3.楓
引いてくれない進藤に困っているときに助け舟を出してくれたのは、幼なじみの藤ヶ谷楓だった。幼稚園からの腐れ縁だ。背が低くて色白で、小動物っぽい可愛らしさのある少年だ。――高校を卒業してから、一度も会っていないけれど、私にとっては気のおけない男友だちだった。
「楓、ありがとう」
20分ほど歩いたところで公園があったので休憩した。メンタルは徒歩に慣れていても、身体がついていかなかった。そういえばこの頃の私は偏食で、お菓子が大好きで、運動が大嫌いだったのだ。すっかり忘れていた。
自販機で飲みものを買い、ベンチに腰掛ける。少しずつあたりが暗くなりはじめていた。
「別にいいよ。てかさ、あいつ、なんだったの?」
楓は怪訝な顔をして訊く。
「同じクラスの人。――告られた」
「はあ!?」
楓は飲んでいたコーラを吹き出しそうになってむせた。
「いくらなんでも早すぎだろう。昨日の今日だぞ」
「――本当にね」
冷静に考えればわかることだ。15歳の私の頭がお花畑だっただけで。私は温かいほうじ茶で喉を潤した。
それから制服のポケットをまさぐり、携帯を取り出して、今更ながらスマートフォンじゃないことに驚いて取り落しそうになる。パカパカ開く携帯。調べものには向かない。いろんなキャラクターのストラップがごてごてとぶらさがっている。ピンク色にランプが点滅していて、メールが届いている。進藤からだ。
うんざりしてパタンと携帯を折りたたみ、じゃらじゃらしたストラップは外してスクールバッグに仕舞い、すっきりとしたガラケーをポケットにしまい込んだ。
「織田さ、――なんか、感じ変わった?」
楓が訊く。今度は私がむせそうになる番だった。まずい、若々しさがなかっただろうか。
「普段、自販機でお茶とか買わないじゃん。絶対甘い飲みものだっただろ」
20代のときに美容と健康を研究することにハマり、飲みものは基本的に水かお茶しか飲まなくなった。それもできるならば温かいものだ。身体は冷やさない。甘いものも摂り過ぎない。
「それに少女漫画好きの織田だったら、ああいう顔のいいやつに告られたらふらっと付き合いそうだけど」
楓がく、く、と笑う。的を得た推測に苦笑するしかなかった。