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帰りたかった未来  作者: 三條 凛花
本編
6/27

5.違和感

 駅前で楓と別れて電車に乗る。


 バス同様、電車の本数も驚くほど少ない。時間帯にも寄るけれど1~4時間に1本。終電は21時。

 ここは始発駅だ。発車時刻の30分ほど前から電車は停まっており、入り口は開閉ボタンを押して自分で操作するタイプで、電車が出るまで15分ほどあった。ホームの椅子に座って、駅前のコンビニで買った紙パックの紅茶を飲む。

 ちゃんと味覚がある。なんてリアルな夢なんだろう。たっぷりはいっていた紅茶を一気に飲み干して、ゴミ箱に捨てた。



 電車がホームを滑り出した。懐かしい顔もちらほら見たけれど、中学時代に話していた人でもなかったので、お互いに声をかけなかった。十分ほどあれば家の最寄り駅に着く。こういうときはたいてい、ネットでレシピを検索したり、ウェブ小説を読んだり、家に帰ってからすることリストを作ったり、トークアプリの返信なんかをしていたけれど、このガラケーにはそんな機能はない。

 仕方なく携帯を開き、進藤からのメールを確認する。


「遥、おつかれさま♡♡♡ 無事に家についたかな?? 心配だよ~っ(´;ω;`) 今日は一緒に帰れなくて寂しかった(T_T) 明日は一緒に4時バス乗ろう♡♡♡」


 絵文字の多さにくらくらした。返信する気力も起きずに、パタンと携帯を閉じた。

 そうだ、進藤はこういう人だった。顔だけ見たら芸能人のように整っているのに、悪い意味でのギャップがあって残念なのだ。

 校内では結局私以外の彼女はできなかったはずだ。




 私には男女問わず「いいな」と思った人のすべてに目をつむる癖がある。どこかで違和感があるのに、それに気がつかないふりをするのだ。ちょっと悪口が多いなとか、今の言い方きついな、なんて思っても、黙ってなかったことにする。

 そうして、なにか決定的な出来事があったときには、修復できないくらいに相手のことが苦手になってしまうのだ。そうなるともう、元のように接することはできない。


 例外といえば、夫の悠仁だけだった。彼は、私がもやっとするとすぐに気がつく。そうして何が理由なのかと詰め寄ってくる。だからしょっちゅう喧嘩にもなるのだけれど、その都度、心のうちを吐き出すことができていた。




 電車を降りると、空の端がすみれ色になっていた。無人駅の改札を抜ける。影を落としたように少しずつ暗くなっていく町を足早に歩く。家まで帰る途中には荒れ果てた神社がある。夜にその前を通ると、両脇に植わった柳が人の手のように揺れる様が街灯に照らされて気持ちが悪かったのを思い出したのだ。

 年齢を重ねても、怖がりは変わらないらしい。


 生まれ育った家に帰るのは、私の中ではこの間のお正月以来だ。でも、記憶にあるよりずっと新しい家がそこには建っていた。カーテンの隙間からオレンジ色の灯りが漏れている。カレーのにおいが外まで漂ってくる。去年死んでしまった柴犬が、犬小屋から出てきてじゃれつく。


 大きく息を吸い込む。そして、私はドアを開けた。


「――ただいま」


進藤の絵文字は、機種依存文字で投稿できなかったんだけど、実際にはヒヨコやクローバーやキラキラや星などが1文につき5個以上つながっている様子をイメージしています。

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