10.初任務!
ゴブリンの巣の特定……もとい討伐をするため、ルナ達は依頼用紙に書かれていたゴブリンが頻繁に出現するという、フィエリの森に来ていた。
そもそも何故、討伐依頼が出ているのかというと、ゴブリン族は集団で行動し、巣を作りそこで繁殖をする。しかし言葉は通じず、人間を敵視しているため増えすぎると危険が高まるのだ。そしてこの森では最近、多くのゴブリンの目撃情報が出ているため、討伐依頼が発注されたということだ。
王都から少し離れたフィエリの森には、昔から妖精族が棲んでいるという噂があり、妖精に会えた者は幸せになれるという伝説があるそうだ。
妖精たちが暮らしていると云われる所以は、この森の澄んだ空気や危険な猛獣がいない環境だからと云われている。それ故、落ち着いた環境を求めて、ゴブリン達やスライム、温厚な熊などが多く生息しているのだ。
「巣を見つけるって言っても、まずどうしたらいいんだろう?」
ルナは悩んでいた。こういった目的のある探索は初めてで、何から手をつければいいのか手探り状態なのである。
「今回の依頼は貴女が受けた、貴女のための依頼よ。私はあまり出しゃばらないようにさせてもらうわね?」
マナは悩んでいるルナに簡単にアドバイスをしたりはせず、成長を見込んでじっくりと傍観するスタンスに回るようだった。
しかし報酬は折半である以上、全く何もしないのはマナの矜持が許さない。当然戦闘になった場合は戦うし、迷った時には軽いヒントくらいはあげるつもりだった。
「やっぱり、ゴブリンを見つけて尾行するのが一番手っ取り早いよね!」
そう言うとルナは森の奥へ草をかき分けて進んでいく。マナはうんうん、と頷いて後をついていく。
森に入って暫くした辺りで、二人はついに数体のゴブリンと遭遇した。ゴブリン達はまだこちらに気付いていないようで、二人は草陰から様子を窺っていた。
「よーし……! あいつらが帰って行く所を見つければ一網打尽にできるね!」
「ん……? いや……ええ、そうね。所詮はE級の依頼だし、難しく考えることもないわ」
数メートル先で歩いているゴブリン達を見て、何やら腑に落ちない様子のマナだったが、首を振って話を切り替える。
ルナはそれを見て少し違和感を抱いたが、今は尾行中。標的を見失わないようにしなければと、気にするのをやめた。
すると尾行の途中、突然森がざわめきだし、地面が大きく揺れ始めた。
ゴゴゴゴゴ………!!
「わわっ!? すごい地震!」
「うわっ……! っとと……。ルナ、大丈夫だった?」
「うん、平気……って、あっ! ゴブリンが焦って逃げようとしてるよ! 追わなきゃ!」
突然の地震によって、尾行していたゴブリン達がパニックを起こして走って逃げ始めてしまった。恐らく巣に向かっているのだろう。
離れていくゴブリン達を、二人は見つからないように気配を消しながら急いで追いかける。
後を追っていると、森の中にそびえ立つ岩山に辿り着いた。
「あそこ、洞穴があるよ!」
ルナの指差す方向を見ると、確かにそこには人が五人ほど横に並べるぐらいの大きさの洞穴の入り口があった。
様子を伺っていると、ゴブリン達はその洞穴へと入っていく。
「あれがゴブリンの巣とやらで間違いなさそうね。それにしても、今の地震でよく崩れなかったわね、これ……」
今しがた起きた揺れは、外だと云うのに真っ直ぐ立っていられないほどの大きさで森全体を揺らしていた。本来ならこんな洞穴は崩れてしまいそうなものである。意外と頑丈な岩質なのか、運良く崩れなかっただけなのか……。どちらにせよ幸運である。
ここで位置を記録してギルドへ帰れば、依頼は達成になるのだが、それでは500ヘラの報酬しかもらえない。今回は討伐をするつもりでここまで来たのだ。よってルナ達は……。
「勿論、突入するわよ! あ、でもまた地震が起きるかもしれないから、頭上にはしっかり気をつけるのよ?」
「りょーかい!」
当然、凸の字。ここで撤退する気は毛頭なかった。
ルナ達はゴブリン達が消えていった洞穴へと侵入すると、入り口から奥に進むにつれて、どんどん空間が広くなっていることに気付いた。
「外からじゃ想像できないほど中が広いのね……?」
現在いる位置はすでに入り口と比べると天井までは10メートルほど、横幅は20メートル以上はあった。
飛んだり走り回ったりが出来るレベルにまで広くなっていく洞穴を進んでいくと、やがて奥に光が見えた。
「あっ! あそこから明るくなってる! 行ってみよう!」
「もう……。そんなに急ぐことないでしょ?」
マナは明るみに向かって走っていくルナの後を、やれやれといった様子でついていく。
「わあ~……! すごい綺麗だよここ……」
洞穴を抜けると、そこには岩山の中とは思えないほどの空間が広がっており、足元には岩肌だけでなく草原が、周りには草木などの自然が広がっていて、上を見れば青空が見えており、そこからは陽の光が降り注いでいた。
「天井が吹き抜けてるから、ここはこんなに明るかったんだね……」
「こういう自然に生まれた神聖な空間は、動物やモンスター達も好むのよね……。だからゴブリン達はここを住処にしてるのかもしれないわね」
まるでフィエリの森にあるオアシスとも呼べるような美しい光景だが、奥を見れば先程よりも多くのゴブリン達が、人に比べれば拙いものだが、集落のようなものを形成しているのが見えた。
「この綺麗な場所を荒らしたくはないけど、任務があるからね……。さぁ、行くわよ!」
「おっけー! あんまり強い魔法とかは撃たないようにしなくちゃね!」
そんな言葉を交わしながら、二人はそれぞれ右と左へ散開した。
「よーし……。威力はそのままで、サイズを抑えて……それっ!」
ルナは、まずは牽制程度に、左に見える槍のような物を持ったゴブリン達に向けて、頭サイズの大きさの氷槍を数発放った。
ヒュッ!
ドスッ ドスッ
突然、隣にいた仲間が音もなく頭を貫かれて倒れ、驚愕する中ゴブリン達は敵襲を悟る。
ルナを見つけたゴブリンは石の槍を構えて襲いかかってくるが、一直線で突撃してくるその動きをルナが見切るのは容易かった。
かかってきたゴブリンの尖った鼻っ柱に平手を直撃させ、視界を一瞬奪った隙に腕を掴み、腕力に任せるままに振り回して次々と敵を薙ぎ倒していく。
「……ごめんねっ!」
気絶したゴブリンにとどめを刺し、ルナは次の場所へと向かう。向かう先は斧を持ったゴブリンの集団である。今倒したゴブリン達はみんな槍を持っていた。恐らく、ゴブリン達の中でもそれぞれの役割毎に暮らしている領域が分かれているのだろう。
「妙ね……」
同時刻、右側へ向かったマナは剣を持ったゴブリン達を斬り伏せながら、違和感を感じていた。
手に持った剣を拙い大振りで構え、走ってくるゴブリン。マナはそれを子供の相手をするかのように斬り抜け、あっさりと息の根を止める。
「どうしてゴブリンが武装を……? 武器を持つにしても精々、棍棒や木の枝程度のはず……。これじゃあE級やD級なんかじゃ手に負えないじゃない」
辺りの敵を全て倒し終えたマナは、武器を持ち、普段よりも統率の取れた動きをするゴブリン達を見て、怪訝な顔を浮かべながら思考を巡らせる。
(まさかとは思うけど、こいつらに武器や知恵を与えた者がいる……? 仮にそうだとして、そんなことをするメリットは?)
ふと浮かんできた可能性に疑問を抱くマナ。洞穴の入り口で感じていた違和感はこれだったのだ。
だがしかし、今は情報が足りない。考えるだけ無駄だと判断したマナはさらに奥へ進むのだった。
_
「おーい、マナちゃーん!」
「ん? あら、ルナ。もうそっちは終わったの? って……貴女、どうして頭にキノコなんて生やしてるのよ……」
右側にいた最後の集団を潰し終え、一息ついていたところに、ルナが走ってきて声をかけてくる。その頭にはしっかりと赤いキノコが生えていた。
「こっちは終わったよ! 途中で休憩してたらお腹空いちゃって! 生えてたキノコ食べたらなんかこうなっちゃった?」
たはー、と笑いながらいい加減なことを言うルナ。マナよりも早く敵を倒し終えていたルナは、休憩がてら、綺麗な景色を眺めながら散策していたのだ。それにしても道端に落ちている物を食べるなど、あまりにも非常識である。
「もう! 道端に生えてる怪しいキノコなんて食べちゃダメでしょ! お腹壊すわよ! ………天然というかなんというか、さすがルナだわ……」
はぁ……とため息交じりに、まるで母親のようなセリフを吐くマナだったが、普通は誰だってそうである。拾い食いなど、子供でもしない。精々、木の実などが関の山だ。
「さてと、これであとは帰るだけだね! 証拠も持って帰らないと!」
そう言いながら倒れているゴブリン達の元へ駆け寄るルナ。
「討伐の証明で、耳か指を複数切り取るのね。そういう冒険者の基本もわかってきたじゃない」
マナは感心したように駆け寄るルナを見つめながら呟く。
討伐依頼は普通、討伐した対象の体の部位を一部切り取って持ち帰るのだ。でなければ討伐を終えたという証拠にならないからだ。耳や指、または手など、小さく軽い部分を集めるのだが、それは単純にゴブリンのみならず、オークやオーガ、ドラゴンなどの巨体を運んで距離を移動するのは、馬車でも無ければ無理があるからである。
だがルナは、マナや他の冒険者たちが考える『普通』とは一味違った。
ルナには異次元ポーチがある。ルナはおもむろにゴブリンを持ち上げると、ポーチのボタンを外して頭から突っ込んだ。今日も肌見離さず身につけているポーチだが、いくら見た目以上に中が広い異次元ポーチとはいえ、果たしてゴブリンがまるまる入るのか?
「むむむ……えいっ!」
ぐいっ すぽっ
「おおっ! 入った!? ほんとに仕舞えるとは思わなかったよ」
結果は………入った。ルナが足を押し込むと、すぽっ、と入ってしまった。一体、中はどうなっているのか、それはルナにもわからない。そしてそれを見ていたマナにも。
「なっなな……なによそれぇ!?」
当然、マナは声を荒らげて疑問をぶつける。ルナはゴブリンをポーチに詰める作業を続けながら、自分の持つ異次元ポーチについて説明する。
「うーん、私も原理はわからないんだけど……。おじいちゃんからもらったポーチで、無駄に収納性が高くて色々入るんだよね」
「体積以上の物が収納出来るポーチねぇ……。ねぇそれ、もしかしなくても聖遺物じゃないの?」
ざっくりとした説明を聞いたマナは、ハッとした様子で自分の考えを告げる。
「聖遺物……って、ダンジョンから稀に発掘されるって言われてるレアアイテムの事だよね?」
「そう。そして聖遺物っていうのは、どれも原理が理解できない、物理法則を無視した現象を引き起こすのよ。余談だけど、ルナと出会ったあの日、私もあのダンジョンで聖遺物を見つけたのよ!」
マナは自慢気に聖遺物の解説をしつつ、嬉しそうにこの間のダンジョンでも聖遺物を見つけたことを報告する。
「じゃあおじいちゃんは聖遺物なんて貴重なものくれたんだ……。ありがとうおじいちゃん……!」
聖遺物がレアアイテムということは知っていたものの、どういったものなのかは知らなかったルナは、そんなものを幼い頃にさらっとプレゼントしてくれた、遠くにいるスエズに感謝の念を送るのだった。
「それで、マナちゃんが見つけた聖遺物はどんなものだったの?」
ルナは先程自慢気に語っていたのを思い出したように訊ねる。
「ふふん♪ よくぞ聞いてくれたわね!それはこの、光の魔導書よ!」
これ以上無いドヤ顔で鼻を慣らしながら、懐から取り出してルナに見せつけるマナ。それは金具で口がきっちりと止められた手帳サイズの小型の本で、魔導書と呼ぶにしてはあまりにも小さかった。
「これは読み進めれば進めるほど、光の魔法の造詣が極まるという優れものなのよ!」
「ほえー……意外とちっちゃいんだねー? 私だったら失くしちゃいそう……」
色々抜けているルナなら、手のひらより少し小さいサイズの本などすぐに失くしてしまうだろう。
「ふふ。ただの本だと思ってもらっちゃ困るわ! この留め具を外すとね……」
マナが本の口を抑えている留め具をカチッと外すと、本が淡く発光し、次の瞬間……ぼんっ! と大きく立派な魔導本へと変化し、空中に浮いていた。
「おぉっ! なんかすごい!? それって私も読んだら光の魔法が強くなるのかな?」
ゴブリンを仕舞いながら、目をキラキラさせてマナに訊く。
「残念だけど、こういうタイプの聖遺物は一番最初に開いた者が所有者になるみたいで、所有者以外が読んでも白紙になっちゃうのよ」
「そっかぁ……。残念だけど、マナちゃんがそれで覚えた魔法を使うとこを見れればいっか!」
初めはがっかりした様子だったルナだが、すぐさま笑顔になって気分を切り替える。非常にポジティブである。
「ふふ、なんなら今見せてあげても………っ!?」
ゴゴゴゴゴゴゴ!!!
「わーっ! また地震! さっきより大きいよ!」
「姿勢を低くして! 幸い、ここは天井がないから崩落の危険は薄いわ!」
「わかった!」
呑気に雑談をしていると、またもや突然、洞穴の入り口で起きたものよりも大きい地震がルナ達を襲う。
ゴゴゴゴ……
二人が暫く身をかがめて様子を窺っていると、やがて震動は小さくなってきた。
立っていられない程の揺れだったが、今はもう歩けそうな程度にまで収まった。まだ、やや揺れが残っているが、二人はもう問題はないだろうと立ち上がる。
「全く……。さっきから一体なんなのかしら?」
「びっくりしたぁ……。でもマナちゃん……まだ安心はできないみたいだよ」
立ち上がったマナが先程から起きている現象に対しやれやれと頭を掻いていると、ルナがなにかに気づいたように声を漏らす。
ルナの見ている方向を見ると、そこにはひと目見ただけでわかるほど今までより体躯が大きく、立派な武装をしたゴブリンが現れる。
『それ』はどうやら、地震で目が覚めて奥から出てきたようだった。そして、それが何かをマナは知っていた。
「ゴブリンロード!? まさか、こんなところにいるなんて……。この多くの武装したゴブリン達を束ねていたのはコイツだったってことね……!」
ゴブリンロード。それはゴブリン達の長にして、熟練のB級冒険者でも苦戦する程の非常に強い力を持つ『王位種』だ。
なぜE級でも処理が容易なゴブリン達の長がB級でも苦戦するほどなのか。その理由は『王位種』という個体名にある。ロードと名の付く個体は、元となった通常種の数百倍から数千倍の力を持って生まれてくるという。つまり今、目の前にいるこのゴブリンロードは、今までのゴブリンなど比較にならない程の強さを秘めているのだ。
「くっ、厄介ね……。でもルナもいるし、私ももうただのB級じゃない。油断しなければ大丈夫のはずよ!」
王位種を見るのは初めてのルナとは違い、マナは過去に一度だけ遭遇し、戦ったことがある。故に簡単には行かないものの、負けることはないと高を括っていた。
「初めて見るけど、なんだか今までの敵とは雰囲気が違うね……」
――この敵はどこかおかしい。
ルナは直感的にゴブリンロードの異様さを感じ取っていた。マナとは少し違う感覚で。そのためルナは、様子を窺っているマナが動くよりも先に行動に出た。
「……私が先にいくよ! マナちゃんは、あいつに隙が出来たらそこを突いて!」
真剣な表情でそう言うとルナは足早にゴブリンロードの元へと走っていく。しかし頭には情けなくキノコが生えているのだが。
「あ、ちょっとルナ!? キノコのせいで全然カッコついてないわよ!?」
マナは一人で走っていくルナを止めようとしつつも、見たことのないルナの真剣な表情に困惑していた。
ゴブリンロードに攻撃が届く位置まで近づいたルナは、先制攻撃として一メートルくらいの氷柱を飛ばす。
頭目掛けて高速で飛んでいく氷柱。通常のゴブリンなら先程のゴブリン達のようにこれであっさり倒せるだろう。しかしゴブリンロードは強靭な左手で拳を作り、横薙ぎにしてあっさりと氷を砕く。
「やっぱりこの程度じゃ効かないかぁ……」
予想通りではあるが、内心がっかりしたのが半分、どれくらい強いのかが気になる気持ちが半分で分かれていた。
そんなことを考えていると、ゴブリンロードは右手に握った巨大な鉈をルナめがけて振り抜く。
ずおぉっ!
「わあっ!? あっぶなぁ……!」
体長数メートルもある巨体から繰り出されたとは思えない速度の攻撃に、驚きながらも紙一重で鉈を避ける。
そして攻撃を避けた直後、わずかな隙を見逃すことなくすかさず反撃に転じるルナ。ルナはその小さな体躯を活かして素早い動きでゴブリンロードの体を登っていく。
ゴブリンロードは自分の体を登ってくるルナを掴もうとするが、中々掴めない。そのまま顔面に向けてルナの拳が突き刺さる。
ばしぃん!
――だが……。
「……あり?」
「ふしゅるるるるる………!」
確かに顔面に直撃したはずだが、ゴブリンロードはパキパキと首を鳴らし、ピンピンしていた。
全く効いていない様子で驚いていた際に一瞬の隙が生まれ、ルナは足を掴まれてしまう。
「あっ? うわあぁっ!?」
がしっと強く掴まれたルナはそのままブンブンと軽々振り回され、地面や周りの木々に叩きつけられ、やがてマナのいる方へ強く投げ飛ばされた。
「ルナ!?」
自分のすぐ横の岩まで吹っ飛ばされて、瓦礫に埋まっているルナを見て驚愕しながら顔を向けるマナ。
上半身が瓦礫で埋まっていて、顔は見えないがピクリともしないルナを見て、嫌な考えがつい頭をよぎってしまう。
しかしそんなことを考える時間も与えてはくれないようで、ゴブリンロードは時を待たず襲いかかってくる。
ハッとしたマナは咄嗟に後ろを振り返りながら剣を抜く。
がきぃん!
「くぅっ……あぁッ!」
ゴブリンロードの振り抜いた鉈とマナの剣がぶつかり合う。しかし体格差もあり、力の比べ合いでは押し勝てず、マナは弾かれ、そのまま後方へ吹き飛ばされてしまう。
「こいつ、ただのロードじゃない……! ルナも私もこんなに苦戦するなんて、王位種にしてもあまりに強すぎる……っ!」
マナは剣を交えて、ようやく目の前のゴブリンロードが異常なことに気づく。それは今よりも自分が弱かった頃に戦ったゴブリンロードとは明らかに段違いの強さだった。
(まさか、ルナは最初からこの違和感に気付いて……? っ……私はまだまだ未熟ね……)
ルナがやられたのは、自分が心の何処かで敵を舐めていたせいだと、自責の念に駆られたマナは心の中でルナに謝罪し、頬に汗を伝わせながら再度、剣を構える。
「でも……私だってたしかに成長してるんだから! 『火霊よ、猛炎の力を! 光霊よ、栄光の力を!』クラス6! 【レッドフィジカライト・エンチャント】!」
以前にロードと戦った時から、二段階もクラスが上昇した、完全二重詠唱の身体強化魔法を自分に掛けるマナ。血の滲むような努力の末に身につけた、得意な炎と光の二属性を込めたとっておきの強化魔法だ。
するとマナの身体には光り輝く白いオーラが、剣には赤い炎のようなオーラが漂い始める。そして炎を纏った剣を強く握りしめて向かい合う。
「ゲギャアアアアアア!!」
対するゴブリンロードも咆哮をあげ、気を高めると、持っている鉈が赤いオーラを纏い始めた。
お互いに似たようなオーラを身に纏い、向かい合ったマナとゴブリンロード。
「一撃で決めるわ、覚悟しなさい!」
啖呵を切って、走っていくマナ。それに合わせるように鉈を構えてゴブリンロードも向かってくる。
「グギャアアアアアッ!!」
「ハァァァァッ!! 【光焔一閃】!」
バチィッ!!!
二人の攻撃が強くぶつかり合い、火花が弾けた瞬間、辺りには凄まじい衝撃波が生じ、周囲の木々はざわめき、大地は大きく震動していた。
どしん……
土煙が晴れると立っていたのはマナだった。対するゴブリンロードは首が落ち、ゆっくりと体が倒れ、ピクリとも動かなくなった。
「はぁ……はぁ……。やった……! 私でも勝てたんだ……! そうだ! ルナは!?」
勝利の余韻に浸っていたマナだが、すぐさまハッとなり、気持ちを切り替えてルナを探す。
「ほわぁ~……。マナちゃん、今のすごかったよ~!」
「あれ……貴女、大丈夫なの……?」
呆けた様子で座っているルナを見て、呆然と訊くマナ。どうやらだいぶ前から戦闘の様子を見ていたようだ。
「投げ飛ばされたのにはびっくりしたけどね……。割と全然元気です! ほら、傷もないよ? ……あっ! キノコ取れた! あははは!」
問題ないことをアピールするため、腕をぶんぶんと振ったり、飛んだり跳ねたりしているルナ。すると、ふと頭から生えていたキノコがぽろりと落ちた。
「あはは……。そ、そう……。よかった……。ほんとに……もう」
あれだけボコボコに叩きつけられていたというのに、ピンピンしている様子のルナを見て、マナは安心からか涙が出てきた。そしてマナは涙を隠しながら、そっとルナを抱きしめるのだった。




