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帰りたかった未来  作者: 三條 凛花
本編
10/27

9.部屋との戦い(2)

「やだあ、何コレ!? おねえちゃんなにしてんの?」


 甲高い声が響く。絢が廊下を塞ぐダンボールやゴミ袋に戸惑っていた。お風呂上がりらしく、濡れた髪の毛を垂らし、肩にタオルをかけていた。

「――部屋の片づけ」


「はあ!? 何、どうしたの突然。失恋でもした? てかその格好キモっ」


 マスクに眼鏡を装着し、中学時代のジャージ姿でドアから顔を出すと、絢は眉根を寄せてそう言った。向かい合った絢の部屋がちらりと見える。昔から意外でならなかったのだが、今が楽しければそれでいいという性格で基本的にだらしない妹だというのに、彼女の部屋はもともときちんと片づいているのだった。

 ムッとした私は「残念でした、今日告白されましたよ」と答える。


 絢は目を瞬かせた。そしてわざとらしく、にやにやした笑みを浮かべる。その表情を見て失言に気がついた。絢の前だとどうにも精神年齢が下がってしまうらしい。


「ちょっと、それ詳しく教えてよね」


 部屋に入って来ようとする絢を追い出して、私は片づけに戻る。



 15分やっただけでもずいぶんスペースに余裕ができた。成果が出ると、やる気が出る。そんな状態なので、そろそろタイムリミットの設定を変えてみてもいいだろう。私はキッチンタイマーの設定時間を15分に変えて、再び床にぺたりと座った。


 目に見えてゴミだとわかるのは、壊れているものや、もう使わないものなどだ。この基準は人によって違うからむずかしい。壊れていてもいつか直そうと思ったり、リメイクして使えそうだったり、本当に使わないのかどうか判断できなかったりする。幸い、私は15年も経っているので、ここにあるものはたいていそのまま捨ててもいいと思えた。中学時代の教科書やノート一式だったり、当時のクラスメートにもらった大量の手紙――主にノートの切れ端に書かれた短文のもの――だったり。そうしたものは開かずに迷わず捨てるほうに仕分けしていった。それから自分で描いたイラストなどは勢いよく捨てた。この時代に描いたものを見るのは恥ずかしかった。




 基本的に迷わず捨てる方を選んでいったけれど、たまに手が止まることがある。そういうときは、もう1つのキッチンタイマーの出番だ。10秒にセットして、悩む。


 捨てるかどうか悩んだのは、この時代に作り始めたプリ帳だ。この頃からすでにプリクラ交換が流行っていた。祖父母が厳格で、中学時代はほとんどプリクラを撮ったことがなかったけれど、先輩だったりクラスメートだったりからもらったものをノートに貼り、得意のイラストや可愛いシールでデコっていた。

 プリ帳はコミュニケーションツールだ。休み時間にお互いのプリ帳を交換して、ぼうっと眺める。それが会話の種になったり、共通の知人に気づくきっかけになったりする。デコるセンスも大切だ。しばらく迷って「残すものボックス」に入れた。


 また、部屋の至るところから、綺麗な缶がたくさん出てきたのにも悩んだ。そういえばチョコレートやクッキーの空き缶を集めていたのを思い出す。今すぐの使いみちはないけれど……。10秒を知らせるアラームが鳴った。10秒以内に決めきれなかったときは「保留ボックス」へ入れる。こういう空き箱や空き缶は一時的に収納に使えそうだから、明日にでも専用のダンボールを用意しようと思い立った。



 ものと向き合いはじめて気がつくと2時間近く経っていた。帰ってきたときは足の踏み場もなかった部屋だったけれど、少なくとも机と床はすっきりと片づいた。次は本棚や箪笥。それが終わったらクローゼットだ。床に落ちていた衣類は、洗面所から拝借してきた洗濯かごにまとめた。後でお風呂に入る時、ついでにすべて洗濯してしまおう。

キッチンタイマーは増やすと便利なものだと思っています。私はひと部屋にひとつ以上ほしい。

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