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元兄と元妹の攻防

作者: チェリ姉

初投稿です。

なんか独白みたいになってしまいましたが、時間潰しにどうぞ。

私にはイケメンな幼馴染がいる。

顔はもちろん文句無く整っていて、性格は穏やかで物事を広い視野で見る事が出来、困っている人がいれば性別年齢関係なく手を差し伸べ、貴族としての矜持を保ちながらも平民を慮り、領民に慕われる。学問においても教師の覚え目出たく、馬術や剣術にも造詣が深い。詩や美術、音楽の才能は無いに等しいが、それさえも彼の欠点とはならず、親しまれる一因。

前世も含め、ここまで完璧な男の子は今のところ見たことが無い。歳はまだ7歳と若いながらも、将来が大変有望な男の子である。


そんな完璧な一つ年上のイケメン幼馴染は、目の前で優雅に紅茶を飲みながらのほほんと微笑んだ。


 「義妹が出来たんだって?」

 「…えぇ」


両親が学園の頃からの友人で領地も近いため、頻繁に私たちは会っていた。互いの家を行き来し、たまに母達に連れられ街へ出て喫茶店へと行き、人気な演劇を見る。

そんな穏やかな日常に変化が訪れたのはつい一ヶ月前の事だ。


 「フェ、フェリアと申します」


淡く輝く金色の髪は絹糸のよう。ぱっちりとした瞳に長い睫毛、物語でいうならばヒロインな立場であろう可愛らしい姿。辿々しい仕草でカーテシーをする目の前の女の子を目の前に、私はグッと拳を握った。





彼女は父方の遠い親戚で、領地が離れているということもあり、私自身は面識が無かった。私の父とフェリアが出会ったのは彼女の父親の葬儀だった。母親を早くに亡くし、不慮の事故で父親までも亡くしてしまったフェリア。その心労は計り知れない。

そこからどう話が進んだのかは子供の私には教えてもらえなかったため知らないが、ある日父に呼び出されて義妹ができる旨を伝えられたのだった。歳は同じだが、私の誕生日の方が早いので彼女は義妹になるそうだ。

まぁ、物語の貴族にありがちな父の不貞行為では無かったため、特別反発心も湧かない。むしろ歳の近い同性の友達は居なかった為にワクワクしていたくらいだ。


カーテシーをした後に不安げに瞳を揺らしたフェリアを見て、私は咄嗟に笑みを浮かべた。こんな小さな女の子をなに不安にさせているんだ私は。


 「こちらこそよろしくね。義妹ができると聞いてから心待ちにしていたのよ」


手を取って微笑めば、はにかんだ笑みを浮かべるフェリア。それを見て私は彼女を幼馴染に会わせないようにしようと心の中で誓ったのだ。



そう誓ったのがほんの一か月前。

のほほんと紅茶を飲みながら問うてくる幼馴染に内心ため息を吐きながら笑みを浮かべた。


 「お耳が早いですわね」

 「そうかい?これでも落ち着いてからと思って我慢していたんだよ」

 「彼女はマナーを学び始めたところですから。何か粗相があるといけませんもの」


だからもう少し待ってください、と暗に告げれば彼は言葉の意味を理解しつつも笑った。


 「それこそ実践で学べば良いよ。茶会といっても僕とエルナしか居ないのだから」

 「…」

 「…」


両者静かに微笑みを浮かべながら牽制し合う。それに折れたのはエルナだった。いつも穏やかなアルだが、変なところで頑固である。それを長年の付き合いで理解しているエルナはハァとため息をついて近くの侍女の1人に目配せをした。彼女は静かに礼をとり、フェリアの元へと向かった。


 「いや、もうホントに会わせたくない」

 「どうせいつかは会うんだから、早い方がいいだろ?」

 「……」


何故ここまでの幼馴染にフェリアを会わせたくないのか。それには私の前世の記憶が関係している。


事の発端は幼少期。母の旧友が訪ねて来た時に出会ったのがアルフレッドだ。覚束ない足取りでやってきた男の子アルフレッドを見て、唐突に私は前世を思い出した。

そして、目の前の男の子を兄だと認識した。なぜ見た目の違う彼をそう認識したのかは正直よく分からないが、同時にこの時に思い出していたアル。

互いに手探りで遊んび、互いにコイツ怪しいと思いながら、互いに気が緩み、ようやく前世の兄妹である事が判明したのだ。

あの時は嬉しさや懐かしさ、ガッカリさなどの色々な感情が溢れ出し、思わず吹き出して笑ってしまったが。


そんなこんなでできた幼馴染は、元兄妹という事もありすぐに気安い仲になった。それをお互いの両親が見て、私たちを婚約させようとする気持ちも十二分に分かる。分かるが、それとこれとは話が別である。一応本人達に確認をということで、父から話があった時に


 「え、嫌です」


思わず素で話してしまい、慌てて笑顔を浮かべて丁重にお断りをした。アルの事は兄としか思えない、婚約は絶対に嫌だと。

同じ頃、アルも当然ご両親から打診があったそうだが、妹としか思えないと断ったとの事だ。気が変わったらいつでも言ってねと母に念押しされ、とりあえずは保留となった婚約だが、両親が諦めていないことは分かる。外堀を徐々に埋めていかれそうで非常に恐れているのだ。





一方その頃、フェリアの元へと急ぐ侍女は穏やかに見える見た目とは裏腹に、胸中は心配と切なさで渦巻いていた。

気持ちを整えるように小さく息を吐く。

新しくできた義妹フェリアをしっかりと可愛がっているエルナの心境を思うと胸が苦しくなった。


幼い頃からのお付き合いであるエルナ様とアルフレッド様。誰から見ても仲睦まじいお二人だけれど…。


エルナが不安に思う気持ちを十二分に彼女は理解しているつもりだ。

市井では女の子のシンデレラストーリーの小説が流行っている。学園で出会ったヒロインと王子様が様々な苦難を乗り越え結ばれる、というストーリーだ。

その中に登場するような猪突猛進なヒーローや悪役令嬢と呼ばれるヒロインを虐める婚約者のようなお二人では決して無い。


だけど…。アルフレッドのお気持ちが移ろってしまうのではないかと不安に思う気持ちも痛いほど分かる、と彼女は少し俯き、そして再度気持ちを整えて歩を進めるのであった。








誤解である。


それはもう大変な誤解である。

そもそもエルナが心配しているのはそこではない。アルフレッドの優秀たる所以に心配しているのだ。


エルナは前世、とうに成人を迎えた大人であった。という事は当然兄であったアルフレッドもいい歳をした大人であったのだ。

それもあって今世勉学に困ったこともなく、子供のせいか聞いたこと、学んだことはすぐに覚える事ができた。馬術や剣術は前世殆ど触れる機会はなかったものではあるが、新しく学ぶことも問題なく吸収できた。

まぁ、芸術面においては前世今世共に才能はなかったが。


そして、前世の兄は大のアイドル好きであった。

いや、別にアイドル好きはいいのだ。私だって好きなアイドルは居たし、ライブだって行った。何が奴に不安を感じているかというと、薄々思ってはいたことで、ついぞ前世では言い出せなかった彼の傾向である。




アイドルの中でも若い、初々しい可愛らしい子が好きなのだ。




いや、わかる。可愛いとか、頑張れとか思う気持ちは重々分かる。それを売りにしているところは勿論あっただろうし、それを支えたいファンが多くいるのも事実だろう。

ただ彼に関して何が心配かって、転生したことで年齢が若返り、()()()()()()ということだ。



緊張した面持ちでやってきたフェリアを見て、アルフレッドは一瞬顔を逸らしガッツポーズをした。おい。

その後何事もなかったかのように笑顔を浮かべ、互いに自己紹介をする。アルの柔らかな雰囲気に少し緊張を解いたフェリア。緊張を解くのは危険ですよフェリア。


この幼馴染は表面上は完璧なのだ。特に初対面や然程親しくないような間柄の人に対して、とても人当たりが良い。エルナは目を細める。

そこから好きな食べ物や趣味に始まり、様々な話に広がっていく。最初の緊張はどこへやら。フェリアはそれはもう楽しそうにクスクスと笑っている。


 「なんだかお兄さまが出来たみたい…」


そう言って頬を赤らめる義妹フェリア。それを見たアルはズキューンと胸を撃ち抜かれたような衝撃を受けグハァと叫びそうになる口を手で抑えて天を仰いでいた。

それを冷めた目で心底気持ち悪いと思いながらエルナは見た。


いくら顔や声が違えど元兄妹。いくら外見がイケメンだとしても、元兄が可愛らしい義妹に悶えている姿など気持ち悪い以外の何物でもないのだ。


弁解するならば、2人の前世のときの関係はさほど悪くはない。一緒にゲームする事もあれば、食事の時間も同じ。仲が良すぎる訳ではないが、互いに気を使わない存在。喧嘩だってすることもある。存在自体が鬱陶しく思えた時だってある。大人になって関わり方は変わったが、総合的に2人の兄妹仲は悪くはなかった。


しかし、それとこれとは話は別なのだ。

前世いい歳だった兄がまだ幼さの残る少女に興奮している姿は気持ちが悪い。心底軽蔑する。


…いや、でも待てよ?


小さくにカットされたケーキを更に一口サイズにしてフォークに刺し口に運ぶ。優しい甘さとなめらかなクリームが口の中でほどけ、ジャムの酸味が、後味をスッキリとさせてくれる。

うんうんと頷きながら考えを巡らせる。

 私たちは親同士の口約束ではあるが仮婚約者だ。周囲の人達からも何故か婚約者同士のように扱われる。

アルフレッドがただの幼馴染なら問題なかった。イケメンだし。

ただ、その中身は元兄である。

顔や声が違えど、元血を分けた兄妹である。普通に無理だ。あり得ない。


ここで義妹の登場は幸運ではないだろうか。

貴族の結婚は家同士の繋がりだ。という事はアルバートとの婚約は私でなくても良いのでは?

未だ悶えているアルは心底気持ち悪いが、アルを義妹フェリアに押し付…くっつけることは私にとって最善では…?!

いえ、もちろん…そう勿論義妹の気持ちが第一だが、ポッと頬を赤らめる義妹を見れば印象は現状悪くはないだろう。


よし決めた。

私はアルとフェリアを積極的に近付け、婚約者役を喜んで辞退してやる!!










そんなこんなで始まった計画も時は流れてはや数年。

学園に入学した私たちは、ティータイムには学園のテラスでアルの友達だという第2王子殿下を加えた4人でテーブルを囲んでいた。


2対1では私が邪魔者ではないかと思い、アルに友人の紹介を頼んだらまさかの王族が来て非常にビビったのを覚えている。

爵位的には問題は無いが、私の希望としては同じくらいの爵位で、我が家に婿入りしてくれるような人材なのだ。年上ならなお良し。

フェリアがアルの家に嫁ぐなら、私が家を継ぐ事になるからね。今思えば、フェリアを引き取ったのは家を継ぐ役目もあったのだろう。アルは嫡男だ。ウチに婿入りする事は無いだろうし。


順調に仲を深めるアルとフェリア。クスクスと笑い合う2人はそれはもう絵になる。そして、そんなフェリアを目を細め愛おしく眺める殿下。


え、ちょ。


思わず二度見した。いや、あのもちろん、義妹の気持ちは大事なのでアルを無理強いをする訳では無い。

無い、のだけれど。

いや、諦めないぞ私は。

殿下はなかなかの美形だし、目の保養にしつつ義妹に元兄の良いところを持ち上げて薦める日々。


だけれどそんな奮闘も虚しく、殿下とフェリアが婚約を発表した。

いや、気付いてた。気付いてましたけど。そりゃあこの4人で過ごす時間はそれなりにあったのだ。そりゃあ2人が穏やかに愛を育んでいく様も隣で見ていましたとも。見ているこっちがソワソワニヤニヤしちゃうようなウブな2人。

それをアルと2人して微笑ましく見守っていれば、殿下が頬をついてニヤリと笑った。


 「お前らも早く婚約すれば?」

 「「本っっっっ当に無理!!!」」


こうして今日も私たちは全力で抗う。

きっとこの後に兄以外とのキュン要素が出てくるはず。おそらく。

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