包帯の少女
「大丈夫?」
「……ぅ。」
彼女は両手を胸の前でグーにして身構え、黙ったまま俯いて、目を合わそうともしてくれない。
男達からそれだけのことをされたんだ。
怯えていて声が出せないのだろう。
「病院行こうか?」
「……。」
彼女は俯いたまま、ブンブンと首を横にふる。
僕は少女の荷物を手に取り、そのままお姫様抱っこで抱き抱えた。
「じゃあ、これでどう?
近くの総合病院に向かうよ。」
「……ぅ。
あ…、あの。
びょ…、病院はダメ。」
やっと喋ったと思った彼女の言葉がこれだ。
病院がダメ?
どういうことだろう?
「なんで?
手当しなきゃ。」
「と…、トイレ。
降ろして。」
「じゃあ、このままコンビニ入るよ。」
「…ぃ、や…。
ダメ。
ひ…、ひとりで行ける。」
「いや、その傷見たらほっとけないしさ。
ひとりでもいいけど、それなら救急車は呼ばせて。」
酷い傷なのに病院へ行く気が無さそうな彼女に念を押し、彼女をそっとその場に降ろした。
と、彼女はすぐにその場から走って逃げようとする。
僕は先回りをし彼女をそっと抱擁し、またお姫様抱っこをした。
「逃げないで。
傷酷いんだから走ったらダメ。
体温上がるから血行良くなって、血もっと溢れるじゃん。」
「…ダメ…、なの。
保険証置いてきたし…。
も…、もしも名前でお父さんとお母さんに…、ここにいることバレたら連れ戻されるから。」
「え?
どういうこと?」
「これ、お母さんがやったんです。
お母さんは私の顔嫌いだから…。
顔守ろうとして腕こうしました。
そしたらお母さんの包丁がグサって。」
彼女は両腕で顔を覆う格好をし、それから腕が包丁で切られた様子を片手の指で包帯部分をなぞり再現して見せる。
僕は、それが虐待による傷なんだとここでやっと理解した。
病院から警察に連絡がいき、家に連れ戻されるのがおそろしかったんだろう。
少女のオドオドした様子と、怯えたような話し方にも合点がいった。
「ああ。
僕は医者じゃないから縫ったりとか医療行為はできないけど、手当だけはさせて。
近くの薬局で薬と傷口をとめるテープ買うよ。
縫ってる糸、もしかして吊ってない?」
「…そ、そう…、かも。」
「テープで傷口とめて、糸の代用にしようと思う。
そうしてひきつれ起こしてる糸だけ切るよ。
そうじゃないと、変な風に肉が固まると良くないから。」
「……。」
彼女はコクコクとうなづく。
それから薬局に向かい2人で手当に必要なものをカゴに入れ、レジへ向かった。
「包帯が2点。テープが2点。ネットが1点。消毒薬が2点。エタノール1点。絆創膏が1点。ハサミが1点。ピンセットが1点。
合わせて、9900円でございます。」
少女が僕の服の裾を引っ張る。
「ん?」
「お金…、払います。」
「別にいいよ。」
「払います。
それにひとりで手当できるから、ひとりにしてください。」
僕は彼女を制止し、サッと一万円札を出し店員に渡す。
「テープで傷口を固定しながら貼るの片手じゃ無理でしょ?」
「で、出来ます。
私、器用だからこういうのは得意です。」
僕はどうやってそれをやるんだろうと、想像してみた。
どう考えてもそれは難しくて、不可能かどうかはわからないけど難解だった。
「うーん…。
無理…、だね。」
「で、できます。
ひとりで大丈夫だから。」
「じゃあ、一緒に手当しよっか。」
「……。」
彼女はまた俯き、頭をブンブンと横に振った。
なんだかそれが可愛くて僕の琴線に触れる。
「手先の器用な君が指示を出して、僕がその通りに動く。
どう?」
「……。」
彼女は暫く俯いたまま固まって、それからコクンとうなづいた。