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天才と脳筋は紙一重  作者: たんすちゃん
《第三章》-王立学園編-
102/102

102.暁光祭、そして第五種目 7

「はァッ……チッ、クソが!」

「はー……はー……んもー、無理ぃー! グラウくーん!?」

 息が上がり、地面を殴るベリトと文句を垂れるギャリル。

 その二人の前には依然無傷のまま、対照的に全く息が上がっていないルナが立っていた。


「す、すごい……。ルナ・アイギス……悪魔相手にこれほど優位に立つとは……。それに、まだ余裕もありそうな雰囲気を感じます」

 後ろで目を見開くリュミエルの観察通り、ルナにはまだかなりの余裕があった。身体強化も、無詠唱で発動させた軽いものしか使っていない。

 しかし、それは向こうも同じだったようで……。


「うん、まぁ人の姿のままじゃ、こんなものか」

「どういうこと?」

 ルナが訊ねると、グラウは案外素直に答えてくれた。


「僕ら悪魔は変身が得意だけど、角や翼を隠していると本来の力の半分も出せないのさ」

「……! ってことはつまり……」

「お察しの通り。今君に余裕が残っているのは、二人が力を半分以下に制限された状態で戦っているからだよ。それでも、十分人間にしては異常な力だとは、思うけどね?」

 グラウが告げた、悪魔の変身についての真実。本気を出していないのはルナだけではなかった。そういうことだ。


(もしあの悪魔の言うことが事実なら、いくらルナ・アイギスといえど人数差もあってかなり不利に……)


「それ本当? でもそれって、本気が出せないか、出すつもりがないってことだよね?」

 リュミエルの心配をよそに、ルナは鋭い指摘をする。

 本気を出せばルナを簡単に殺せるのなら、最初から出せばいい話である。そうしないということは、殺すつもりがないか、最初に言っていたように本当に力を試しに来ただけということ……。


「君、抜けてそうな顔の割に頭の回転が早いね? そうだよ。別に決着を急ぐ必要はないからね。僕自身、別に君を殺すことに興味はないし。ベリトは満々そうだけど」

「当たり前ェだ! 俺のプライドを踏みにじり、計画を邪魔しやがったこのガキは必ず殺す!」

 ルナはベリトの怒りが籠もった殺意を感じるが、ふと合点がいく。


「ああ! 道理でベリトは前よりも手応えなかったんだね!」

「あァ!? 図に乗るなクソガキが! 帝国ではテメェらは雁首揃えてやっとだっただろうが!」

「ぷ……あははははっ!!」

「ちょっとベリトぉ! アッハハハハッ!!」

 つい口に漏れてしまったルナの失言に、青筋立てて怒鳴り散らすベリトだったが、グラウとギャリルからは大爆笑の嵐。悪魔には仲間意識というものは本当にないらしい。

 嫌いな二人の仲間から馬鹿にされ、恨みある下等な人間にも馬鹿にされ、ベリトは今にも周囲を破壊しつくしてしまいそうだった。


「いや愉快だね君は! 身の程知らずとも言うが、恐れ知らずでもある。僕も少し興味が湧いてきたよ」

「おいグラウ! もういいだろ、こいつはここで――」

「おやおや、ベリトは本当に気が早いね。()に何されても知らないよ?」

「……チッ」

 先走ろうとするベリトを脅すようにして静止するグラウ。その発言の中に引っかかるものがあり、ルナは聞き返す。


「彼?」

「前回も言っただろう。君に興味がある悪魔がいるのさ。彼は全力の僕らが束になっても相手にならないようなヤツだ。君の想像も及ばないだろうね」

 グラウが答えると、再び先程のように横の空間が歪み始める。彼が何かしたのだろう。次は何を仕掛けてくるつもりなのか……。


「そんなに身構えなくても、望み通りここから消えるだけだよ。十分君の力は見たからね。引き続き生徒として、種目に戻るとするよ」

「気に食わねェが、次会った時がお前の終わりだ――」

「ばいば~い♪ 今度はあの男の子と遊びたいなぁ――?」

 グラウの生み出した歪みに吸い込まれるように消えていくベリトとギャリル。


「帰っていく……?」


(お互い実力の半分も出してないのに、本当に満足したのかな?)

 リュミエルもルナも、あっさり撤退していく悪魔達を訝しむ。


「――あぁ」

 すると仲間に続いて歪みに向かおうとしていたグラウが、冷たい声色でふと呟いた。


「公爵家の娘。お前にはお土産を残していこうか」

「っ!?」

 ……ほんの一瞬だった。

 思えば、簡単に引き下がる悪魔達を見て、僅かにでも気を抜いてしまったのかもしれない。かつてない殺気を感じたルナの視界からは、グラウの姿は消えていた。


バキッ――!


(やば……いや……うそ)

 ルナは背後から氷が砕けるような音が聞こえ、嫌な予感はしつつも恐る恐る振り返る。

 するとその予感は的中し、リュミエルを守るために展開していた氷の結界ごと、リュミエルの腹にはグラウの凶悪に変貌した右腕が貫通していた。


「がっ……ふ、ァ?」

「リュミエル、さん……!?」

「何が起きたのかわからないかい? 現実に引き戻してあげようか。ほらっ!!」

 グラウは腹から腕を引き抜きながら、あまりにも一瞬の出来事に呆けているリュミエルの顔面を蹴り飛ばす。


「ぐっ……う!? アああァぁアアあァッ!!!?」

「リュミエルさんッッ!!」

 勢いよく壁に叩きつけられたリュミエルは、後から来る痛みによって腹に空いた風穴の激痛を自覚する。

 ルナはグラウなどそっちのけで、足に魔力を纏ってリュミエルの元へ飛び出していく。

 額からは珍しく嫌な汗が伝っていた。


「ああァあッ……がふっ……!? ごぽっ……!」

「落ち着いてっ……! すぐに……!」

 先程の鼻血など比にならない程に口と腹から血を溢れさせ、激痛に耐えきれず暴れるリュミエルを押さえこむ。

 その後ろではそれを実に愉快そうに眺め笑っているグラウがいた。その背中には先ほどまでなかった黒い羽根が生えていた。


「痛みに慣れてない貴族はよく叫ぶ。公爵家ともあれば、さぞ大事な箱入り娘として育って来たことだろう?」

 貴族は誰しも、痛みを伴うような危険なことからは遠ざけられて育つ。位が上がれば上がるほど、それは顕著だろう。

 リュミエルも例に漏れず、生まれて初めて感じるほどの激痛に発狂していた。


「ああ、種目の心配ならいらないよ。最初に下ろした帳は観客席の監視を遮るものだからね。僕らの正体は君達しか知らない」

「どうでもいい……」

「尤も、そこの金髪の娘が死ねば、種目は強制的に終わってしまうだろうけどね」

「だまって……!」

 煽るグラウへの苛立ちと迫るリュミエルの死への焦りで、ルナは魔力を集中出来ず、中々治癒出来ずにいた。

 不安定な集中状態で治癒魔法を使えば、失敗して治すどころか命を奪うことになってしまう。故に落ち着いて魔力を操らなければいけないが、後ろの悪魔が意識をかき乱し、イライラが募る。


「せっかく人間界に来たんだ。僕も少しは種目を楽しむつもりでさ。そんなつまらない終わり方にはしないでよ――」

「うるさいっっ!!」


ひゅっ――!!


「おっ……と」

 グラウの頬を凄まじい速度で氷の刃が掠め、傷を作る。あまりにも自己中心的な態度のグラウに、限界を迎えたルナが放ったのだ。

 殺す気はないつもりだが、直撃すれば黙らせるには十分な殺傷能力を持つ攻撃を、特に考えずノールックで雑に放った。グラウは、羽根を解放しているのに一瞬反応出来ない程の魔法で傷をつけられたことに、内心では目を見張っていた。


「あは……! やっぱり面白いね君。……ふぅ。気が済んだし、次こそ帰るとするよ。その程度の傷、君なら治せるだろ? せいぜい頑張ってね。あははっ!」

 突如として、スンッ……と感情が元に戻ったグラウは羽根を消し、再び歪んだ空間へと歩いていく。姿が消えると共に、ルナ達の周囲を覆っていた黒い煙は霧散し、元の晴れ空が顔を出す。

 そちらには一切目もやらず、ルナはリュミエルの傷を治すことに集中していた。グラウの話していた内容など、ただの雑音にしか聞こえておらず全く耳に残っていなかった。


「超級光魔法……クラス9(ノナ)癒しの光冠ヒーリング・オブ・クラウン』」

「がはぁっ……っ、はああッ……!!」

「大丈夫、すぐ痛いのはなくなるよ、リュミエルさん……!」

 自分の持ちうる中で最大の治癒魔法を発動させ、苦しみ暴れるリュミエルを優しく抱きしめて宥めるルナ。

 大気を震わせる程の魔力が白い王冠の形に収縮し、リュミエルへと被さると、彼女の全身は暖かい光に包まれ、大きく穴が空いた腹部や他の傷も次第に治癒されていく。


「は……ぁっ、はーっ……ぅ」

 不安定だった呼吸のリズムも、荒かった肺の音もだんだんと安定していき、リュミエルの焦点があっていなかった瞳も徐々に戻っていく。

 暖かい魔力の影響で痛みがぼんやり程度にまで和らいだリュミエルは、楽そうな表情に変わっていく。


「だいじょぶ、へーきだよーリュミエルさん……」

「ぅ――、ル、ナ……ア……ギス……」

「落ち着いてー、深呼吸してー、意識があったら握ってー?」

 ルナの呼びかけに答えるように、すぅ、はぁ……と息を吐き、ルナに握られた手をぎゅっと弱々しく握り返すリュミエル。

 意識もあれば、判断もできる。傷もすでにほとんど塞がり、あとは完全に治癒され、彼女がしっかりと落ち着くのを待つだけだった――。



 数分後――。

 幸いにも、治療が間に合ったおかげで大事には至らなかったようで、リュミエルはすぐに意識がはっきりと覚醒した。


「良かったぁ~……死んじゃったらどうしようかと思ったよ! もうあいつはいないから安心してね!」

「は、はい。あの、ルナ・アイギス……その……ありがとう、ございます。守って……くださって」

「友達なんだから当たり前! まぁそう思ってるのは私だけみたいだけど……あはは」

 ルナは戦う前にあっさりフラれてしまったことを思い出して嘲るが、悪魔から守られ、命も救われて、恩義を感じないほどリュミエルは白状ではなかった。


「……先程は、すみませんでした。精霊寮で、平民である貴女は相手にもならないと、高を括っていたようです」

 才能ある貴族にしか自分が求める強者はいない。ずっとそう思って生きてきたが、その考えは先ほど打ち砕かれた。

 ただの気まぐれやお遊び感覚で戦ってみることにした相手が、自分よりも遥かに強く、見下されていた相手の命を救うほど懐が広い人間だったのだ。


「ふふ! 精霊寮は私の他にも凄い子は沢山いるんだよ! 地位とか血筋? とか、そんなの関係ないんだよ!」

「……そう、なのかもしれませんね」

 血筋が才能に関係あるのは確かで間違いない……が、目の前の存在がいうのなら、それもそうなのかもしれない。と、自分の中の"絶対"を過信していたことを実感するリュミエル。

 そしてリュミエルは壁にもたれかかりながら続ける。


「傷は治れど、もう動ける気力もありません。貴女に救われた命です。遠慮なくここで倒していってください。そうすれば精霊寮には求めていた点数が入りますよ」

 最後に攻撃を与えてリュミエルを再起不能にしたのは聖獣寮に化けているグラウだ。ここで彼女を気絶させ再起不能にしなければ、得点が入るのは聖獣寮だろう。

 どういう原理で得点の計算をしているのかは不明だが、シャノン先生のことだ。何か凄い魔法で判別しているに違いない。

 自分を庇い、悪魔3人をたったひとりで相手にして、一歩間違えれば死んでいたかもしれないのだ。ルナの得点になってあげることぐらい訳なかった。


「えー? 私戦う意志のない人に追い打ちとかしたくないよ」

 当然、リュミエルの提案をルナは断る。勝つためとはいえ、流石にそこまでして点数を得ようとは思わない。

 しかし何か恩返しをしたいリュミエルは渋い顔をする。そこでぱっと笑ったルナは一つの案を……いや、お願いをする。


「じゃあ私とお友達になってよ、リュミエルさん!」

「友達?」

「私はもう友達だと思ってるけど、こっちだけそう思ってるのじゃなんかさみしいし……。

 あっもちろん嫌ならぜんぜん! 無理にお願いしても結局一方的なのは変わんなくなっちゃうし!」

 突拍子もない提案をするルナに、意表を突かれたリュミエルは鳩が豆鉄砲を食らったような顔になる。

 あんな激闘があったというのに変わらず明るい態度の少女を前に、リュミエルは思わず笑ってしまう。


「ふふっ……なんですか、それ。その程度のことで良いのでしたら、喜んでお受けしますよ」

「ほんとー!?」

「ええ。もはや、断る理由がありませんから」

「わっはぁーい!」

 てっきり断られると思っていたため、まさかの快諾に思わずルナは感情昂ってリュミエルの胸に飛び込んだ。

 ルナのスキンシップが激しいのは癖なので直しようがないが、慣れないリュミエルも年下の少女に甘えられることには、案外悪い気はしていなかった。


「私のことは好きに呼んでね! リュミエルさん!」

「では私のことは、どうか『リュミエル』と。ルナ・アイギス()()

「分かった、けど……せっかく友達になったのにさん付けなの?」

 出会ってからはずっと呼び捨てで呼ばれていたため、急なさん付けに違和感を感じてしまう。

 しかしリュミエルは微笑みながらそっとルナを抱き返す。


「私は認めた方には"さん"付け、それ以外の方には呼び捨てにしているんです。貴女のことを友人、そしてその実力も確かに認めたということです。誇るべきことですよ」

「なるほど! わかった! よろしくね、リュミエル!」

「ええ。ルナ・アイギスさん」



 ――今まで、友人と呼べるものは社交界での付き合いくらいでしかなかったため、本当の友人というものはいなかった。

 貴族の中でもトップである公爵家に生まれ、貴族らしい振る舞いを常に強制されてきた自分にとって、初めて出来た友人が貴族でも何でもなく、目の前で眩しい笑顔を振りまいている平民の少女というのは、過去の自分には予想もつかないことであろう。

 気を張っていた時期がなんだか馬鹿らしく感じてしまい笑ってしまう。……思えば、心の底から笑みを溢したのはいつぶりだろう。


 この小さな友人は底抜けに明るく、ポジティブで、沢山の人を惹き付けるものを持っている。きっと自分は、そんな彼女にとって大勢の友人の中の一人に過ぎないだろうことは分かっている。

 けれど、それでもいい。初めて出来た、大切な人なのだから。


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