14.昇格試験と新たな友人。
ガルムの使役に成功したマナはしばらくの間、大きくなったガルムが何が出来るのかを確認してから、昇格試験を受けるため、ギルドへと向かった。
「ルナは昇格出来たのかしら……? まああの子のことだから心配はないと思うけど」
そんなことを言いつつ、いつも通り昇格試験のため、ギルドの裏の訓練場で参加者と職員が揃うのを待っていた。
現在の時刻は夕方。試験は常時開催されているわけではなく、日によって昇格試験の種類が違う。今日の昼間はE級昇格試験、昼過ぎにはD級昇格試験がある。そして夕方はA級昇格試験というわけだ。
「A級、B級の試験官って誰だったかしら……? 男性だったのは覚えてるんだけど」
試験官はS級担当に一人、A~B級担当が一人、C~E級担当が一人付くようになっている。
ちなみにC~E級を担当しているのはルナを担当した女性職員、アロエである。
「おい聞いたか? 今日だけで、F級からD級まで一気に上がったルーキーがいるって話!」
「あー聞いた聞いた! 噂になってたよね。なんでも、数日前に冒険者になったばかりの女の子らしいよ~? そのうちアタシ達もすぐ抜かされちゃったりしてね!」
聞き覚えのある情報に、もしやと眉をひそめるマナ。バルネアでも同じことがあったような気がする。
(あの子は噂になりやすい体質でも持ってるのかしら……。そのうちトラブルに巻き込まれなきゃいいけど)
もしかしなくてもルナのことなので、彼女に何か問題が起きなければいいと祈っていると、一人の職員がギルドから訓練場へと歩いてきた。
「ハイハイ、ハイッ! おまたせ致しまし、た! えー! 僕が! このA級昇格試験、の! 試験官を務めさせていただき、ます! A級の、アイザック! と申し、ます!」
(あぁ、彼か……思い出したわ……。彼、苦手なのよね、あの独特すぎる喋り方が)
大きな声に、ハキハキと喋りすぎて語尾がおかしなことになっている、頭を丸めたこの男が試験官だ。
彼とはB級昇格の際も一度出会っている。こんなインパクトのある人物を忘れることは無いと思うのだが、恐らくマナにとっては消したい記憶だったのかもしれない。
「それでは、ね! 今回もB級の時と同じ! ようにね! 僕とのタイマン勝負で! 力を示して下、さい! 皆さん、前回の! B級昇格の際、には! 僕に合格を貰えたかもしれません、が! 今回はA級、です! 加減もなし! 甘くはないですから、ね!」
そういうと周りの冒険者たちは気を引き締めた様子で試験官の元へ並んでいく。
今回の試験の参加者は十四名、A級昇格試験にしては多いほうである。本来、A級昇格のハードルはかなり高いため、参加者は大体一桁人数しかいないことのほうが多い。
マナも遅れないように前から六番目に並んだ。真ん中辺りの順番を選んだ理由はしっかりとある。B級の時とは違うであろう試験官の動きを見るためだ。一番目から三番目辺りの者には気の毒だが犠牲になってもらい、情報を得る作戦である。
もちろんそんなことをしなくても勝てる可能性はあるが、少しでも勝率を上げるためにはこういった細かいことも大事なのである。
そうして最初の者の試験が始まるかと思っていたら、試験官のアイザックが口を開いた。
「今回は、二人ずつ! 来てくだ、さいッ! 僕も本気を出しますの、で! B級の方は二名がちょうどいいハンデになり、ます!」
それを聞いた受験者達のあいだにはざわめきが広がり始めた。いくらA級の職員とはいえ、A級昇格が目前のB級二人と、一対二をするなどハンデにも程がある。それにB級の昇格試験の際に皆アイザックとは一度武器を交わしている。故に、もし仮にあの時が本気じゃなかったとしても、そんなことを言い出しては耳を疑うのもしょうがないのだ。
「アイザック試験官……。いいのかよ? 俺たち、もうすぐA級だってのに、二対一でちゃんと試験になるのか? 流石にアイザック試験官でも、ちょっとしんどいんじゃ……?」
立派な大剣を背中に背負った青年が手を上げ具申する。自分の昇格がかかっているというのに、こちらが有利すぎる状況に意義を唱える彼は真面目な性格なのだろう。
「うんうん! 優しいです、ね! オリバーさんは! 少し加点してあげま、しょう! ……ですが、大丈夫! それでも僕が勝ちます、よ! さぁ! やりましょう! 前から順にッ!!」
試験官がそう言うとオリバーと呼ばれた青年は手を下げ、加点は貰ったが不服そうな顔で、後ろにいた友人であろう女性冒険者に背中を叩かれて気を取り直していた。
「もー、真面目だなぁオリバーは。試験官めっちゃ強そうだし気にすることないって!」
「あぁ……。それもそうだよね? ありがとうミーネ、頑張ろう!」
先程手を上げ具申していた青年オリバーと、ミ―ネという女性は前から三、四番目。最初のペアが終わった後は彼らの番だ。そしてマナは六番目、オリバー達が終わればマナの順番である。
(なんだか不気味ね、アイザック。やっぱり私苦手だわ、彼。あのオリバーとミ―ネって人は知り合いっぽいし、チームなのかしら?)
最初のペア、ナランとゲルドが前へ出ていき武器を構える。アイザックはナイフがついたナックルサックを装着していた。B級試験の時は素手だったというのに……。そして彼らの試験が始まった。
………。
「「「…………!?」」」
次の瞬間、試合を観戦していた全員が絶句していた。そこにはわずか一分でボコボコにされ、KOされたナランとゲルドの姿があった。
「んんッ! 救護班! おねがいし、ますッ!」
「……はいよ~」
アイザックが救護の職員を呼ぶと、気怠げな雰囲気の女性職員が適当な返事をしながら現れ、ダウンしている彼らを担架に乗せて連れて行った。
「残念ですが! 彼らは不合格です、ね! 次回に期待です! それでは次! オリバーさんと、ミーネさん、どうぞォ!」
オリバー達は額に汗を浮かべながら不安げな顔で前へ歩いていった。
そしてマナも、B級昇格試験の時とは全然違うアイザックの強さを前に、内心不安を感じていた。
(これは……思ったよりきつそうね……。六番目にして正解だった……)
「よし、落ち着いて……作戦通りに……。いくよミーネ!」
「了解!」
オリバーが大剣を抜き、アイザックへ向かって飛び込んで行く。ミーネは後ろで詠唱に入る。理想的な前衛と後衛の形だ。
チームだからこそ為せる連携だろう。即席のチームだったナランとゲルド達よりは遥かに善戦していた。
「うんうん! 素晴らしい連携、です! ですが、少々後ろへの気遣いが足りないの、ではッ!?」
アイザックはするりとオリバーを避けて、背後で詠唱をしているミーネへ攻撃を仕掛けようとする。
「ミーネ!」
「!」
オリバーはミーネを庇おうとするが、その焦りが隙となった。アイザックはミーネに向かうフリをして振り返り、隙が生まれたオリバーの腹部に強烈な肘打ちを食らわせる。
「焦りは禁物、ですよ!」
「ご、ぉっ!?」
手痛い一撃をもらい、後ろに吹き飛んだオリバー。良いトコに入ったのか、うずくまってヒューヒューと息を漏らしていた。
「オリバー! っ、【ファイアシュート】!」
ごおっと燃え盛る炎が勢いよくアイザックへ飛んでいくが、拳で相殺され打ち消されてしまう。
その間にミーネはオリバーに駆け寄り回復をしていた。しかし回復中は隙だらけである。勿論アイザックはそれを見逃さず距離を詰めていく……しかし。
「かかったね! 砂魔法! クラス3【アリジゴク】!」
「!?」
ニヤリと笑うと、予め、オリバーが時間を稼いでいる間に設置していた魔法を行使し、砂にアイザックの足を埋め、動きを完全に封じる。これがオリバーとミーネが予め立てていた作戦だったのだ。
そして起き上がったオリバーが立ち上がり、大剣を構えアイザックへ歩み寄る。こうしている間にもアイザックの体は腰まで埋まっていた。
「ごほっ……! これで決着……だ! アイザック試験官! ……結構、いやかなり効いたよ、あの一撃」
「やれやれ! 負けてしまいました! 後衛を庇い! 罠を張る時間を身を挺して稼いだオリバーさん! 前衛を信じ! 予めトラップを仕掛けておき、やられた味方を救う動きを見せ! 油断した相手を見事罠に掛けたミーネさん! お二人とも、合格、ですッ!」
大剣を埋まったアイザックへ向け、勝利を宣言するオリバー。するとアイザックの合否の判断が下され、二人は無事合格となった。
他の受験者も見事な決着に拍手をしていた。マナも同じく祝福の拍手を贈っていた。
オリバーとミ―ネが合格になり、ギルドへ戻っていくと、いよいよマナの順番が回ってきた。
「うんん……。一撃も食らわずに負けてしまいました、ねぇ! いやはや悔しいです! では次のペア! "カトレア"さんと"マナ"さん!」
ようやく呼ばれた。もう二度もアイザックの戦い方は見た。最低限の予習はできた。あとはこの相方、カトレアとやらがまともだったら問題なく勝てるはず。
「マナさん、よろしくお願い致しますわ! お噂はかねがね聞いております。是非、共に勝ちましょうね!」
「え? えぇ……。よろしくお願いするわ……」
カトレアは、ワインレッド色の長い髪に、毛先をふわっとロール巻きにした髪型で、それで戦えるのか、と言いたくなるようなフリフリの服を着ていた。そして腰に身に着けたレイピアとこの口調。いかにもなご令嬢といった容貌だった。
対するマナは、ロングに伸ばしたブロンドの金髪に、一対の細剣を腰に携えた、隠してはいるものの、本物の王族である。
偶然にもここに、貴族のお嬢様ペアが誕生していた。
「それでは! 始めッ!」
「先手必勝、行きますわ! たあぁっ!」
アイザックが開始のコールをすると、構えていたマナを置いて隣にいたカトレアは真っ先に飛び込んでいき、レイピアをアイザックに向けて突き刺すが、すんでのところで見事に手の甲で弾かれてしまう。
しかしすぐさま、負けじと次々にレイピア特有の素早い連撃を繰り出し、アイザックはそれの防御をする。彼に反撃の隙を与えないようにしているのがマナには分かった。
(あのカトレアって子、中々やるわね……)
全ての攻撃を防ぎ続けているアイザックもすごいが、あのカトレアのレイピア捌き、あれは他に見ない実力者のようだった。高速の閃撃が続く中、マナは脳内で召喚魔法の詠唱を開始する。今は使い所ではないが、もしものためのストックだ。頭の中で詠唱し、脳内に魔法の発動を留めておくといういわゆる裏詠唱、というものである。
「んん! 中々やります、ね! カトレアさん! いい動きだ!」
「お褒めに預かり光栄ですわ!」
ぶつかり合いながら、軽い会話を交わす二人。どちらもまだどこか余裕がありそうな様子だ。しかし、先に行動に出たのはアイザックのほうだった。
「ですが! そろそろ反撃させていただきま、すッ!」
「きゃっ!?」
レイピアによる突きが、ほんの一瞬の溜めの際に後ろへ引いた時、その隙をついて足で砂を蹴り顔に掛け、カトレアの視界を奪う。そしてそのまま拳を放ち、カトレアの腹に命中する直前、交代するように、光り輝くマナの細剣がアイザックへ向けて振り下ろされる。
ひゅうん!
咄嗟に避けられてしまったが、攻撃は少し掠ったようで、アイザックの腕には軽く切り傷が出来て血が出ていた。
「次は私の番よ! カトレア! 目、大丈夫!?」
「ええ……なんとか! あ……いえ、もうすこしだけ待っていただけます?」
「あー……。なるほどね。了解したわ」
くしくしと目をこすっているカトレアはしばらく戦闘には参加出来ないと踏んで、マナはカトレアと代わってアイザックと対峙する。選手交代だ。
「あぶないあぶない! 思いの外、お二人共強いようで! これは本気の本気! 出しちゃいましょうかね!? 【爆・砕・拳】!」
「……!」
アイザックが拳を床へ叩きつけると、地面が爆発し、次々に連鎖してマナの足元が爆発する。そこから飛び去ることで難なく避けたが、アイザックは追撃をしに空中へ跳び、マナへと殴りかかってくる。さすがのマナでも空中では軌道を変えられず、避けることは難しい。嫌な予感はしたものの、仕方なく攻撃を剣で受ける。
「【爆砕拳】!」
次の瞬間、アイザックの拳が触れた箇所は大きく爆発を起こす。
ドォォン!
「うぐっ……! やっぱり……」
拳を剣で受け止めると、剣ごと爆破され、生身にダメージが及ぶ。物理で殴ればこちらがダメージを受け、距離を取ればダメージを与える事もできない。非常に厄介な技だ。
爆発で焼けて、煤がついた頬を手で払い、マナはどうすべきか考える。そして頭の中の詠唱を一度止め、別の魔法を行使した。一番得意な身体強化魔法である。
「クラス7【フィジカル・フルパワー】!」
マナは爆発よりも速く動き、速く斬れば良いというシンプルな考えに到達し、それを実行することにした。――攻撃は最大の防御。ノーガードインファイト戦法である。マナもルナの影響を受けたのか、徐々に脳筋になりつつあるようだ。
仮に爆発を受けても、魔法の効果で生身よりは頑丈になっている。多少無理は利くはずだ。
「さぁ! どんどん行きますよォ!」
がんがんがん!
がきん!
ドォン……!
剣戟音の中、やはりそう上手く行き続けることもなく、たまに爆破を受けてしまうが、先程よりはまともに打ち合えている。しかし決め手に欠ける……。マナがそう思っていた時、背後から救いの声が聞こえた。
「わたくしも忘れないでくださいまし! 【ピアシングストライク】!!」
ひゅんっ! と凄まじい剣速での突きを繰り出し、戦いに復帰するカトレア。おぞましいほどの手数と速さに、さすがのアイザックも余裕が無くなってきたのか、顔からは表情が消え、額に汗を浮かべ、無駄口も喋らなくなっていた。
(これでもまだ耐えるのね……! もうひと押しで行けそうだけど、せっかくだからとっておきを出してあげるわ!)
脳内での詠唱を終えたマナは、最初から溜めておいたとっておきの魔法を叫んだ。
「【召喚陣展開】『ガルム』!」
次の瞬間、三人の頭上に巨大な光る魔法陣が展開される。
「ぬっ!?」
「なんですの!?」
「「「!?」」」
アイザックとカトレアだけでなく、後ろで見ていたものまでもが驚愕の顔を浮かべ、魔法陣を見上げていた。そしてバチバチと火花を散らす魔法陣の中からは一匹、いや……一頭の、白いフェンリルが飛び出し咆哮をあげる。
「グルルルアァァァァァンッ!!」
「ガルム! 後ろからやっちゃって!」
激しい閃撃の中、ギリギリで耐えていたアイザックだったが、さらに戦力を追加投入されてはどうしようもない。
「なんとぉッ……!?」
よく耐えたが、ガルムの鋭い爪が防戦一方で隙だらけだったアイザックの背中を切り裂き、アイザックは倒れ、そこで決着はついた。
「ぐぅ……! 痛い! 盛大に負けました……! マナさん、カトレアさん、見事な連携、剣捌きでした! 文句なしの合格、です!」
背中の傷が痛むため、うつ伏せに倒れたままサムズアップし、白い歯とツルツルの頭を輝かせ、そう告げるアイザック。その顔は負けたうえに大怪我をしたのにも関わらず、屈託のない、良い笑顔だった。
「んー! 救護班! 僕を! おねがいし、ますッ!」
「……はいよ~。まだ試験中の冒険者さんは、ちと待っててね~……」
まさかの試験官が運ばれるという異例の事態だが、相変わらず適当な返事で運んでいく気怠げな女性職員だった。
「やりましたわね! マナさん! とてもお強かったですわ! それにあのフェンリルを使役するだなんて! 信じられませんわ!」
「ふふ。ありがと、カトレア! そういう貴女の剣速もすごかったわよ? 最初は私いらないんじゃないかって思ったぐらいよ!」
「「あはははは!」」
どうやらお嬢様同士のペアは随分と気が合い、仲良くなったようだ。マナ、ついにルナとマリー以外の友人が増えるのだった。
「ふぅ、これでようやく私もA級か……。長かったわ……」
「その台詞、冒険者になってからわずか一年で到達したマナさんが言う言葉じゃなくってよ? そういう台詞は冒険者歴がもう三年になるわたくしが言うべきですわ。……こほん。……あぁ! 長かったですわ!」
受付で手続きをし、晴れてA級冒険者となったマナとカトレアは他愛ない会話を広げていた。
カトレアの言う事も一理あるが、マナの目標地点はさらに上。そのために並々ならぬ努力をしてきたのだから、こんな言葉が漏れるのも仕方がないことだ。
「……ところで、マナさんのチームはルナさんとお二人でしたわよね?」
試験も終わり、どうしようかと考えていると、カトレアが改まって訊いてくる。噂になっているだけあって、ルナのことも一応知ってはいるようだ。
「そうだけど……。なによ、改まって?」
「わたくし、少し前のマナさんと同じように、事情があってここまでソロで活動してきましたの。ですけど、チームというものに興味がありまして……。その……お願いします! わたくしをマナさんのチームに入れてくださいませんこと?」
「……えっ?」
予想外の申し出にマナは困惑する。チームを組むと言い出したのは自分だが、まさか、『エクリプス』に入りたいと言う者が現れるとは思ってもみなかった。
……まぁ、本人が知らないだけで、実際は入りたがっている者も多くいるのだが、そのほとんどが下心やなにか企んでいたりする者ばかりだ。カトレアはその中でも、純粋にただ仲間が欲しいと思っていた冒険者である。
「大切な友人であるマナさんとなら楽しそうですし! どうでしょう!?」
「あ、え……うーん……」
大切な友人、と言われ、乞うような目でお願いされては、さすがのマナも断りにくい。マナは友達が少ないため、友人からのお願いに弱かった。幸いなのは、その友人が下心のない純粋なカトレアだったということだ。
少し悩む素振りは見せたが、マナ自身すでに答えは決まっていた。腕を組んで口を尖らせながら言葉を紡ぐ。
「……わ、わかったわよ。ルナ以外の仲間が増えるのも新鮮で面白そうだし、同じA級の貴女が入れば、チームの強化にもなるでしょうし……。何はともあれ、まずはルナに会ってみないとね?」
「わぁっ! ほんとですの!? ありがとうございます! やっぱり持つべきものは友、ですわね!」
「ふっ♪ もう、調子いいんだから」
まだ確定したわけでもないのだが、大喜びしているカトレアを連れ、マナはルナを探すためギルドを後にする。
まずは宿へ向かったのだが、そこにルナはいなかった。マリーに訊いてみたが、昼までは一緒にいたが、まだ帰ってきていないとのこと。
「やっぱりまだ帰ってきてないか……。ここで待ってればそのうち会えるだろうけど、そしたらギルドも閉まっちゃいそうだし、街を探しに行きましょ!」
「分かりましたわ! ……とは言っても、アテはありますの? 王都ってかなり広いですわよ……」
そう、王都は広い。それはもう。この国では一番の広さで、人探しをするには明らかに向いていない。ましてやルナは『色々と』小さく、目印になりそうな特徴が背負った大剣ぐらいしかない。これを言うとルナは怒りそうだが。
だが、マナはなんとなくだが、すでにルナの生態を理解し始めていた。あの子がこの時間にまだ帰らず、寄り道していそうな場所。それは……。
「それは……?」
カトレアが神妙な顔つきで繰り返す。
「出店で買い食いでもしてんじゃないかしら?」
ズコー。
途方もなく適当なことを言い出したマナに、カトレアは盛大にコケた。真剣に聞いていただけ無駄だったと。
「いやもう御飯時の時間でしょ? あの子なら絶対『うーん、お腹すいた!』とかいって食べて歩いてるわよ!」
「それ、本当ですの……?」
訝しげな目でマナを見るカトレア。そんな彼女に対し、マナは自信を持っては言えなかった。しかし、確信がないものの、なんとなくだがいる、そんな予感がしていた。
そして二人は出店が多く並ぶ区域に来ると周りを見渡した。すると、見覚えがある大剣を背負った、長い銀髪をポニーテールにした少女が見えた。そう、そんな容姿をしている人物は間違いなくただ一人だった。
「マジでいたわ……」
「マジでいましたわね……」
つい声が揃ってしまった二人、仲のいい証拠である。
マナが声を掛けると、ルナはすぐに気づいてこちらへ走ってきた。……同じ歳くらいに見える、知らない子を連れて。
召喚獣、ロマンですよね。




