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帰りたかった未来  作者: 三條 凛花
本編
26/27

24.戦いの朝

 いつものように早朝に目を覚ました。ついに今日から学校が始まる。気が重かった。――高校時代には、あまりいい思い出がない。いじめられたわけでもなければ、友だちもいた。でも、ずいぶん面倒な環境だったように思う。

 だからこその武器だ。


 ベッドから起き出して、窓を開ける。大きく深呼吸をする。

 毎週月曜日を寝具の交換日にしようと思うので、枕カバーやシーツ、布団カバーなどをすべて外して軽くたたみ、洗面所へ運ぶ。そのまま洗濯を回してしまい、顔を洗い、ついでに白湯をもらってきて、昨夜出しておいた、替えの寝具に付け替えた。


 勉強机にコスメを並べていく。昨日のようなフルメイクはしない。肌もくちびるもしっかりと保湿。その間に丁寧にブラッシングして髪を軽く巻いておく。不思議なことに、巻き髪は前の時間軸でも挑戦していたけれど、祖父母にも先生にも咎められなかったのだ。私の骨格だと、すとんと落ちるストレートヘアよりも、ふわっと輪郭を覆ってくれるやわらかい巻き髪のほうが似合う。


 日焼け止めと化粧下地、パウダーをちょっとはたいて、眉毛をなるべく自然に見えるように描き、アイラインを入れる程度にとどめておく。まつ毛は軽くカールさせて、透明マスカラだけつけておいた。前の自分が「薄すぎる!」と叫んでいるけれど、そこそこ厳しい学校だし、祖父母や母に気づかれない程度にやるためにはこれが限度だろう。


 制服に袖を通し、バッグの中身を改めて確認し、階下へ向かった。


「もう準備が終わったの?」


 ここ2日と同じ反応が返ってきた。私はこくりと頷く。母は一応予想していたようで、すでに朝食ができていた。白ごはんに納豆、塩ゆでした枝豆、焼き鮭に、厚焼き玉子、豆腐とわかめの味噌汁。なつかしい、平日の朝ごはんだ。

 ニュースにたまに目をやりながら、もくもくと食べる。なつかしい。素朴でおいしい、母の味だった。



 自転車で行くならば7時半には家を出たほうが良さそうだ。食べ終えると7時ちょうどだったので、一旦洗面所に向かい、寝具一式を干して、歯磨きをしてから下に戻った。


「はい、お弁当」


 そういって母がキルトでできたお弁当包みを手渡した。――そういえば、高校のころはお弁当だった。学食もあったんだけど、一度も行ったことがなかったっけ。

 息子の幼稚園は給食がメインで、週に1度お弁当の日がある。それだけでも大変だと思っていたけれど、母は中学から高校まで6年間、毎日こうしてお弁当を作ってくれていたのだと思うと、頭が上がらない。思いがけず目がうるみそうなのを隠して、私は家を出た。


 自転車に乗って、1時間。最初の一歩を踏み出す。



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