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帰りたかった未来  作者: 三條 凛花
本編
18/27

17.リセット(2)

 この数時間で、部屋には中身の詰まったごみ袋がたくさんできていた。祖母に見つかったらまた怒られるかもしれないので、すっかり綺麗になったクローゼットに隠しておく。そのころには、身体の中にあった爆発的な感情はなりを潜めていた。




 片づけている途中で見つけたノートを取り出す。最初の1ページが気に入らなくて、そこから書いていなかったものだ。

 これから、ここに自分の感情を書いていく。そのために使うのは、ローマ字のように組み合わせたアラビア語だ。


 この時代の私にはできなかったことだけれど、大学ではいろいろな言語を学んだ。中でもロシア語や韓国語、アラビア語などは、独特な文字を使うため、学習した身であっても、ひと目ではわかりづらい。シンプルに英語のローマ字で書くだけでも効果がある。


 異なる言語で胸の内を書いておくと、家族に見られても傷つけたりすることがない。さらに、自分が後から見返したときも理解までにワンクッション必要になるので、文字を見て悩んだときのことをフラッシュバックしてしまうようなことがないのだ。アラビア語で書いてあるものがあったら、とりあえず破り捨てると決めている。今すぐ吐き出せれば、それでいい。



 ノートに書くのは、今抱えている感情だ。落ち込んでいると一口に言っても、その感情はさまざまで、具体的にどんな気持ちなのかを知ることが大切だ。


 たとえば、私は祖母に大して腹が立っている。理不尽に馬鹿呼ばわりされたことが許せない。見て見ぬふりをする母にも憤りを感じる。そこでまずは怒り、と書く。同時に悲しさもあった。やはり、傷つくようなことを言われるのは辛い。さらに不安もある。私は部屋をすっきりとした理想の空間に変えたい。でも、祖母という敵のいる環境ではごみを捨てるだけでも一苦労。これからどうしたらいいのか、と考えると気が重くなるのだ。


 それぞれの感情によって、対処法は変わってくる。

 たとえば、怒りだったら、気持ちを散らす必要がある。わかりやすくいえば、現実逃避だ。まったく別のことに意識を向けられれば落ち着くことができる。この場合、家事や運動のように身体を動かすことが合っている。他にもカラオケだったり、散歩だったり。


 悲しいときは涙を流すだけでもずいぶん気持ちが変わる。温かい飲みものを飲むのもいい。この家にはいないけれど、“未来”の家では犬と暮らしていた。犬に寄り添っているだけでも気持ちが落ち着いてくる。


 それから不安なとき。これは方向性が見えないから不安になる。気持ちが落ち着いてから、これからどうすればいいのかアイディアを出してみる。かっちりした答えが出なくてもいいから、とにかく、今すぐできそうなことに落とし込めばそれだけで気持ちを浮上させることができる。


 他にも、悔しいとか恥ずかしいとか、感情にはいろいろあって、その中のどの状態にあるのかで、やるべきことは変わってくるのだ。



 ひと通り書き終えたころには、私の気持ちはすっかり凪いでいた。うーんと伸びをする。肩を回す。ほうっと息を吐き出す。

 夕飯のにおいが階下から漂ってきていた。

自分でも傷つきやすい性格だな、と呆れるくらいです。

でも、この方法を自分の中で体系化できてから、人が変わったのかと思うくらい生きやすくなりました。


動く。

感情を具体的に知る。

感情に合わせた対処法をする。


この3ステップがとても大事。もし、この方法を多感な時代に知れていたら、人生がとても豊かになったんじゃないかなあと思います。悩み落ち込む時間を、もっと楽しいことや学びに充てられたんじゃないかなあ、と。

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