブリン討伐だと思ったら王位種が出たのよ。それと地震あったでしょ? あれのせいでフェンリルが現れてね……。まぁ、大量のお金と功績ポイントになったし、おかげであの召喚魔法が浮かんだんだけどさ」
マナは心底うんざりといった様子で一昨日の出来事を語るが、結果的にA級昇格やガルムの使役にも繋がったのでなんともいえない複雑な気持ちだった。
そしてそれを聞いたカトレアは当たり前だがぎょっとした様子で驚愕の表情を浮かべながらマナの方を向く。
「ふぇ、フェンリル!? 確かにこないだ三回程連続で大きな地震がありましたけれど……。魔界に棲むと云われているあの魔物がなぜ……? ……というか、フェンリルなんてどうやって倒しましたのよ!」
「さあね~? ルナと一緒にいればすぐ分かるんじゃないかしら~?」
S級が数人いてようやく倒せるレベルと言われている魔獣フェンリルを、さらっとお金になった発言をしたことで、突如真顔になって問い詰めてくるカトレアだったが、マナはとぼけた顔で話を適当に流す。
依頼板の右の方で、教えなさいな!と突っかかりじゃれている二人を余所に、左側にいたルナとクロエは良い依頼がないか探していた。
「二人とも、もうずいぶんと仲良しだね……。羨ましいなあ……!」
「私たちもきっとすぐ仲良くなれるよ! それより今は良い依頼を見つけないとね!」
隣の二人を気にかけながらボードを見ているルナとクロエ。
この依頼板には、様々な依頼がジャンル分けされて貼ってある。一番メジャーな討伐系と収集系。戦闘が不得意でもこなせそうな調査系と探索系と捜し物系。そして護衛系や、このどれにも属さない特殊なものと、色々な種類がある。他にも前回ルナ達が受けた、内容が途中で変動するような変わった依頼もあるが、大体はこの部類に分けられている。
そしてじーっとボードを眺めていたルナの目に止まった一つの依頼。それを見たルナは直感的にピンとくるものがあった。
「これだーっ!!」
そう言いながらルナがぱしっと手に取ったのは、馬車の護衛依頼だった。
「護衛依頼……。まだ僕は一度も受けたことないけど……良いと思う!」
「なに? 決まったの?」
クロエがキリッとした顔で親指を立てると、後ろからじゃれついていたマナがひょこっと顔を出し、横から依頼の内容を覗き込んで読み上げ始める。
「えーっと? ……合同チームによる王都から出立する行商馬車の護衛。目的地は片道三日間かけて山を超えた先にあるトリアの街。往復七日……。この近辺は盗賊が出やすいので注意されたし。要求ランクはC以上。報酬は一人につきヘラ金貨5枚。追加報酬有り……」
「悪くない内容ではなくて? わたくしはこれで良いですわよ!」
マナが依頼内容を読み上げ終えると、それを聞いていたカトレアが賛成の意を示す。一人につきヘラ金貨5枚。つまり『エクリプス』には20万ヘラが報酬として支払われる。往復で七日はかかるが、追加報酬もあるらしい。Cランクの依頼にしては非常に金払いの良い依頼である。
「うーん……。七日間拘束されるにしては、ちょっと微妙な気もするけど……。本当にこれでいいの?」
「なんかビビッときた!」
「……まぁ、護衛依頼なら私たちの連携の練習にもなりそうだし、これで行きましょうか!」
マナは少し考えたが、ルナの判断に委ねることにし、今回はこの依頼を受けることにした。四人は依頼の受注のため受付へ向かい、手続きを済ませたあと、依頼主の商人たちが待つ東門へと向かった。
………。
「本日はこんな危険な依頼を受けてくださり、大変感謝しております……」
畏まって礼を告げているこの小太りの男性が今回の依頼の主である。馬車はそこそこ大所帯の六台で、『エクリプス』の他には護衛の冒険者がもう二チームいた。
商人が挨拶を終えると、護衛同士で軽く自己紹介の時間をとることとなり、それぞれのリーダーがメンバーの紹介をする。一時的とはいえ、同じ依頼を受けた仲間だ。お互いのことを知っておくのは当然である。
「私達は『エクリプス』。ランクはA級二人とD級二人。私はA級のマナよ。隣にいる大剣背負った子がD級のルナ。赤い髪の子がA級のカトレア、黒い髪の子はD級のクロエよ。役割は……全員、魔法剣士かしら……?」
クロエの戦い方を詳しく知らないため、やや疑問形でマナがチームの紹介をする。クロエはとても近接戦闘が得意そうには見えないが、一応短剣を腰に差していたため魔法剣士ということにしておいた。
『エクリプス』のリーダーは誰なのかで少し悩んだが、元々チームを組もうと言い出したのはマナで、一番ランクも高く、しっかりしているマナがリーダーということに決まった。マナ自身、恐らくこの中で一番強いのはルナだと思っていたが、ルナがリーダーだとチームが色々と変な方向に進んでいってしまいそうだったため、仕方なくリーダーとなったのだ。
そしてマナ達の紹介が終わると、次に名乗りを上げたのは頑丈そうな鎧を身にまとった壮年の男性だった。
「我々はBランクのチーム『グリフォンの爪』。B級二人とC級三人のチームだ!」
リーダーのガチガチに鎧を身にまとった男はB級の剣士バロンと名乗り、メンバーはB級の槍士イアン。C級の魔術士、メナとエルド。回復術士のイシリアがいると紹介した。男性三人、女性二人、前衛、中衛、後衛、ヒーラーと、役割的にも性別的にも比較的バランスの取れたチームのようだった。
「Bランクのチーム? チームにもランクがあるの?」
バロンの紹介を聞いていたルナがふと疑問に思い、隣にいるマナに訊ねる。
「一応あるにはあるわね。チームメンバーの平均ランクを取ってチームのランクとするのよ。私たちの場合は、A級二人にD級が二人だから、下に引っ張られてCランクのチームってとこね。まあ、そのへんは適当みたいだけど」
「なるほど~! 相変わらずマナちゃんは物知りだなぁ」
質問に対して、マナが優しく説明してくれる。チームのランクは、多くの冒険者の間で言い合っているだけなため、ギルド側は関与していないのだが、ほとんどのチームがチームランクを主張しているため、ギルド側もわかりやすくて良いと、だいぶ前からチームランクという言葉を使い始めたので、もはや公認になっている。
「あたし達はCランクチーム『アマゾネス』! 私はリーダーのコリン、B級よ。メンバーはC級のアカネとエアナ、全員前衛よ!」
『アマゾネス』は、女性三人で構成された、全員が剣や手斧を持った前衛という、かなり強気なチームだった。格好も、女性にしてはかなり勇ましい装備で、防御よりも身軽さを重視した踊り子のような見た目だった。
「女性だけのチームが二つか、はっはっは! 肩身が狭く感じるな!」
彼女たちの自己紹介が終わると、バロンは周りを見て大笑いし、イアンの肩を叩きながらそんな台詞を吐く。
しかしルナ達のチームは女性だけのチームではない。
「『エクリプス』は女三人、男一人のチームよ。間違えないでくれるかしら」
「「えっ……!?」」
マナがすかさず訂正を入れると、バロンとイアンは驚いた顔で近寄ってきて、まじまじと四人を見始める。
「……そうか、大剣のキミは男の子だったのか! すまない!」
「ふぇ? 私?」
二人はルナを見て頭を下げる。マナとカトレアは間違いなく女性だ。ならばこの幼く、色々と小さい二人のどちらかが……。
「どこ見て決めつけてんのよッ!」
「「ぐほあッ!?」」
ルナの平らな……いや、慎ましやかな胸を見て判断したらしき彼らの背中を思いっきり蹴り飛ばすマナ。見ていた周りの者達の間にはたくさんの笑い声が広がっていた。
「すみません……! 僕が紛らわしい見た目してるから……」
「「い、いや……完全に俺らが悪かった、すまん……」」
クロエが申し訳無さそうに、床に倒れているバロンとイアンに頭を下げるが、彼らは逆に謝罪を返す。当然だ。そもそも、よく見れば髪の長さなどですぐに気づけるはずなのだが、バロン達は一体どれだけ鈍感なのだろうか。
「なんで私と間違えたんだろう……?」
そしてまだ状況を理解しきれておらず、ぽけっとしているルナだった。どうやら初の対面は、失礼ながらも結果的に好印象で終わったようであった……。
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王都を発って十数分が経った頃、先頭の馬車からは三人の話し声が聞こえていた。
「全く、殿方ってみんな『ああ』ですの!? あっ、もちろんクロエさんは違いましてよ?」
「えっと、流石にそんなことは無いと思いますけど……。でも、僕を女の子と勘違いした人にスカウトされたこととかありますよ? あはは……」
ガタガタと揺れる馬車の中、カトレアとクロエの二人は、馬車の中で仲良く先程の話をしていた。身長差もあって、その光景はまるで、姉といも……弟が話しているようだった。
『エクリプス』は、カトレアとクロエが先頭に付き、最後尾にはルナとマナが、それぞれの馬車につく形となった。先頭と後尾になった理由は、カトレアとマナがA級のため、一番ランクの高い二人をそれぞれ一番前と後ろに配置したほうが戦力的なバランスが良いからである。
そして先頭の馬車の御者台には、『グリフォンの爪』のC級の魔術士、メナが乗っていた。
一番目立つ先頭には、盗賊除けの抑止力のために冒険者を見える位置に配置するのだ。それでも向かってくる者は向かってくるのだが……。
三番目の馬車には『アマゾネス』の三人、四番目の馬車には『グリフォンの爪』のバロン、イアン、イシリアが乗っている。
「私も最初クロエくんのこと女の子だと思っちゃったよー。ごめんねー?」
御者台から幌を捲って話しかけてくるメナ。恐らくあの場にいたほとんどの者がそう思っていただろうから、気にする必要もないのであるが……。
「いえ、慣れてますから……。いつかきっと男らしくなってみせます!」
「あら? わたくしは今のままでもいいと思いますけれど……」
「こらこらカトレアさん、せっかく決心してるんだから……」
「「「あはははは!」」」
どうやら『エクリプス』Aチーム、先頭馬車グループは無事打ち解けることができたようである。
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「「「…………」」」
出発してからはや数時間、『エクリプス』Bチーム、最後尾グループのルナ、マナ……そしてエルドの三人は、なにやら真剣にお互いの表情を伺い合っていた。
「行くよ……!」
「「ゴクリ……」」
重い空気の中、ルナが静かに告げ、手を伸ばす。そしてエルドの手から一枚のカードを引き抜き、目を通すと……。
「やったぁぁぁっ! アガりー!」
「「うわあああああああぁぁぁ!!!」」
右手に二枚の金貨を握って喜ぶルナと、負けて全く同じポーズで絶叫するマナとエルド。馬車に乗ってから、とっくの昔に打ち解け仲良くなっていた三人は、あまりにも暇だったのでヘラ金貨を賭けてババ抜きをしていたのだった。
「何も問題が発生してない証拠だからいいけど、やっぱり護衛任務って暇よね……。だから私普段受けないのよ、こういう依頼」
「……言うな。報酬もいいし、目的地のトリアの街も良いところらしい。観光って思えば悪くないだろ?」
トリアの街は山を超えなければならないが、その近辺の町村に比べるとトップクラスの大きさの街らしい。山の観光なり、特産物をお土産に出来る可能性もあるため、エルドは前向きに考えていたのだ。
「私は今こうやって馬車に乗ってるのも楽しいよ~! 友達も増えて、ゲームもして! トリアの街……一体どんなところなんだろうな~?」
目を輝かせ、目的地に想いを馳せるルナ。そんなルナを見て、マナもエルドも、のほほんとした空気に包まれるのだった。
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時刻が昼間を過ぎ、もうじき日が暮れるだろうかといった頃、六台の馬車を取り囲む集団がいた。
護衛達は御者や商人達を馬車へ避難させ、それぞれのチームは展開し、怪しい集団と対峙していた。
「ついにおでましってことね! 暇とは言ったけど別に出てこなくていいのよ! 貴方達!」
マナが集団のリーダー格っぽい男に指を指しながら文句を言う。男は困惑していたが、こちらへ剣を向け口を開く。
「貴様が何を言ってるのかよくわからんが、とにかく降伏して積み荷を全て渡してもらおう! この街道は大量に物資を積んだ行商人がよく通る……。お前たちにもあるんだろう? こんなに多くの護衛を雇ってまで守りたい物資が!」
やはり盗賊団。行商のための積み荷が狙いである。降伏すれば命までは取られないだろう。相手は二十名ほどもいる大所帯で、こちらの護衛は十二名。人数では劣っているし、圧倒的不利な状況だが降伏するわけにはいかない。何のために依頼を受けたと思っているのか。
「人数差で煽ればあっさり降伏すると思ってるならとんだ勘違いだな! 諦めろ! ここにそんなヘタれた奴はいない!」
「交渉決裂だな……。後悔するなよ? ……お前らやっちまえ!」
バロンが強い言葉で煽り返し、総員が武器を構えると、男は仲間にGOサインを送り、盗賊たちは襲いかかってくる。そしてあちこちで剣戟音が響き渡り始めた。
……決着は、割とすんなりついた。冒険者達も商人達もまったくの無傷で、辺りには死屍累々と盗賊達が倒れていた。いやまぁ、全員が死んでいる訳ではないのだが。
この盗賊たちは、魔法が使える者が誰一人としていなかった。その結果、この圧倒的大差を生んだのだ。
人数差があったのに、あっさりと片付いて一行は拍子抜けしていた。
「まさか誰も魔法を使ってこないなんてね……」
「大事に至ることがなくて何よりだ。さ、もう日が暮れる。コイツらを縛ったら野営の準備だ!」
「何人か殺っちゃったみたいだけど、それはどうするの?」
マナ、バロン、コリンの各リーダーは気絶した盗賊団を拘束しながら今後の予定を話していた。
「まぁ、一緒に縛っておいて、トリアの街で官憲に突き出すとしよう」
「「了解!」」
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「一日目からあの人数の盗賊団に出くわすとはな……。この街道に盗賊が出やすいってのは事実みたいだな」
日が完全に暮れた夜。バロンはマナ、コリンのリーダー組に、明るく真面目なエルドを加え、火を囲んで座っていた。
「二日目もあんなのに来られたら面倒この上ないわね」
「マナが休んでたら私たちで片付けちゃうから、出番なくなるわよ!」
気怠げに呟くマナを肘で小突いてからかうコリン。一見冷たそうに見えるマナに、ここまでの距離を詰めて話せるコリンはかなりの大物のようだ。
「まぁとにかく、油断はしてられないよな! 取り敢えず、夜の見張りでも決めようぜ?」
エルドの言葉に他の三人は頷き、見張りのローテーションを決め始めた。
そんな彼らとは少し離れた位置で、ルナ、カトレア、クロエ、アカネ、エアナ、イシリア、メナ、イアンの八人は、火を囲んでゲームをしながら雑談をしていた。
「我らがリーダー達は何話してんだろねー? ありゃ、ババ引いちった……」
「今後の予定とかでしょうか?」
「予定って言っても、馬車乗って、敵が来たら戦うだけだよね? ……んー、これだ!」
ババ抜きをしながら、メナの言葉に反応するクロエとルナ。その横では同じくババ抜きに参加していたアカネとイアンが何やらじゃれついていた。
「女子会の中に俺だけ混ざってんの、すげー違和感あんだけど……。俺、場違いじゃね? ……お、アガれそう」
「なんだいアンタ、チャラそうなのに案外初心なんだねェ? ほれほれ、どれがババだろうねえ?」
「イアンさん! ですからクロエさんは男性だと先程からおっしゃってますわよね!」
相変わらずクロエを無意識に女子扱いするイアンに、ツッコミを入れるカトレアはポーカーフェイスが苦手なため参加はしていない。
その後ろではおどおどした性格のイシリアと物静かな性格のエアナが、一同を静かに眺めながら持ち込んでいたチェスをしていた。
「――!」
コトン……。
「皆さん楽しそうで……って! あばばば、エアナさん! ニコニコした顔でそこに置かれると困りますぅ!?」
トリア行き行商馬車御一行の一日目の夜は随分と賑やかになっていた。
男の娘!!




