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帰りたかった未来  作者: 三條 凛花
本編
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4.安堵

「――高校さ、うまくやっていけるかな」


 楓がぽつりとこぼす。

 少し意外だった。控えめで優しく、それでいてノリがいい楓は、中学までも、高校でも、いつもたくさんの友だちに囲まれていた。不安に思っていた時期があったなんて知らなかった。


「みんなクラスがばらばらになったよね」


「ああ。別に中学のとき仲良かったとかでもないけど、同中のやつを見るとなんかほっとするよな」


「わかる」


 15年ほど前の記憶をたぐり寄せながら答えた。

 でも、今、とても安堵していた。夢とはいえ、15年も前の状況だ。親しかった楓を見つけて、どれほど心強かったか。半ばパニックに陥りかけていた心がすとんと落ち着くのが自分でもわかった。今、とても救われていた。

 長時間歩くときというのは、心の中にとりとめもなくいろいろな思考が湧き出してくる。彼と話していなければたぶん、考えたくないことをいろいろ考えて、落ち込んでいた。


「――よし、行くか」


 楓が立ち上がって、自転車のスタンドを上げた。カラカラという音をさせながら歩き出す。――ああ、夢が覚めるのを待ったほうが早いかもしれないけれど、とりあえず自転車を買ってもらおう。幸い明日は土曜日だ。自転車屋に連れて行ってもらわなければ。私はそう決意した。




 楓や私の家から高校までは、自転車で1時間ほどかかる。だから、入学してから最初の3ヵ月ほど、バス通学をしていた時期があった。体力のない私にはとても通えないと思ったのだ。ただ、4時バスや5時バスの制限が辛すぎて、早々に根を上げて自転車通学に切り替えた。

 だから、 初日から自転車通学だった楓は、歩いて帰るという私に合わせて駅まで自転車を押して歩いてくれていた。それにしても、高校生のころに自転車で通っただけの道だと言うのに、やけにリアルに風景を覚えていることに驚いた。

 変わった名前の美容室や、心配になるくらい安いパン屋。昭和を感じる古い町並みの中にぽつんと新しい、童話に出てきそうな雰囲気のケーキ屋さん。MDに入れる曲を借りるためによく友だちと寄ったCDレンタル店。

 そうした馴染みある店たちは、細部まで鮮明に再現されていた。




 ちなみに、進藤に用事について問いただされたとき、ごまかしてくれたのは楓だった。駅まで行く道に中学時代の先生が住んでいて会いに行くという言い訳をしたのだ。かなり苦しい理由だったけれど、私たちが同じ中学ということもあり、しかも途中に先生の家があるのも本当なので嘘くささが減ったのか、なんとか進藤から逃れることができた。


 腑に落ちない顔をしていた進藤だが、バスに乗り込むと、一番後ろの席に移動し、私に向かってひらひらと手を振った。あの甘い顔に何度騙されたことだろう。

 彼の乗ったバスが見えなくなって、ようやく一息つけたのだった。

「自転車屋に連れて行ってもらわなければ」から「父に」を削除しました。

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