第17話 知らない種族
「うまかった、ありがとう」
老人は言って、満足そうな笑みを少年へ向ける。
最初こそ警戒して強張った顔で食べていたジハイルだったが、どうやら口に合ったらしい。
ただあまりに量が多くてもう食べきれなくなったのか、彼は半分食べたところで食べる手を止めて、口の周りを手のひらで拭った。
ジハイルが食べたのは少年がパモと名付けた、栄養価の高い珍味だ。
水辺に住む大きいウーパールーパーみたいな白く透き通ったトカゲを追いかけ回すと、なんとか逃げようと細長い蛇のような尻尾を落として逃げる。
前世風に言えばトカゲの尻尾切り。
だが少し違うのは、逃げるために切られたパモの尻尾が格段に美味しいくなるということ。
血抜き不要で手軽に食べられえるゼリーのような柔らかい尻尾は、淡白だが旨味がぎっしりつまった魚の白身のような味がする。
ただパモは普段水の底でじっとしていて朝の早い時間くらいにしか陸に上がらないのでそもそもの遭遇率が低い上、なかなか逃げ足も俊敏。
しかもあやまって殺してしまうと味が落ちてしまうので、尻尾を落として逃げるよう適度に追い詰めないといけないのがちょっと難しい。
でも美味しそうに食べてくれてよかった。
捕まえるには少し手を焼いたが、甲斐があったというものだ。
「君に聞きたいことがあるのだが、よいかな」
食べ始めてから終わるまで、獣座りでじっと眺めていた少年にジハイルが問う。
「……信じがたいが、君はここで暮らしているようだな。近くに村や集落は」
少年がぶんぶんと首を振るとジハイルは残念そうな顔になる。
「そうか……では、一人で住んでいるのか」
問われて、またぶんぶん首を振る少年。
「クぉイぅと」
「……くぉ?」
「クぉイう。まんて、なめ」
「まんてな?」
少年が何を言ったのか聞き取れなかったのだろう。
当然だ。喋った当人ですら、自分の耳で聞いて意味不明だ。
ジハイルは腕を組んで、うーんと唸って考え込む。
「これでは話が進まんな」
ややあってジハイルは顔を伏せたまま横目で少年を見る。
少年を下から上までじーっと見たかと思うと、何か葛藤しているのかイヤイヤと首を振り、「しかしなぁ……」と独り言を言って、また少年を横目に見た。
「君は……獣人……いや、魔人か魔獣の類かね?」
おお、獣人・魔人・魔獣。
随分ファンタジーな単語が並んだ。
魔法使いがいる世界だもの、そいうこともあるか。
なんだか、俄然面白くなってきた。
とはいえ、自分の名前もないのに種族名なんかわからない。
そもそも違う種族に会ったことがないし、種族という概念すら正直わからない。
前世では人種というものはあったけど、そんなレベルじゃないというのはなんとなくわかる。
獣人と魔人と魔獣って何がどのくらい違うんだろう。
そんなこと悶々と考えて首を捻っていたら、ジハイルに「まあ、そうじゃろうな」と納得された。
「突拍子もない方法ではあるが、一つ試してみたいことがあるのじゃが」
言ってジハイルは、真面目な表情で少年を見る。
「私と従属契約をしてみんか」
従属契約。
言葉の意味合い通りに捉えるならば、子分になれ的な意味だろうか。
「従属契約……君が魔人か魔獣なら従魔契約になるが、とは言っても強制力の強い契約をするつもりはない。条件つきの仮契約じゃ」
ジハイルは少し笑んで、「もちろん、お互い同意の上でな」と付け加える。
少年はジハイルを見上げ、ニッと笑いかえす。
「いーよー、じゅーまっけする」
「……! これ、条件を聞かずに簡単に承諾するでもんではないぞ」
即答したら、怒られてしまった。




