22.望まぬ邂逅(2)
「うわ、マジで遥ちゃんじゃん! こんなところで会うなんて、運命じゃねえ?」
さらりとこぼされた台詞に苦笑を返す。進藤は、当たり前のように私の隣に腰を下ろした。15年前と同じように。
「――本当にびっくりした。私はもう帰るところだけど」
「え、せっかく会えたんだしさ、話しようよ。俺がケーキ奢るから」
進藤は機嫌よく誘う。
「遥ちゃん、今日はめかしこんでるんだな。めちゃくちゃ似合う。かわいい」
「――っ、ありがとう。……でも、もうごはんもケーキも食べてお腹いっぱいなの。予定もあるから、紅茶を飲んだら出るつもり」
私がそう言うと、進藤はわざとらしく拗ねたような顔をした。
「予定ってなに? 俺も一緒に行きたい」
進藤はふざけたような表情を消して、私の目をじっと見つめて言った。
男性にしては長いまつ毛と、すっと通った鼻筋。くっきりした二重で大きな瞳に薄いくちびる。顔立ちは憎たらしいくらい整っているのだと、改めて知った。テレビに出ていてもおかしくないくらい、ぱっと目を引く姿だ。
私は首を横に振った。
「後で家族が迎えに来るの。だからそれは無理」
「――ああ」
進藤は納得したように頷いた。
そして、ソファから腰を浮かせると、隣の席に移動した。
「それなら仕方ないな。――せっかくの一人時間だったのに、邪魔して悪かった。また明日、学校でな」
進藤とは、高校時代に4回付き合った。はじまりも終わりも、いつも彼からだった。
私にとっては、世界を構成するすべてが彼だった。でも、進藤は私を好いていたわけじゃない。彼はある目的のために近づいて来たに過ぎなかった。
からん、と、グラスの中の氷が音を立てる。
最後に進藤と別れてから、私は、思い出をすべて黒く塗りつぶした。全部なかったことにしたかったし、進藤だけが悪者になればいいと思っていた。そうしないと、心が潰れてしまいそうだったからだ。
でも、この店につれてきてくれたのも、レモンティーの美味しさを教えてくれたのも、進藤だった。彼の口から出てくるほめ言葉は軽くてたくさんあったけれど、それは、私の心を支えてくれていた。
決してすべてが無為な時間ではなかったのだと今は思う。
「それじゃあ、また明日」
テーブルで会計を済ませ、進藤に会釈をする。彼は湯気を立てるコーヒーカップを口に運びながら、ひらひらと手を振った。