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天才と脳筋は紙一重  作者: たんすちゃん
《第一章》-邂逅編-
13/100

13.マナの休日。

肺の不調とその他諸々の都合で投稿期間を空けておりました。無事戻ったのでまた不定期に投稿再開します。よろしくお願いします。

「はい、よーいはじめ!」


 アロエが合図を切るとウェルドは剣を抜いて斬り掛かってくる。子供だと思っていても容赦のない攻撃だ。命の危険を感じるような攻撃の場合、すぐに試験官が止めに入る。だが逆に殺さなければ大きな怪我でもギルドの職員が治せるため、試験にはなんら問題はない。

 自信満々に勢いよく振り抜かれた剣をあっさりと躱すルナ。身軽さには自信がある。こんな大振りの攻撃に当たるタマではない。


「ぬっ……? ふん!」

 ひょいっと簡単に攻撃を躱されたウェルドは一瞬驚いた表情を見せたものの、すかさず追撃で横薙ぎに剣を振るう。普通の斬り方に比べて、比較的命中しやすい横薙ぎだが、ルナは膝を曲げ、上半身を仰向けにする形にして、顔スレスレでまたしても攻撃を避ける。それはまるでリンボーダンスのようであった。


「なにっ!?」

 これには流石に驚いたようで、ウェルドは思わず驚嘆の声を漏らしてしまう。

 続けてさらに剣を振るが中々当たらない。まるで宙に浮いた紙を斬ろうとしているかの如く攻撃が全然当たらず、ややヤケクソ気味になったウェルドはやたらめったらに剣を振りまくる。

 しかしそれでも一撃すら当てることが出来ず、次第に焦りを感じ始めたウェルドは額に汗を浮かべる。目の前の少女は先程から無表情のまま自分の剣を身体や顔すれすれで避け続けている。なぜ当たらない……? こんなガキに、何故こんな芸当ができる?


「くそッ! なんで当たらないんだ……!?」

 まるで遊ばれているかのような感覚に陥ったウェルドは困惑し声を漏らす。そして数分間、剣を振り続けいよいよ疲れが見え始めた辺りで目の前の少女が声を掛けてくる。


「もう負けを認めてお財布を返したらどう!? そろそろ疲れてきたでしょ!」

 プライドを傷つけられるような発言にウェルドはカチンと来る。――認めるものか!こんなガキに攻撃ひとつ当てられないなど!

 怒りのままに剣を振る手を加速させるが、頭に血が上っている時ほど単純な動きは他にない。一見速くなったように見える剣戟も、ルナから見れば先程よりもさらに読みやすく感じており、結局攻撃が当たることはなかった。そしてルナは最後まで剣を抜く事もなく、ウェルドの剣の持ち手を平手で突き、剣を弾き飛ばした。

 試合時間をルナが引き伸ばしていたため、すでに決着がついていた隣のペア、他の冒険者、そして試験官のアロエは一部始終を驚いたような顔でじっと観戦していた。


カランカラン……


「な……ぁ………」

 剣を弾かれ取り落としたウェルドは呆けた様子で突っ立っていた。――決着はついた。皆がそう思ったがウェルドは認めなかった。


「ぐっ……妹のためにも負けられねえんだよォ!!」

(妹……?)

 やけくそになったウェルドは叫びながらルナに殴りかかるが、拳の全てを手首や手のひらで受け流され、胸に平手での強い突きを食らい後ろへ転がり吹き飛んだ。


「ぐはぁッ!?」

 吹き飛ばされ、座り込んだウェルドは放心していた。


「俺は負けたのか……? こんなガキに……?」

「さあ! 勝負はついたよ! 約束通りお財布返してよ! ……事情は知らないけど、妹さんも自分のためにあなたが悪いことしてるって知ったらショック受けちゃうよ!」

 ムッとした表情で腰に手を当て迫るルナ。


「………くっ、お前に何が分かる……! ……負けは負けだ。持っていけ! 中身はそのままだ……」

 ウェルドは懐から白い財布を取り出し、ルナに投げ渡すと座り込んだまま顔を伏せてしまった。

 ……今度こそ決着がついた。そう確信したアロエはようやく終了の合図を上げる。


「第一試験、終了~! どちらのペアも良い試合でした! ランドさん、ミランさん、アイギスさん……そしてウェルドさんは合格としまーす! これであなた方はE級です、おめでとうございます! 合格した方はギルドの受付で昇格の手続きをしてもらってくださいねー?」

 ぱちぱち、と笑顔で拍手をするアロエに釣られ、観戦をしていた他の冒険者たちも拍手をする。


「わーい! 無事合格だぁ!」

 ぴょんぴょんと跳ねて体全体で喜びを表現するルナ。とは対照的に、腑に落ちない表情をして思わず顔を上げるウェルド。


「え……俺も合格なのか? なんでだ、試験官……?」

 呆然とした様子でアロエに訊ねるウェルド。当然である。悪い事をしたという自覚はあるし、自分はただの少女に本気で斬り掛かった。剣を弾かれ落としても、負けを認めずに殴りかかりもした。合格になるなど思ってもみなかったのだ。

 しかしアロエは微笑みながら質問に答える。


「この試験に勝敗は関係ありません。たしかにウェルドさんはちょーっと往生際が悪かったですが、最後はちゃーんと負けを認めて、詳しい事情は知りませんが盗んだものも返しましたよねー? ……それに、こうして合否を問うということは、悪い事をしたという自覚はしっかりお持ちなのでしょう? なのでウェルドさんも合格でーす!」

 気の抜けた喋り方とは裏腹に、非常に正当な判断に他の冒険者たちからは称賛の声があがった。

 最初は少し適当そうな態度に思えたが、彼女は思いの外、真面目なのかもしれない。


「……すまん、試験官。俺はあんたを誤解してたみてぇだ。公平な審判、感謝するよ……。それとアイギスだったか、お前も……その、悪かったな。俺が財布を盗んだあの獣人の子にも伝えといてくれ」

「あ、うん! わかった。ちゃんと伝えておくね!」

 アロエの公平で細かいところまでしっかりと見ている判断に、思う所があったのか、アロエとルナ、そしてここにはいないマリーに謝罪するウェルド。彼もまた、事情があったということなのだろうか? ルナにはよくわからなかったが、財布も戻ってきて、謝罪もくれた。それだけで満足である。


「それじゃ、第二試験に移りますね~。第一試験で合格した方はもう問題ないので、ギルドへお戻りくださーい!」

 アロエの言葉を皮切りに、そこで第一試験は終わりを迎え、ルナはギルドへ戻りライラに手続きをしてもらい、無事E級に昇格したのだった――。


_

_

_


 ルナの目が覚める少し前。普段はルナよりも後に起きるのだが、マナは今日だけは一足先に早起きし、外へ行くための支度をしていた。

 先日のフェンリル戦を終えたあと、思い浮かんだことがあったからだ。そのためのキーアイテムとなるのは、ルナと初めて出会ったダンジョンでの聖遺物、『光の魔導書』である。

 そして目的とは別に、マナはギルドタグが光っていることに気づいた。もうこれで数度目だ。それは見慣れたもので、驚くことはなかった。


「……ん? ギルドタグが光ってる……。そっか、昨日の()()で功績ポイントが貯まったのね。じゃあきっとルナもポイント貯まってそうね。……次はとうとうA級か。でも、今のままじゃきっと仮に昇格は出来ても、その先で通用するかどうかわからないわ……。だからこそ、昨日頭に浮かんだ事を成功させないと!」

 次はついにA級、いよいよ冒険者としての大台。B級がベテランならA級は大ベテラン……これまでと同じじゃダメだ。ルナとチームを組んだ以上、私も強くならなければならない。

 昨日は自分の手でゴブリンロードにとどめを刺したとはいえ、結局はルナに助けられてしまった。初めて会った時もそう……。私はまだ助けて貰ってばかりだ。頼りっぱなしじゃダメ、もっと強くならないと!

 ……そう思い立ち、気合を入れて朝から張り切って修行に行こうとする。行く先は昨日フェンリルに出会った場所、フィエリの森のあの神聖な洞穴だ。


「んぅ……? マナちゃん、早いね……。おはよー……」

 支度を終え、いざ出発! となった時、目が覚めたばかりのルナに後ろから声を掛けられた。


(全く、こんなぽけぽけした子があんなに強いなんて、信じられないわよね。今度、一対一の稽古でもお願いしてみようかしら? 今の私がどれくらいやれるのか気になるし……)

 寝癖をたてて、寝ぼけ眼をこすりながら話しかけてくる目の前の年下の少女を見ながらそんなことを考えていた。何はともあれ、まずはA級試験合格。しかし目標はさらにその向こう側だ。


「おはよう、ルナ。そうだ、ギルドタグ、確認しておいたほうがいいわよ。……それじゃ、行ってくるわね!」

 マナはルナにそれだけ告げると、気合を入れて意気揚々と宿を後にした。


_

__

___


 ――マナの兄妹は天才ばかりで、妹のハティは幼い頃から母親譲りの魔法の才を持ち、兄のヘリオスはそれに加えて父親譲りの剣の才、その一つ下のアストルフォはその兄すら凌駕する程の才能を持っていた。

 そんな中、母に稽古をつけてもらってはいたものの、長女のマナだけは突出した才能もなく、兄達と比べられる日々。そんな王城で肩身が狭かったのもある。

 ――強くなりたい。両親を、兄を、比較し続けてきた世間を……見返したい。そう思い立ち、マナは家を飛び出した。冒険者になり、強くなるために。


 家を出てからは、この国の第一王女『マナ・フォン・デュランダル』ではなく、ただの冒険者『マナ』として生きていくことに決めた。幸い、王女として世に知られている顔は城でメイド達によって豪華におめかしされている姿だったため、名が同じでも他の冒険者たちにからかわれる程度で、正体がバレることはなかった。

 マナは強くなって周りを見返したいという野心が強かったが、元々ずっと王城暮らしで飽き飽きしていたのもあって、本で読んだり、人から又聞きした情報で、外の世界の冒険という物に憧れていたのだ。世間知らずのお嬢様は最初こそ色々苦労したが、これも、これから先強くなる未来のためと、必死に学び、研鑽(けんさん)を重ねた。

 F級冒険者になってからというもの、マナはソロとして活動し、努力した。それはそれは努力した。王城にはないような沢山の本を読み、覚え、考え……。母に習った剣術を復習し、自分なりに磨き続けた。だが、剣ばかりではなく、魔法の鍛錬も欠かさなかった。初級魔法程度しか使えないままでは強くなれない。そう思っていたからだ。

 勿論、冒険者としての冒険も楽しんでいた。少しずつ成長する自分の力を実感出来たのもあったからだ。そして努力の成果が実り、D級になった頃。マナはついに身体強化魔法を会得することに成功した。


「やった……! ついに出来た! 私にも出来たんだ……!」

 元々才能あふれる血筋だったのもあり、兄妹ほどではないにせよ、魔法の才は微力ながらも持っていた。母親譲りの光属性と、父親譲りの炎属性を。

 兄妹の中で唯一、二つの得意属性を持っていたマナだが、ハティのように強力な土魔法を使うこともできず、ヘリオスのように炎魔法を様々なことに応用することも、アストルフォのように複数の属性を同時に行使することも出来なかった。

 しかし、そんな自分がついに独学で魔法を習得したのだ。得意な光魔法の応用技、身体強化魔法を。マナは、ずば抜けた才能を持っているわけではなかったが、努力の天才だった。才能に振り回されることなく、自ら学び、考え、何度も失敗を繰り返し……並々ならぬ努力をした。それこそがマナの強み、即ち『才能』だったのかもしれない。


 身体強化魔法を覚えてからも、驕ることなく努力を続け、自分の長所を伸ばそうとした。冒険を続けながら研鑽を重ね続けた身体強化魔法と、母、ローランに学んだ剣術を、日々続く冒険者としての活動でさらに磨き続けた。ただひたすらに。

 そうして気づけば家を出てから一年が経っており、冒険者ランクもB級にまで上がっていた。わずか一年でB級まであがる者はそうおらず、ギルド内や冒険者間では話題の種となっていたが、マナの目指すところはそんな場所ではない。

 B級よりも更に上、S級である。ランク自体はSS級まであるが、それは世界に革命を起こせるほどの何かを持っていたり、成し遂げたりしていなければなることはできないという。そのため、一般的な冒険者の目指すところの最終地点は自然とS級に落ち着くのだ。


 ようやくB級へと昇格してから、身体強化魔法も、己の剣術も、どんどんと成長を続ける中……ある日、今まで魔法の研究三昧で、ろくに休日を取っていないことに気付いたマナは、たまには息抜きも必要だろうと、冒険者として活動を始めてから初めての休日を取ることにした。


「休日ね……。ずっと街で魔法を研究しては、冒険者業でそれを試す、ってことを繰り返してたから、まともな休息を取るのは初めてだわ。……温泉とか、入ってみたいな……」

 マナは独りそう呟くと、どうせ休むならしっかりと休もうと、前から一度行ってみたいと思っていた、観光名所と名高い『温泉街バルネア』へと向かうことにした。


 ……そしてバルネアの地下にて、偶然見つけたダンジョンでマナは初めて命の危機に陥る。ヌシミノタウロスだ。ミノタウロスとなら、C級の頃に合同依頼の際に戦った事があるが、ダンジョンの影響を大きく受けた『ヌシ』は、それとは桁違いの強さだった。

 ヌシミノタウロスに惜しくも敗北し、床に倒れ伏していたマナは、ついにとどめを刺されそうになる。


(くそっ……こんなところで死ぬ訳にはいかないのに……! 私は……まだ、兄様に認められてないのに……ッ)

 この一年で確かに大きく成長したことで、心のどこかで驕りが生まれていたのかもしれない。弱い自分を恨み、悔し涙を流しながら、死を覚悟したその時。ついに運命の時は訪れる――。


「おりゃああああああああ!」

(……!?)


ドガァァァン!!


 ダンジョンの壁とシリアスな雰囲気を破壊して現れた、大剣を背負った銀髪の少女。彼女が現れたことで周囲の空気は大きく変わった。そして直後、その空気はさらに変わることとなる。


「あれ!? 人が倒れてる! すごい怪我!? ……多分、あなたがやったんだよね」

 背筋が凍るほどの威圧感でヌシミノタウロスを睨めつける銀髪の少女。


「グオオオオオォォォ!!」

 目の前の人間が、自分にとって危険と判断したミノタウロスが襲いかかるが、殺意を込めた一撃は簡単に受け止められ……。


「危ないことしちゃ……メッ!」


ドゴォォ!


「ゲアアッ―――!?」

 腹に大きな風穴を開け、天井を突き抜けどこか遠くへ吹き飛んでいくミノタウロス。恐らく即死であろう……。


(すごい……。あいつを一撃で、いとも簡単に倒すなんて……! どうしたらあんなに強く……)

 自分があれほど苦戦したヌシミノタウロスを、どこからともなく突然現れあっさりと倒してしまった。それも自分よりも明らかに幼い少女がだ。その現状にマナは目を見張っていた。そしてその少女は急いでこちらへ駆け寄ると笑顔で声を掛けてくる。


「大丈夫? よかったぁ、たまたま通りかかって!」

 それがルナとの初めての出会いだった。


___

__

_


「思えば、まだ出会ってから数日しか経ってないのに、すでにルナには三回も命を救われてるのね……」

 フィエリの森に入り、聖地を目指して歩いていたマナはそんな独り言を呟いていた。ミノタウロスで一回、フェンリルで一回、ゴブリンロードで一回。後者二つは直接命の危機に陥ったわけではないが、ルナがいなければ結果的に死んでいただろうと思いカウントに入れていた。


 ――私はルナに何も返せていない。そのためにも今日ここで、私はまた一歩強くなる……!


「さて、やるわよ!」

 フィエリの森の神聖な洞穴、仮にフィエリの聖地とでも呼ぼうか。そこに到着したマナは『光の魔導書』を広げ、この地、独特の温かい空気と自然の中、魔導書を読み始めた。

 光の魔導書。それはマナがダンジョンにて手に入れた聖遺物で、読めば読むほど続きが記され、光の魔法の造詣が深くなっていくという物だ。マナは強くなるためにはこれを読み進め、新たな力を得るのが一番だと確信していた。

 そして先日の戦いにて浮かんだ考え。それはフェンリルを見て思い浮かべた事だった。


「魔獣、フェンリル……。魔獣は魔界では主人に使役されていると聞いたことがある……。光魔法は攻撃だけでなく、身体の強化や傷の治癒など、幅広いことが出来る……」

 凄まじい勢いで魔導書を読み進めながら、魔導書から直接頭に流れてくる情報を整理するように頭の中の事を口に出すマナ。


「そして私が辿り着いた答えは……使役。つまりは召喚魔法……あった!」

 召喚魔法とは、闇魔法または光魔法でしか行使出来ないとされる高等技術である。

 魔界、もしくはどこかの次元から召喚獣を呼び出し、使役し戦わせる。しかしまともな戦力になるほどの召喚獣を召喚出来る者はごく一部で、基本はスライムや吸血コウモリ、ウィングラビットなど、身体も力も小さな魔物ぐらいなものである。

 賢者クラスの大魔術士や、召喚術専門の大召喚術士が召喚するようなものは大精霊や、大天使、大悪魔などこの世ならざる力を持つ者を召喚出来る。

 そしてマナが召喚しようとしていたのは、勿論……。


「『――さんざめく光耀、瞬き貫ける光芒。闇を討ち祓わんとする眩い暁光――。我に力を成さしめよ!』【召喚陣展開】フェンリル!」

 当然、フェンリルを召喚しようとしているのだった。

 完全な詠唱を終えたマナの周りには、巨大な白い魔法陣がいくつも展開されていた。それは強い風を吹かせながら強烈な光と共にマナを包む。

 そして地面に一際大きな魔法陣が描かれ、次の瞬間強い閃光を放ったかと思うとそこからは……。


「きゅい?」

 ぽんっ!と小さな白い狼が生まれた。


「……ん? アレ……?」

 想定より遥かに幼い片手のひらサイズのフェンリルに動揺するマナ。


「か、かわいいっ……! じゃなくて! やっぱり、失敗かぁ……。まぁ一発で成功するわけないわよね~……」

「きゅんきゅい!」

 主人と認識しているのか、プチフェンリルはマナの足にすりすりと頬をこすり、見上げてくる。


「あぁ……失敗とはいえ、やっぱりかわいい……。普通にアリだわこの子。名前でも決めようかしら?」

 じーっと見つめ合う一人と一匹。あざとい仕草でこちらの可愛さ中枢をくすぐってくる。


「まずは私はマナよ! よろしくね? ……そうね、神話から取って『ガルム』なんてどう!? マナとガルムでマナガルム、なーんて!」

 一人でもお得意の神話オタク知識を披露するマナ。しかしプチフェンリルは気に入ったのか、可愛い声で元気に返事をする。


「きゅい!」

「よーし、今日から貴方はガルムよ!」

 マナは修行中ということも忘れ、幸せそうな顔でプチフェンリル……改め、ガルムを抱っこしてもふもふし始める。



 しかしいくら小さいとはいえ、ガルムは一応フェンリルである。魔獣の召喚に一度で成功したのは奇跡と呼べるだろう。

 だが、マナは気づいた。魔力がきっかり半分消費されていることに。


「う……。どっと疲れたとおもったら、召喚魔法って、こんな子でも魔力消費やばいのね……」

 マナはぐったりした顔で木を背にして座り込む。この聖地はあまり良い思い出はないが、ヒーリングスポットにはかなり適しているように思えた。するとガルムはすぐさま膝の上に乗ってきた。まるで母犬についてくる子犬のようだ。


「まるで母親にでもなった気分だわ……。さて、少し休憩して魔力が戻ったらリベンジよ!この程度じゃ諦めないんだからね!」

「きゅいー!」

 真顔で呟きつつも、気合を入れ直すとそれに応えるかのようにガルムも可愛い声で鳴く。まるで『おー!』とでも言ったようだった。


 そこからは地獄の戦いだった。二度目の挑戦では、もう一度召喚魔法を行使すると、今度は最初とは違い、魔法陣が崩れ失敗してしまう。しかし魔力はきっちり半分消費する。

 休憩を入れ、三度目、魔法陣の光が消えて失敗。四度目、魔力の調整ミスで失敗。五度目、またしても魔法陣が崩れ失敗。失敗。失敗。また失敗。……失敗の連続だった。


「ああああぁッッ! 最初以降一度も成功してないわ! 失敗するたび毎回魔力が半分削られるこっちの身にもなってみなさいよね!」

 誰がいるわけでもなく虚空に向かって文句を垂れるマナ。あ、いや。隣には小さな狼がいたか。


「にしても、なんで上手く行かないのかしら……。何か理由があるはずよ……!」

「きゅん?」

 失敗続きで理由を考えていた時、ふと隣に寄り添っているガルムに目をやると、なにやら違和感に気づいた。


「………? ところであなた、なんだか大きくなってない?」

 よく見ると先程までは片手のひらサイズだったのが、今では両手のひらサイズになっていた。誤差ではあるがたしかに大きくなっている。


「うーん、フェンリルって成長早いのかしら?あんまそのへんの生態は詳しくないのよねー」

 一旦そのことは後回しにして、休憩を終えたマナは再度、召喚魔法の詠唱を始めた。これでちょうど十回目の挑戦である。


「――【召喚陣展開】フェンリル!」


キィィィン……


(……!? あれは……!)

 先程と同じように魔法を行使するが、やはり上手くいかない、そして魔法陣が薄れて行き、消える直前マナは見た。魔法陣の光の粒子がガルムに吸い込まれるのを。

 マナは一度手を止め、ガルムに近寄る。見ればガルムは、今度は頭に乗せられるくらいのサイズになっていた。


「ガルム……もしかしてあなたって、私の魔力で成長するの?」

「がう?」

 首を傾げて見上げてくるガルム。その鳴き声は成長と共に先程よりも狼らしくなっていた。

 それを見て、ピンと来たマナは試してみることにする。失敗した魔法陣の残滓を喰ってあの成長速度ならば、直接召喚魔法で削られるだけの魔力をガルムに流せば……!


「ガルム、こっちへいらっしゃい! ……【魔力連結】!」

 再度休憩を挟み、ガルムを側へ寄せると、ちょうどつい先程魔導書を読んでいる時に覚えた、魔力の共有をするための光魔法を発動する。そしてマナはガルムへ繋げた光の鎖へ魔力を思いっきり流し込む。


「うぎぎぎぎぃ……! この魔力がごっそり減ってく感覚って一生慣れる気がしないわ……!」

 マナとガルム、そして鎖が強く輝くと、ガルムの体はみるみるうちに大きく成長していく。……ついでにマナの顔色も悪くなっていく。


「がう? ……がるる! グルルルル………!」

「まだ魔力半分じゃないわよね……まだ大きくなるの!?」

「ガルルルルルル…………」


ぱきん!


 次の瞬間、光の鎖が砕けた。目的の量の魔力を共有した証拠だ。半分もの魔力を、自ら一気に捧げたことによる倦怠感で、マナはその場にへなへなとへたり込んでしまう。


「グルルオオォォォオォォン!!!!」


 目の前には昨日戦った、あの黒いフェンリルにも負けないくらいのサイズの白いフェンリルがいた。


「げ……、成長しすぎ……っ!? これ、大丈夫よね? ……ガ、ガルム?」

「グルルルルル………」

 その体躯を見て昨日の戦いがフラッシュバックし、嫌な予感を感じたマナが頬に汗を伝わせながら恐る恐るガルムを呼ぶと、その白狼はゆっくりとマナへ顔を近づける。


「私よ……マナよ……! 食べないで……」

 魔力が抜けた脱力感で後ずさることも出来ず、目を閉じ命乞いをするマナ。

 するとペロッと顔を舐められる。


「ひあっ!? ガ……ガルム?」

「あうぅ~ん……」

 ガルムだ。大きく威圧感はあるものの、ちゃんとマナを認識しているようだった。


「良かったぁ! こんなに大きくなるなんて驚いたわ……! 流石はフェンリル種ね……。でもこれで、フェンリルの使役に成功したってことよね! これならA級の昇格試験も行ける!」

 らしくもなく、ガッツポーズを取るマナ。それを見て、大きさの調整を今しがた覚えたガルムが小さくなって肩に乗ってくる。


「きゅいー!」

「えっ、もう自分で体の大きさをコントロール出来るようになったの!? うちの子、『天才』だわ!」

 こうしてまた、一人の親バカがここに誕生したのであった。


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