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第6話 たらい回し書類地獄

「そりゃ私が悪いよ。死んだの完全に不注意だったのは間違いないし……でもだからって……こういうところまで役所じゃないくていいのに……」


窓口のならんだ廊下をぶつぶつと文句を言いながら、私はポツンと一人歩いていく。


故人面談室での面談が終わると、ムクロに転生希望を書き記した巻物と、十枚近くの大量の書類を渡された。


「それではこちらの各種書類に必要事項を記載し、それぞれ各担当の窓口へ行って手続きをしてくださぁーい。私は次の方のお迎えがあるので、こちらで失礼いたしまぁーす」


私が必要書類の多さに目を白黒させている隙に、ムクロはそう言ってふわりと宙にかき消えるよつにいなくなってしまった。


面談室を出て近くの書記机でせっせと記入を行い、こうして該当の窓口を探して歩いている。

しかも各窓口には何千人単位で並んでいるのか、番号札が4007番とか3531番とか桁ハズレの数字を叩き出している。

通常の役所と同じく、待合室という場所で自分の番号札が読み上げられるのを待つ仕組みのようだが、待つ以前にまだ半分も書類の提出先窓口が見つかっていない私は、こうして廊下を歩いているわけである。


だいたいにして広すぎるここの役所は、1フロア構造だというのにどこまでもどこまでも広い。

地図はムクロからもらってあるので、課の名称からだいたい目星をつけて番号札をもらいにいくのだが、それにしてもよくわからない。

ここに来るまですでに3回、書類をチラ見した受付の死神に「こちらではないです。〇〇課へどうぞ」と冷たく言われて、すでに通った道を行ったり来たり。

しかもそう言われて行った課ですら、別の課を案内してくるというたらい回しパターンもあり、発狂しそうになっている。


「ムクロ、ツギアッタラ、ブットバス。ムクロ、ツギアッタラ、ケットバス」


私は握りしめすぎてくしゃくしゃになった申請書類の束を胸の前で持ち、片言の呪文をブツブツ唱えながら、ただ長い廊下をトボトボと歩く。

たまにすれ違う寿命を全うしたらしい亡者が、担当死神に「次は〇〇課へ行きましょう」などと説明されている姿を見るたびに神経が磨耗した。

魂体のせいでどれだけ歩いても足も体も疲れないのがせめてもの救いだが、すでにメンタルが限界に近い。


やっと目当ての窓口の札が見えて来た。

吊るされた白いプレートに「全前世情報管理課 開示請求窓口」と長ったらしい課名が書かれている。

受付の中年女性の死神にくしゃくしゃの申請書類を手渡した。

死神は、書類を洗い立てのタオルか何かのように、両手で引っ張って皺伸ばしすると、老眼鏡で内容を確認する。


「はい、こちらで結構ですよ。すぐお呼びしますので、掛けてお待ちください」


番号札すら渡されずに、そう言われる。

振り返ると、廊下の端に確かにソファが置いてある。


下を向いてずっと恨み言を言っていたので気がつかなかったが、随分と人気のない場所である。

おまけに3つ先の窓口の先は、死役所で初めてみる廊下の突き当たりになっていて、左右に道がわかれている。

広大な死役所の端っこの端っこに来てしまっていたらしい。

少ないところでも2052人待ち状態だったエントランス付近と比べて、番号札すら渡されなかったし、ほとんど人が来ないエリアなのかもしれない。

私以外の亡者は目視できる範囲にはいなかった。


ムクロが「面倒な手続きが増える」と言っていたが、この手の前世調査を希望する人自体少ないのかもしれない。

ただこの課の前に行ってたらい回しにされた「前世管理課」には、それなりに亡者がいたし、みんながみんな、自分の前世に興味がないわけではなさそうだ。

「全前世情報管理課 開示請求窓口」は読んで察するに、前世管理課の上位互換だろう。

より詳細な全ての前世情報の開示請求ができると……。

一つ前の前世を調べるだけではわからないほど、ややこしい情報なのだろうか。

私の禁モフ人生の根源というやつは。


「ミドリさん、どうぞー」


ソファで悶々としている間に呼ばれて、ハンコを押した書類を手渡される。

本当に、待ち時間ない。

嬉しい反面、通常の窓口と落差がありすぎて、若干怖いな。


「こちらの書類で開示請求で承りましたので、これから調査期間に入ります。後日担当死神を通じて全前世謄本を発行致しますので結果をお待ちいただき、次のお手続きに進んでいただければと思います」

「すぐわかるわけじゃないのか……」

「こちらでは情報開示だけの業務になりますので。ただ発行された謄本を添付し、正当な理由をもって『魂魄線更新課』で手続きされますと前世の影響ない転生も可能かと思います。ミドリさんの場合は一応死因に関係していますから、おそらく通るかと思われます」


や……や……ややこしい……。

しかもこれだけ面倒臭い上に、さらに手続きが必要で、なおかつ書類審査が通らない可能性もあるのか。

この面倒な工程が、あとどのくらいあるんだろうか。

モフモフのためとは言え、死んじゃいそう。死んでるけど。


そのときピンポーンと音が鳴って、「2053番のミドリ様、死民課死民証明書発行窓口までお越しください」とアナウンスが流れる。


ああ、これで書類の提出はやっと2枚目……。


泣きたい気持ちになりながら、エントランス方面へ死役所廊下をまたトボトボと歩いていく私であった。



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