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帰りたかった未来  作者: 三條 凛花
本編
22/27

21.望まぬ邂逅(1)

 目的地は繁華街のビルの隙間を縫うように進んだ場所にある。古い建物だけど改装されて小洒落た感じになっている店だ。階段を登ると、洒落たセレクトショップがある。店は町家のように細長く、それでいて天井の高い造りになっていて、2階は壁で仕切られることなく、ひしめき合うように3つのテナントが入っている。

 私が目指していたカフェは、その最奥にあるのだ。


 開店直後とあって、客は私ひとりだけだった。

 何度も見たことのある店員の女性に懐かしさを覚えた。この時代ではきっと初対面なのだろう。


 店内には一段高くなっている場所があり、そこにひっそりとソファ席がある。ここが私の定位置だった。周りを壁に囲まれて個室のようになっていて、しかも外も眺められる特等席。


 メニューを開くと、映画の名前をモチーフにしたカクテルや、ワンプレートのランチメニューなどが並んでいる。ふたたび、懐かしさが胸にせり上がってきた。――ずっと来たかったけれど、ふるさとを離れてしばらくしてから、店が潰れてしまったのだった。



 クリームパスタとサラダを食べる。――この店の、この味が食べたかった! 鶏ときのこのクリームパスタは、クリーミーなのだけれどさらっとして軽さがあって、ほんのりレモンが香る。トッピングのナッツがさくさくで、食感も楽しい。料理を日常的にするようになった今の私なら、頑張れば再現できるかもしれない。


 無言でもくもくと食べたけれど、それでもまだ物足りなくて、エンゼルフードケーキを注文した。エンゼルフードケーキというのはシフォンケーキの一種で、卵白だけで作られているから口当たりが軽くてヘルシーなのだと、ここではないいつか、仲良くなったあの店員さんが話してくれた。


 ケーキと一緒に紅茶が運ばれてきた。セットのアイスティーはミルクかレモンかを選べる。レモンティーを頼んだので、櫛形切りのレモンと、瓶に入ったシロップを一緒に手渡された。このお洒落な瓶。店の中にあるもの一つひとつがこだわり抜かれていて、食べることや生活することの楽しさを感じるきっかけになったのだと感慨深く思った。

 そして、私の紅茶好きは、この店から始まっていたのか、と、今さら思い出す。中学生のころまでは飲めなかった紅茶。それを好きにさせてくれたのは――。



「もしかして、遥ちゃん?」


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