12.ルナの休日!
「思ったより凄い額ね、これ……」
「金貨がいっぱい……! 数えるのが大変だよ……」
『エクリプス』の二人は宿へ戻り、ゴブリンロードとフェンリルの納品の報酬を数えていた。
あの後、報酬の話になり、ギルド職員からはゴブリンロードの功績ポイントはマナへ、フェンリルの功績ポイントはルナへ進呈されるということになったのだが……。報酬金額。それが非常に高く付いた。
どうやらフェンリルは、滅多に見ることが出来ない希少種らしく、毛皮や爪、牙などは非常に頑丈かつ魔力が籠もっていて、武器や防具の良い素材になるという。
そしてゴブリンロード。こちらも、フェンリルほどではないがあまり遭遇することができず、肉や皮が高く売れるとのこと。今回の個体に関しては本来の王位種よりも強靭な個体だったため、普通よりも高く値段がついたのだ。
その額なんと金貨七十枚、70万ヘラである。小さな家なら買えてしまうレベルだ。二人で分けても35万ヘラと、E級の依頼の副産物でこの稼ぎなら充分、労力に見合った報酬と言えるだろう。
内訳はゴブリンロードが20万、フェンリルが50万となったそうだ。功績ポイントも色を付けてくれたらしいが、まだ反映されていないらしいため、それは後日確認することにした。
「これで当分は遊んで暮らせるだけの余裕は出来たわね。ま、そんなもったいないことしないけどっ」
職員がしっかりと考えを改めて謝罪してくれたこともあり、マナの機嫌はすっかり元に戻っていた。
「お金もあるし、明日は王都の散策でもしようかな? マナちゃんは何するの~?」
報酬を数え終わったルナは明日の予定を仮で決めつつ、マナに訊ねる。
「ふふ、秘密よ。でも、戻ってきたら驚くことになるかもね?」
「えー、何それー? 気になる言い方~……」
しかし、マナは微笑みながら含みのある言い方で濁し、行く先を教えてはくれなかった。気にはなるが、無理して聞き出す必要もない。そう思いルナは潔く諦めた。
初日から早々、散々な目に遭った『エクリプス』は、その日はようやく活動を終え、床に就いたのだった。
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翌日、ルナがいつも通り明け方前に起きると、すでにマナが起きていて、ちょうど出かける準備をしているところだった。
「んぅ……? マナちゃん、早いね……。おはよー……」
寝ぼけ眼で声を掛けるとマナは張り切ったような様子で反応を返す。
「おはようルナ。そうだ、ギルドタグ、確認しておいた方がいいわよ。……それじゃ、行ってくるわね!」
何故かキリッとした顔でそう言うと、マナは足早に部屋を出ていってしまった。まだ寝ぼけているルナは何のことか理解していなかったが、とりあえず目覚ましがてら日課の筋トレをすることにした。
「ふぅ! 目ぇ、覚めた!」
日課を終えたルナは顔を洗って、頬をぺちぺちと叩きしっかりと目を覚ます。そしてようやく覚醒してきた脳が、先程マナに言われた事を思い出す。
「ギルドタグ、ギルドタグ……ってなにこれ、光ってる?」
マナの言葉を思い出し、言われた通りギルドタグを見ると、ルナの冒険者ランクと功績ポイントが彫られた文字が淡い光を放っていた。
どうやら、昨日のフェンリルの功績ポイントが加算されているようだ。文字が光っているのは恐らくそのためだろう。
「とりあえずギルドに行ってみれば何か分かるかな? よし、善は急げだー!」
支度も済まし、頭が冴えてきたルナは早速ギルドに向かうことに決め、マナと同じように足早に宿を出た。
ギルドへ着くと、まだ明け方だからか人はそこまで多くはなかった。冒険者たちは出払っていて野宿をしていたり、出先で泊まっていたりもするし、ギルドの酒場に朝っぱらからやってくるものもそういないのだから当然と言えば当然だった。
何はともあれ混んでいなくてラッキーと、ルナは受付へ向かう。時間帯の問題なのか、いつもとは違う、長く青い髪を後頭部で一本に纏めたクールそうな受付嬢が対応してくれた。職員が皆胸に身に着けている名札には『レイラ』と書かれていた。
「おはようございます。お早いお目覚めですね。ご要件はなんでしょうか?」
淡々と、マニュアル通りのような定型文で挨拶をして要件を訊ねてくるレイラ。
(わあ、ちょっと怖そうな雰囲気の人だなぁ……)
礼節は至極丁寧、顔は無表情のはずなのだが、どこかキツく見える表情のレイラを見て、ルナは本能的に少しだけ、彼女に対し悪寒のようなものを感じていた。
「え、えっと……朝起きたら、ギルドタグのランクのところが光ってたんですけど、その……これってどういう意味なんですか?」
「……それは昇格に必要な功績ポイントが貯まったということです。……少々タグを失礼致します。―――アイギスさんの場合、F級での功績が認められ、E級の昇格試験を受ける資格を得たということになります。おめでとうございます」
恐る恐るルナが事情を説明すると、レイラは相変わらず淡々とした声調で詳しく説明をしてくれた。
昇格試験。それは冒険者登録をした際にいつもの受付嬢が説明してくれた時に聞いた、ポイントが貯まれば任意で昇格試験が受けられて、試験を無事抜けられればランクが昇格するというものだ。
「てことは……まだ冒険者になってから三日程度なのに、もうE級になれるってこと!?」
「昇格試験に合格しなければ不可能ですけどね」
「……ぁはは、そう、ですね……」
喜んでいたのにも関わらず、鋭い事実を突きつけられ、一喜一憂させられるルナ。まるでレイラの手のひらの上で遊ばれているかのようだった。
「ふっ……失礼。ただの冗談です。昇格試験は今日の午後、日が完全に昇った頃にギルドの裏手にて行われますので、希望の際はギルドへどうぞ」
(なんか今笑われたような……。気のせいかな?)
いや、明らかに笑っていた。鼻で小馬鹿にしたように。どうやらルナはかなりからかわれているようだった。だが、少し笑ったところを見ると、レイラの硬い表情はちゃんと動くらしい。
「では、他に何も無ければこれで失礼します」
そしてまたすぐに無表情になったレイラは、さっさと裏手の方へと引っ込んで行ってしまった。
「あっ、ありがとうございました!」
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「昇格試験は昼間かぁ。まだ暫く時間ありそうだし、王都を見て回ろうかな? あっ、そうだ!」
ギルドを出たルナは試験までの時間を当初考えていた通り、王都の散策で潰すことにした。そこでルナはふと思いつき、宿屋へ一度引き返すのだった。
宿屋へ戻ると、もうすでに宿屋の猫耳受付嬢マリーが起きており、ルナを出迎えてくれた。
「おはようございます、ルナ様! お早いですね!」
「ちょうど良かった、マリーちゃん! 一緒に街に散策行かない?」
「えっ、マリーとですか!? いや、でも私なんかでいいんですか……?」
宿へ戻るなり開口一番マリーを遊びに誘うルナ。しかし他に客がいないとはいえ、今は仕事中である。当然二つ返事というわけにもいかないし、何よりも、初めて誰かに遊びに誘われたマリーは動揺していた。
「今日はお昼まで暇だし、マリーちゃんとも遊びたいと思ってたから……。勿論マリーちゃんが良ければだけど、どうかな……?」
「えっと……お誘いはすごく嬉しいんですけど、やっぱり仕事中ですし……」
申し訳無さそうに断ろうとするマリーだったが、その時、奥の部屋から話を聞いていたらしい、マリーと同じように猫耳の生えた、優しそうな顔の男性が現れる。マリーの父親である。
「マリー、折角のお誘いだ。今日は俺が代わるから行ってきなさい。たまには息抜きも大事だよ?」
「お父さん! ……うん、ありがとう! すぐ準備してくる!」
マリーは父親に優しくそう言われると、外出の支度をしに、すたこらと奥へ走っていった。
「マリーちゃんのお父さん、ごめんなさい! 私のわがままで代わって貰っちゃって……」
「良いんだ。あの子は優しい子でね……。昔から積極的に宿の手伝いをしてくれるんだけど、この宿ってお客様が少ないだろう? ……そのせいでマリーには友達と呼べる人がいなくてね。ルナちゃん、だったね? これからもマリーと仲良くしてあげてくれると嬉しいな」
ルナが頭を下げると、マリーの父親は終始優しい態度で、ルナに娘とこれからも仲良くしてくれと頼んできた。親子揃って優しい性格は似ているようだ。
「はい!私も友達少ないので……! マリーちゃんとは仲良くなれたら嬉しいです! それに、暫くはこの宿にお世話になりますしね! 何か困ったことがあったら私も手伝いますね!」
ルナは虚偽の気持ちなど全くない、清廉な姿勢で笑顔のまま言葉を返す。
「うん、そう言ってくれると安心できるよ。ありがとう。……おや、そんなことを話していたらマリーの準備が終わったみたいだね」
マリーの父親はルナの言葉を聞いて、嬉しそうに笑みを深めると、ふと耳がぴょこぴょこと動きだした。どうやら奥から走ってくるマリーの音を察知したようだった。
どたどたと奥の部屋から戻ってきたマリーは白いワンピースを着て、小さな白いポーチを携えて白いサンダルを履いた姿で現れた。純白の衣服達に包まれた黒髪は、対比になっていて、それはまるで天使のようだった。
「すみません、お待たせしました! それじゃあお父さん、行ってくるね!」
「それじゃマリーちゃんのお父さん、後はお願いしまーす!」
手を振り宿を出ようとするマリーとルナ。どこか力が入ったような二人を見て父親は一声かける。
「二人とも、もっと肩の力を抜いて、しっかり楽しんでくるんだよ?」
「「はーい!」」
二人はマリーの父親に別れの挨拶を交わすと、仲良く手を繋いで街へ繰り出していった。
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街へ出るとまずは大広場へ向かった。そこは大広場を中心に様々な商店がある道が続いていた。散策といってもやはりルナは食べることが好きだ。そのため買い食いをしながら色々と見て回ることにしたのだった。
「今日は、マナ様とはご一緒じゃないんですね?」
街を歩いていると、歩きながらマリーが不思議そうに訊ねてくる。王都に来てからまだ三日程度しか経っていないが、そのどれもがいつもマナと一緒に行動と共にしていた。それが今日は初めてルナは一人でここにいるのだから、特に深い意味はなくとも疑問を持っても不思議ではない。
ので、隠す必要もなく、ルナは質問に答える。
「今日は『エクリプス』としてのお仕事は休憩の日なの。マナちゃんはなんか明け方にどこかへ出かけて行っちゃった!」
「……えくりぷす? というのは?」
ルナの放ったチーム名に対して、首を傾げるマリー。冒険者ではない一般人のマリーにはわからなくても当然だった。そっか、と気づいたルナは慌てて補足する。
「私とマナちゃんで、この街に来た時に結成した冒険者のチーム名だよ! マナちゃんが決めたんだけど、私の名前とマナちゃんの名前の由来を混ぜたんだって! かっこいいよね~!」
「うわぁ……! かっこいいです! 冒険者は忙しく、危険も多いと聞きます……。そんな大事な休日に、マリーを誘っていただいて、本当にありがとうございます!」
耳をぴこぴことさせながら輝くような笑顔を見せるマリー。真っ白な衣装も相まって、本当に小さな天使を見ているかのようだった。
ルナはそんな小さな天使に、まるで妹が出来たかのような感覚を覚えていた。
「昨日は色々あってね……。ただのゴブリン討伐だと思ってたらすっごく強いゴブリンが出てきたり……。大きい地震が起きたと思ったら空間が割れて大きな狼が出てきたり!マナちゃんは散々だーって騒いでたけど、きっと冒険って、そういうのが楽しいんだよね!」
目を輝かせて先日の出来事を振り返り、改めて『冒険』というものに思いを馳せるルナ。
「大変だったんですね……? なるほど、それで今日は休日ということですか!」
商店で買ったサンドイッチを両手で丁寧に食べながら納得するマリー。その振る舞いからは育ちの良さが窺えた。
「まぁでも、マナちゃんも何かやりたいことがあるって言ってたし、それだけが理由じゃないのかもしれないね? 私も、お昼にはギルドに行って昇格試験っていうの受けなくちゃいけないんだ。ほんとはもっとマリーちゃんとデートしたいんだけど……。時間っていうのは残酷だね……」
「そんな……。マリーにはこれでも充分すぎます!」
まるで人たらしのようなキザなセリフをさらっと告げるルナに、マリーは照れて耳を伏せて赤面していた。
そんなマリーは注意が散漫になっていたのか、ふとすれ違った男にぶつかってしまい、その際にバランスを崩して転んでしまう。
「痛っ……!? あ、すっ、すみません……!」
「マリーちゃん! 大丈夫!? あ、怪我してる!」
「大丈夫です、ちょっと擦りむいただけで……」
巨漢に勢いよくぶつかられ、体格差もあって転んだ際に擦りむいてしまったようで、腕からは軽く出血していた。
「チッ、しっかり前見て歩けや獣人!」
「ご、ごめんなさい……っ」
……イラッ
ぶつかった男は当然無傷で、どこかイライラしているのか随分な言い様である。高圧的な態度の巨漢に遭遇し、マリーはすっかり怯えてしまっていた。そしてそんな男を見たルナは頭にきていた。
「ねえ! ぶつかってきたのはおじさんでしょ! マリーちゃんは怪我もしたんだから、ちゃんと謝ってよ!」
「なんだこのガキ? ……知らねえな! ぶつかったのはお互い様さ! 勝手に倒れたのはそっちの問題だろ?」
「誰がガキか! じゃなかった……。大人だったら物事の善し悪しは理解出来るでしょ!」
随分と余裕のなさそうな男は謝る様子もなく、そのまま行こうとするので呼び止めるが、こちらを子ども扱いしてまともに相手にされない。久々にガキと言われてカチンとくるルナだったが、ここは気持ちを抑えて冷静に反論する。ルナも大人になってきたということだろう。それとも自分よりも年下のマリーの前だからであろうか……。
「知ったこっちゃねえ、俺は急いでんだ! あばよ、ガキンチョ!」
ケッと吐き捨てると、男はルナを無視して足早に去っていってしまった。
「あっ、ちょっと!」
「もう良いですルナ様! 私は大丈夫ですから……! 庇ってくれてありがとうございます。すごく嬉しかったです! ……でも、前を見ていなかったのは事実ですし、仕方ないです……」
再度呼び止めようとするルナを、マリーが困ったような顔で静止する。
「マリーちゃんがいいなら、それでいいけど……。……傷、すぐ治すね?」
「はい……。すみません、ありがとうございます」
腑に落ちない様子のルナだったが、本人がこう言っているのではしょうがないと渋々言葉を呑み、傷を治してあげた。別にルナはトラブルメーカーではないのだ。
「ルナ様は治癒魔法が使えるんですね……! マリーは魔法が使えないし、得意なこともないので、すごく憧れます!」
「あはは。私の場合、詠唱が苦手だから、あんまりちゃんとした魔法は出来ないんだけどね。いつも無詠唱か短詠唱ばっかり。きっとマリーちゃんなら、魔法なんか使えなくても何か他に秀でた特技が見つかるはずだよ!」
キラキラと目を輝かせるマリーに対し、謙遜した態度を返すルナ。確かにルナは詠唱が苦手だが、本人には自覚がないだけで詠唱がなくともまともな魔法を放つことは出来ている。ただ、三年前から火魔法が使えないことを未だに気にしているだけである。
そうして傷も治り、落ち着いた二人が再び街を闊歩しながら買い物をしようとしていた際、ふとマリーが声をあげた。
「あれ、お財布がない……? 落としてしまったのでしょうか……? お父さんから貰った大事な物なのに……」
「えっ!?」
どうやらマリーは財布を失くしてしまったようだった。ルナはそれを聞いて、普段は鈍いが今回ばかりは脳内にピンと来るものがあった。
「……もしかして、さっきのおじさんにスられたんじゃ……!?」
しかしすでに先程の男は足早に去ってしまい、どこへ行ったかもわからず、探すにしても王都は広すぎる。それに確固たる証拠もなく、この広い王都で一人の人間を探すというのは中々骨が折れる。ルナも昼の昇格試験に遅刻してしまうだろう。なので今のところは諦めるしかない。
「とりあえず、代わりにこれあげるね?」
そういうとルナはポーチから巾着袋を取り出し、ヘラ金貨を5枚、つまり5万ヘラをマリーに渡した。
「ふぇ!? こんな大金、受け取れないです……!」
「気づけなかった私にも責任があるし、今日は無理を言って付き合ってもらっちゃったから、受け取って? それに、その大事な財布もいつか絶対取り返してくるからね! 友達だもん!」
「……わ、わかりました、何から何まで本当にありがとうございます……。初めての……その、お友達とのお出かけで、ちょっと浮かれすぎてたのかもしれません。あはは……。次からは気をつけますね……!」
初めて友達と言われ、尻尾をフリフリと振り、顔を真っ赤にして嬉しそうに笑うマリーに、思わずルナも頬が緩んでしまう。
気を取り直した二人は嫌なことは一旦忘れ、時間の許す限り仲良く『デート』を続けた。的当て屋、駄菓子屋、王都を眺められる展望室、大道芸。様々な所へ行き、心から楽しんだ。ルナ一人なら、道も分からず辿り着けない場所もあっただろう。……しかし、楽しい時間というものはあっという間に過ぎてしまう物である。
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昼前になり、ルナとマリーの二人は宿の前へ帰ってきていた。ルナの昇格試験の時間が迫っているためである。
「ルナ様、今日はありがとうございました! 友達とお出かけなんて初めての体験だったので、すごく楽しかったです!」
「うん! 付き合ってくれてありがと! 私もすごく楽しかったよ! また、一緒に遊びに行こうね! 今度はマナちゃんも入れて三人で!」
「はい! 是非ご一緒させて下さい! ではまた!」
笑顔でそう言うとマリーは丁寧に頭を下げてから宿へ引っ込んでいった。
「……よし!」
手を振ってマリーを見送ると、ルナは気合を入れてギルドへ向かうのだった。
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マリーと別れ、日が完全に昇った頃、ルナはギルドへと来ていた。E級昇格試験に出るためだ。真昼ということもあり、ギルド内はいつも通り人がごった返していた。
受付に着くなり、ルナは冒険者になった日やマナとチームを組んだ日も受付を担当してくれた、いつもの受付嬢、ライラに昇格試験の手順を訊ねる。
「あっ、ライラさん! あの……昇格試験ってどうすればいいんですか?」
「アイギスさん、こんにちは! もしかして、もう昇格出来るほど功績ポイントが貯まったんですか? 流石、マナさんとチームを組んだだけありますね……!」
やはり昼間の受付は彼女が担当のようで、朝の受付を担当してくれたレイラは所謂『レアキャラ』のようだった。
「あれ、やっぱり昼間はレイラさんじゃないんだ?」
「妹に会われたんですか? あの子は滅多に受付を担当しないので、会えると幸運ってよく言われてるんですよ~!ちょっと態度は素っ気ないですが……」
やはりあの無表情でクールな態度はライラにも素っ気ないと思われているようである。
「ライラさんとレイラさんって姉妹だったんですか!? ……言われてみれば、名前も顔もたしかに似てるような……。性格は正反対だけど……」
ライラは燃えるような赤い髪で、非常に丁寧で明るい性格をしていて、顔立ちは似ているが、同じように丁寧だが冷たそうな性格のレイラとは雰囲気も性格も対照的だった。そんな姉妹で人が多く通うギルドの職員をしているのだから、そんなことは言われ慣れた様子で苦笑いしていた。
「あはは……よく言われます……。あ、昇格試験はあちらの裏口から出ると参加出来ますよ! すでに複数の方が参加していらっしゃるので、アイギスさんも頑張ってくださいね!」
気を取り直したライラは笑顔で右手の方向を手で指し示し、激励してくれた。
「いつもありがとうございます!それじゃ、行ってきまーす!」
裏口をくぐり、ギルド裏の訓練場に出るとすでにそこには二十名もの冒険者がいた。彼らは皆中々の武装をしていた。というか、ルナはむしろ軽装すぎである。恐らく全員、ルナと同じF級冒険者だ。ここに来ている者は皆、それなりに戦える力を持っているのだろう。
昇格試験とは何をするのか具体的に知らないルナは少し不安げな表情を浮かべていた。
「試験ってどんなことするんだろう? 勉強とかじゃなければいいけど……。周りの人はみんな結構強そうだなぁ……」
ギルドのサービスを受けるためだけに冒険者登録をしたものは、そもそも昇格試験になど来ない。それは野心や向上心がないからという訳ではなく、冒険者としての戦闘力が必要ない薬草採取などで稼いでいるだけの一般人だからである。そんな者が昇格試験を受けても実力不足で上のランクに行くことは出来ないはずだ。
当然、弓術士や魔術士などの後衛職や、錬金術士や回復術士などの支援を重視している者など、一般人と身体的な能力にそこまで差がない者も多くいるが、そういった者達のためにも昇格試験は実力主義という内容ではない。複数の試験内容があり、そのどれかで合格点、または複数の試験で及第点以上を取れれば強さに自信がなくても昇格は出来るのだ。
「あれ? あの男の人って……」
ルナがキョロキョロと周りと見回していると、ふと他の冒険者の中に一人、見覚えのある大男が目に止まった。
「あーっ!? マリーちゃんに怪我させたおじさん!」
「あ?なんだこのガキ? ……いや、朝に突っかかってきた奴か? はっ! お前冒険者だったのかよ! 子供に冒険者はまだ早えんじゃねーか?」
そう、朝方マリーとデートをしていた時にぶつかってきた、あの余裕のなさそうな男だった。
「子ども扱いしないでよ! マリーちゃんのお財布盗んだのおじさんなんでしょ!?」
びしっと男に指を突きつけ宣言するルナ。それを見た男は否定もせず、懐から白い財布を取り出し鼻で笑ったように反応を返す。
「フン! これか? 気ィ抜いてて盗まれる奴が悪ィんだよ!」
「返してよ! マリーちゃんの大事な物なの!」
「どうすっかなァ? 俺に勝てたら考えてやってもいいけどなぁ?」
「やるの? いいよ……!」
下卑た笑みを浮かべる男と拳を握るルナ。周りの冒険者もチラチラとこちらを注目し始め、一触即発の空気の中、その空気を壊すように、緑髪のサイドテールを携えた、ギルドの女性職員がやってきた。
「それでは時間になりましたので、E級昇格試験を開始したいと思いまーす。わたくし、E級昇格試験の試験官を担当してます、B級のアロエと申しまーす!F級の皆さんは、今回初めて昇格試験に臨まれる方も多いでしょうけど、E級への昇格はそこまで難易度が高いわけではないのでー、落ち着いて試験に集中してくださいね~?」
なんだか気の抜ける喋り方の女性職員だが、B級というだけあって、その佇まいはしっかりしているし、説明もまともな内容なので問題はない……のだろう。
どうやらギルド職員というのは、基本的にランクが高い者ばかりのようだ。デイナもたしか自分はA級の職員だと言っていた。職員になるためにはある程度の実力が必要なのだろうか?
「ふん、命拾いしたな、ガキンチョ?」
「そっちこそ!」
何度も子供扱いされ、ムッとするが、男は向こうへ歩いていってしまう。試験官のアロエが説明を始めたため、ルナは一旦矛を収めることにした。ルナは精神的にも大きく成長を続けているようだった。
「試験内容は三種類、受験者同士の一対一。試験官のわたくしとのタイマン勝負。自分の特技の披露。この三つになりまーす! どれかひとつを選んでもいいですしー、ぜーんぶ挑戦しても問題ないですよ~! ひとつでも合格点を取れれば即昇格ですので、やるだけ損はないですよ~!」
一つ目の『受験者同士の一対一』は、一対一といっても敗者は不合格、というわけでもなく、負けたほうも自分の力を示すことができれば問題なく合格とされる。二つ目の『試験官とのタイマン勝負』も、同じように勝つ必要はない。そもそも勝たねば合格にならないのであれば、二つ目を選んで挑戦する者は全くいなくなってしまう。メリットが薄すぎるからだ。
そして三つ目、『自分の特技の披露』はその名の通り、自分が出来ることを試験官に示すことで評価を決める、最もハードルの低い試験である。このどれかひとつでも合格点を貰うか、複数に挑戦し、二つ以上の試験で及第点以上を貰えれば合格となり、晴れてE級に昇格することができる。
「それじゃー皆さん並んで、それぞれ希望の試験を教えてくださーい」
アロエがそういうと他の冒険者達は順番に並び、次々と自分の自信がある希望を告げてそれぞれの場所へ歩いていく。
ルナは正直どれでも良かったが、取り敢えず全て受けることにして、まずは一つ目の『受験者同士の一対一』を望む者達の場所へ向かった。
「それではまず受験者同士の一対一を開始しまーす! 二組ずつ見ますので、前から順にどうぞ~」
恐らく評価を記入するのであろう用紙とペンを持ったアロエが告げると最初の試験が始まった。この試験の参加人数は八名ほど。その中にはあの大男もいた。順番的に偶然にも戦う相手はその男になりそうだ。ルナが無言でじっと見つめていると、男もルナに気付いたようで睨みつけてきた。
「はーい次、ランドさんとミランさんのペア、ウェルドさんとアイギスさんのペア、始めてくださーい」
睨み合っているとすぐにルナは呼ばれた。あの男の名はウェルドと言うらしい。思っていた通り、ウェルドとルナは対決することに。これで最初の因縁を果たすことが出来る。
「私が勝ったらマリーちゃんのお財布は返してもらうからね! 勿論、中身も!!」
「へっ、いいだろう。俺が勝ったらお前の有り金もよこしてもらおうか?」
ふん、と鼻を鳴らして張り切ったように啖呵を切ると、ウェルドも受けて立つと口角をつり上げる。彼からすればルナはただのカモにしか見えていない。逃げるはずもないのだ。
アロエにはその会話が聞こえていたが、事情も深く知らないし、本人達の問題なので介入することはなく、見守る姿勢だった。
そしてアロエはスタートの合図を切るとそれぞれのペアの対戦が始まった。
「はい、よーいはじめ!」




