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帰りたかった未来  作者: 三條 凛花
本編
11/27

10.部屋との戦い(3)

 頭も体も使ったかだろうか。顔が火照っている。私は右手でぱたぱたと顔を扇ぎながら、窓をほんの少しだけ開け、ブラインドを下ろした。春のひんやりとした夜気が吹き込んできた。なにかにこんなに集中したのはいつ以来だろうか。普段は子どもたちがいて、ずっと世話をしたり、ひっきりなしに話しかけられたりしているから、思考が途切れ途切れになる。

 ふいに胸のあたりがぐっと詰まったように息苦しくなった。私はぶんぶんと首を振って、タイマーを1分にセットした。


 タイムリミットの23時まであと30分ほどだ。片づけそのものは終わるけれど、後始末をしなければいけない。まずはうーんと伸びをして、かんたんにストレッチをする。呼吸を整える。それから部屋の中をぐるりと見渡す。


 アラームが鳴ったので、次に2分にセットする。ゴミ袋はすべて口を結んだ。それから、床に散らばっている残りのものを、すべて廊下にあったダンボールに詰めていく。今日はもう店じまいという気分で、とにかく素早く作業する。

 これは「おやすみボックス」に設定していたものだ。この部屋はもともと散らかっていたけれど、きちんと片づけるためには、ものをすべて出す必要があるため、部屋が散らかってしまう。するとやる気も出なくなるし、その後の家事も大変になる。だから、一時的な避難場所として用意しているものだ。次に片づけるときまで寝かせておいて、再開するときは、ここから始めれば良い。


 次は3分のタイムリミットを設定。ほうきとちりとりでごみを集める。家族がみんなまだ起きているようだったので、掃除機もかけた。


「うわあ、朝と全然違うじゃん」


 扉の陰から、絢がひょっこりと顔を出す。その顔にはパックが貼りつけられている。おそらく母のものを拝借したのだろう。


「おねえちゃん、やるときはやるんだねえ」


 絢は感心したように言った。


「余計なお世話だよ」


「照れてるぅ~」


 私はタイマーを止めた。「資源ごみボックス」と「捨て方不明ボックス」はほぼいっぱいになったので、とりあえず蓋を閉め、積み上げておく。明日はそれぞれのダンボールを新しく用意したほうが良さそうだ。


 ゴミ袋を下に運んでいくと、寝間着姿の母が、ぼうっとテレビを眺めていた。私の姿を見とめると、ふにゃりと笑って「おつかれ」と言った。そうして立ち上がり、「ちょっと待ってな」と言ってキッチンへ向かう。

 母は小鍋に牛乳を注ぎ、とろとろの火で温めはじめた。それからたっぷりはちみつを加え、半量ずつ、2つのマグカップに淹れた。


「飲んだらお風呂に入ってきなよ」


「うん」


 私は、うつむいた。泣きそうだった。ホットミルクは甘ったるくて、私が落ち込んでいるとき、母がいつも作ってくれたあの懐かしい味がした。





片づけのうんざりするところは、片づけるために散らかさなければいけないことです。それを解消してくれるのが「おやすみボックス」。週末だけ片づけたい!なんてときにも便利です。もし、次の片づけ日までに探しものがあったら、そこを漁るだけで見つかるのもうれしい。

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