キャバ嬢
「風…、あるね。」
「……。」
「僕の家近いからおいでよ。
ほらこれ、僕の学生証。
紗倉咲玖。16歳。
私立SAKURA高校在校。
身分証明これでいい?」
「……。」
「でも、ここ砂が飛ぶよ。
傷口が汚れたら治るものも治らないじゃん。」
「…ぃ…、や!!」
「ほかになんの身分証明書したらいい?
そうだ!
じゃあさ、付いてきて。」
「はいこれ。
ATMで50万円しか引き出せないから、これあげる。
それと別の銀行から降ろした分50万円。
別に怪我人に何もするつもりないけど、何かあった時の慰謝料前払。」
「……。」
「病院と警察に行く?
保護してくれると思うよ。
それとも僕の家に来る?
2択しかない。
選んで。」
「……。」
「じゃあ決まり!
慰謝料前払も済んだし僕の家に来たらいいよ。」
「ダメ!」
「じゃあ病院と警察?」
「それも嫌!」
「じゃあ、どうしたら信用してくれるの?」
「男の人の家は行っちゃダメ!…だから。」
「そうだね。」
「お金渡すのも怪しすぎる。」
「じゃあ、どうしたいの?」
「ひとりっ!!」
「君が怪我してなくて、家の事情も知らなかったらそうしてたよ!!
だいたい君、親から逃げて来て泊まるとこあるの?
お金はどうするの?」
「30万円あります!!」
「30万円じゃ、家借りて敷金礼金と最初の家賃で飛ぶよ!
その荷物じゃ、服だってろくにない!
それに食べて行かなきゃいけない!!
どうするの?」
「働きます!」
「経験は?
経験ないとなかなかバイトも雇ってくれないよ。
それに女の子が一人暮らししていくのにバイトじゃ大変だと思うよ。」
「いざとなったら、キャバクラで!」
「キャバクラで働こうとしてる女が男の家に来るのが怖いの?」
「キャバクラはお酒飲むとこだから。
男の人の家に行ったりしない。
お店でのお付き合い。」
「確かにね。
じゃあ、そのお金はあげるからそれで一人暮らし頑張って。
餞別だよ。」
「年下からこんなお金貰えない!
あなた16歳なのにこのお金はどうしたの?」
「僕はトレーダーだから、自分で稼いだんだよ!」
「お父さんとお母さんが一生懸命貯めたお金じゃないの?」
「違う!
元はお年玉や進学祝い貯めていたやつだけど、それを増やしたのは僕!」
「みんなの思いが詰まったお金、貰えない。」
「じゃあ、親に元本の100万円返すよ!
増やした分は僕のでいいだろ?
その中からあげる!」
「何故?」
「心配だから!
お金は身を守る為にも使えるだよ。
女の子なんだからオートロックの単身用マンションにでも住みなよ!
キャバクラで働くんだろ?
だったらストーカーくらい気をつけろ!」
「私、可愛くないから大丈夫!」
「キャバクラで働くって言ったから自分に自信あるんだと思ってたけど、可愛くないって何?
矛盾してるよね?」
「お母さんが私のこと可愛くないって言った!
それに学校の友達も私のことキモいって!」
「なに?
親から虐待されてるだけじゃなくて、学校で虐めまで受けてたの?」
「……。」
「君は可愛い。」
「嘘!
取り繕ってもすぐにわかる。
私が可哀想だからでしょ?」
「いや…。
可愛いよ。
君はどう思ってるの?」
「私は、私のこと可愛いと思う。
キャバクラでも大丈夫と思う。
でも、お母さんも友達も私の顔が嫌いだから。」
「じゃ、僕が君の顔気に入ったから初指名するよ。」
「え?」
「ほら、キャバ嬢。
僕は、まだ16だからキャバクラへは通えない。
僕の家でジュースで接客してよ。
僕は君より年下だけど怖い?」
「……。」
「キャバ嬢として100万円分の仕事をして帰れ!」