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第20話 念話は楽しい

少年は目をパチクリと瞬かせ、次の瞬間には顔に笑顔が花開く。


『おぉおー! 聞こえてる? じぃじ、聞こえてるの? もしもーし!』


テンションが急にうなぎ登ったエルメルが、飛びついて怒鳴るように言ったので、ジハイルが弱冠煩そうに苦笑する。


「ああ、聞こえとる、聞こえとるとも。もしもし?」


「もしもし」という言葉がなんのことやらわかってないだろうに、ノッてくれる優しいじぃじ。

エルメルは嬉しさ余って尻尾を振り回し、ピョンピョンと跳ねる。


『じぃじ、しゃべれるな!』

「そうだな」

『楽しいな!』

「まあなぁ。だが、君はなんというか……」

『なんだ?』

「いや……思った通りというか、念話する前と少しも印象が変わらない感じだ」


見たまんま、年相応に、裏表なく、くるくるころころとよく表情が変わる少年。

細かい事はともかく、気持ちや感情に関して言えば話せずとも伝わっていたらしい。


「今私たちは仮だが主従関係だ。意識の波長を合わせたので、念話……つまり口でなく頭の中で会話を成立させることもできる」


つまりクロイツとの普段のやり取りが、ジハイルともできるようになったというわけだ。


「さて、話せるようになったところで、いろいろと話を聞かせてほしいのだが、構わないかな」

『もちろん! あ、でも、その前に僕も言いたかったことが……』

「何かね?」


ジハイルをジッと見つめたかと思うと、エルメルはニカッと笑う。


『名前、ありがとう。とっても気に入った!』


素直に感謝を述べると、老父はキョトンとした後、「それはよかった」と優しく微笑む。

ジハイルはコホンと咳払いを一つ。


「こちらこそ怪我の手当てをしてもらった。その礼と思ってくれ」


甲冑の隙間から服をたくし上げ、薬草が塗られた肌を見せながら、ジハイルは笑う。

言ってジハイルはまた咳払いをする。


「ちなみに、この手当に使ってくれた薬草は……?」

『滝の裏とかジメジメしてるとこにたくさん生えてる草。じぃじが飲んだお薬の匂いに似てるやつ』

「お薬……? ……ああ、ポーションのことか」


やっぱりあれはポーションっていうのか。

薬とは違うのだろうか。

思っていると、ジハイルがまた咳をする。

なんだかやたらとさっきから咳をしているような。

喉の調子でも悪いのだろうか。


『水飲む?』

「……もらえるかの」


なんか元気もなくなってきたような。

もしかして実は従魔契約って、ものすごく体力とか魔力を消耗するんじゃないだろうか。


ココナッツのような丸くて硬い木の実の殻で作った水筒。

手にとって軽く上下に振り、水がまだ入っていることを確認して栓を抜き、ジハイルに差し出す。


「すまん……な……」


だが、ジハイルは水筒を上手く受け取れずにとり落す。

水を撒き散らしながら、水筒は転がっていってしまった。


「これはなんじゃ……体が痺れて上手く……」


ゴホゴホと苦しそうな咳をしながらジハイルは蹲る。


『どうしたの? じぃじ、苦しいのか?』


急に苦しみ出したジハイルにどうしていいかわからず、あわあわと慌てる少年。


『騒がしいな、何事だ』


その時大きな羽音と風と共に、クロイツが洞窟に入って来た。

少年だけでなくジハイルも、そちらを見る。


『クロイツ!』

「ゴホッゴホ……クロイツ……?」


入口を覆って立つ黒い獣。

ジハイルは青い顔で咳き込みながら、顔を強張らせる。


『クロイツ、じぃじが! 元気になったと思ったのに、死にそうだ! なんでだ!?』

『説明下手か』


大して興味もなさそうに、クロイツはのしのしと近づいてくる。

食後で眠いのか、なにやら随分不機嫌そうだ。


『ねぇ、なんでだと思う? さっきまで元気だったんだけど』


クロイツはチラと、咳き込んで蹲っているジハイルを見る。

そして、ジハイルの後ろに置いてある、パモの残り肉を見る。


『……お前、今朝のパモ、尻尾の針で突いただろ。変な味がした』

『おん?』


言われて少年は、はっと今朝のことを思い出す。

そういえば、パモを追い詰めるためにちょこっとだけ針の先で背中に傷をつけた。

でも針で突いたくらいで……というところまで考えたところで、エルメルは「あ」と声を上げる。


『もしかして……』

『毒腺に蓋をした覚えはあるか』

『……にゃいです』


ふぅーと長い長いため息を吐きながら、『だろうな』と呟くクロイツ。


やばい、やってしまった。

久しぶりにパモなんか捕まえようとしたから、すっかり忘れてた。


パモはプルプルした水っぽい生物だけあって、毒のまわりが早い。

ちょっとの毒でも、瞬時に全身くまなく行き渡る程度には。

己の尻尾の中にある毒腺を閉じずに、尻尾でついたわけだから……。


『おい、そろそろ死にそうだぞ』


見下ろすと、泡を吹いてジハイルはビクンビクンと痙攣している。


『ぎゃー! じぃじ、ごめーん! 死ぬなぁー!』


慌てて、ザルの上で乾かしてあった白い朝顔のような花のついた薬草をありったけジハイルの口に突っ込むエルメルだ。


『なんか不憫になってきたな、そのじいさん』


クロイツは、口から白い朝顔が咲いた老父を見下ろし、気の毒そうに溜息を吐くのだった。

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