君の知らない私の世界〜こんな感情今まで知らなかったので困惑してるんですけど誰か教えていただけませんか?〜
知らない世界を知ることは、必ずしもいいこととは限らなくて、
私、柳城すみれ はため息を吐いた。
「すーみん、どうしたの?」
「何でもないわよ」
同じクラスの白濱みい。
彼女こそが、私の世界のイレギュラーだった。その声を聞くだけでもう頭が痛い。
「あと、すーみんと呼ぶのはやめて」
「可愛いのに?」
「みいが言ったって可愛くはならないわよ」
私たちは割と仲がいい。なんでもきっちりしたい私と、その場のノリに任せるみいとでは少しタイプは違うけれど、居心地は悪くない。
「すーみんため息ばっかついてると幸せ逃げるよ?」
「みいに話しかけられたときから逃げてるから問題ないわ」
「さっきからひどいね?!」
はぁ、騒々しい。
うるさいんだ。何がって聞かれるとみいじゃない。むしろみいの声は可愛くて好きだ。
とにかく、心臓がうるさいんだ。
「もー、そんなこと言うすーみんには私の作ったお菓子あげないんだから」
「え゛っ」
あ……しまった。
私のそんな声を聞くなりみいは嬉しそうに私へと歩み寄る。
「だよね?だよね?すーみんてば私のお菓子大好きだもんね?」
あぁもう、勝ち誇った顔をするな。
「でも!今日のみいちゃんは機嫌がいいので特別に許してあげます」
「自分でちゃん付けとか……」
「何か言った?」
「ナンデモ……」
こんなやりとり、今までもあったのに私は変だ。
「はい、あーん」
「……」
「いらないの?」
「う……あ、あー……」
「よろしい♪」
口に入れられたマカロンを咀嚼する。甘みにも似た苦味が口の中を暴れまわって、マカロンなはずなのにザクザクと謎の歯ごたえがおそってくる。
つまるところ、みいのお菓子は美味しくない。なのに、この宇宙じみた謎の感覚が癖になってしまったんだ。
「美味しい?」
「べつに美味しくはないよ」
「正直すぎ!」
可愛い……。
口に出そうになってしまったのを必死でこらえた。
みいには言えない、私の知らない世界。
こんな感情は、知らない方が楽だった。
「あ、今日用事あるんだった…また明日ねっ」
「うん……また明日」
その背中に名残惜しさすら感じてしまうからもうだめだ。
みいが居なくなったのを見届けてから、私はうずくまる。
顔が熱い。心臓がうるさい。一緒にいても苦しくなるだけなのに、みいと居たいなんて願ってる。
「なんなの、これ……」
この気持ちの行き場所を、頭の悪い私はまだ知らないんだ。
☆☆
砂糖は多めに、そして少し焦がすように。火の強さは、やり過ぎない程度にやり過ぎる。
お菓子職人の娘の私が、"あえて"美味しくないように作る技だ。
「お手本みたいなの作っても仕方ないもん。すみれちゃんは私の味だけ知ってればいいよ」
少しずつだ。少しずつ、私にうめつくされていってよ。
「好きだよ、すみれちゃん」
すみれちゃんの世界を私で塗りつぶさせてほしいんだ。




