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帰りたかった未来  作者: 三條 凛花
本編
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2.5時バス

「遥ちゃん、走るぞ」


 そう言うと、進藤は私の手を取った。


 私たちの通っていた高校は、市街地から離れた田んぼの真ん中にあった。自転車や徒歩で通うか、親に車で送迎してもらうか。生徒たちの通学方法は、基本的にそのいずれかだ。最寄り駅は徒歩40分。唯一の交通機関がバスなのだけれど、「4時バス」「5時バス」と呼ばれていた、16時半と17時半にそれぞれやってくる1台を逃すと駅まで歩くほかない。


 そして、私たちの目の前に迫っているのは、おそらく5時バスだ。だから進藤は慌てているように見せているのだろう。――本当は自転車が学校にあるのに。



「私は用事があるから大丈夫です。進藤くんだけ良かったら乗ってください」


 握られた手首をさりげなく外しながら言うと、進藤は怪訝な顔をした。


「は? 遥ちゃん、なんで他人行儀になってるの? 敬語とか意味不なんだけど」


「――荷物を持ってきてくれてありがとう」


 私は進藤の手から荷物を優しく奪う。彼はボリボリと頭をかく。私がこんな行動に出るなんて想定していないのだろう。現実通りなら、“昨日”の私は、きっときらきらした眼差しで彼を見つめていたはずだから。


「5時バスを逃したら、もうバスはないんだぞ? わかってんのか?」


「途中で寄りたいお店があるし、健康のために歩くので大丈夫です」


 高校生のときは、何度かバスを逃して「なんて田舎なんだ、信じられない!」とぷりぷり怒りながら歩いていたけれど――そして家に帰ると力尽きてぐったりしていた――、あいにく今の私は歩くのが大好きだ。

 車がないと生きていけないような場所に家を建てたものの、運転ができないからだ。最寄りのスーパーまで往復40分、ベビーカーを押して通っている。予防接種や検診なんかは往復80分も歩いているのだ。だから30分程度歩くなんてたやすいことだ。



 ところが、進藤はそれでも食い下がった。


「遥ちゃんが歩くなら、俺も歩く。そのほうがたくさん話せそうだし」


 そう言うと彼は目を細めて、笑みの形を作った。 私はまたもや鳥肌が立つのを感じていた。――あんなにも好きな人だったというのに。――お願いだから、早く覚めて。こんな夢、いやだ。ハルはどこ? 子どもたちは? だれでもいいから、早く起こして。





 そのときだった。「織田(おりた)?」と懐かしい声がしたのは。

去年、四国に引っ越してきました。車が運転できないのでとにかく歩いています。

スーパーや検診のくだりは、時間を少し長めに設定しましたが私自身の話を織り交ぜてみました。ちなみに私は晴れた日は往復30分~歩いてます。遥と違ってスーパーしかないわけじゃなく、そこまで行けたら割といろいろ用事を済ませられるので助かってます。

田んぼの中をひたすら歩いていくので、ほぼ誰ともすれ違わないし、景色も綺麗なので、楽しめます。

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