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天才と脳筋は紙一重  作者: たんすちゃん
《第三章》-王立学園編-
100/100

100.暁光祭、そして第五種目 5

『部外者には早々に消えてもらいたかったんだけどね。相変わらず妨害してくれる』

 突如、歪んだ空間から声が響いたかと思えば、そこから黒い煙が溢れ出し、ルナとリュミエルの周囲を満たしていく。


「男性の声……?」

「空が見えなくなった……」

 ルナ達の周囲だけ帳が下り、まるで夜のようになった迷宮の中で、二人は見知らぬ声に困惑していた。

 黒い煙が歪んだ空間を完全に包むと、その声は次第にはっきりと聞こえるようになっていく。


()()の戦いじゃ、いまいち君の全容は掴めなかったからね。いい機会だから会いに来たよ」

 声と共に煙が晴れ、中から現れたのは聖獣寮の制服を着た金髪の少年だった。


「聖獣寮の制服……確か生徒会長の2年生」

「……()()? 会ったことあるっけ? リュミエルさんの知り合い?」

「いえ……聖獣寮の中に面識がある方はいませんが」

 リュミエル曰く、生徒会長だという少年の発言に違和感を感じたルナ。彼の言葉はまるでこちらと会ったことのあるような発言だったからである。

 だがルナが訊ねるまでもなく、それを裏付けるように向こうの方から答え合わせがされる。


「言ったじゃないか。"また近いうち、嫌でも会える"ってさ」

「……!」

 聞き覚えのあるセリフに、ルナの警戒値は一気に高まる。

 それは選抜試験より少し前に戦った悪魔、『グラウ』が去り際に残していったセリフだ。

 悪魔は容姿や声帯を自由に変化させる術を持つ。……と、マナとカトレアが言っていた。つまり目の前の相手は――。


「思い出したみたいだね。銀髪の娘」

「知り合い、ですか?」

「……リュミエルさん、今すぐここから逃げて」

「……? どういうことで……うっ?」

 危険を察知したルナは、リュミエルにここから離脱するよう促す。しかしリュミエルが疑問を返そうとすると同時に、突如として彼女の鼻からは血液が流れ始める。


「リュミエルさんっ!」

「なん、ですか……これ……」

 ツー……と鼻血を流しながら、ふらりと立ち眩みから膝から崩れるリュミエル。何が起きたのか理解できず、彼女は困惑の声を上げることしかできなかった。


「僕が用があるのは銀髪の娘。おまえだけだ。有象無象に興味ないよ」

 冷たい眼光で告げ、奇妙な力を操るグラウ。ルナは顔色が悪くなっていくリュミエルに駆け寄り、すぐに治癒魔法を行使する。

 不気味なことに、リュミエルから流れる血はドロドロと、止まる気配がなかった。

 このままではまずい。ルナの直感がそう告げており、ルナの頬には冷や汗が伝う。


「ルナ・アイギス……。私は、古竜寮……貴女の……敵です。私のことは……気に、しないで、ください」

「だめっ! もう種目とか関係ないよ! あいつは平気で命だって奪う悪いやつなんだよ! 見捨てられない!」

「どうして、そこまで……」

「おや、悪いやつだなんて心外だな? あくまで今は聖獣寮の生徒であって、僕は君の力を試しに来ているだけ。この行事を中止にするような真似はしないさ」

 あの時グラウは、ギャリルという悪魔の救出の他に、ベリトを倒した人間を他の悪魔の代わりに様子見しにきたと言っていた。つまりルナの実力を試しに来たのだ。

 前回は救出のほうが主目的だったためか、少し手を合わせただけで帰っていったが、今回はしっかりと目的にルナを据えてきたようだった。


「私に用があるんでしょ! リュミエルさんには手を出さないでよ!」

「ルナ・アイギス……」

「そうはいかないよ。確かに目的は君だが、種目として成り立たないとつまらないからね。

 安心してよ。前も言ったけど、僕は無駄な殺生は好きじゃない。ただ、苦痛を与えることに抵抗はないけど」

 ……つまり、リュミエルが危険なことには変わらないということだ。

 今もこうして治癒魔法でケアしてはいるが、これだけの出血量だ。放っておけば間違いなく致命傷になる。助かっても後遺症が残る可能性は高い。

 目的は別にあれど、一生徒として種目に参加しているのなら、命を奪う真似はしないだろうが……悪魔の発言がどこまで信用できるのか、ルナには分かりかねる。


(これ、きっと魔法だ。なら、魔力で弾ける……!)

 魔力で作用する現象は、魔力で相殺できる。それをよく知っているルナは、苦しそうに血を流しているリュミエルを囲うように、氷の膜で小さなドーム状の円を作る。


「血が、止まった……?」

「少しだけ冷えるけど、我慢してね!」

 氷に包まれたリュミエルは、ルナの予想通り流血が止まる。まだ顔色は悪いままだが、これ以上悪化することはないはずだ。


「へえ……魔力をシャットアウトしたか。けど、そんな足手まといを庇って何になる? 君の敵じゃないのか?」

「種目は二の次。それに私はもうリュミエルさんは友達だと思ってるし、友達を助けるのに理由なんていらないよ。

 ……あとリュミエルさんは不意を突かれただけで強いんだからね!」

「くだらない感情だね。僕の嫌いなタイプだ」

 リュミエルには突き放されてしまったが、ルナはすでに戦う前から友人だと思っている。一方的な思いでも、ルナにとっては十分守る理由になり得た。


「あ、そうだ。今回ここへ来たのは僕だけじゃないんだ」

 ふと思い出したように告げると、先程グラウが現れたときと同じように、黒い煙が二つ、グラウの両脇にとぐろを巻くように集まっていく。


「う……予感はしてたけど……」

 ルナの嫌な予感は残念ながら外れることなく、黒い煙からは同じく聖獣寮の制服を着た男子生徒と、魔狼寮の制服を着た女子生徒が現れる。


「仲間の応援……? 聖獣寮は分かりますが……なぜ魔狼寮まで?」

「……信じられないかもしれないけど、あいつらは悪魔っていう種族で、この学園の生徒に化けてるんだよ」

「あ、悪魔? 本で読んだことはありますが……本当に実在するんですか?」

「私も知らなかったけど、ほんとにいるみたい。真ん中のがたしか、グラウっていったっけ? それで多分今出てきた二人は――」

 ベリトに、ギャリル。この3人は何を企んでいるのか、ルナの力を試しに来ているらしい。ベリトとの因縁はあれど、あとの二人は前回が初対面だ。何故狙われているのか、ルナには疑問でならなかった。


「久しぶりだなァ、銀髪!!」

「こないだの男の子はいないのかぁ。ざ~んねん」

 聖獣寮の2年生に化けているベリト。そして魔狼寮の3年に化けたギャリル。前回戦った際にはベリトはいなかったため、アロンダイト帝国以来の再会である。


「別に会いたくなかったけどね……」

 リュミエルはルナの魔法で守られているため、実質3対1。それも脅威的な存在が相手だ。


「ルナ・アイギス、私も戦います。ここから出してください」

 本で少し読んだことがある程度の知識しかないが、リュミエルは悪魔の力が恐ろしいものということくらいは知っていた。一人では確実に勝てないだろうことは簡単に予想できた。

 だがルナは首を横に振る。


「まださっきので体調も戻ってないでしょ! 危ないから絶対ダメだよ!」

「こ、これくらい平気です……! 私は公爵家の娘。これくらい何とも――」

 実際、リュミエルはかなり具合が悪かった。ルナが治癒魔法でケアしてくれたとはいえ、流した血が全て返ってくるわけではない。

 急速に血を失ったことによる貧血からくる頭痛や立ち眩み、吐き気等で顔色は最悪のままだった。


「――へえ、公爵家?」

「っ!」

 そして、言い返すリュミエルの発言に反応したのはグラウだった。殺気を感じたリュミエルが見ると、すぐ目の前には鋼鉄の槍が迫っていた。


「隙だらけに見えたけど、よく反応したね?」

 突然何が起きたのか理解の追いつかないリュミエルが、グラウの言葉を聞いてよく見ると、すぐ側で槍の腹部分をルナががっちりと掴んで静止させていた。


(み、見えなかった……この私が?)

 今この一瞬で、再びルナに守られたことを理解したリュミエルは、全く反応できなかった現状に、背筋が冷えるような感覚を覚える。


「こっちで話してる時に不意打ちとか卑怯じゃん! なんかこう、相手を思い遣る気持ちとかないの!?」

「ふっ……あははははっ! 悪魔に思いやりを説くか! 面白いね、君」

「ぜんぜん面白くなーい! 今の殺すつもりで撃ったでしょ! 私が狙いならちゃんと私だけを狙ってよ!」

 ぷんぷん、と文句を垂れながら、ルナは握っていた鋼鉄の槍を折って捨てる。その材質と硬度、そして飛来した速度と狙い方から、今のは確実に殺意の籠もった殺すつもりの魔法だったことを確信する。


「前も言ったような気がするけど、僕は貴族が心底嫌いでね。特に力を持つ貴族が。

 そこの金髪の娘が"公爵家"だというのなら、僕は遠慮なく殺すつもりだ」

「むっ……」

 結局悪魔は目的が果たせれば何でもいいのだ。種目に則って戦うのは二の次。命の危険があることに変わりはないため、油断はできない。

 そうしてルナがグラウとにらめっこしていると、別の殺気がルナの元へ迫る。


「黙って聞いてりゃ、話がなげェ!」

「おっ?」

 咄嗟に防御したが、ルナに向けて強烈なキックを放ったのは、静かにやり取りを聞いていたベリトであった。

 アロンダイトでの一件から、ルナへのリベンジを求めていたベリトはいい加減、我慢ができなくなったのだろう。


「ベリトの言うことも一理ある。そろそろやろうか」

「は~い」

 先走ったベリトに続き、グラウとギャリルも攻撃に参加する。

 ベリトの足を押し退けたルナは、接近する二人の悪魔に気づき、無詠唱で身体強化をかけ、戦う構えに入る。


「オラオラオラァ! 俺はくだらねえ種目なんざ興味ねぇ! ここでテメェは殺す!」

「私は眠らせた子からエナジーを貰えればそれでいいから、どーでもいいんだけど、貸しを作っておくのもいいしね!」

「暁光祭はみんなで一生懸命努力したことを証明するために絶対勝たないといけないの! よくわからない理由なんかで邪魔しないで!」

 ベリトは両腕を本来の姿に変化させ、黒く鋭く変貌した拳で攻撃を仕掛けるが、身体強化を付与したルナにとってガードすることは容易かった。

 しかしそれは一対一のタイマンという状況下であってこそ。同時にギャリルも鋭利に変化させた爪でルナを襲う。

 二人の悪魔からの猛攻をギリギリのところで捌きながらも、ルナはジリジリと押されていた。


「……岩槍よ、"ゆっくりと"、"転がっていけ"」

「ルナ・アイギス!」

「はっ!?」

 リュミエルの声に咄嗟に反応したルナは、ベリトとギャリルの背後から、先程よりもさらに速いスピードで飛来する岩槍が目に入る。

 悪魔二人の間を抜けて眼前に迫った鋭い槍を、ルナは手のひらに氷の結晶を作り出して差し出すことでぶつけ、相殺する。

 バキッ! と大きな音を立てて弾けた岩と氷は対消滅するが、周囲に魔力の塵を散らす。


「おいグラウ! 危ねェだろうが! てめェからぶっ殺すぞ!」

「ちょっとグラウく~ん?」

「君たちじゃ当たらないだろ、これぐらい。僕に気遣いを求めないでくれよ」

 彼らは悪魔同士、協力して戦うことなど珍しいことで、連携を取ろうなどとは端から考えてもいないようだった。

 連携を取らずとも、多対一の状況であれば個々の力量だけで圧倒できるから、である。


「隙ありっ!」

 喧嘩している三人を見て、拳を下から振り上げるルナ。

 スカッ、と空を切る拳に次いで、次の瞬間地面からは勢いよく大きな氷がせり出す。


「うおっ!?」

「痛ぁっ!」

 咄嗟に回避したベリトと顎に直撃して氷のアッパーを食らうギャリル。ここにも序列の差というものはしっかり出ているようだった。

 一方グラウは後方で愉快そうにそれを眺めていた。恐らく悪魔達は互いにそこまで仲は良くないのだろう。


「てめぇ……」

「僕を気にして油断してた君達の自業自得だね。あははっ!」

「か弱いんだからちゃんと守ってよ!」

「お前がか弱いだァ? まだ寝てやがんのかよ!」

 またしても喧嘩し始めた悪魔達。どうやらあの三人はよほど反りが合わないらしい。


(悪魔相手に、一撃食らわせた……!)

 リュミエルは自分を守りながらも一人で果敢に戦うルナを見て、目を見開いていた。

 だが、まだギャリルに一発当てただけであり、人数差も脅威も変わらないことには違いない。リュミエルは不安そうな顔でルナを見るが、視線に気付いたルナは振り返って笑いかける。


「大丈夫だよリュミエルさん。今ので攻撃の感覚は掴んだから。絶対負けないよ!」

「掴んだ……? 今の短期間で……?」

 右手を握りしめながら、自信たっぷりに宣言するルナ。決して過信などではなく、今の手合わせで、ルナはベリト達の攻撃の感覚やタイミング、おおよその力量を掴んだようであった。


 すでに第五種目『センスラビリンス』が始まってから20分程が経過していた。しかしまだゴールした生徒はおらず、各地では戦闘が起きている。

 残り時間は40分。この悪魔達を凌ぎ、他の生徒を倒し、ゴールへ向かわなければならない。

 故にルナは、ここでのんびりとしているつもりはなかった――。


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