夏の憂鬱
誰にも言えない。僕の秘密。
墓場まで持っていく、いかざるを得ない。
思い出というには謎めいていて。
夢のような、いや本当に夢だったんじゃないかとも少し思うんだけど。
30年近く経った今でも、たまに思い出す。やけにリアルなあの記憶。
スマホのメモにだけ残しておく。
じっとしているだけで汗が噴き出していく、クソ暑い夏の日だった。
午前中の授業でおしまいだったから、終業式かなんかで、ちょっと特別な日だったんだと思う。
その日は特に友達と約束してなくて。
一人で、昼下がりの、人もまばらな、けだるい空気漂う電車に乗って、普通に家に帰った。
駅から歩いて20分ほどにある実家への帰り道は特に記憶にない。
いつも通りだったのだろう。
家に着くと、親も兄弟も仕事や学校から帰ってきてなかった。
その時僕は、お、誰もいないからラッキー!
好きなだけゲームできるぞとしか思っていなかったはずだ。
急いで堅苦しい制服から普段着に着替えて、プレステでRPGに勤しんでいた。
しばらくたつと後ろで気配を感じた。
おもわず振り向くと。小汚いおっさんと目が合った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
多分ゲームで気が高ぶっていたんだろう。
普段は小心者なぼくだけど「オイッ!!」とでかい声で叫んだ。
その自分の声で更に自分が鼓舞されて、おっさんに突進していった。
おっさんの様子は覚えてない。
ただ汚いおっさんという印象だった。
血が出てはいけない、証拠を残してはいけないと、なぜか思っていて。
ひたすら腹回りを中心にパンチやキックをしたと思う。
おっさんもなぜか全く反撃せず。僕からの一方的な暴力となった。
そして気が付くとおっさんは動かなくなっていた。
僕は怒っていた。何勝手に入ってきてんだよと。何見てんだよと。
人のゲームの時間邪魔してるんじゃねえよと。
おっさんが動かなくった直後はざまぁ見ろと思っていたが、しばらくすると、今度は震えた。
やっちまった、殺人だと。
でも切り替えて、死体を隠そうとおもった。
若い僕の前途ある未来を、汚いおっさんに邪魔されてたまるかと思った。
必至に隠す場所を思案した。
その時ふと思いついたのが。広くて、家族もたまにしか使わないキッチンの床下収納で。
思いついたらもうそこしかないと、収納の蓋をあけていた。
幸運なことに、人を入れるのにおあつらえ向きな大きめの甕(ぬか床?)が置いてあって。
僕はそこにおっさんをいれ、ふたを閉めた。
そして何事もなかったかのようにゲームを続けて。
しばらくすると眠くなったので、自室のベッドで眠ってしまった。
その後、親や兄弟が帰ってきて、夕飯になり、風呂に入って、眠ったら。
ほんとに不思議なことなんだけど、僕はこのことを忘れてしまった。
このことを思い出したのは半年くらい経った後で。
つまんない国語の授業中にふと思い出して。一人で真っ青になった。
学校から帰ったら速攻で確認しないと、と思ったけど。
家に帰ったら当然親がいて、不自然に床下収納なんて確認できず。
また数日がたった。
確認ができたのは、確か休みの日で、親や兄弟が買い物に行くタイミングで、
普段だったら一緒にいってたけど、自分だけパスして。
恐る恐る、床下収納を覗くと。
甕ごとなくなっていた。
僕は訳が分からなかった。
あれは、夢?いやリアルだよな。いやでもなんでないの?
親が見て、捨ててくれた?
思考がぐるぐるして、パニックになるが、とにもかくにも安心したのは、死体がそこにないってこと。
証拠がないということで正直助かったと思った。
ただ、次によぎったのは、あいつは誰だったのか?ってことで。
あいつの知り合いや親戚が訪ねてきたらどうしよう、
とりあえず、知りません、見たことないですというしかない、と腹をくくった。
そんな覚悟を決めてから、ずいぶん時はたったが、特に何も起こらずここまで来てしまった。
妙に生々しい記憶。
本当に何だったんだろう。
思春期特有の夢や妄想だったんだろうか。
今でも僕はたまに思い出し、また記憶の彼方に封印する。
ちょっとプロット思いついたので書いてみました。
普段エッセイしか書いてなかったので体裁もそんな感じです。
何かしらポジティブな反応いただけるとありがたいです(笑)