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帰りたかった未来  作者: 三條 凛花
本編
16/27

15.刷り込まれた呪い

「まだ着られるものばかりじゃない! もったいないわ」


 そう言って祖母はヒステリックに「資源ごみボックス」をひっくり返した。珍しく私が片づけなんかをしているから、様子を見に来たのだろう。


 祖父母や母は、決してものを捨てない。そういえば、実家に帰るたびにものがどんどん増えていき、家が狭くなっていったのを思い出した。何度か説得を試みたものの、どうしても捨ててもらえなかったのを思い出し、頭を抱えたくなる。


 上の世代の人たちにとって、ものをたくさん持つということはステータスだ。戦後のものがない時代を生きていた人ほど、たくさんのものを囲い込むことに執着しているように思う。


 さらに、彼らにとって、捨てることは「悪」なのだ。

 もちろん、「もったいない」という精神はとてもいいことだ。でも、それが度を過ぎて、呪いのようになってしまっている人もいる。私の家族がまさにそうだった。



 もちろん、私にも呪縛はある。たとえば、私たちの世代やもう少し上の世代なんかで言うと、女の子は女の子らしく、という刷り込みがある。時代が変わってきて、女性だってもっと自由にしたっていいと思う一方で、心のどこかに「結婚しなくちゃ恥ずかしい」「家事ができないなんてありえない」「ちゃんとしたママにならなくちゃ」という強迫観念が残っている女性がとても多い。


 こうした刷り込みは、無意識のうちに「絶対」のものとなっている。別にその殻を破ったって、実際にはどうもしないのに、刷り込まれたルールを破るととんでもなく恐ろしいことが起こるような、そんな感覚があるのだ。


 そう考えるのは、私自身がそうだったからだ。片づけられない自分が恥ずかしかったし、たまに仕事を優先してしまう自分を許せなかった。また、祖父母からの刷り込みがあったことで、一度買ったものは、壊れているなど以外では捨ててはいけないという思い込みが長いことあった。



 ――でも。要らないものを捨てても、悪いことなんて起こらなかった。むしろ、部屋は広くなり、気に入ったものばかりに囲まれて心地よくなった。掃除だってしやすくなるし、管理もかんたんになる。さらに、次に買いものをするときは、捨てたものから得た教訓が役立つことだってあった。

 そして、祖父母がいない環境では、私がいくらものを捨てようと誰も私を責めなかった。


「確かにまだ着られるものばかりだけれど、私は着ない。長いこと着ていないものばかりだし、これからも絶対袖を通さないと思う。だから、あっても意味がないよ」


 恐る恐る答える。15年経っても、祖父母には苦手意識があるらしい。祖母はもともと吊り目がちの瞳をさらに尖らせた。


「着ないじゃなくて、着るんです。気に入らないなら部屋着にでもすればいいでしょう」


「いきなり絢の友だちが来たり、村山のいとこたちが来たりするじゃない。そういうときに、こういう格好だったら恥ずかしい。それに、外出着として買ったものだったら、家で過ごすには動きにくすぎると思う」


「――まあ!」


 私が口ごたえしたことで、祖母はさらにヒートアップした。ぎゅっと目をつぶりたくなった。

 昔から祖母が苦手だった。いわゆる前の時間軸で、私は進藤と付き合ったことを家族の誰にも話さなかった。祖母に知られたらなじられるからだ。


「里帆は本当に馬鹿な子を産んだわ」


 祖母は吐き捨てるように言った。胸がきゅっと苦しくなって、私は自分の意識を深く深く沈めた。

ほんの数年前まで、ものを捨てられない性格でした。でも、要らないものを捨てたら、いいことがたくさんありました。自分にとって使いにくいものや好きじゃないものがはっきりとわかったのも一つです。そうしたら、無駄な買いものがずいぶん減りました。

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